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マミー

和歌山毒物カレー事件の犯人として死刑判決が確定した林眞須美の家族を描くドキュメンタリー映画である。

最初に、和歌山毒物カレー事件についてのワタシ自身の考えを書いておく。事件が起こった当時ワタシは二十代半ばだったが、今と比べてはるかに長い時間テレビを見ていた。その影響もあり、当時は林眞須美がやったに決まっていると思っていた。その後、ぽつぽつとこの事件についての情報を後付けで知るにつけ、今では林眞須美が犯人とは言えない、というところまできている。

そして、ここからが重要なのだが、たとえ彼女が犯人だったとしても無罪判決が下るべきだったと裁判当時から思っていたし、そう人に言ってきた。動機も解明されておらず、もちろん自供もとれていない、裁判で認定された目撃証言も林眞須美の犯行を裏付けるものではまったくない、つまり、決定的な目撃証言はない。とてもではないが、検察の論証は人を死刑にするレベルには到底思えなかった。

そうした意味で、本作は、和歌山毒物カレー事件についての上記のワタシの認識に特に影響を与えるものではなかった。よくも悪くも。

映画の冒頭、主体というか意図の分からないナレーションが入ったので特に気になったのだが、本作で使用されている音声の主体がよく分からない箇所が気になった。ワタシの見落としだったら申し訳ないが、そうでなければ、これはよくないと思う。

本作における林健治の発言について、「面白かったでしょ! 笑えたでしょ!」とやたら言ってる人がいたが、保険金詐欺で大金稼いでいた人間として、今になっても嫌悪感が先に立った。すれっからしになったと思っていたが、自分にこのような道徳的感覚が残っていることに少し驚いた。

本作は、主役である長男の林浩次さん(仮名)への嫌がらせなどあったため公開が遅れ、映像に加工が入ったと聞く。本作の内容を考えれば、それは仕方のないことにも思えるが、林浩次さんに対して嫌がらせや中傷を行う心理は理解できないし、それは許されることではない。

林眞須美の冤罪を訴えてビラ配りをする(もそれを受け取る人はいない)支援者たちに対して、彼女がやったに決まったじゃないかと思わず議論をふっかける男性がいるが、彼などまさに25年前の我々であり、その認識で止まっている人が大半であることを映し出すものだ。支援者たちとの議論を経て、支援者が伝えるヒ素の科学鑑定の話は「知らんかった」と正直に認め、それは調べてみる、それでも今は彼女がやったと思っている、自分の考えは変わらないが、あんたらは自分の考えでやっているのだから頑張ってくれ、それが民主主義だ、と言い残して去っていく男性を見送りながら、支援者たちが「ええ人や」と口々に言いあう場面がよかった。

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