「今、最もアメリカ映画に影響を与えている監督」という声もあるシドニー・ルメットだが、70年代には『セルピコ』、『オリエント急行殺人事件』、『狼たちの午後』、『ネットワーク』などの傑作をものにした彼も、80年代に入ると『デストラップ/死の罠』や『評決』を最後に評価を下げていく。
その彼が遺作にして評価を取り戻したのが『その土曜日、7時58分』だが、それに出演したイーサン・ホークが、彼の兄役を演じたフィリップ・シーモア・ホフマンとの緊張関係、そして意図的にそれを煽ったシドニー・ルメットについて語っている。
映画界において先にスターになったのはホークだが、この映画を撮る頃にはホークと『カポーティ』でアカデミー賞主演男優賞を受賞したホフマンは、ハリウッドでの影響力が逆転していた。
ホークは当初そんなの関係ねぇと振る舞っていたが、彼はホフマンから「なんでお前は自分の役柄を理解できないのか?」と問われ、「お前はずっと『アルファ』を演じようとしてるが、俺が『アルファ』なんだ。そういうの止めろ」とズバリ指摘されたというのだ。ここでの『アルファ』とは、主導権を握るキャラクターという意味ですね。
この二人の緊張関係は、『その土曜日、7時58分』において二人が演じた兄弟の緊張関係や力関係にそのまま当てはまるもので、その指摘はこの映画における力関係を明確にするのに必要だったのだろう。ホフマンの映画に対する真摯さ、容赦のなさが伝わる。
面白いのは、監督のシドニー・ルメットが意図的に二人の緊張関係を煽っていたこと。ホークが撮影現場にいくと、ルメットは「マーロン・ブランド以来、あんな演技は見たことない」とか言って、必ずホフマンの演技をほめそやす。
ホークはずっとそれに我慢していたが、撮影終了後、ホフマンにそのことを漏らすと、ホフマンは「彼は本当にそう君に言ったのか?」と訝し気だ。なぜか? 「俺も毎日、君について同じように言われてたんだ」
二人してルメットに詰め寄ると、ルメットは「いやー、君達は本当によく演じてくれた。信じられないほどだよ」と二人の演技を讃えたという。老巨匠の老獪さですな。
イーサン・ホークが主要な出演作について語る動画は↓でどうぞ。
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