ニック・ケイヴというと最近では映画『The Proposition』で音楽のみならず脚本を手がけ、それがまた高い評価を得ている……といっても日本未公開で DVD も出てないのでワタシは観てないのだが。
彼の場合、ヴィム・ヴェンダースの『ベルリン・天使の詩』(asin:B000EGDDLI)への出演など映画へのかかわりも強いし、また昔から執筆活動もやっていた人ではあるが、初めての本格的な脚本で成功を収めたのは驚いた。
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しかし、本業の音楽活動についてあまり聞かないなと調べてみたら、Nick Cave and the Bad Seeds の活動は停止し、Grinderman というバンドを立ち上げている。メンバーは皆バッドシーズの人たちだが、長年ニックの片腕だったミック・ハーヴェイは不参加である。
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その Grinderman のアルバムがまもなく出るということで、今回の「ロック問はず語り」は、ロッキング・オン1990年4月号におけるニック・ケイヴのインタビューを取り上げたい。このインタビューはアルバム『The Good Son』発表後のもので、前作あたりからようやくアーティストのパワーが浪費されることなくスマートに作品に結実されるようになっていた。
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上の画像はそのインタビューに掲載されていた写真だが、この怖い面構えの印象もあり、当時ロキノンには「暗黒大王」とか平気で書かれていた。ひどい話である。インタビューでもそっち方向に話がいくのだが、ニック自身はそうした見方にうんざりしていたようだ。
●ただ、今回の作品はあなたの作品としてはいつになくリラックスして聞けるものですが、それでも何度も聞き込んでいくうちに滲み出してくる狂気のようなものが感じられるという人もいるんですよ。どう思われます?
「かもね。俺には全然わかんないけど。俺自身は自分のレコードに狂気を感じたことは一度もないからな」
●でも自分では意図しなかったとしても滲み出してくるものがあったとしたらそれも自分の一部なんだというふうには考えませんか。
「滲み出してくるものってなんだよ」
●つまり、そのー、狂気に近いものというか……。
「大体どういう意味なんだよ。狂気って」
●いや、その狂気って言葉がいやならもう狂気って言葉は……。
「もう一度言ったらこの電話切るからな!」
●はい!ごめんなさい。あなたは人に誤解されやすいタイプなんじゃないかってことをお聞きしたかったんですよ。そういうタイプだとは思いません?
「(溜め息)ああ、どうやらね」
いやー、なかなかに狂気を感じさせてくれるやりとりである(笑)。このグダグダっぷりはひどいが、彼にマジギレされちゃ恐かったろうな。
しかし、インタビュアーの山下えりかもやられっぱなしではない。当時ニック・ケイヴについて囁かれていた恐ろしい噂についてズバリ切り込んでいる。その噂というのは……
●じゃあ最後の質問に行かせて頂きます。あなたがカイリー・ミノーグの大ファンだという恐ろしい情報を私たちは持っているのですが、本当なんですか?
「ああ、好きだよカイリー・ミノーグは。あそこまで完璧にマネージメントにもメディアにもオーディエンスにもなぶりものにされていながら変わらないでいられるってのは、ちょっと凄いと思うね。周囲で何が起こっていようと全然シニカルにならずにいられるああいう人間を見ると、むしょうに嬉しくなる。俺はロック界のシニシズムには辟易してるんだ」
カイリー・ミノーグというと、今では長年のキャリアがあるしそれなりにリスペクトもされているが、20年前はねぇ、そりゃあもう何というかカイリーちゃんだったわけだ(何のこっちゃ)。
さて、さらにすごいのはこのインタビューの最後のやり取りである。
●ほんとはもっと個人的に好みだったりするんじゃないですか? 来日したときにレコード会社の担当ディレクターからごっそりカイリー・グッズを貰って帰ったって話を聞きましたけど。
「そいつあ嘘だね。カイリーちゃんグッズならもうとっくに全部持ってる。日本のレコード会社からわざわざ貰う必要なんかないよ」
堂々たる答え。ワタシは当時このオチを読んでベッドから転げ落ちそうになった。
彼のカイリーちゃんラブは、後にアルバム『Murder Ballads』での彼女とのデュエット "Where the Wild Roses Grow" に結実する。
このシングル、アルバムとも商業的に最も成功したものであり、批評的にも評価が高かった。つまりは彼の絶頂期と言えるわけだが、彼自身長年のカイリーへの愛を作品に昇華できて絶頂だったに違いない。
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