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ハウス・オブ・ダイナマイト

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キャスリン・ビグローの8年ぶりの新作だが、ワタシ的には『ゼロ・ダーク・サーティ』以来になるので楽しみだった。残念ながら都合がつかず劇場では観れなかったので、配信開始日に Netflix で観た。通常、Netflix で観た映画については半年に一度まとめて感想を書くが、本作は例外。

実に彼女らしい題材に思える。正体不明の大陸間弾道ミサイルICBM)が探知されてからアメリカ本土に着弾するまでに残された19分を三幕構成で繰り返す。

映画の粗筋からまず連想するのは、スタンリー・キューブリックの『博士の異常な愛情』だが、緊急事態における海軍の面々、そして要人たちのプロトコルが現実に沿ったものに違いない本作は当然ながらコメディではなく、『博士の異常な愛情』と同時期に公開され、作品内容被りをキューブリックが気にしたと言われるシドニー・ルメットの『未知への飛行』が近いらしい。が、恥ずかしながらそちらは未見である。

映画の冒頭に何度か繰り返される「Have a Nice Day(良い一日を)」からとんでもない19分に叩き込まれるわけだが、あえてこれと視聴感覚が似た映画を挙げるなら、『ユナイテッド93』くらいか。

本作は『ユナイテッド93』と異なり、権力者の意思決定の過程が描かれる。しかし、本作に登場するイドリス・エルバ演じる大統領は、まさにステージフライト状態で力強い意思表示ができない。実際、核兵器の使用について米大統領は一通りの説明はなされるが、演習などは行わないらしく、これもまた現実に即した描写なのである。

大統領とその副補佐官の間で交わされる、「報復しないなら、それは「降伏」と同じことでは?」「報復するのは、「自殺」と同じです」というやり取りが重い。

本作の世界線は、民主党の大統領であることが配役から察せられる。理解が覚束ない大統領は、核使用について説明する海軍少佐にもう少し分かりやすい説明をしろと切れ、報復攻撃の度合いを「レア、ミディアム、ウェルダン」に喩えてみせられると「それなら分かる」と答える。

ここ、「それなら分かるんだ……」という笑えないユーモア描写なのかもしれないが、現実の世界線での大統領、しかもよく焼けたステーキが好きなあの人なら、迷わず叫ぶであろう言葉を想像し、暗澹たる気持ちになる――というのも実はウソである。

だって、一発核兵器が米国本土に撃ち込まれれば、報復攻撃の連鎖の中で、ワタシは数日以内に死ぬことになろう。それを本作は極めて端的に分からせてくれる。

今、自分はなんで生きていられるんだ? と映画を観て思ったのは初めての体験かもしれない。

本作は実にキャスリン・ビグローらしい作品である。できれば、大統領が指示を下した後まで描き切ってほしかったという気持ちはあるが、それは無茶だろうか。

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