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リンカーン

先月機内放送で観た。

リンカーンといえば、アメリカの大統領で最も有名な、我々日本人でも知らない人はほとんどいないクラスの偉人である。

しかし、劇的な話を期待して観に行ったら思い切り肩透かしを食うだろう。本作では南北戦争の激しい戦闘もほぼ描かれないし、リンカーンがかっこよくゲティスバーグ演説をやる場面もない。もちろんヴァンパイアを斧で殺すこともない。

本作に登場するのは、肉体の衰えを隠せない初老の、しかし強い信念と意志をもった男としてのリンカーンである。彼の信念、合衆国憲法修正第十三条にこだわる理由は冒頭で明快に彼の口から語られる。そのために裏工作も厭わず、詭弁も弄しながらその批准に強い意欲を燃やし、部下を動かす。

その政治的調整と駆け引き(共和党民主党の立ち位置が現在と逆なのが面白い)、そして家族人としての葛藤が描かれるが、その忍耐と妥協もしながら意志を貫く話であり、スピルバーグオバマ政権に対するメッセージももちろんあるはずだ。

リンカーンが説得しなければならないのは政敵ばかりではなく、急進的な奴隷解放論者であるサディアス・スティーヴンスも含まれる。彼をトミー・リー・ジョーンズが例によってしかめっ面で演じているが、彼のこういう演技はもう飽きた。

それなりのアメリカの歴史的知識も要するので、本作は大方の日本人観客にはあまり楽しめない映画だろう。娯楽映画として本作をワタシはお勧めしないが、しかし、それでもダニエル・デイ=ルイスの演技の素晴らしさについて書いておかなければならない。ワタシは『ヒッチコック』について、「名優による歴史上の有名人のそっくりさんを目指した演技」にうんざりしていると書いた。本作はある意味、その究極といえる映画なのだけど、本作を観るとダニエル・デイ=ルイスリンカーンにしか見えないのだ! そこまでできる人は、今この世界にやはり彼しかいないだろう。

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