どういう経緯だったか忘れたが、ロバート・クワインの貴重なインタビューの日本語訳が公開されているのを知り、興味深く読んだ。
ロバート・クワインについてはワタシも文章を書いているが、やはり、ルー・リードとの関係性については気になるところである。
1997年のインタビューだが、ロバート・クワインの音楽的な志向、そして彼がニューヨークパンクにヴェルヴェット・アンダーグラウンドに通じるものを感じたのが分かる。
ニューヨークパンクについては、昨年20周年版増補を加えて復刊されたレッグス・マクニール&ジリアン・マッケイン『プリーズ・キル・ミー』がもっとも優れた証言集で、この本にもクワインの発言は収録されている。
クワインは、ルー・リードとの演奏について聞かれ、以下のように答えている。
音楽的には、4年間の中で最初の1週間半は本当に素晴らしかった。『The Blue Mask』をやったんだ。本当に誇りに思うレコードだよ。リハーサルもオーバーダブもなく、ミスのためのパンチインもなかった。ヴォイドイズとは正反対だ。俺は彼を鼓舞し、またギターを弾くように励ました。彼と一緒に楽しむことはできなかったけど、少なくともそれは音源に残ってるし、それを誇りに思うよ。
ロバート・クワイン ロングインタヴュー(November 1997)|kido hideaki|note
ルー・リードの復活作『The Blue Mask』は、クワインの存在なしにはありえなかった。
クワインのルー・リードの人間評はとても興味深いし、おそらくは正しいのだろう。
どんな個人的な問題があっても我慢してたけど、いまだに残念ではある。でも、彼はいい人じゃない。ある意味では、彼は私を尊敬していた。怒鳴られたら、怒鳴り返すし、俺は率直で、人をバカにしない。彼の問題は、彼に媚びる「イエス」の男性に囲まれるのが好きなくせに、彼は頭がいいからそのこと(媚を)知っていて、そのために彼らを嫌うという問題だな。だから彼はたくさんのハックミュージシャンのうちの一人で終わってしまうということだ。
ロバート・クワイン ロングインタヴュー(November 1997)|kido hideaki|note
ルー・リードのライブ盤の中でもっとも優れていると思う『Live in Italy』をクワインが評価していないのは残念だが、その前段で書かれるリードの非道な仕打ちの悪印象が影響していないわけはない。
こちらは友人だった音楽評論家のレスター・バングスについてロバート・クワインが語るインタビューだが、最初を読むだけでクワインの気難しさ、というかプライベートに踏み込む人間に対する容赦なさがよく伝わる。
インタビュアーは Jim DeRogatis(Wikipedia)で、この人がライアン・アダムスのライブに厳しい評を書いたところ、ライアン・アダムスが彼の留守番電話に怒りのメッセージを残した一件でワタシはその名前を認知したっけ(なお、その留守電はリンクはしないが YouTube で今も聞ける)。
このインタビューで触れられるレスター・バングスの伝記は、以下の本ですね。
レスター・バングスもある意味伝説的な人物だが、映画『あの頃ペニー・レインと』でフィリップ・シーモア・ホフマンが演じたことで知られる。
レスター・バングスもルー・リードとはひと悶着もふた悶着もあったのだが、そのあたりはこのインタビューを読んでも分かるだろう。
『The Blue Mask』をバングスが死ぬ直前に聴き、素晴らしいと思っていた話は知らなかった。
ルー・リードとはこの時点ではまだ仲が良かった。『ザ・ブルー・マスク』をやっている間は、実はしばらく友達だったんだ。それは大きな勘違いだったんだけどさ。
「俺は愛すべき天才なんだ!」友人レスター・バングスについてロバート・クワインが語る|kido hideaki|note
クワインがルー・リードについて語る言葉にはどうしても苦々しさが残る。
だからレスターが亡くなる半年ほど前にルー・リードと友達になっていて、なんとか二人を会わせようとしていたんだけど、レスターはちょっとばかし羨ましがっていた。レスターは俺がルーと突然映画を見に行ったり、食事に行ったりしていることをね。でも俺は本当にバカだったよ。君が聴くことができない『ブル-・マスク』の最初のヴァージョンはもっと良かったんだ。同じレコードなんだけど、彼のヴォーカルが生々しくて、クロングをしようとしていないし、レイプのこととかにふれた「The Gun」は迫力があって、本当にヘビーな猥褻表現を使っているんだ。彼はその多くをきれいに取り払った。当時は俺の疑り深い友人への忠誠心があったから、俺はレスターに聴かせてあげれなかった。けど、やっとルーは感謝祭の時に、レスターにミックスを聴かせてもいいと言ってくれたんだ。彼はヘッドフォンをつけてそこに座っていて、(作品を)気に入ってくれた。ルー・リードがどう思うかと聞いてきたので、俺は「彼は本当に気に入ってくれたけど、歌詞が弱いと言っていた」と答えたんだ。それはおそらく最悪のことを言ったんだと思う。俺のヒーローである彼と一緒にいられることでのぼせていたんだ。彼とは良いレコードを作ったんだけどね。
「俺は愛すべき天才なんだ!」友人レスター・バングスについてロバート・クワインが語る|kido hideaki|note
この『The Blue Mask』の「最初のヴァージョン」が公になる日は来るのだろうか? 来年あたり、40周年記念盤にボーナスとして収録されたりしないものか。
偶然だが、ルー・リードとの友情はレスターの死で終わった。前置きは省略するが、金曜の夜、レスターが死んだとのニュースを聞いた。次の日、俺はショックを受けて朦朧としていたんだ。(中略)それからルー・リードの家に行った。レスターが死んだと話した時、彼は俺を信じなかった。それがルー・リードとの友情の終わりとなったんだ。彼は「お友達は気の毒に」と言いやがった。それから奴はレスターを45分間も攻撃した。彼は自己中心的で、それが友達がいない理由なんだ。もしあなたがイエスマンでなければ、あなたは彼の友人ではない。彼は俺がイエスマンじゃないことを尊重してくれていたが、最終的には俺は去るしかなかった。
「俺は愛すべき天才なんだ!」友人レスター・バングスについてロバート・クワインが語る|kido hideaki|note
これも読んでてなんとも哀しい気持ちになる。クワインはその後でリードのことを asshole とまで罵っているが、その率直さこそがパンクであり、まただからこそイエスマンを好む(多かれ少なかれロックスターはそうなのだろうが)リードには耐えられなかった。
人は死に、音は残る。若き日のリードの演奏をクワインが録音した『The Quine Tapes』、そしてリードとクワインがタッグを組んだ『The Blue Mask』は不滅である。