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世界初の長回し・ワンカットPVかはともかく、マッシヴ・アタック「Unfinished Sympathy」は素晴らしい

このエントリを含む beipana というブログがワタシは好きで、力の入ったエントリが書かれるたびに毎度楽しく読ませてもらっている。少し前にこれまでを振り返るエントリが公開され、それを契機にワタシもこのブログの過去ログを再読する機会があったのだが、最初読んだときに気にならなかった疑問が頭をもたげた。

マッシヴ・アタック「Unfinished Sympathy」は、本当に世界初の長回し・ワンカット PV なのだろうか?

一発撮りというなら、この曲以前にも前例はあるはずである。例えば、ホルガー・シューカイの「Cool In The Pool」がそうである。ビデオの制作時期は知らないが、曲自体はおよそ40年前である。

いやいや、定点カメラの前でおっさんが百面相するようなビデオじゃなくて、カメラに動きがなくてはいけないと言われるかもしれない。それなら、ブルース・スプリングスティーンの「Brilliant Disguise」がある。1987年のこの一発撮りの PV は、カメラのズームが主だろうが、カメラ自体も寄りの動きをしているはずである。

いやいや、ただおっさんがスタジオ内で弾き語りするビデオじゃなくて、屋外撮影で映像にストーリーがないといけないと言われるかもしれない。それなら、ニール・ヤングの「Touch The Night」がある。監督は、キュアーのビデオの仕事で知られるティム・ポープである。これはすごいよ。

しかし、である。よく見ると、上の動画だとちょうど2:00にカット割りと思しき箇所がある。残念。

こういうとき便利なのが Wikipedia で、調べてみると案の定 List of one shot music videos というページがある。これを見ると、マッシヴ・アタック「Unfinished Sympathy」以前にもワンカット PV があるのが分かる……って、最古はボブ・ディランの「Subterranean Homesick Blues」なのか!

しかし、このリスト、やはり Wikipedia ということでうのみにできなところもある。このリストには、「一発撮りに見えるけどそうでないビデオ」のリストも付いているのだが(ピタゴラスイッチでおなじみ OK Go の「This Too Shall Pass」は、2:27 のカーテンが開くところでカット割りがあるのか!)、カイリー・ミノーグ「Come Into My World」R.E.M.「Imitation Of Life」など、いや、それ絶対違うから! というものまで入っているのに注意が必要である。

とはいえ、上に書いたような条件を課すなら、「Unfinished Sympathy」が多分もっとも古い部類に入るのは間違いない。

今回久しぶりに見直したが、本当に素晴らしいビデオである。一発撮りならではの緊張感が、この曲にふさわしい映像の高揚感につながっている。これが作られた背景については beipana のエントリを参照ください。

ただ、このエントリでは以下の箇所もひっかかった。

一発撮り/ロング・ショットは、ヒッチコックの『ロープ』、オーソン・ウェルズの『黒い罠』やロバート・アルトマンの『Absolute Beginners』などの映画で使われていたテクニックだけど、音楽のプロモーションビデオでは使われたことがなかったと思う。かなり難しい撮影だったけど、自分自身にチャレンジを与えるのが大好きなんだ。

世界初の長回し・ワンカットPV マッシヴ・アタックの『Unfinished Sympathy』は、どうやって生まれたか - beipana

これはバリー・ウォルシュ監督の発言だが、まず『Absolute Beginners』(邦題は『ビギナーズ』)は、ロバート・アルトマンではなくジュリアン・テンプルの作品である。原文をあたってみる。

It’s a technique that had been used in a few film scenes, Hitchcock’s Rope, that Orson Welles film with Marlene Dietrich [Touch Of Evil], Absolute Beginners and Robert Altman’s Shortcuts. But I don’t think it had been done in a pop promo before.

Scans→Uncut Magazine Feature — MASSIVEATTACK.IE

原文ではロバート・アルトマンの『ショート・カッツ』と言っている。しかし、『ショート・カッツ』にそんな長回しはないはずで、これはアルトマンが『ショート・カッツ』の前に撮った『ザ・プレイヤー』におけるオープニング約8分の長回しと間違えたものと思われる。

なお、このオープニングにおいて、上に名前が出た長回しが有名な映画はほぼすべて題名が台詞で言及される。


Opening scene from The Player (1992) from Single Shot Film Festival on Vimeo.

以前観たときは、交通事故の後に郵便物が大写しになるあたりでカット割りが入っていたような気がするが、これを観るとそうでもなく、ちゃんと全体一発撮りなのかな。

公開から半年以上経ったブログエントリにいちゃもんをつけられたように思われたら申し訳ないのだが、beipana の文章はとても参考になるものばかりだし、マッシヴ・アタック「Unfinished Sympathy」のビデオが素晴らしいのは間違いない、というのを結論とさせてください。

Blue Lines

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