ドニー・ハサウェイのアルバムとしては、人気度はライブアルバムが上なのかもしれないが、彼の作曲家としての素晴らしさが分かるアルバムとなると本作になる。
彼は大学でクラシックも学んだこともある中産階級出身の黒人ミュージシャンのはしりといえる人で、メンタリティ的にもハングリーさや攻撃性よりストイックさ、一種の気高さを感じさせる。
本作は彼のクラシックの素養が、70年代初頭のニューソウルの機運とうまく重なり、バラエティに富んだアルバムに結実している。全体的に軽やかで優しいが、決して甘さに流れていない。
アルバムのハイライトは何といっても "Someday We'll All Be Free" で、これこそ音、歌詞ともに彼の美点が凝縮された曲である。
同時期に同じく最高傑作をものにしたマーヴィン・ゲイやスティービー・ワンダーには残念ながら及ばないものの、ワタシは折に触れこのアルバムを聴き返すに違いない。精神的に不安定だったため1979年に自殺してしまったのが惜しまれる。