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リード・ホフマン、GPT-4『ChatGPTと語る未来 AIで人間の可能性を最大限に引き出す』をご恵贈いただいた

日経BPの田島さんより、リード・ホフマンと GPT-4 の共著『ChatGPTと語る未来 AIで人間の可能性を最大限に引き出す』をご恵贈いただいた。

2023年は、生成AIが一般レベルで大ブレイクした年として記録されることになるだろう。特に ChatGPT を書名に冠した本が既に数多く出ているが、本書が他と差別化しているのは何だろうか。

やはり、「GPT-4」が著者に名前を連ねているところだろう。もちろん、今年出ている類書の多くも内容の一部を GPT-4 に依っているはずだが、本書の場合、まさに著者が GPT-4 と対話をした結果が書籍になっている。

それができるのは、著者の特権的立場ならではとも言える。例えば、同じような本の企画をワタシが出版社に持ち込んだところで、まず出版は実現しないだろう。本書の著者が、「ペイパルマフィア」の一人にして、LinkedIn 創業者、そして何より GPT-4、ChatGPT の開発元である OpenAI の出資者にして元取締役(昨年、別の AI スタートアップを創業したため、今年、役員を退任)、数々のビジネス書を共著してきたリード・ホフマンだからこそ成立する企画なのは間違いない。

そして、続けてこれを書いておかなければならないのだが、本書はただ著者のネームバリューに頼ったものではなく、また ChatGPT の技術的な解説でもないが、ChatGPT が GPT-4 の時点で、教育、AI の創造性、司法、ジャーナリズムなど多岐にわたる話題について、どの程度の対話が可能かを誇示するものになっている。

その過程でリード・ホフマンはテッド・チャン「ChatGPT はウェブのぼやけた JPEG」論に反論しているが、脅威論や規制について議論になることの多い生成 AI が、人間にとって基本的にポジティブな影響を与えるものなのを訴求する本とも言える。

それは例えば、教育分野においては「情報源としてではなく探求のためのツールとして使う」「評価のためのツールではなくフィードバックのためのツールとして使う」という言葉で GPT-4 により語られていて、ワタシもそれを妥当に思う。またジャーナリズムについての章では、元々その自動化にフォーカスするつもりが、GPT-4 との対話するなかで、これまでのウェブ検索とは違う道が見えてきた、というのも本書ならではの卓見だろう。

一方で司法制度についてリード・ホフマンは、「AIを使うことで、私たちはみずからの人間性や思いやりは知性を向上させ、より公正で優れた司法制度を作れるはずだ」と言うが、これはいかにも根拠が薄い。これについては、ブルース・シュナイアーの新刊『ハッキング思考』のほうが適切なテキストになるかもしれない。

本書でも、コンサルタント業界において若手アナリストが担っている業務の多くが AI が自動化できること、しかし、そうすると若手の成長の機会が失われてしまうジレンマについてちゃんと触れられているが、これは少なからぬ業界であてはまる構図だろう。本書は最終章において、AI 時代の人間として「ホモ・テクネ」という概念にいたっているが、誰もがそこに到達できるわけではないという懸念がワタシの中に残った。が、それはまた別の本で論じるべき話題なのだろう。

あと、こけおどしの飛ぶ道具のような第9章「知識人との対話」は蛇足以外の何物でもなかった。

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