カーンアカデミーのサルマン・カーンが「迫り来る AI による雇用崩壊への1%の解決策」という文章を New York Times に寄稿している。「1%の解決策」とは何か?
彼は、シリコンバレーで見かける Waymo の自動運転車、従業員の80%を代替可能なAIエージェントを導入したフィリピンの巨大コールセンターといった話を引き合いにし、それが不安を喚起している話をする。
要は、人工知能による人間の労働力の置き換えの話だが、その規模は多くの人がまだ認識していないほど大きいとカーンは確信している。今後数年で、人工知能とロボット技術が、倉庫作業からソフトウェアエンジニアリングまで、多様な職種における人的労働の必要性を大幅に削減すると見ているわけだ。自動化がもたらす波は、大きな不満と分断を生むことになる。
そうした状況を受け、自動化の恩恵を受ける企業――つまり、大半の米国企業――は、(売上高でなく)利益の1%を職を失う人々の再訓練支援に充てるべきだとカーンを訴える。
これは慈善事業ではないとカーンは書く。企業の利益が急増する一方で、人々の仕事が失われるのを国民が目撃すれば、規制や課税、あるいは自動化そのものを禁止しろといった形で反発が起きるだろう。企業が労働者の再訓練を支援するのは常識だろうし、それで国民が得る利益は計り知れない。
現在、世界最大級の企業約12社の年間利益総額は1兆ドルを超えるので、その1%は年間100億ドルの基金が創設でき、スキル訓練プラットフォームを構築できるし、数千万人に及ぶ人々へのコーチングやメンターシップを提供できる、とカーンはみている。カーンアカデミーでオンライン学習プラットフォームを実現した彼らしい提言だが、職業技能訓練にも同様の原則が適用できると彼は考える。
人工知能の脅威は、雇用危機だけでなく教育上の課題も生み出す。問題は人々が働けないことではなく、世界が急速に変化する中で、人々が学び続け、新たな機会とつながるためのシステムを構築できてないことだ、とカーンは書く。そして、カーンは、この課題に対処するには、何百万もの人を大学に戻す必要はなく、柔軟で自由な雇用への道筋を創出する必要があるとして、「人々が自身の知識を証明できる低コストのオンライン仕組み」が求められると見ている。
そして、彼は最後に、教師、建設労働者、電気技師、配管工、ホスピタリティ産業や高齢者介護産業など拡大を続けている職を挙げ、「意味のある仕事に不足はないのです。不足しているのは、その仕事に就くための道筋だけなのです」と訴えている。
単に利益をユニバーサル・ベーシックインカムで皆に還元するのではなく、再教育に話を持っていくところがカーンアカデミーの創始者らしいと思うわけだが、彼の本の書名ではないが、そういう意味でも AI は私たちの学び方を変えるんだろうな。
ネタ元は Slashdot。


