『子連れ狼』、『修羅雪姫』などの漫画の原作者として知られる小池一夫のツイートがタイムラインに流れてきて、なるほどと思うところがあった。
ネットの匿名掲示板等を作家は見ない方がいいとツィートしたら、批判も受けとめての創作ではないかと反論が来たのだが、僕はそう思わない。元来、表現者は感受性が豊かだし、その匿名性を利用し、それを発言する事で何も失う物が無い者達の礼儀無視の罵詈雑言に心乱れない者など何処にもいない。
— 小池一夫 (@koikekazuo) September 3, 2015
このツイートにすら、批判も受けとめて創作できるはずだろと迫るようなリプライがあって、なんだかなと思ったりする(なんでそれを他人に求める?)。
こないだピース又吉にタメ口でインタビューした女性記者の話で思い出した筒井康隆の「インタヴューアー十ヶ条」という文章を書いたのだが、そのとき久しぶりに『笑犬樓よりの眺望』を読み直して、小池一夫のツイートの話に関連するようなことを書いているのも思い出した。
筒井康隆が1991年に書いた「作家にとってのよい文芸評論とは」がそれなのだが、冒頭で評論家の渡部直己が当時雑誌「すばる」でやっていた、前月の文芸誌に掲載された全短編の○△×式の採点リストについて、この連載があるうちは短編を発表しないことにしたという話をした後に以下のように書いている。
読者に読む気を失わせ、作家に書く気をなくさせるものが書評だろうか。そんなものを書く者が文芸評論家と言えるか。
作家の側からこういう発言があると、批評家の側からはきまって「そんな自信のないことでよく作家がつとまるものだ。ちょっとぐらいの批判で書く気をなくすのなら、小説など書くな」という反撥がある。しかし、ちょっとくらいの批判ですぐに女女しく泣きごとを言い、自信を喪失し、おろおろし、ぎゃあぎゃあと喚き立てるのが作家なのである。どんな批判にも動じないという図太い人物の書いた小説がどんなものか、われわれは開き直った老大家の作品を読んで知っている。
「ちょっとぐらいの批判で書く気をなくすのなら、小説など書くな」という反論は、おそらくは覆面座談会事件の後の福島正実の文章を意識したものだろうか。確かにどんな批判にも動じないという図太い人物の書いたものが面白いとは思えないのだが、現在はそれを求められるんだよね。
創作者と批判への対応というテーマでは、藤子・F・不二雄『エスパー魔美』の「くたばれ評論家」における魔美の父親の以下の言葉がよく引き合いに出される。
「公表された作品については、みる人ぜんぶが自由に批評する権利をもつ。どんなにこきおろされても、さまたげることはできないんだ。それがいやなら、だれにもみせないことだ」
「剣鋭介に批評の権利があれば、ぼくにだっておこる権利がある!! あいつはけなした! ぼくはおこった! それでこの一件はおしまい!!」
しかし、かつて「くたばれネット評論家。」という文章に書かれたように、クリエイターたる者すべからくこうあるべし、とは言えないとワタシも思うのだ。
この文章で書かれている話に対応することも小池一夫はツイートしている。
中には有益な意見もあるが、それを見付ける為に、悪意の深淵を覗き込む事はない。作家は、批評を受け入れる事も重要だが、それは、批評する人間としてスジを通したものだけで充分である。「誰に向かって作品を書くのか」創作者はそこだけは絶対にブレてはいけない。(小池一夫)
— 小池一夫 (@koikekazuo) September 3, 2015
筒井康隆や藤子・F・不二雄が『エスパー魔美』で書いているのは、批評家や評論家と呼ばれる人たちとの兼ね合いだが、それですら「おろおろし、ぎゃあぎゃあと喚き立てるのが作家」と言うのがホントのところなのだろう。
小池一夫はネットの匿名掲示板を例に挙げているが、以前であれば、2ちゃんねるを覗かない自制心さえあれば大方なんとかなったとも言えるが、今ではツイッターやってるだけで、頼みもしないのに悪意むき出しのリプライが飛んできたりするのだから、創作者の受難としか言いようがない。
僕は、数年前にネットを使い始めた老人であるが、若かろうが年寄だろうが、デジテルネイティブだろうがニワカだろうが、人のむき出しの悪意に人は慣れることはないよ。またか…と鈍感になったフリをするだけ。これは断言できる。(小池一夫)
— 小池一夫 (@koikekazuo) September 3, 2015
ワタシ自身は創作者というより批評家や評論家のほうに近い立場なのかもしれないが、小林秀雄の文章を読んで感銘を受けてから、できるだけ他人の仕事を格調高く誉めるように心がけている。が、その精神に反したことをまったくやってないとは残念ながら言えないのだが。
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