今月のはじめ、『WEB+DB PRESS』休刊のお知らせが波紋を呼んだ。
同じ技術評論社から出ている Software Design にはワタシも寄稿しているが、『WEB+DB PRESS』にはついぞその機会がなかったし、必ずしも良い読者でもなかったのだが、それでも悲しさを覚えるのは確かである。まずは編集長の稲尾尚徳さんに(まだ早いが)お疲れ様と言いたい。
そういえばアメリカにおけるコンピュータ雑誌の終焉についての記事が先月あったなと思い出した。
この記事の著者のハリー・マクラケン(Harry McCracken)は、かつて PC World の編集長だったテック系雑誌編集者のベテランである。
現存する米国のコンピュータ雑誌の中で何とか命を繋いできた最後の2誌である Maximum PC と MacLife が紙の雑誌から撤退したことで、半世紀近く(!)続いたコンピュータジャーナリズムの紙媒体時代は幕を閉じたとマクラケンは宣言している。
マクラケンが PC World に入社したのは1994年で、そのウェブサイトを開設したのと同じタイミングだったそうだ。やがて、月1回発行されるコンピュータに関する出版物というものが、少しばかりバカバカしく感じられるようになったと彼自身認めている。事実、ウェブは雑誌の収益源を支えた広告ビジネスにも打撃を与えた。
そうしてウェブが一夜にして雑誌を終焉に追い込んだ……なんてことはなく、1990年代後半は PC World がもっとも豊かな時代だったし、彼が退社した2008年においてすら、雑誌は利益の中心だったそうだ。
しかし、この時点で実は既にコンピュータ雑誌のビジネスは終わる必然にあり、『ルーニー・テューンズ』のワイリー・コヨーテが崖の先まで飛び出しているのに、自分がいずれ落下するのに気づいていないみたいな状態だったと振り返る。事実、1990年代後半から有力コンピュータ雑誌が徐々に廃刊を迎える。
PC World が紙の雑誌を止めたのは2008年で、マクラケンが退社した直後だったが、以降他の雑誌もそれに続き、マクラケンは2013年に在籍していた TIME 誌で、コンピュータ雑誌の時代は終わったと書いている。
今回紙の雑誌を終わらせる Maximum PC と MacLife は、むしろインターネットが存在しないかのようにふるまうことで存続してきたが、雑誌自体枯れ細って死ぬがごとき有様で終わりを迎えた。
我々は紙に印刷されるコンピュータ雑誌の終焉を嘆くべきか? とマクラケンは問いかけるが、彼の考えはアンビバレントだ。人々の生活に密着したテクノロジーに関する情報を提供する方法として、ウェブは紙よりもはるかに優れている。しかし、オンラインメディアは紙の雑誌のような活気に満ちたビジネスを生み出せなかったとマクラケンは指摘する(PC World には、ノートパソコンからテレビにいたるあらゆる製品のベンチマークを行う技術者を擁する広大なラボがあったという話はすごいねぇ)。
だからといって、今のコンピュータジャーナリズムを捨てて1995年に戻る魔法のスイッチがあったとしても自分はそれを使うことはない、とマクラケンは釘をさす。
コンピュータ雑誌の時代は終わったのだ――でも、なんて時代だったんだろう、とマクラケンは締めくくっている。
彼の記事の最後にもリンクがあるが、Internet Archive や Google Books に昔の紙の雑誌がスキャンされて読めるのがあったりするのはすごいよね。
さて、コンピュータ雑誌の時代が終わったというのは日本でも同様だろう。そうした意味で、日本でも技術雑誌をデジタル化して復刻するプロジェクトが広がってくれないかと思う。
あと『WEB+DB PRESS』に関しては、とりあえずWEB+DB PRESSカンファレンスなど実現するといいな。
ネタ元は Slashdot。