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『ウォッチメン』 〜 放っておけないアメリカ人とアメリカの神話

ウォッチメン スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

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元々はワタシの観る映画リストには入ってなかったのだが、熱狂的に推す評をいくつか読んだので観てきた。

原作のコミックは読んだことがなく、しかも映像に含まれる情報量が多い映画らしいことを聞いていたので公式サイトで情報は一通り押さえておいたのだが(他の映画では基本的にしない)、それでも見落とした文脈はあっただろう。ボブ・ディランの「時代は変る」をバックに、ウォッチメンの活躍とその後と、現実とは違う歴史を辿るアメリカを見せる秀逸なオープニングからして情報量たっぷりで盛り上がる。

監督はザック・スナイダーで、『300<スリーハンドレッド>』でもみせたスローモーションの静と激しくもスムーズな動のアクション描写は見事で、しかも『300』に個人的に感じた空虚さがなかった。しかし、暴力描写は手加減がなくて、ここまでやらんと原作ファンは納得しないのかなとも思った。

本作の主人公であるロールシャッハジャッキー・アール・ヘイリーが好演)は行動第一の右派であるが、ワタシはかつて村上龍が『ディア・ハンター』や『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』の主人公を指して言った「放っておけないアメリカ人」の系譜につながるものを感じた。昔の仲間の特に訳ありな奴が殺されただけで「ヒーロー狩り」と断言して律儀に昔の仲間に忠告してまわるんだもの。その点も本作は実にアメリカ的であり、本作の原作は「神話としてのアメコミ」の域に達してるのだろうか。読んでないで勝手に書いてるが。

スーパーヒーローをやめさせられた人たちを描く映画として『Mr.インクレディブル』があった。両者ともスーパーヒーローとしての自分を取り戻すことで性的にも回復していくキャラクターが共通していたのは興味深かったが、あの映画のように家族の絆といったところに落ち着かず、異人としてのスーパーヒーロー、その超法規的存在の正義の行使は認められるのかという『ダークナイト』と共通する問題に向かい合い、本作はスーパーヒーローと世界平和の問題まで本気で行ってしまう。

ただその驚くべき形で世界平和が実現するラスト近くまでにワタシは本作の緊張感に疲弊してしまっており、十分に衝撃を受ける余裕がなかったのは残念だった。

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