アクト・オブ・キリング オリジナル全長版 2枚組(本編1枚+特典DVD) 日本語字幕付き [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: バップ
- 発売日: 2014/12/03
- メディア: Blu-ray
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昨年からすごいという話をちらほら聞いていたので、公開初日に観に行った。本作を一日二回しか上映しない KBC シネマはアホだろ。
およそ半世紀前のインドネシアで、共産主義者(と目された者)を対象に100万人規模の大虐殺が行われたのだが、それを実行した「プレマン」と呼ばれる民兵というかやくざ者たちは、その後も現在まで権力側から「英雄」として好意的に遇されてきた。
本作の監督のジョシュア・オッペンハイマーは、現在も大量殺人を得意げに語る彼らに、そのときの様子を映画にしてはどうかともちかけ、彼らに再現させた模様を撮影したドキュメンタリー映画である。
本作にはエグい映像はほとんどなく、その日常描写は意図せずコミカルでなんともピントがずれた感すらあって、正直退屈ですらある(から、ショッキングな映像を期待して本作を観に行くと期待はずれだろう)。
本作の怖さは、本作の主人公たるアンワル・コンゴなどが、にこやかに当時の殺人方法を語り、再現してみせるところである。彼にしろ、なんとなくジャイアンを髣髴とさせるヘルマン・コトにしろ、プレマン(英語の自由人(free man)が語源だそうだ)の人たちは自分たちの過去、そしてそれを映画として再現することに当初何ら疑問をもってないように見える。ヘルマンの女装姿の滑稽さはこの映画の見所に一つだし(?)、アンワルは加害者だけでなく被害者すら演じてみせる。
こういうのをみると、人間はどこまで悪をなせるのだろうと考えてしまう。劇中、撮影現場にいたアンワルの近所の人が、子供時代に中国人の継父をいきなり連れていかれて殺害された過去を語る。その人物は愛想笑いすら浮かべ、「あなた方を責めるわけではない」と何度も繰り返す。そして、その後彼自身を被害者に見立てた撮影を行う場面はかなりくるものがあった。
そして、アンワルがインドネシアの国営テレビの番組に出演する場面、アナウンサーは笑みを浮かべてアンワルの殺人行為を好意的に紹介し、彼も堂々とそれを語るわけだが、今の NHK 会長が NHK でやりたい放送はこんなところではないかと思ってゾッとした。
しかし、この撮影がプレマンたちに徐々に影響を及ぼしていくのである。再現される行為の強烈さにエクスキューズを挟まずにいられなくなる。自分が被害者役を演じる映像を邪気なく孫たちにみせるアンワルも最後にはある地点に到達する。
息を呑んで見守るしかないエンディングを経ても、当然ながらすっきりすることはない。虐殺の過去は消えることはないし、その過去を踏まえたうえでインドネシアという国の現在があるのだ。それは「ANONYMOUS(匿名)」という表記がズラリと並ぶ前代未聞のエンドロールによくあらわれていて、エンドロールそのものが怖いと思ったのは初めての体験だった。