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ミッキー17

カンヌ国際映画祭パルムドールアカデミー賞作品賞、監督賞を受賞した『パラサイト 半地下の家族』から5年以上ぶりのポン・ジュノの待望の新作である。なのだが、本作については、ニュースになるのは公開の延期ばかりで、ワーナー・ブラザーズは本作について後ろ向きじゃないのかと疑いたくなった。

正直、ひどい駄作だったらどうしようと期待よりも不安が大きかったのだが、かなり面白かった。しかし、どこをどう評価するかを書くと、それはそれでまた分断を生みそうな構図も感じるのが難しいところである。

本作は、事業に失敗して追い詰められたロバート・パティンソン演じる主人公が、借金から逃れるためにろくに契約書も読まなかったせいで、宇宙で使い捨て労働者(エクスペンダブルズ)にされてしまう SF ブラックコメディーである。で、マーク・ラファロ演じるそこでの独裁的な権力者の政治家は、どうしてもドナルド・トランプを連想するわけですね。

そして、本作をトランプが大統領選に負けることを想定して作られているとみて、その点をもって酷評する人が散見される。その批判の文脈に付き合うなら、確か2023年はじめには撮影が終わった作品が、(テクノロジーあってこそ異星に来れたはずなのに)サイエンスのおそろしく雑な扱いなど(どんな毒性があるかも知ったもんじゃないものを早速スープに使おうとするトニ・コレット演じる権力者の妻!)、ここまで今の現実に寄って作られたように見え、権力者の恐ろしさが際立つところをワタシは肯定的に見た。

というか、異星の植民地化という意味で本作の権力者の設定にはイーロン・マスクも取り込まれており、そうした意味で本作には予見性も十分にあったと思う。延期につぐ延期のため、2025年にこれを観ることになったマイナス点がないとは言わない。が、トランプが勝った後でも本作の面白さは台無しになるものではないと評価する。

本作における異星の原住民について、ナウシカを連想した人が多いのかな。ワタシはロバート・シルヴァーバーグの「太陽踊り」を連想したが、本作はそれよりもずっとブラックで残酷なのは間違いないし、原作は未読なのでそれを意識しているかは分からない。

あと、かすかにエリオット・スミスが流れるシーンは良かったな。

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