本作の予告編を映画館で観たとき、「今更エルヴィス・プレスリーの伝記映画?」と思ってしまったところがあり、しかも監督がバズ・ラーマンというので、これは観に行くことはないなと決めつけていた。
バズ・ラーマンというと、とにかく装飾過多のイメージがあり、彼の出世作『ロミオ+ジュリエット』は割と好きなのに(クレア・デーンズが主役なので)、なぜかその後の彼の映画はすべてパスしてきた。まさに食わず嫌いですね。
しかし、「宇野維正のMOVIE DRIVER」第2回を見て、これは観るべきかと考え直し、『リコリス・ピザ』の翌日に出向いた。
本作はエルヴィス・プレスリーの黒人音楽との関わり、特にブルースのダイナミズムがちゃんと描かれており、BGM で当たり前のようにラップも入るあたり巧みだし、何より選曲がとてもよく考えられており、音楽映画としてしかるべき迫力がある。
宇野さんが言及する、プレスリーを糾弾したパブリック・エナミーの "Fight the Power" のリリックについては、ワタシ自身は当時もそれはあまり真に受けてなかった。ただエルヴィスが歌った曲の原作者がしかるべき報酬を得なかったというのはずっと引っかかっていたし、個人的にはオーティス・ブラックウェルの『These Are My Songs!』(asin:B001LIM9EA)を初めて聴いた時のショックは忘れられない(このタイトルが何を意味しているかは言うまでもないですよね?)。
ただ、それってエルヴィス個人が悪いんじゃないのよね。本作にはエルヴィスの黒人音楽へのリスペクト、というかそれをいかに自然に体現したかが描かれている。「キング・オブ・ロックンロール」と呼ばれるのに対して、「彼こそが本当はそうなんだよ」とファッツ・ドミノに言うシーンは、他の黒人ミュージシャンの描写と比べて言い訳的にも見えたけど。
そうした意味で、エルヴィスの人生における「搾取」を体現するのがトム・パーカー大佐なのだが、この悪役をトム・ハンクスが見事に演じていて、さすがとしか言いようがない。
本作のエルヴィスは割と一貫して悩みを抱えているように感じたが、母親とのくだりは少し前に観た『jeen-yuhs』第一部のカニエ・ウエストにドンダさんが語りかける場面を思い出したりした。
最後の最後にエルヴィス本人を晩年の映像に頼ってしまうところに弱さを感じたが、それでも21世紀の今によくぞこれだけエルヴィスについて正面から映画を作ったものだとは思った。