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内藤國雄に30年以上前に引退を言い渡した鈴木輝彦

内藤國雄九段が昨年度末をもって半世紀以上にわたる将棋棋士としての現役生活からの引退をしたのは、将棋を知る人ならご存知だろうが、内藤國雄と引退というので面白いツイートを見かけた。

『新・対局日誌』第4集という出典から想像するに、ここで描かれる宴席(多分)はおそらく1990年前後の出来事だろうが、鈴木輝彦が内藤國雄に言ったという発言をたまたまある本を読み返していて見つけたので、記録の意味で書いておく。

その本は芹沢博文の『王より飛車が好き』という本で、昭和59年12月15日が1刷の本である。

実はこの本は id:doublecrown さんにいただいたもので、今読むといろいろ面白いところがあるのだが、それはともかく問題の箇所は以下の通りである。

 内藤得意のセリフは、
「将棋指しではワシが一番歌がうまい。歌手ではワシが一番将棋が強い」
 何と他愛のないことを言う男であろうか。最近は、「女にもてんようになったら金が余って仕様がない。みんな遠慮せんで飲めよ」と若い者達に言っているようで、すっかりその気になってご馳走になった鈴木輝彦六段に凄いことを言われ、懐に”引退届”を持って歩いていると専らの評判である。
 鈴木に、「内藤さん、名人になれると思いますか?」と聞かれ、軽い調子で、「ちょっとしんどいやろ」と言ったところ、「それなら今直ぐ引退しなさい」と言われたのである。
 人間と豚なら人間の方が数段は優れていよう。内藤と鈴木は人と豚ぐらい格に差がある。内藤は豚に馬鹿にされたと嘆くことしきりである。(12ページ)

これを読むと旧世代の棋士の名人位にかける思いいれの深さと棋士の内面の激しさを垣間見る思いである。

内藤が直球の質問に「ちょっとしんどいやろ」と思わず口走ってしまったのは、当時谷川浩司が21歳の若さで名人位を獲得していたからだろう。

実際にはこの発言があった当時、内藤は王位のタイトルホルダーであったし、その後にはA級に復帰してもいるのだが、タイトル獲得4期の棋歴を誇りながら、名人位獲得はおろか挑戦することもできなかった。これはB級1組に陥落した後だが、B級1組の最終戦で昇級候補だった富岡英作と鋭く切り合う将棋で勝った後、感想戦で安全勝ちできる手をなぜ指さなかったのか聞かれ、「そんな手は(分かっていても)指せんのや」と即座に答えたのを聞いた河口俊彦が「なぜこれほどの将棋を指す男が名人になれないのだろう」と書いていたのを思い出す。

もちろん河口俊彦も内藤國雄もその答えを知っているはずだが。

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