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ラブ&マーシー 終わらないメロディー

ビーチボーイズブライアン・ウィルソンの知られざる真実をついに映画化!」ということらしいが、この映画に興味を持つぐらい洋楽について知識がある人であれば、基本的に誰でも知っている話であろう。

本作は、『ペット・サウンズ』〜「グッド・ヴァイブレーション」〜『スマイル』(の制作頓挫)の60年代(ブライアンをポール・ダノが演じる)と、80年代の彼(こっちはジョン・キューザックが演じる)を交互に描く形をとっている。

しかし、ご存知の通り、20年のときを経ても、ブライアンはある意味同じような問題を抱えているんですね。

かつて暴力を奮い音楽家の彼にとって何より大事な聴力を奪い、独立した息子たちからマネージャーを解雇されたら似たようなバンドを売り出し、しまいにはビーチボーイズ著作権をレコード会社に売り払う横暴極まりないロクデナシの父親からの承認をブライアンは得ようとし、80年代の彼はかのいかがわしい精神科医ユージン・ランディの完全な支配下にあり……と書いていくだけで気が滅入ってくる。

しかし、それが本作なのだから仕方がない。特に60年代編は、音楽に見も心も捧げる一方でドラッグ禍と悪化する精神状態に苦しむブライアンをポール・ダノが本当にこういう感じだったろうなという感じで再現していてよくできていた。途中、『2001年宇宙の旅』のパロディかよと笑ってしまったが、とにかく60年代と80年代を力技でつなげている。

ワタシ自身は必ずしもビーチボーイズの良い聞き手ではないが、それでもどこまで聴いても行き止まりがない彼らの音楽、特にブライアンに対する敬意は失ったことはない。本作をもってしても、結局最後に残るのはブライアンが作り出した音楽の素晴らしさである、とはきれいにまとめたくはない。本作を見ると、失われてしまったもの、損なわれてしまったものも目を背けられない。

最後にブライアンが歌う映像が流れる、本作のタイトルにも冠せられている "Love and Mercy" はタイムレスな至高の美しさを湛えている。しかし、この曲に共作者としてユージン・ランディと彼の妻の名前がクレジットされているのは皮肉としかいいようがない(現在再発されたアルバムからは彼らの名前は削除されているはずだが)。その苦さを感じずにはいられない映画である。

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