Holy Flying Circus が BBC4 で放映されたという話を Twitter 経由で知り、羨ましく思っていたのだが、何故か日本でも観れてしまったので感想を書いておく。かなり内容に突っ込んで書いているので、これから観る人はまだ読まないほうがよいかもしれない。
これはモンティ・パイソンの『ライフ・オブ・ブライアン』公開後に起きた上映禁止運動を巡る騒動にフォーカスした90分のドラマである。
本作の主人公はマイケル・ペイリンとジョン・クリーズである。『ライフ・オブ・ブライアン』の監督はテリー・ジョーンズで主演はグレアム・チャップマンなのに、マイケルとジョンが主人公なのは、この二人が出演して司教らと対決する、1979年11月に BBC で放映された「Friday Night Saturday Morning」がこの番組のクライマックスだからだ。
『Holy Flying Circus』はまずこの二人の対照的な性格を強調する。本作におけるジョンはむしろ『フォルティ・タワーズ』のバジル・フォルティに近いとジョン役自ら宣言するが、この当時ジョンはコニー・ブースとの離婚もあってとても気難しかったというキャロル・クリーブランドの証言を読んだことがあり、本作の毒舌を止められない(fuckin' 連発です)尊大で偏屈で神経質なジョンの描写もそれほど誇張を感じなかったりする。
一方でマイケルは "the nicest person in the world" と言われる好人物で、有名人で「善人」キャラクターだと、実は裏の顔があって……みたいな話が多いが、マイケルの場合、本当に尋常でなく良い人みたいなのだ。その彼が『ブライアン』の迫害に怒りつつ、ジョンという厄介なヤツを宥めながら立ち向かう苦闘が本作のストーリーである。
主役二人をはじめパイソンズに扮する役者陣が皆、各自の特徴を掴んで似せており、ちょっと感動的だった。例えばテリー・ジョーンズ役の人は見た目はそんなに似てないが、彼の声をすごくうまく再現していて、しかも彼は何故かマイケルの奥さん役(!)も兼ねていて、女装すると途端にテリジョンになるところが良かった(マイケルとのガチなキスシーンもあるぞ)。これについてはテリー・ジョーンズ本人もツイートしていて大笑いしてしまった。
あと一人顔に見覚えのある役者が出ていて、誰だろうと記憶を辿ったら、『SPACED』のブライアン役の人だった。
モンティ・パイソンについてのドラマだからかなりふざけた作りになっていて、KingInK さんはあまりお気に召さなかったメタな演出がワタシ的には良かった。特に字幕の利用や視聴者が BBC に苦情を入れるのは『Flying Circus』本家の定番演出であり、そりゃやるでしょう。そしてその苦情を受ける BBC の重役がコカインを吸い出す描写もそうだし、パイソンズを「Friday Night Saturday Morning」に引っ張りこむ BBC の人間をしょうもないおバカな設定にして、それを BBC で放送するのはさすがだねぇ。
このようにワタシが本作に好意的なのは、前述のキャストの努力もそうだが、作りにパイソンへの愛情を感じるから。こういうのはパイソンズが皆でビールを飲むシーンで(アル中を脱した)グレアム一人だけがオレンジジュースだったりとか細かいところを見てれば分かる。大体例の番組をパイソンズが全員 BBC に揃ってマイケルとジョンを見守っていたなんて事実はないと思うのよ。しかし、本作の脚本家はパイソンズがそういう風に「チーム」であってほしいと思いたかったのではないか。
そう思うと、メタな演出で煙に巻くところもワタシにはパイソン的に思えてくるのだが、観ていてどうしようもなくダメだと思ったのは、映画『エターナル・サンシャイン』からの安易な引用。その前のいきなりマイケルとジョンがライトセーバーを持って戦い出すところはよいのだけど(その後の人形劇の演出もよかった)、『エターナル・サンシャイン』のような近年の映画を1979年が舞台のドラマにそのまま引用するのは気分が壊れるし、怠惰である。最近この手の臆面もない映像の引用が多い気がするのだけど、「オマージュ」という言葉を出せば許されると思ったら大間違いだ。
さて、本作のクライマックスである「Friday Night Saturday Morning」だが、実はここはあまり盛り上がりようがない。何故なら実際の番組を見ると分かるが、二人と『ブライアン』を理解しようともしない司教たちとの対話がまったく噛み合ってなくて、あの好人物のマイケルが本気で怒りの表情を見せているくらい。
だから、マイケルの妄想の中で BBC が用意した水差しで司教の顔面を殴り、その後ろでジョンがシリーウォークをやりだすという展開もよいのだけど、一つ何でこれを入れなかったのかという場面があって、それは例の番組における司教らとの討論の前のインタビュー部分でのマイケルとジョンのやりとり。
JC「なにしろ我々は、プライベートでは全員互いに嫌いあっているから」
20JUL : ザ・ケース・アゲインスト・パイソン: a Johnsen's Journal
MP「んー、ぼくはきみが嫌いじゃないよ」
JC「(えっ、という表情)」
MP「いろいろ言う人もいたかもしれないけど、きみを嫌いになったことなんて一度もないよ(にこにこ)」
普段は皮肉を欠かさないくせに、マイケルの素直な一言にえっという表情になり、照れまくるジョン……なんというやおい! 本作ではこの重要なやり取りのところで場面が切り替わってしまうのだ。これは惜しい。これがあると、番組終了後のジョンとマイケルのやりとりがもっとグッときたと思うのよね。(本作における)バジルジョンのイメージに合わないと思ったのかしら。
実際にはマイケルは、司教らのレベルに落ちることなく耐えてみせることで、そこに皮肉にもキリスト教徒らしさを見出すという結末になるが、『ライフ・オブ・ブライアン』って1995年までイギリスのテレビで放送できなかったんだね。
これは是非、ちゃんと日本語字幕つきで見たいが、日本でのディスク化は難しいだろうなぁ。なお、一番最後に日本人にはちょっとギョッとするジョークがあったりする。
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