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樋口恭介『すべて名もなき未来』(晶文社)をご恵贈いただいた

樋口恭介さんの新刊『すべて名もなき未来』について、目次を読んだだけで盛り上がってしまい、以下のツイートをした。

するとこのツイートを目に留めてくださった晶文社の安藤さんから『すべて名もなき未来』をご恵贈いただいた。

すべて名もなき未来

すべて名もなき未来

  • 作者:樋口恭介
  • 発売日: 2020/05/27
  • メディア: 単行本

すべて名もなき未来

すべて名もなき未来

今更であるが、樋口恭介さんは『構造素子』(asin:4150314373)でデビューした SF 作家であり、当然、それに続く新刊も SF 小説(集)なんだろうと思っていた。しかし、目次に並ぶ、マーク・フィッシャー『資本主義リアリズム』、木澤佐登志『ダークウェブ・アンダーグラウンド』、ケヴィン・ケリー『テクニウム』『〈インターネット〉の次に来るもの』鈴木健なめらかな社会とその敵』、テッド・チャン『息吹』、イアン・マキューアン『贖罪』……と挙げていくとキリがないのでここで止めるが、これだけ「イン」な本が並ぶってどういうことだよ! と興奮したわけである。

二冊目がなんで小説でなく評論集なのかという疑問について、晶文社の note において公開されている「まえがき」の以下の箇所が対応していると思う。

本書はフィクションではない。しかしながらそれは、本書がフィクションでないことを意味しない。全ての人間はフィクションを生きている。人間はフィクションを通して現実に触れている。フィクションが認識を規定し、フィクションが人間を規定している。世界とはフィクションを通して触れられた現実の名であり、時代とは、変わり続ける世界≒フィクションの、ある特定の瞬間に与えられた名のことである。

樋口恭介『すべて名もなき未来』まえがきを公開します|晶文社

この「まえがき」でフィリップ・K・ディックの名前が出てきたところで、ちょうど『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を少し前に読んだばかりのワタシは、偶然のめぐりあわせに唸った。

――とここまで読んだ人は笑い出すかもしれない。お前、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』も読んでなかったの? と。

ワタシだって『暗闇のスキャナー』や『ユービック』をはじめ、ディックの本は何冊か読んでいるが、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』は未読だった。それを今年の春に読むことになったのは、今年はじめ早川書房海外SF作品必読フェアにより『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』をはじめ、とっくに読んでおくべきだった本をいくつも買うきっかけができたおかげであり、さらには先月からの緊急事態宣言のもとで精神的に動揺して不眠症となり、それを読む時間ができてしまったおかげ、つまりは偶然のめぐりあわせの積み重ねである。

これでお分かりの通り、ワタシは大した読書家ではない。『すべて名もなき未来』で取り上げられている本の中にも、読みたい/読んでおくべきと思いながらその機会を逸していた本がいくつもある。

樋口恭介さんは、以前「SNSについて最近自分が思っていたことは、5年前には既に語り尽くされていたらしい」において、ワタシの『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』に言及くださっており感謝したのだが、こうやって『すべて名もなき未来』について書くのは、その恩義というか借りの意識からだけではない。

ワタシは樋口恭介さんとは一回り以上歳が違うのだけど、こうしてその新刊の目次を見て、そしてその「まえがき」を読んで自分が盛り上がるのに感じ入るものがあったからだ。

「まえがき」のあと、ワタシは迷わず、近年読んだ中でもっとも好きな小説のひとつであるイアン・マキューアン『贖罪』(asin:4102157255)について書かれたB2「物語の愛、物語の贖罪」に飛びついたが(上のようなことを書いておいてなんだが、この本だけはそれについて論じた文章を読む前に、必ず本を読んでおきましょう)、そこである意味マキューアンのプロセスをなぞるようにして(正確にはマキューアンの作品を鏡にして)「愛と死」について書く著者に、ワタシもまた自分のことを重ねて読んでしまった。

これは良い本でしょう。それをこの本の残りを読んで確かめていくのが楽しみである。

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