- 出版社/メーカー: 松竹
- 発売日: 2016/05/12
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塚本晋也の映画を劇場で観るのはこれが初めてだったりする。
大岡昇平の原作は、高校1年生の夏に読んで以来ずっと実家の自室の枕元に文庫本が置かれており、特に夏に帰省した折りなど読み直している大切な作品である。塚本晋也による映画化の話を聞いたときは、期待とともにかなり不安もあった。
ワタシが今回の映画化に不安を持ったのは、一つは資金集めの苦労が容易に想像できたこと。もう一つは結局大岡昇平の原作とかなり違ったものに改変されるのではないかと思ったからだ。なお、市川崑による映画は観ていない。
しかし、いずれにしても大変な映画になることは分かっていたので、上映前は上記の不安もあり、近年ないくらい緊張してしまった。実際観てみると、予想していたより原作に忠実な映画化であった。
資金難については予想した通りで、自主製作の形となったと聞く。本作を観ても、もっと予算があればと思うところは当然ながらあるのだが、それでも本作の映像は少しも貧乏くさくなく、塚本晋也のものになっている。鈍く迫ってくる銃撃の感じや、うじがわく死体(あるいは死にかけ)の日本兵など印象に残る画が多いし、そして何より塚本晋也自身が演じる文字通り幽鬼のごとき田村一等兵は見事だった。
上映時間は90分足らずと短いし、これも資金の問題が影響しているのは間違いないだろうが、本作に接する際の緊張を考えれば、ワタシにはこれぐらいでよかったともいえる。
本当にものすごい映画である。ワタシは映画的ボキャブラリーに乏しいので、本作について的確な言葉で評することができなくて、ものすごいとか圧倒されたとか陳腐な表現を使うしかないのだが、本作のような映画を作るのに何重もの困難を強いられる日本の映画界を憂うとともに、塚本晋也監督の執念に敬服せざるをえない。
こういうことを強く書けば書くほど人を遠ざけてしまう構造があるのは承知しているがそれでも書いておきたいのだが、日本人として、奇しくも敗戦から70年という区切りの年に公開された本作は観ておくべきなんじゃないだろうか。