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ゼア・ウィル・ビー・ブラッド

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド [DVD]

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ポール・トーマス・アンダーソンの映画は、『マグノリア』がやたらと絶賛されていたので観たのが最初で、確かにブリーフ一丁で頑張るトム・クルーズをはじめとして役者陣が力強い仕事をしてるよくできた映画だったが、いかにも「すごい映画作ったるぜ!」的な大上段に構えた感じが鼻についたし、最初と最後のしたり顔の薀蓄がうざいというかお前客を見下してないかコラ、と微妙な感じだった。

昨年ようやく彼の第一作『ブギーナイツ』を観たのだが、映画の出来としては『マグノリア』に多分劣るのだろうが、嫌な感じはなくて素直に楽しむことができた。

そして本作だが、これまでのポール・トーマス・アンダーソン映画(『パンチドランク・ラブ』を観てないのでなんだが)を特徴づける手法を排して勝負しているように見える。シーマン(=フィリップ・シーモア・ホフマン)をはじめとする個性豊かな脇役は配されていないし、本作にしても良い画を撮っているがカメラワークに以前の映画のような流麗さはない。

本作はロバート・アルトマンに捧げられている。PTA は『今宵、フィッツジェラルド劇場で』でアルトマンのバックアップを務めているし、群像劇を得意とするスタイルも共通するが、本作はアルトマン的というよりむしろキューブリックに近い。

映画監督でスタンリー・キューブリックの仕事を意識しない人間はいないだろう。しかし、彼の言葉に頼らず画だけで見せる作風をガチで引き受けるだけの力量をもった人はほとんどいない。本作はそれを見事に成し遂げた、クラシックとしての風格すら備えた傑作である。ロマンスのない『バリー・リンドン』、と書くと宣伝文句になってないが、2時間半を越える上映時間でまったくダレることはなく、正直もっと長くてもよいくらいだった(主人公の息子の結婚式の場面にいきなり飛ぶのでなく、その間の成長に時間を割けば、その後の決裂がもっと引き立ったのではないか)。

本作によりダニエル・デイ=ルイスは、『マイ・レフト・フット』以来の二度目のアカデミー主演男優賞を受賞している。この人は煮ても焼いても食えない『ギャング・オブ・ニューヨーク』のような映画を一人でもたせていた人で、その演技力についてワタシが書くまでもないのだが、正直本作の主人公役は年齢的にギリギリな感じもした。

本作は「欲望に突き動かされた男の成功と狂気」みたいな紹介がされるのだろう。確かに主人公は強烈な欲望を隠しもしないが、一方で自分には人間の悪ばかりが見えてしまうから、早く金を稼いで人間から離れて暮らしたいと願う厭世的な人物でもある。しかしそう言いながら、その機会を前にすると半ば言いがかりをつけるようにして自分からちゃぶ台返ししてしまう。

確かに主人公は欲望に突き動かされた男かもしれないが、ワタシには成功した「石油屋」になった後も現場に出向き陣頭を指揮して手を汚す彼よりも、それに取り巻くイカサマ牧師のほうが強欲で浅ましくに思えた。主人公が安易に落ちぶれた終わり方になってなかったのはよかった。

こんなことを書くと人でなし呼ばわりされるだろうが、本作のラストはスクリーンに向って「ざまあみろ!!」と力の限り叫びたくなる素晴らしいエンディングであり、そんな映画はもしかしたら初めてかもしれない。

今年のアカデミー賞で作品賞を獲るべきは『ノーカントリー』でなく絶対こっちだったよなぁ……

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