『アイリッシュマン』の Netflix での来月の公開が待たれ、また最近ではマーベル映画に対する批判的なコメントが論議を呼んだマーティン・スコセッシだが(ワタシ自身は、積極的に MCU が嫌いと公言してきた奇特な人間なので、特に文句なしです)、復刻され、改訂版が出るルー・リードの歌詞集に寄せた序文が Guardian に掲載されている。
マーティン・スコセッシもルー・リードもニューヨーカーとして知られるが、二人が初めて会ったのはスコセッシが『レイジング・ブル』(asin:B07T3G49NT)のポストプロダクション作業をしていた頃のロサンゼルスだったとのこと。当時スコセッシが特に好きなルーのアルバムは『Street Hassle』(asin:B000026A1H)で、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドは後追いだったようだ。
『レイジング・ブル』の試写を行い、ルーも大変感銘を受けたようだったが、試写の後、スコセッシはルーに、その師だったデルモア・シュワルツの代表作『In Dreams Begin Responsibilities』原作で映画を撮りたいと告げたそうな。実際、スコセッシとロバート・デ・ニーロは当時脚本に取り組んでいたらしいが、残念ながら実現しなかった。スコセッシは今でもいつの日かその映画を作りたいと書いている。
スコセッシは、ルーの詩は歌われるのを聴くのと印刷されたものを読むのでそれぞれ命があると書く。そしてニューヨーカーとしての出自の重要性について書いており、「Street Hassle」の歌詞を例にしてその映像性を説いている。
実際、80年代にルーはスコセッシの『レイジング・ブル』やサム・シェパードの『フール・フォア・ラブ』を直接的に取り上げた「Doin' the Things That We Want To」という曲を書いているが、面白いのはルーはスコセッシの『最後の誘惑』(asin:B00BTSHPLO)のピラト総督役のオーディションを受けていたという話。その役は実際には、やはりルーと因縁のあるデヴィッド・ボウイが演じているが、他にも90年代には傑作アルバム『New York』(asin:B000002LGA)収録の「Dirty Boulevard」をベースとした映画を作ろうともした話など、この二人のプロジェクトは残念ながらどれも実現しなかったようである。
ルーの訃報に接し、スコセッシもひどくショックを受けたようだが、彼はこの世の最底辺にいる「クズ」と呼ばれるような、その人間らしさ以外何も持たざる者たちの声で語り、歌ったとルーを称えている。
で、スコセッシのこの文章は上記の通り、来月発売になるルー・リードの詩集の改訂版に収録される。
I'll Be Your Mirror: The Collected Lyrics
- 作者:Lou Reed
- 出版社/メーカー: Faber & Faber
- 発売日: 2019/11/07
- メディア: ハードカバー
邦訳を期待したいところだが、ルー・リードの詩集では彼の死後に復刊された『ニューヨーク・ストーリー: ルー・リード詩集』(asin:4309206395)があるので難しいかな。こちらは上記の本の邦訳ではなく、これはこれでルーが行ったインタビュー(彼のインタビューではなく、彼がインタビュアーを務めている)を収録しておりとても貴重なのだが、彼のキャリアを通した詩集の邦訳も必要だと思うのよね。
ルーがこの世を去ってちょうど6年になるところで、また彼についてのブログエントリを書けるのを嬉しく思う。