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『パーム・スプリングス』と『隔たる世界の2人』という二つのタイムループ映画を観た

ようやく近場のシネコンもレイトショーを再開してくれたおかげで、『パーム・スプリングス』を公開初日に観に行けた。

サンダンス映画祭で大変に話題になったタイムループもの、という事前知識だけで観に行ったが、最近タイムループものってちょっと多くない? と個人的な感覚が正直あった。それだけジャンルのご本尊というべき『恋はデジャ・ブ』が秀作だったということか。

イムループするのが一人ではなく複数というのが肝なのだろうが、実はその設定は、昨年 Netflix「ロシアン・ドール: 謎のタイムループ」で見ている。作りとしての巧みさは、本作よりも「ロシアン・ドール」のほうが上だった。

アンディ・サムバーグの余裕たっぷりで気楽なたたずまいは好みだったし、クリスティン・ミリオティはギョロっとした目で自信のなさを表現しているのだけど、こちらはさほど好みではない。のだけど、それぞれが抱える「秘密」が物語のキーになり、物語が進んでいくと二人に対する印象が変わっていく。

イムループを繰り返し続けるうちに、それから逃れたいと思うか? ここに男女の違いが出るわけだが、ワタシなどアンディ・サムバーグ側というか、バカンス地で気楽に歳もとらずに生きられたらそれでいいじゃん、と考えてしまうのだが、そこでJ・K・シモンズがそれとは別の観点をもたらすんですね。

というわけで楽しめたけど、コロナ禍の隔離生活を経たことは、タイムループものの受容を変えてしまったような気がするし、本作がそれから抜け出ようという意思をはっきり示すところはよかったと思うが、やはりタイムループもの、少しクリシェ化してね? とどうしても思ってしまった。

あ、ジョン・ケイルの1974年の傑作『Fear』から2曲劇中で使われていたのはとても良かったです。

『パーム・スプリングス』を観た翌日、深町秋生さんのツイート経由で、『隔たる世界の2人』のことを知る……ってホントみんなどうやって、こんな短編映画の情報まで知るんだ?

そうでなくても「積みNetflix」で未だいっぱいなのだが、30分くらいならいいかと観てみたら、これがすごい作品だった。

『パーム・スプリングス』も90分と最近の映画では短い部類だったが、『隔たる世界の2人』はさらにその3分の1で見事にタイムループを表現している。ラッパーのジョーイ・バッドアスが知的なグラフィックデザイナーの主人公を演じているが、彼が女性の部屋でお泊りした翌朝、何度自宅に帰ろうとしても白人警官に殺されてしまう。

とにかく、このはじめから殺意満々で、容赦なく主人公を殺す白人警官がすごい(ひどい)。言うまでもなく殺しにいたるシチュエーションは、ジョージ・フロイドなど実際の警官による黒人の殺害のそれを模しているのだが、ジョージ・フロイドのときにそうだったように、警官は他の市民のスマホでの撮影など意にも介さない。

何度も殺されるうちに主人公はその白人警官とコミュニケーションを図り、状況を打開しようとする。最終的にその落としどころがどうなるかは本作を観てくださいとなるのだが、戦慄ものだったとだけ書いておく。本作は今年のアカデミー短編映画賞にノミネートされているが、こりゃ取るんじゃないかな。

さて、同じタイムループものである『パーム・スプリングス』と『隔たる世界の2人』をたまたま続けて観て、どちらに強い印象を受けたかというと間違いなく後者なのだけど、ヘンな表現になるが前者の印象も良くなった。やはり、アメリカにおける黒人はこういう理不尽なプレッシャーを生きているというのを説得力を持って何度も繰り返し見せられるよりも、タイムループではロマンティックコメディーを見たいと切に思ったからだ。

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