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グラン・トリノ

グラン・トリノ [DVD]

グラン・トリノ [DVD]

これぞ映画である。

中盤以降、ワタシはもうどうにもこうにも泣き通しだったので、これが良い映画なのかそうでないのか冷静に判断できない。しかし、これこそが映画である。

奥行きの乏しい映像を見れば、前作『チェンジリング』より低予算なのが分かるが、その分クリント・イーストウッドの一挙一動に集中できる。そしてワタシは彼から目を離すことができなかった。

本作でイーストウッドは、かつて朝鮮戦争に従軍もした主人公コワルスキーを演じている。人種偏見を隠そうともせず、息子たち家族にも疎まれる毒舌の老人は、ある意味我々観客がイーストウッドに対して抱く旧弊なアメリカ人のイメージを突き詰めたものとも言える。

白人が去りスラム化した街に居残る主人公が磨きあげる72年製(ワタシが生まれるより前だ)のグラン・トリノが何を象徴しているかは言うまでもない。主人公の隣に越してくるのがモン族の家族であるのを含め、本作はいろんな意味で今のアメリカを語っている映画である。

司教に対しても毒舌を吐き懺悔を拒む主人公が語る、戦場で自分がしたことをどうして本当に恐ろしいと思うかの話が象徴的だし、心を通わすことができた隣人の家族が襲撃を受け、「俺がしたことが悪かったのか」と愕然とする主人公にアメリカと暴力の関係を見てしまう。

本作でイーストウッドは、そうした図式をちゃんと引き受けた上で、一人前の男として生きること、そして特に人間として落とし前をつけることについて答えを出している。

本作のラストで主人公がとった落とし前のつけ方は、かつてのアクションスターの頃には考えられないものだが、個人的にはこれを観て『ミスティック・リバー』に感じた後味の悪さを払拭できたように思う。

思えば二日続けて『スラムドッグ$ミリオネア』と『グラン・トリノ』を観たことになるが、もしかしたら今年のベスト1、2を体験した濃密な二日間だったのかもしれない。

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