2021年上半期、下半期と Netflix で観た映画の感想まとめをやったので、今年の上半期もまとめて書いておきたい(まだ数日残っているが)。
今回、「Netflixなど」となっているのには理由があるが、それについては後述する。
jeen-yuhs カニエ・ウェスト3部作(公式サイト、Netflix)
この計4時間半に及ぶ三部作を「映画」ととらえていいのか正直分からないのだが、まぁ、ドキュメンタリー映画ということで。ワタシは必ずしもカニエ・ウェストの熱狂的なリスナーではないが、『Donda』まで結局ずっと作品は聴いてきたわけで。
三部作ということで、こってり彼のキャリアを追ったものかと思いきや、第一部はラッパーとしてレコード契約を果たすまで、第二部はデビューして『The College Dropout』が成功を収め、グラミー賞受賞まで、そして第三部はそれ以降、という単純にキャリアを三分割したものではまったくない。でも、それがいい。
その理由は、まぁ、観て下さいとしかいいようがないのだけど、ワタシはヒップホップの世界を分かってないからだが、売れっ子トラックメイカーでプロデューサーでも軽くみられるので、とにかくカニエがラッパーとしてのデビューを必死に目指すあたりにそんなものなんだ、と思ったりした。
第一部では彼の母親のドンダさんが地に足のついた言葉で温かくカニエを諭す場面がすごい説得力で、彼女を喪ったカニエの迷走をみるにつけ、彼女に代わって彼にそうした言葉をかけられる人間はいないんだろうなと思ってしまった。
第二部の最後あたりに既にその兆候があるが、第三部にいたって、本作の監督であるクーディと乱気流ライフの色を濃くしていくカニエの間にどんどん距離ができるあたりの描写がなんとも切ないものがある。
第二部あたりまでがとにかく濃密というか、とにかく21世紀のヒップホップ史に残る映像というか、歴史的な面々が当たり前のようにさらっと映り、カニエと軽口を交わしてたりしてるんだよな。すごいよね。
ようこそ映画音響の世界へ(公式サイト、Netflix)
これはコロナ禍のために映画館で観れなかったので、Netflix に入っていると知って喜んで観た。
が、実はワタシはこれを「映画音楽」についての映画だと勘違いしていた。飽くまで「映画音響」の映画なんですね。
まぁ、ためになったのは間違いないのでよしとする。映画における「音」は、Voice、Sound Effects、Music の三つからなるわけだが、その信頼の輪の重要さを再確認。
もっとも近年は役者の台詞が聞き取りづらいというのも言われるが、映画におけるより良い「音」の追求も進んでほしいですな。
パワー・オブ・ザ・ドッグ(Netflix)
オスカー最有力と言われながら、みんな大好き『Coda コーダ あいのうた』にもっていかれちゃった映画である。
しかし、Netflix はなんで『ROMA/ローマ』といい、『アイリッシュマン』といい、本作といい、映画館で観るべき、しかし、あんまり好感度の高くない映画ばかり力を入れるのか。
本作には嫁入り苦労譚なのだが、映画的にはベネディクト・カンバーバッチとコディ・スミット=マクフィーの絡みがすべてというか、キルスティン・ダンストはすっこんでろとしか思えなくて、本作はあまり高く評価できない。のだけど、同性愛の色濃い文芸映画かと思ったら、サイコパスによる殺人の完遂をみせられるだけという肩透かし加減は面白く感じた。
私ときどきレッサーパンダ(公式ページ、ディズニープラス)
事情があって、ひと月だけディズニープラスに加入した。が、『ザ・ビートルズ:Get Back』を観るだけでほとんど時間切れになり、慌てて最新のピクサー映画を観た次第である。
本作もコロナ禍のため映画館に観に行けなかった作品だが、正直まったく面白くなかった。
ピクサーには多大な信頼の蓄積があり、初めてアジア系の主人公というのにも興味があったのに、びっくりするくらいワタシには刺さらなかった。世評は非常に高いので、ワタシの感性がおかしいのだろうが、主人公やその家族にイライラしてしまってどうしようもなかった。
サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)(公式ページ)
これも例によってコロナ禍のため、映画館で観れなかったので、ディズニープラスの契約期間終了間際に慌てて観た。
スティーヴィー・ワンダー、スライ&ザ・ファミリー・ストーン、ニーナ・シモン、B.B.キング、グラディス・ナイト、ステイプル・シンガーズ……と書いていくだけでスゴい面々が参加したハーレム・カルチュラル・フェスティバルの映像が、同時期に開催されたウッドストック・フェスティバルと正反対に半世紀ほぼお蔵入り状態だったというのが信じられない。
参加したアクトそれぞれに立ち位置の違いがあり、スティーヴィー・ワンダーやデヴィッド・ラフィンのようなアイドル期を終えたモータウン組、白人向け視されてたためこうしたフェスに出れたのがとにかく嬉しそうなフィフス・ディメンション、当時はまだグイグイ盛り上げるスライ&ザ・ファミリー・ストーン(しかし、この時点でもうドタキャンもおかしくない存在だったんだな)、そして明確に好戦的で攻撃的なニーナ・シモンが共存しているのが面白い。
この映像をまとめあげたクエストラヴに感謝したいが、よりにもよってアカデミー長編ドキュメンタリー映画賞を受賞というそのクラマックスといえる晴れの舞台を、クリス・ロックに台無しにされたのがひたすら気の毒でならない。
アポロ10号 1/2: 宇宙時代のアドベンチャー(Netflix)
リチャード・リンクレイターの新作ということで、これは観ないわけにはいかない! と意気込んで観たら……彼のアニメーション映画では『スキャナー・ダークリー』以来になるが、あれほどの痛切さはない。
タイトルからアポロ計画が絡むことは予想でき、それにフェリーニの『8 1/2』な捻りがあるんだろうと期待していたら、じきに宇宙の話は後ろに退き、それよりなによりリンクレイターの子供時代の描写が主眼の映画だった。ワタシはこうした昔のアメリカの少年時代を描いた作品とか好物なので、そうした意味で本作は楽しめたのだけど、本当に淡々とし過ぎなんだよな。
『スクール・オブ・ロック』、『バーニー みんなが愛した殺人者』以来のジャック・ブラックの起用だが、声芸を発揮するチャンスもほぼない、ひたすら徹頭徹尾淡々としたナレーションで、言われなければ彼と気づかないくらい。