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監督失格

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独りで観て、そして観終わって独りで帰るのが悲しくなる映画だった。

原一男が『全身小説家―もうひとつの井上光晴像』(asin:4873761050)の中で、ドキュメンタリーは狙って良い画が撮れるものではないが、撮らないことにははじまらないといったことを書いていた。

本作は「カメラを回し続けること」への執着が大きなポイントである映画だ。映画のタイトル自体、カメラを回すことを躊躇した平野勝之監督に対し、彼にとってミューズだった林由美香が腹立ちとともに放った一言に依っている。

本作には観ているのがつらくなる映像がいくつも出てくる。林由美香の亡骸を確認する場面、その夜振り出した雨……それは平野監督をはじめとして本作に登場する人たちがカメラを回し続けたから撮れたものである。

しかし、そこまでカメラを回し続けることに執着しながら、本作においてきれいにオミットされている存在がある。それは平野勝之監督の妻である。

何でも撮ればよい、誰でも出せばよいというものではもちろんないが、この点は平野監督の過去作品に詳しくない当方にはいささか不可解だった。

本作のプロデューサーは庵野秀明で、監督が自らのとても惨めな姿をとことん晒すラストに特にらしさを感じた。おそらくは彼がそこまで平野勝之を追い込んだからこそ完成した映画なのではないか。

こんな映画そうそうないのは確かである。

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