グレタ・ガーウィグは『フランシス・ハ』で注目し、初監督作『レディ・バード』もすごく好きだが、前作はまだ観れてない。
バーベンハイマー騒動にはうんざりさせられたが、それはグレタ・ガーウィグはじめ本作の製作者、出演者には基本的に責任のない話である。夏季休暇の帰省時に、珍しく昼に故郷のシネコンに出向いて観た。
『2001年宇宙の旅』の「人類の夜明け」のパロディで始まるのは、本作が一種の「創世記」という宣言であり、間違いなく意図的だろう。
本作を観た人で「よくマテル社はこれを許可したな」みたいに何人か書いているのを事前に見ており、廃盤だったりなかったことにされてるバービーを執拗に取り上げるのは予想の範疇だったが、ここまで「マテル社」自体が物語に組み込まれていたのは確かに驚きだった。当然のようにその重役は全員男性であり、そのビルを男根に見立てる台詞があり、一般の社員が働くオフィスは、『マトリックス』でアンダーソン君が働いていたそれみたいだ。
元々は深い考えなしに作られたであろうペラッペラな商品(設定)に後付けで意味付けしてドラマを成立させるアメリカのエンタメ界のクリエイティビティについては何度か触れているが、上記のマテル社の設定を含め、それを逆手に取る形で創造主の地位と創造された側のアイデンティティを巡る不安(本作に提供されたビリー・アイリッシュの曲がまさにそうだ)について描く、ある意味宗教的と言える主題があり、そして言うまでもなく家父長制批判というフェミニズム的主題の両方が本作にある。
少なくとも前者については成功しているが、実は前者と後者の噛みは悪い。グレタ・ガーウィグの力量は確かであり、それが本作の本国での超ヒットで証明されているが、前者と後者が混同されたまま評価されているようにも思う。
マーゴット・ロビーはワタシも好きなので、『アムステルダム』と『バビロン』と主演作が続けて興行的にコケた後だっただけに、本作の成功が面目躍如となったのはよかった(彼女は本作のプロデューサーでもある)。
本作のパワーは本物だし、巧みに批判が回避もされているが、その分、終盤に明らかに展開がグダっており(『ゴッドファーザー』を使ったマウントとか、『ジャスティス・リーグ』のスナイダー・カット揶揄とか、本当に「面白い」と思った? ワタシはザック・スナイダーのこと、はっきり嫌いだけど)、それは巨大資本を象徴的に痛罵してもそれがブーメランとなるという構造があるのは理解するとして、少なくとも「男も『バービー』観て自分を見つめ直そう!」みたいなのはどうよというのが正直なところ。
それでも、「バービー人形の映画」という、トンチキに転んでもおかしくない、ある意味狂った企画をこれだけのエンターテイメント作品に昇華していること自体すごいことであり、その点でグレタ・ガーウィグとマーゴット・ロビーが偉いのは強調してよい。