エンドツーエンド暗号化で高度なセキュリティを実現していることが売りのメッセージングアプリ Signal が暗号通貨による送金機能のβテストを開始というニュースにブルース・シュナイアー御大がコメントしている。
記事タイトルに WTF をつけていることからも明らかなように、今回の機能追加をまったく肯定的にはとらえていない。ブルース・シュナイアーは以前よりブロックチェーン技術を信頼していないが、それだけで否定的なのではなく、安全なコミュニケーションとセキュアな商取引は別々のアプリでやるべきで(できれば会社も別のところが好ましい)、混ぜるな危険というわけ。
国税庁や証券取引委員会や FBI の介入待ったなしと予測している。
シュナイアー先生もリンクしているこのブログは Slashdot でも取り上げられているが、技術者の立場からの Signal への裏切られたという思いを語っている。
逆に言うと、そういう反応はあれどもメッセージングアプリが個人送金や商取引に参入するのは、それだけ旨味が見込める分野だからともいえる。このブログエントリの「Signalよ、お前もか?(Et tu, Signal?)」というタイトルはそのあたりを指している。ここへの参入を図ったのは、Signal が最初ではない。
でも、それは怪しげなオフショア暗号通貨取引所に資金が流れるのを招きかねず、合法だからってやるべきかどうかは考えてほしかったという失望があるわけだ。もっとも今回の機能をアメリカでやると違法だから英国で立ち上げるという事情があるみたいで、こういうのは英国のほうが規制が緩いのだろうか。
Signal は未だ優れたソフトウェアで、反体制派やジャーナリストなどにプライバシーを保証しながら自由にコミュニケーションできる、信頼性のあるプライベートメッセージングのデファクトプラットフォームになれるのに、怪しい送金ビジネスに堕してほしくないという最後の訴えは悲痛である。
最後にブルース・シュナイアー先生に話を戻すと、彼の現時点での新刊が出てもう少しで3年になるが、そろそろ邦訳出ないのかねぇ。
Click Here to Kill Everybody: Security and Survival in a Hyper-Connected World
- 作者:Schneier, Bruce
- 発売日: 2019/10/08
- メディア: ペーパーバック