イーロン・マスクによる米政府の内部情報掌握とその危険性については、Wired が立て続けに記事を公開しており、参考になる。
- イーロン・マスクの「DOGE」が米政府の内部情報を掌握する未来 | WIRED.jp
- イーロン・マスクの取り巻きが、米国の人事管理局を掌握している | WIRED.jp
- イーロン・マスクによる米政府掌握の一翼を担う、行政経験不足の若手エンジニアたち | WIRED.jp
- イーロン・マスクに近い25歳、米政府決済システムへのアクセス権を保持 | WIRED.jp
- 「DOGE」のエンジニアに、米海洋大気庁システムでの編集権限が付与されていた | WIRED.jp
- 19歳「DOGE」スタッフの米政府機密アクセス、セキュリティ専門家が疑問視 | WIRED.jp
この有様について、歴史学者のティモシー・スナイダーが、「もちろん、これはクーデターだ」と断じる文章を書いている。
かつてのクーデターとはどんなものか。
歴史的に、クーデターはそういうものだった。権力の中心は物理的な場所である。そこを占拠し、役職に就く人たちを追い出して、支配権を主張するのだ。なので、もし奇妙なシンボルをつけた武装集団が政府の建物を襲撃したなら、アメリカ人はそれをクーデターの企てと見なしただろう。
そして、その種のクーデターは失敗しただろう。
イーロン・マスクとその取り巻きによるクーデターはデジタル時代のやり方である。少し長くなるが、訳しておく。
マスクと彼の支持者による現在進行中の行動は、権力を掌握する個々人にはその権利がないのだから、クーデターである。イーロン・マスクは選挙で選ばれたのではないし、彼がやっていることをする権限を与える役職もない。すべて違法だ。民主主義における慣行を覆し、人権を侵害するという意図する効果においてもそれはクーデターである。
我々全員についてのデータを手に入れることで、マスクはプライバシーや尊厳という概念を踏みにじり、我々が税金や学生ローンを支払う際に政府と交わした明示的、そして暗黙的な合意をも踏みにじった。そして、そのデータを所有することで、恐喝やさらなる犯罪も可能になる。
財務省による支払いを停止する権力を得ることで、マスクは民主主義をも無意味にしてしまうだろう。我々が議会の議員に投票し、議員が我々の税金の用途を決める法律を議会で通過させる。もしマスクが、支払いレベルでこのプロセスを止める権力を持てば、法律を無意味なものにできる。つまり、次には議会が無意味になり、我々の投票が無意味になり、我々の市民権も無意味になってしまうのだ。
それに続けて、クーデターへの抵抗は、デジタルに対する人間、寡頭政治に対する民主主義の防衛だと書くが、クーデターが起こっていること自体が認識されないまま時間が過ぎれば、クーデターが成功する可能性が高まるとスナイダーは締めくくっている。
これは彼の新作『On Freedom』の邦訳刊行が待たれるね。
ネタ元は kottke.org。

