調べものをしていて、『タイム・マシン』、『宇宙戦争』、『透明人間』、『モロー博士の島』など近年まで何度も映画化されている SF の古典の作者で、「SFの父」とも呼ばれるハーバート・ジョージ・ウェルズ(H.G.ウェルズ)の『World Brain(世界の頭脳)』が来月再発されるのを知る。
H.G.ウェルズというと、今年は没後75年で、そういえば英国の2021年記念硬貨にH.G.ウェルズ記念デザインが入り……おい、ちょっとおかしいぞ! というのが少し話題になったが、それだけで上に挙げた SF の古典に比べれば知名度が低い『世界の頭脳』の新装版が出るのか不思議になる。
これは、サイバーパンクの代表的存在であり、またハッカー文化、サイバースペースにも造詣の深いブルース・スターリング(ワタシも『Make: Technology on Your Time』日本版で彼の文章をいくつも訳しました!)が「まえがき」、『Good Faith Collaboration: The Culture of Wikipedia(善意にもとづく共同作業:ウィキペディアの文化)』の著者であり、『Wikipedia @ 20: Stories of an Incomplete Revolution』の共編者であるジョゼフ・リーグルが「序論」を寄稿しているのがポイントなのだろう。
Of course, as Bruce Sterling points out in the foreword to this edition of Wells's work, the World Brain didn't happen; the internet did. And yet, Wells anticipated aspects of the internet, envisioning the World Brain as a technical system of networked knowledge (in Sterling's words, a “hypothetical super-gadget”). Wells's optimism about the power of information might strike readers today as naïvely utopian, but possibly also inspirational.
World Brain | The MIT Press
つまり、H.G.ウェルズの『世界の頭脳』で書かれる「世界百科事典」の構想は、ウィキペディア(というかインターネットそのもの?)の元祖とも言えるもの、という視座からの再評価なのだろう。もちろん今の目で読めば、ウェルズの構想がユートピアすぎるという見方はあるだろうが。
当然『世界の頭脳』にも既存の邦訳はあるが、1980年代に出たものでとっくに絶版なので(Amazon マーケットプレイスですごい値段がついている)、今回の新装版の邦訳は意味あると思うのだが難しいですかねぇ。