Mozilla は再び Firefox を好きになってもらいたいみたいだけど、その過程で Firefox の最も忠実なユーザーの気分を害さずにいられるだろうか? という Fast Company の記事だが、ワタシはもう何年になるかは覚えていないが、長らく Firefox をメインブラウザとして使い続けてきた奇特な人間としては気になるところである。
この記事が最初に取り上げるのは、先月の Firefox が広告のためにユーザーデータを集める機能をデフォルトでオンに設定した話である。
プライバシーの専門家によれば、このデフォルト設定はほとんど無害らしいが、少なからぬ Firefox ユーザはこれを裏切り行為と見た(ワタシ自身も上でリンクした GIGAZINE の記事に従って、反射的に件の設定をオフにしている)。
この話は、Mozilla 財団が Firefox ブラウザを活性化しようとすると、長年のユーザを疎外してしまう危険性を示していると記事は指摘する。ワタシを含め、プライバシー方面にうるさい利用者が多いからね。
Mozilla は近年、VPN サービスやメールマスク機能などブラウザ以外のビジネスチャンスを追い求めていたが、2月に暫定 CEO に就任したローラ・チェンバースは、シェアが低迷する Firefox にフォーカスして再投資し、再興する意思を示している。
その一つとして、他のブラウザで売りになっている機能、例えば、Edge ブラウザの普及に貢献したらしい垂直タブであったり、他にもタブのグループ化機能などの実装に取り組んでおり、コミュニティが求めているものを優先して実現するとのこと。
ただそうしたブラウザ自体への機能強化以外にも、アドテクへの参入も目指しており、このあたりは冒頭の話にもつながるが、長年のユーザを不安にさせるかもと記事は指摘する。アドテクとの関係として、Firefox は Chrome や Edge よりは厳しいが、Brave や DuckDuckGo ほどは敵対的ではないという中間に位置するが、これ以上積極的に広告に敵対的な姿勢を見せるのは得策ではないということだろう。
実際、電子フロンティア財団のレナ・コーエンによると、Firefox の問題の設定は、Googleの「プライバシー・サンドボックス」よりも優れており、ずっとプライバシーが守られているとのこと。しかし、それへの反応も上記の通りであり、同時期に明らかになった Mozilla による広告効果測定企業 Anonym の買収もその不安を高めることとなった。
Firefox の困難は、Mozilla が Google からのロイヤリティの支払いに大きく依存している不安定な財務状況に起因している。2022年時点で、Mozilla の収益の86%近くは Google からで、Google は Firefox のデフォルト検索エンジンの地位のために5億1000万ドルを支払っている。一方で、上記の VPN サービスなどの多角化の試みは、大きな収益源となっていない。
ローラ・チェンバース暫定 CEO は、Google への財務的依存を下げ、「Google からの自由」を成し遂げるのが最優先事項であり、アドテクビジネスの構築もそのための施策であるのを認めている。
他にも Firefox へのチャットボットのサイドバーなどで生成 AI 技術にも取り組んでいる。記事によると、広告技術を嫌う Firefox ユーザと生成 AI を警戒するユーザは重複するが(そうか?)、Mozilla は透明性を保ち、ユーザに選択肢を与えるとのこと。
それで Firefox は再びクールになれるのか? だが、そこで根本的な問いが浮かぶ。Firefoxは誰のためにあるのか?
Firefox の既存の最も熱狂的なフォロアーに良い顔をし続けても、それが誰にもアピールしない中途半端な状態に陥る危険性はないか?
チェンバース暫定 CEO は、Firefox のマーケティングを強化し、そのブランド力を高める意思を示しているが、ユーザコミュニティ側も、Mozilla のチャレンジを「許そう」という機運もあるとのこと。
Privacy Guides の創業者のジョナ・アラゴンも、微調整すれば Firefox は今でもプライバシー面で最高のブラウザだし、独自のレンダリングエンジンを使っているのも価値があると語っている。その上で、彼は Mozilla にはコミュニティファーストのアプローチを望んでいる。
独自のレンダリングエンジンを維持している価値はワタシも大きいと思っている。そして、Firefox が存在感を失わないユーザシェアを確保することを望むばかりだし、この点に関しては、20年以上前の jwz の文章を思い出すのだよね。
ネタ元は Slashdot。