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一度映画館で観ることを諦めかけた映画だが、近場のシネコンで一度外れたレイトショー枠に戻ったおかげで観れた。

例によってクリスチャン・ベールの肉体改造を経た役作りはすごかった。『マシニスト』とは逆だけど、本当にこれは心臓に悪い感がひしひしと伝わってきた。クリスチャン・ベールは、もうこの手の役作りは金輪際止めてほしい。見ているほうの心臓に悪い。

主演のベールと監督のアダム・マッケイのコンビの前作『マネー・ショート』は、邦題が気に入らないのもあって未見だった。でも、このコンビなら面白いコメディだろうなと思っていたが、確かによくできてましたね。役者陣もディック・チェイニー役のベール、ドナルド・ラムズフェルド役のスティーヴ・カレルジョージ・W・ブッシュ役のサム・ロックウェルの主要三人が実に達者だった。

必然的にブラックな政治風刺劇としてよくできているのだけど、それにムラがあって、いったん途中で映画が終わりかけるところとか、ナレーター役のカートはいったい何者かというところなど(途中でだいたい読めるけど)よかったが、一方でチェイニー夫妻の間でどういう会話があったか分からないのでシェイクスピア劇にしちゃいましょう、のところは、『マクベス』への目配りは分かるけれども、アメリカ人のお芸術コンプレックスが垣間見られてクソ詰まんなかった。

あと本作において、ディック・チェイニーの成り上がる背景に、妻であるリン・チェイニーがいたという筋立てで、彼女の優秀さと上昇志向にスポットを当てているのも納得感があった。

本作は主役のディック・チェイニーをはじめとして主要登場人物がほぼ全員存命なわけで、それでこれだけの風刺劇にしてしまうところがなかなかエグいのだけど、それを許容する社会の度量というものを感じる。一方で、チェイニーがアメリカの行政の長である大統領の権限を無条件のものとし(大統領執行特権理論)、副大統領である自身がそれを傀儡としてホワイトハウスを乗っ取り、どれだけ好き放題やったかということを描いているわけで、観ていてとても怖くなるし、チェイニーが行った情報の隠匿や歪曲が、今現在のアメリカ政治に与えた後遺症をどうして考えてしまう。

そうした意味で、本作は60年代末以降のアメリカ現代政治史とメディア(要は Fox News の勃興)を考える上で面白い作品だと思うし、ここでチェイニーがやったことを日本の今の政治状況に重ねて考えてもいささか暗澹たる気持ちにもなった。日本では本作のような政治を題材として優れたコメディ作品は求められていないのかな。

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