ワタシは一発撮りの(ように見える)PV(one-take video, one-shot video)が好きなのだが、思い出せる範囲でざっとまとめてみる。
被写体となるミュージシャンを中心に据えて、というのが古典的なパターンだが、その中でワタシが知るので一番古いのは、ホルガー舟海がひたすらカメラの前でヘンな顔をする "Cool In the Pool" か。
背景映像を別とすればピーター・ガブリエルの "Don't Give Up" も編集なしの一発撮りか。ピーガブとケイト・ブッシュがひたすら熱い抱擁を交わしつつ回転しながら歌うだけという今からみればとんでもないビデオだが(笑)、ゴドレー&クレームは偉大だ。
この手法は低予算でビデオを作れるという利点があるが、飽きさせないものにするのは難しい。その点ブルース・スプリングスティーンの "Brilliant Disguise" は、だんだん寄って最後はボスの大写しで終わるだけだが、自然に撮るのには工夫がいったはずで、影に使い方がポイントだと思うが地味な佳作である。
ただなー、これがアコースティックで渋い曲の弾き語りならもう少し盛り上がるかもしれないが、『Tunnel of Love』の曲じゃちょっとね。
この手のタイプの決定版は U2 の "Numb" だと思うが、このビデオは中間部分の誰も映らない箇所があり、そこで多分編集が入っているだろうから one-shot video とは呼べないかも。
もっともこのビデオはエルヴィス・コステロが横からキスされまくる "I wanna be loved" が原型だと思う(でも、これは最後に画面が切り替わるから one-shot video ではない)。
また U2 のビデオでは、最初の女性のカットを除けば one-shot video に見える "Sweetest Thing" のほうが、ちゃんと金がかかっているけどイヤミでない出来なので好き。
被写体に動きがある一発撮りビデオとなると、ワタシが知る一番古いのは、ニール・ヤングの "Touch The Night" になる。
YouTube にあるビデオは歌いだしからだが、このビデオは7:3分けのレポーターがいきなり歌いだして、お前ニール・ヤングだったんかい! というのが面白さの何割かを占めるのでちょっと残念。
でも、これ妙にリアルな作りなのに、ゴスペル合唱隊がいるというバカバカしさが笑える隠れた傑作ビデオで、これの監督は才人だな……と調べたら、Cureのビデオでおなじみ Tim Pope なのね。納得。
しかし! 改めて見直したら 1:30 のあたりで一箇所カット割りが入っているように見えるのでこれは厳密には one-shot video ではないようだ。
ミシェル・ゴンドリーも大好きな Massive Attack の "Unfinished Sympathy" もこの手法の古典と言える。
このビデオの素晴らしいところは、別にその中で何か事件が起こるわけではないのだが、一発撮りのために緊張感が最後までずっと続くところ。PV は何より音楽を聴かせるのに貢献しなければならないわけで、そうした意味でこのビデオは曲のリリシズムにちゃんと合っている。
そういえばそのミシェル・ゴンドリーも、チボ・マットの "Sugar Water" で左右で一発撮りの組み合わせをやるという高度な技を披露している。
メイキングによると、タイミング重要なビデオなため、羽鳥美保が緊張で最後に窓に書くスペルを何度も間違ってしまい、そうなると最初からやり直しになるので現場を緊迫させてしまったらしい。
あと火だるまの男がただ走るだけの Wax の "California" も最初のインパクトは強かったね。監督はスパイク・ジョーンズ。
やはりこの手のビデオで最も有名なのはスパイス・ガールズの "Wannabe" なんだろうか。でも、これも確か編集が入っていて、厳密には one-shot video ではなかったはず。
さて、近年における一発撮りの大家といえば、やはり OK GO だろう。世間的には "Here It Goes Again" のトレッドミルダンスの方が有名だが、ワタシ的には "A Million Ways" のハゲのベーシストを中心にするユーモア感覚のほうが好きだ。
他に有名な一発撮りのビデオがあったら教えてください。