『パディントン 消えた黄金郷の秘密』を観に行った日、この日公開初日だった本作も有力候補だった。
しかし、上映時間の長い映画に対する反感がかつてないほど高まっており(当社比)、「3時間とか勘弁してくれよ」と却下となった。なのに、ワタシの観測範囲でこれを絶賛する声を複数目にすると観たくなってくるのだから現金なものである。
ワタシは金曜夜にレイトショーで映画館に行くことにしているが、先週末は出張のため金曜は出向けず、土曜夜に近場の TOHO シネマズでの鑑賞となった。なんか異様に売店が混んでいるなと思ったら、そういうことでしたか。
公開二週目で客席はかなり埋まっており、久方ぶりに両側の席をカップルに挟まれての鑑賞になり、嗚呼、だからワタシは土曜を避け、金曜夜に行くことにしてたんだったと再認識したりした。
吉田修一原作の李相日による映画化の相性が良いのは『悪人』で知っているが(『怒り』は観ていない)、正直歌舞伎の世界を舞台とする本作は、映画化可能なのかな、具体的にはこれを演じられる役者がいるのかなと思っていた。
本作の吉沢亮と横浜流星はそのハードルを見事に乗り越えている。任侠の家系に生れながら歌舞伎の世界に入っていく喜久雄(花井東一郎)と、歌舞伎の名門の生まれの俊介(花井半也)の、その時々での「血筋」と「才能」をめぐる明暗が描かれる本作だが、歌舞伎の舞台をしっかり見せながら、カットバックなどを駆使する編集がうまいのか、三時間の上映時間がまったく気にならなかった。
本作に備えて餅を服用しての鑑賞だったが、飲み物を飲むのを忘れていたくらい。
吉沢亮にしろ横浜流星にしろ、歌舞伎役者の「化け物」性をよく演じており、人間国宝役の田中泯も『PERFECT DAYS』に続く怪演を見せている。本作における二度目の曾根崎心中の場面は、そのディティールまで忘れられないだろう。