2023年に生きる人間として、やはり『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』を観に行くべきだよなと思いながらも、どうしても3時間超の上映時間に嫌気がさしてこちらに行った……って、おい、こっちも2時間半超の上映時間だぞ!
ワタシがエンニオ・モリコーネの音楽を知ったのは、1980年代後半の『アンタッチャブル』や『ニュー・シネマ・パラダイス』あたりだったため、彼の名前を聞くとまずその美しいメロディーが浮かぶのだけど、特に映画音楽のキャリアを始めた1960年代は、セルジオ・レオーネのマカロニウエスタンをはじめとして、楽器でないものを楽器にするなど実験性も強かったんですね。
本作はモリコーネの映画音楽以前のキャリアにもしっかり時間をとっているが、正式に作曲の教育を受けた人間として、映画音楽の仕事を屈辱と感じ、また彼の師匠をはじめイタリアの音楽界も明らかに彼を正当に遇していなかったのな(成功した彼に対する嫉妬もあったろう)。
モリコーネ自身、何度も映画音楽から離れたいと願うが、本作の邦題ではないが、映画のほうが決してモリコーネを離さなかった。本作では日本未公開の映画もかなり多く引用されるが、本当にものすごい数の音楽をてがけたものである。それは映画にとって素晴らしいことであり、レオーネの遺作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』でようやく音楽界も彼の仕事を認め、そして『ミッション』以降はアカデミー賞にノミネートされるようになり、しかしなかなか受賞できなかったが、2006年にアカデミー名誉賞を受賞し、『ヘイトフル・エイト』にして6度目のノミネートで念願の受賞を果たすというサクセスストーリーになっている。
スタンリー・キューブリックの『時計じかけのオレンジ』の音楽をモリコーネに依頼したくてセルジオ・レオーネの許可をとろうとするも彼がウソをついてまだこっちで仕事中と言ったために実現せず、モリコーネも「できなかったのを後悔している仕事はあれだけ」と語っているのはまったく知らなかったな。彼が『時計じかけのオレンジ』の音楽だったら、あの映画はどんな感じになったのだろうな。
本当に映画に愛された音楽家であり、彼のコンサートの映像がふんだんに使われ、その音楽の魅力を堪能できる作品である。本国の音楽家をはじめとして多くの人のインタビューが使われており、ブルース・スプリングスティーンをはじめとするロック畑の人も何人も登場するが、ポール・シムノンのインタビューが本当に少しだけ使われているのがちょっと謎だった(ちゃんと「音楽家(元ザ・クラッシュ)」と字幕が入っていた)。
本作の最後は、そうした人たちによるモリコーネを讃えるコメントが怒涛の如き続いて、これをカットしたら映画は10分は短くできたのではともちらと思ったが、エンニオ・モリコーネがその賞賛に値する音楽家なのは間違いなく、90歳にしてまだまだ元気だったモリコーネ自身のしっかりした証言を元に本作が作れたのは、映画にとっても素晴らしいことに違いない。