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「クイーンズ・ギャンビット」を観て将棋ファンとして思ったこと

今年世界的に大ヒットした Netflix「クイーンズ・ギャンビット」だが、少し前にワタシも遅ればせながら完走した。

観る前から評判を聞いていたので、ep1 がまったく面白く感じなくて不安になったが、アニャ・テイラー=ジョイが登場してからは素晴らしい。カラーコーディネートを含む衣装や画作りの意匠がとにかくよくできているのだけど、アニャ・テイラー=ジョイのユニークな顔の造形、たたずまいがそれと相まって魅力的だった。

このドラマにおけるチェスの描写は、将棋愛好家のワタシ的にいくつも面白いポイントがあったので、それを思いつくままに書いておく。なお、ワタシはチェスはルールもほとんど知らないレベル。

封じ手

これは将棋もあるのだけど、チェスはえらく一方的にやるんだなという感想。

昔、将棋雑誌で、チェスの封じ手で「2~9のどれにでも読める文字」を書いた選手がおり失格になったという話を読んだことがあり、逆にその「2~9のどれにでも読める文字」を見たいよと思った覚えがある。

封じ手を図面に矢印でも記す将棋ではそうした問題は起こらない。これは文盲の坂田三吉に恥をかかせてはいけないと考案されたらしいが、誤解の余地を減らす意味でこちらのほうが優れていると思う。

実は、将棋のタイトル戦でも危うい事例が過去あったらしいが、そういえばドラマ「古畑任三郎」の「汚れた王将」も将棋の封じ手が殺人の契機になっている。しかし、それは現実の対局には起こりようがない筋で、確か三谷幸喜もこの回のトリックの不備を認めていたはず。

頭の中のチェス盤

このドラマでは、主人公の主観で天井にチェス盤が映し出される趣向がとられており、それが最終回にぐいっと活きるのだけど、これは「頭の中のチェス盤」のユニークな表現方法である。

この「頭の中の盤」は将棋指しもプロアマ問わず持っているのだけど(天井に映るという人はさすがにいないと思うが)、藤井聡太二冠にはこの「頭の中の将棋盤」が無いらしいという話は、それだけで彼の天才性を確信させるに十分な驚きがある。

記録

チェスってプレイヤーが自らの指し手を自分で紙に記録するんだね。将棋の場合、プロの卵の奨励会員が記録係を務めるので新鮮に感じられた。

このドラマを見ていて、主人公の対戦相手が「負けたよ」とか言うのを見て、その後何か不正をやるんじゃないかと身構えたワタシからすると、これは将棋の世界のほうが性悪説に則っているんだなと思い当たった。

長考

テレビドラマなので仕方ないのだけど、早指し戦でなくてもテキパキ指し手が進み、長考の末に考え抜いた渾身の一手を指すという描写がほぼなかったのは少し物足りなかった。

ただ将棋の世界からすると、チェスは持ち時間がはっきり短いんですね。将棋の名人戦は持ち時間9時間の2日制だし、順位戦は持ち時間6時間である。

ただこれでも短くなったほうで、持ち時間短縮化の流れは将棋の世界でもあるのだけど、今よりも短くするのは将棋のコクが薄くなるようであまり賛成できないというのが個人的な意見である。

助言(共同研究)

注意:以下、最終回の内容について触れます。

ソ連での主人公とボルコフとの決戦のとき、彼女の仲間たちの研究が国際電話で伝えられるが、これはソ連のチェスプレイヤーが強いのはある種の団体戦をやってるからで、一方でアメリカのプレイヤーは個人主義で協力することなど考えないから彼らに勝てない、という物語上の文脈があるのだけど、上記の場面を将棋の世界にあてはめると微妙である。

つまりは、例の将棋ソフト不正使用疑惑騒動と呼ばれる、三浦弘行九段というトップ棋士棋士生命を殺しかけた極めて不愉快な冤罪事件があった後では、たとえ封じ手の後の夜中であっても、決戦の最中に電話で助言というのはかなりマズい。

ただ「クイーンズ・ギャンビット」の名誉のために書いておくと、そうした研究だけで勝てるという描写にはなってないので誤解なきよう。

さて、それはそうと、このドラマのおかげでチェスの人気が高まっているというのは面白い。ネット対戦もできるので、コロナ禍に適した趣味の一つと言える。将棋もあやかりたいところですね。

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