ご存知の通り、来月発表される第94回アカデミー賞において、濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が作品部門を含む4部門でノミネートされたことが話題となっている。
ワタシ自身は本文執筆時点で『ドライブ・マイ・カー』を観ていないのでコメントできないが、日本映画が作品賞と脚色賞にノミネートされるのは初めてだし、国際長編映画賞の受賞はかなり有力、脚色賞もそこそこ有力らしく、期待が高まるのも当然よねと思う。
今回のアカデミー賞に関する報道を見ていて、そういえばアカデミー賞にまったくノミネートされなかった名作を集めた記事とかあったなと思い出し、調べてみたら以下の3つが出てきた。
- 50 Great Movies That Were Not Nominated For Any Oscars | IndieWire
- 32 Great Movies That Received Zero Oscar Nominations (Photos)
- 47 brilliant movies that somehow never won a single Oscar nomination | The Independent
1は2015年の記事だが古い映画に偏りがちで21世紀に公開された映画では1本しか入っていないのがマイナス、2は2021年の記事でその点バランスが良い、そして3の記事は確か北村紗衣さんの Twitter 経由で知ったと記憶するが、記事公開は(記載と異なり)昨年だったような。
ともかく、この3つすべてに入る作品なら、「アカデミー賞にまったくノミネートされなかった名画」認定して差し支えなかろう。それは以下の13作品になる(公開年順)。
- ハワード・ホークス『赤ちゃん教育』(1938年)(asin:B01BF3H7VK)
- ハワード・ホークス『ヒズ・ガール・フライデー』(1940年)(asin:B004OUEAV2)
- ジョン・フォード『捜索者』(1956年)(asin:B00DJBZMFK)
- スタンリー・キューブリック『突撃』(1958年)(asin:B07X6CBTGC)
- オーソン・ウェルズ『黒い罠』(1958年)(asin:B00LO7YCHK)
- ジャン=リュック・ゴダール『勝手にしやがれ』(1960年)(asin:B07NRFD3XQ)
- ハル・アシュビー『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』(1971年)(asin:B00DACL1T4)
- マーティン・スコセッシ『ミーン・ストリート』(1973年)(asin:B008KWAT6A)
- スタンリー・キューブリック『シャイニング』(1980年)(asin:B003GQSYMG)
- セルジオ・レオーネ『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(1984年)(asin:B079VRXCT7)
- マイケル・マン『ヒート』(1995年)(asin:B08WKH9D7X)
- コーエン兄弟『ビッグ・リボウスキ』(1998年)(asin:B006QJT56O)
- デヴィッド・フィンチャー『ゾディアック』(2007年)(asin:B003GQSYSA)
考えてみれば、非英語圏(特にアジア)の名作映画の多くが当たり前のように「アカデミー賞ノミネートなし」なわけで、そういう作品ばかりだったらどうかと思ったら、こうして条件に合うものを選んでみると、そんな感じではない。非英語圏の作品はゴダールの『勝手にしやがれ』だけで、これはワタシも熱烈に好きだが、20年以上観ていないので、今観るとどうだろう……。
(今となっては)有名監督の作品が並んでいるが、ハワード・ホークスとスタンリー・キューブリックの映画がそれぞれ複数入っていますね。こうしてリストにしてみると、観てない映画の存在が胸にチクチクくる。キューブリックの『突撃』とスコセッシの『ミーン・ストリート』は、いずれも敬愛する監督の作品なのに観てないし。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』なんて10年以上前に DVD 買ったのに未だ観てないんだよな。『ゾディアック』も Netflix のマイリストに入れてるのになかなか手が伸びず……。いかんなぁ。
ついでなので、3つのリストのうち2つに入っている作品も公開年順に並べてみる。
- フリッツ・ラング『M』(1931年)(asin:B007RILDFO)
- メリアン・C・クーパー、アーネスト・B・シュードサック『キング・コング』(1933年)(asin:B07X93Z1VF)
- チャールズ・チャップリン『モダン・タイムス』(1936年)(asin:B01LB9D2WQ)
- エルンスト・ルビッチ『桃色の店』(1940年)(asin:B000LXINSC)
- マイケル・パウエル、エメリック・プレスバーガー『天国への階段』(1946年)(asin:B001SIHXSU)
- 小津安二郎『東京物語』(1953年)(asin:B00C7GP5TG)
- ニコラス・ローグ『美しき冒険旅行』(1971年)(asin:B093HMHRH4)
- ニコラス・ローグ『赤い影』(1973年)(asin:B07T87FFYH)
- ロバート・アルトマン『ロング・グッドバイ』(1973年)(asin:B07GB1KNHP)
- ビル・フォーサイス『ローカル・ヒーロー』(1983年)(asin:B09JY4Z3QT)
- コーエン兄弟『ミラーズ・クロッシング』(1990年)(asin:B00HD05KE6)
- クエンティン・タランティーノ『レザボア・ドッグス』(1992年)(asin:B0038OAORE)
- ハロルド・レイミス『恋はデジャ・ブ』(1993年)(asin:B00NNEJJ2A)
- ウェス・アンダーソン『天才マックスの世界』(1998年)(asin:B09SLDXTZV)
- デヴィッド・O・ラッセル『スリー・キングス』(1999年)(asin:B00439G12K)
- メアリー・ハロン 『アメリカン・サイコ』(2000年)(asin:B08N75DNKB)
- ウォン・カーウァイ『花様年華』(2000年)(asin:B00O8OAIGA)
- ラース・フォン・トリアー『メランコリア』(2011年)(asin:B0083EFRJE)
- クロエ・ジャオ『ザ・ライダー』(2017年)(asin:B09KJPDH7L)
こちらにはニコラス・ローグの作品が2つ入っている。小津の『東京物語』も入っているが、敗戦から10年も経ってない頃に作られた日本の映画がアカデミー賞にノミネートなど現実的な話ではなかったと思うね。
『ミラーズ・クロッシング』(実はコーエン兄弟の映画で一番好き)や『花様年華』などワタシも好きな作品もあるけど、疑問を感じるものもある。『アメリカン・サイコ』は今やカルト映画の定番扱いで、クリスチャン・ベールはノミネートされるべきだったかもしれないが(名刺自慢合戦やヒューイ・ルイスの素晴らしさを熱弁しながらの惨殺場面!)、あの映画エンディングとかまったく記憶に残ってないんだよな……。
リストを作っていて気になったのは、1990年代以降の近作のいくつかが、DVD で新品を入手できないこと(Amazon マーケットプレイスの価格がとんでもないことになってたりする)。クロエ・ジャオ『ザ・ライダー』はもはやディスクが発売されていないが、それを含めどのストリーミング配信サービスでも観れるわけではない。そんな中、長らく品切れ状態だった『天才マックスの世界』の DVD 廉価版が4月に出るのは朗報か。
あと一つのサイトでしかランク入りしてなかったけどワタシも同意する映画となると、IndieWire のリストでは『我輩はカモである』(1933年)、The Wrap のリストでは『ヘレディタリー/継承』(2018年)、Independent のリストでは『ミッドナイトクロス』(1981年)あたりでしょうか。特に『ヘレディタリー/継承』のトニ・コレットがノミネートされなかったのは、個人的に許しがたい。
アカデミー作品賞をとったのに今では相手にされることが少ない映画もいくつもあり、アカデミー賞のノミネートがなんぼのもんじゃいという意見もあろうし、過小評価された映画はいつの世にあると言ってしまえばそれまでだろうが、何か観たい映画を探している人にちょっとよい情報かと思いまとめてみた次第である。