当ブログは YAMDAS Project の更新履歴ページです。2019年よりはてなブログに移転しました。

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『Wikipedia @ 20』の第10章「ロールプレイングゲームとしてのウィキペディア、もしくは一部の大学人がウィキペディアを好きではない理由」を訳してみた

Technical Knockoutロールプレイングゲームとしてのウィキペディア、もしくは一部の大学人がウィキペディアを好きではない理由を追加。Dariusz Jemielniak の文章の日本語訳です。

yamdas.hatenablog.com

昨年末に紹介した Wikipedia @ 20 だが、せっかく CC BY 4.0 で公開されているので、試しにその第10章を翻訳してみた次第である。

翻訳というもの自体けっこう久しぶりにやったためか、思ったよりも時間がかかってしまった(もう「翻訳者」とは名乗れないか)。誤記誤訳など気づいた方はメールやコメントなりでお知らせください。

wikimediafoundation.org

meta.wikimedia.org

今日この翻訳を公開したのは、まさに今日、2021年1月15日がウィキペディア誕生20周年だからというのもあるが、それだけではない。ワタシが知らないだけで既に話が進んでいるのならいいのだけど、そうでなければこれを機に Wikipedia @ 20 の翻訳プロジェクトをどなたか立ち上げてくれないかという期待もあってのことである。

あいにくワタシにはそうしたプロジェクトを主導する馬力がもう残っていないが、せっかく自由に翻訳を公開できるライセンスなのだから、できればウィキペディアに精通した方が立ち上がってくれないかと思った次第である。そこでこの訳文を好きに使ってくれてかまわない。

そうそう、前回のエントリを書いたときは気づかなかったが、「ネットにしか居場所がないということ(前編後編)」で取り上げたジェイク・オロウィッツ(Jake Orlowitz)も寄稿してるんだね。

さて、少し今回翻訳した文章の周辺情報を書いておく。原著者は Dariusz JemielniakWikipedia)で、彼はポーランドのコズミンスキー大学の教授である。彼は2014年に Common Knowledge?: An Ethnography of WikipediaWikipedia)というウィキペディアをテーマとする本を出している。今回訳した文章を読めば分かることだが、大学人とウィキペディアコミュニティをつなぐ存在と言ってよいだろう。

そして、昨年は The MIT Press Essential Knowledge シリーズの一冊として、Collaborative Society を共著している。この本については公式サイトができているので、詳しい情報はそちらをあたっていただきたい。

さて、なぜ訳文をこのブログではなく、完全 HTML1.0 な本家サイトで公開するのか? 小関悠さんの檄文「2021年だから人類はHTMLを手打ちしろ」に感化されたからである……というのは嘘で、ワタシの過去の仕事など知らない読者も多いだろうから書いておくと、こういう翻訳はすべて本家サイトで公開してきたから、それだけなんです。言っておくけど、完全手書き HTML だぞ。Twitter カードまで手書きだぞ(マジ)。

多くの人、特にMacユーザに読んでほしい「Your Computer Isn't Yours」日本語訳

sneak.berlin

コリィ・ドクトロウのブログ(ニュースレター)Pluralistic の Digital manorialism vs neofeudalism で宣伝されているローカス・マガジンの連載記事 Neofeudalism and the Digital Manor日本語訳)経由で知ったブログ記事である。

恥ずかしい話だが、ワタシはこの記事で書かれている最近のバージョンの macOS のおそるべきユーザ支配について、これが書かれた昨年11月に話題になっていたことを知らなかった。

しかし、このエントリのはてなブックマークを見ても、その内容を考えると数が控えめで、もしかするとワタシのように知らない人も多いのかもと思ったので、ここで紹介しておいたほうがよいと思った次第である。

最近のバージョンの macOS では、君はコンピューターの利用ログを記録されていて、ログデータを送信されることなしには、電源を入れてコンピューターを使うことも、テキストエディターや電子書籍リーダーを起動して書いたり読んだりすることもできない。

Jeffrey Paul: Your Computer Isn't Yours (ja)

Apple Silicon Mac は利用するに際して排他的な選択を迫られる最初のコンピューターだ。すなわち、速くて効率的なマシンを選ぶか、プライバシーを尊重するマシンを選ぶかを決めなければならないのだ( Apple のモバイルデバイスではずっとこの選択を強いられてきた)。

Jeffrey Paul: Your Computer Isn't Yours (ja)

これを読んで、「だから何?」と危機感を持たない人にこそ読んでほしい。誰だよ、Apple はユーザのプライバシーを重視するなんて言ったのは?

他にも Apple が密かに iMessage のエンド・ツー・エンドの暗号化にバックドアを仕込んだ話など読みどころは多いし、ここでの議論が Apple を一部動かしているので、追記部分にも注意が必要だ。

コリィ・ドクトロウは、この記事並びに、ブルース・シュナイアーの「封建的セキュリティ(Feudal Security)」という言葉を援用しながら、プラットフォーマー和製英語)が支配するデジタル時代の封建制と「荘園」について書いているが、これについては Slashdot のストーリーも参考まで。

[追記]:本件について「周回遅れ」「反論はとっくに出ている」みたいなコメントをいただいたが、元々は昨年11月の話題なのだからそれは当たり前の話である。問題はジェフリー・ポールは寄せられた批判にほぼすべて反論していることで、ワタシが知りたいのはその追記部分の妥当性の評価になる。そうした意味で有益なコメントをくれたのは id:muchonov さんだけだった。

このコメントとジェフリー・ポールの追記部分を見比べた上で評価いただきたい。

2020年における最高のブックカバーデザイン選(記事がいっぱい……)

kottke.org

ここでも何度か、その年の最高のブックカバーデザイン(本の装丁ですね)記事を取り上げているが、この kottke.org のエントリで紹介されている記事を見ていったら、New York Times をはじめ、この手の記事って本当にいっぱいあるんですな。

  1. The Best Book Covers of 2020 - The New York Times
  2. Notable Book Covers of 2020 | The Casual Optimist
  3. The 89 Best Book Covers of 2020 ‹ Literary Hub
  4. The best book cover designs of 2020
  5. Help Us Pick the Best Book Cover of 2020 - Electric Literature
  6. The Best Book Covers of 2020 | Book Riot

その数に圧倒されたが、それだけ本の装丁への意識というかお金のかけ方が日本と違うのだろうか。

よって取り上げられている本の総数も相当なもので、それはいちいち追えないので、読者も関心のあるところで日本人の著者の本で取り上げられているものをチョイスしてみる。

まず、上記リストの1と3で選ばれているのが、2020年の全米図書賞(翻訳文学部門)を受賞した柳美里の『Tokyo Ueno Station』(『JR上野駅公園口』)。デザイナーは Lauren Peters-Collaer

Tokyo Ueno Station: A Novel

Tokyo Ueno Station: A Novel

  • 作者:Miri, Yu
  • 発売日: 2020/06/23
  • メディア: ハードカバー

続いて、2と6で選ばれているのが、村田沙耶香の『Earthlings』(『地球星人』)。デザイナーは Luke Bird で、彼は村田沙耶香『Convinience Store Woman』(『コンビニ人間』)も手がけている。

Earthlings: A Novel

Earthlings: A Novel

  • 作者:Murata, Sayaka
  • 発売日: 2020/10/06
  • メディア: ハードカバー

最後に、2と3で選ばれているのが、小山田浩子芥川龍之介賞受賞作『The Hole』(『穴』)。デザイナーは Janet Hansen

The Hole

The Hole

  • 作者:Oyamada, Hiroko
  • 発売日: 2020/10/06
  • メディア: ペーパーバック

こうやって見てみると、TIME 誌が発表した2020年の必読書100選と同じく、すべて女性作家の本なのに気づく。

以前原書を紹介した本の邦訳を紹介(『コンヴァージェンス・カルチャー』、『デザインはどのように世界をつくるのか』、『ハーバード大学のボブ・ディラン講義』)

以前に原書を紹介した本の邦訳が今月末以降に出る話をいくつか知ったので、まとめて紹介しておく。

yamdas.hatenablog.com

これの最後で書いた通り、ちゃんと2020年度中、というか2月はじめに邦訳『コンヴァージェンス・カルチャー』が出る。

なんといっても目を引くのはオードリー・タンが帯で推薦文を書いていること。オードリー・タンは2020年、台湾のデジタル担当閣僚として文字通りひっぱりだこ状態だったわけだが、彼女に推薦してもらえるのは大きいことなのだろう。

副題は「ファンとメディアがつくる参加型文化」だが、何せ原著は15年くらい前に出たものなので、題材として取り上げられている映画が当然ながらそれ以前に作られたものになってしまうのだけど、本書の場合それでよいのかもとも思う。

さて、邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする(2020年版)で紹介したスコット・バークンの『How Design Makes The World』の邦訳が『デザインはどのように世界をつくるのか』として出る。

デザインはどのように世界をつくるのか

デザインはどのように世界をつくるのか

これまでスコット・バークンの本はコンピュータ関係の出版社から邦訳が出ていたが、今回はフィルムアート社なんですな。それだけ広がりのある本と評価されているのだろう。

yamdas.hatenablog.com

あと最後に取り上げる本はちょっと確証がないのだが、2月にヤマハミュージックエンタテインメントホールディングスから出る予定の『ハーバード大学ボブ・ディラン講義』は、↑で紹介した本の邦訳だと思うのだけど、本文執筆時点で萩原健太氏しか著者としてクレジットされてないんだよな。

これが Richard F. Thomas の本の邦訳でなかったらすいません。

[2021年1月29日追記]:やはり Richard F. Thomas の本の邦訳だった。よかった。

『スパマロット』映画化のニュースで思い出す、映画→ミュージカル→ミュージカル映画のコースを辿った名作の数々

deadline.com

ここでも何度も取り上げている『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』のミュージカル化『スパマロット』が映画化とのことである。

トニー賞で3部門受賞したのが2005年なのだから、エリック・アイドルは15年以上これで稼いでいることになるのか。

このように映画→ミュージカル→ミュージカル映画のコースを辿ったコンテンツは今回が初めてではない。ワタシがパッと思いつくだけでも以下の前例がある。

リトル・ショップ・オブ・ホラーズ

B級映画の帝王」ロジャー・コーマンが、初期の傑作『血のバケツ』(asin:B000S5IDVU)のセットを流用して2日間で撮影したという、いかにもこの人らしい逸話が知られるが、歯医者で麻酔なしでの治療を頼むマゾの患者を怪演するジャック・ニコルソンをはじめ、登場人物が変人だらけという奇抜な作品である。

公開当時はヒットしなかったが、次第にカルト的な人気を得るようになり、1982年にオフ・ブロードウェイでミュージカル化されて当たり、近年までリバイバル上演されている。

1986年にリック・モラニス主演で、オリジナルのおよそ1000倍もの予算をかけてミュージカルが映画化されたが、こちらは期待したほどの大ヒットとはならなかった。

プロデューサーズ

メル・ブルックス監督・脚本によるオリジナルが公開されたのが1968年で、メル・ブルックスはこれでアカデミー脚本賞を受賞している。

これが2001年にメル・ブルックス自身の作詞作曲でミュージカル化されて見事大当たりし、トニー賞12部門も受賞した。

そして、ミュージカル版から主役二人が続投し、2005年にミュージカル映画版が作られている。

プロデューサーズ [Blu-ray]

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  • 発売日: 2010/04/16
  • メディア: Blu-ray

ヘアスプレー

「悪趣味の帝王」ジョン・ウォーターズ監督・脚本によるオリジナルが公開されたのが1988年で、これは彼がメジャーで製作した初めての映画だった。

ヘアスプレー [DVD]

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  • 発売日: 2017/12/16
  • メディア: DVD

批評家受けはよかったものの大ヒットにはならなかったが、やはりカルトクラシックとなり、2002年にミュージカル化され、2003年のトニー賞を8部門受賞するなど大ヒットとなった。

その勢いを受けて2007年に製作されたのがミュージカル映画版『ヘアスプレー』で、オリジナルで怪優ディヴァインが演じたエドナ・ターンブラッド役をジョン・トラボルタが特殊メイクで演じたのが話題になったし、メジャーヒットもした。

ヘアスプレー [Blu-ray]

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  • 発売日: 2011/11/25
  • メディア: Blu-ray

8 1/2

オリジナルは言わずと知れたフェデリコ・フェリーニの代表作である。主人公を演じるマルチェロ・マストロヤンニ「人生は祭りだ。ともに生きよう」という台詞、そしてそこからの思いもよらないエンディングは有名ですね。

8 1/2 [Blu-ray]

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  • 発売日: 2013/01/11
  • メディア: Blu-ray

これが1982年に『Nine』としてブロードウェイミュージカル化され(トニー賞5部門受賞)、それが『シカゴ』ロブ・マーシャルが監督、アンソニー・ミンゲラも脚本をてがけ(作業中に死去)、豪華キャストで映画化されたのが『NINE』である。

NINE [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

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  • 発売日: 2019/03/22
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8 1/2』のミュージカル映画化というと、ボブ・フォッシーオール・ザット・ジャズ』(asin:B07JD54JS3)を連想する人もいるだろうし、他にもウディ・アレンの『スターダスト・メモリー』(asin:B0012P6C9U)など様々な作品のインスピレーションとなった名作『8 1/2』の通俗的な翻案はあまり評判が良くなかったが(それでもアカデミー賞に4部門のノミネート)、ワタシは結構楽しんでみた。というか笑った。

他にもこのパターンにあたる作品をご存知の方がいたら教えてください。

コロナ禍での映画製作はタイヘンに違いないが、『スパマロット』映画版も成功してほしいところである。

SPAMALOT (OST)

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  • アーティスト:PREZ & IDLE
  • 発売日: 2005/05/24
  • メディア: CD

[2021年1月17日追記]:なかむらかずやさんから他にもこのパターンがあるのを教えていただいた!

なるほど、1957年公開のフェデリコ・フェリーニの『カビリアの夜』(アカデミー賞外国語賞を受賞し、主演のジュリエッタ・マシーナカンヌ国際映画祭の女優賞を受賞)が1966年にニール・サイモン脚本、ボブ・フォッシー監督でミュージカル化されたのが『スウィート・チャリティ』で(トニー賞を1966年に1部門受賞、1986年のリバイバル上演時に4部門受賞)、それをボブ・フォッシーが1969年にミュージカル映画化したのが『スイート・チャリティー』というわけですな(ボブ・フォッシーにとって、これが初監督作)。

カビリアの夜 [Blu-ray]

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  • 発売日: 2019/08/02
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スイート・チャリティ [DVD]

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  • 発売日: 2012/04/13
  • メディア: DVD

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』への反応 その39

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』だが、反応がある限りその宣伝目的であるこのブログは続くわけである。

www.nejimakiblog.com

ねじまきさんには Kindle 版を購入いただいている。

「Tech系の話題が好きな方は必読の一冊」とのことで、東浩紀さんやケン・リュウピーター・バラカンの本と並んでワタシの本を「2020年に心揺さぶられたKindle電子書籍10選」に入れてくださったのはとてもありがたいことである。

ねじまきブログは、
テック系の話が好きな読者の方、リスナーの方が多い気がするので、
またブログかポッドキャストで振り返ってみたいと思います。

とのことで、また気が向いたら紹介いただけるとありがたいです! そうしたら、もちろんこちらでも取り上げるだろうし(笑)。

昨年末に勢いで電子書籍を買ってしまった人の感想も気長に待ちます(笑)。

それでは2021年もよろしくお願いします。

オープンソースなスマートウォッチPineTimeが登場

年寄りの昔話になるが、20年くらい前はマイナーだったりスペックが貧弱なプラットフォームに Linux を移植した! とか、こんな製品のオープンソース版が公開された! ということ自体がニュースになったし、それを見てワタシもすごいなぁと思ってたものだが、最近ではそんな話も少なくなった感がある。

www.pine64.org

そうした意味で、高品質、低コストなオープンソースのスマートウォッチを謳う PineTime には驚いたわけだが、64ビット対応のシングルボードコンピュータで知られる PINE64 のプロジェクトなのね。

ただ、このスマートウォッチは、同じく PINE64 の PinePhone だけが接続先ではなく、各種スマートフォンタブレット、PC への対応を目指しているとのこと。

スペックのソフトウェアの欄には Any open-source operating systems built on top of numerous RTOSes とあるが、プロジェクトの Wiki を見ると、OS は FreeRTOS ベースの InfiniTime みたい。通信は(BLE 含む)Bluetooth 5.0 対応とな。

ストアを見ると、開発キット版が約25ドル、市販版3個セットが約75ドルで、Amazon で売ってるスマートウォッチの最も安い(そして売れてる)ものが3000円くらいなのを考えると、安価と言えるだろう(まぁ、日本に発送するとなると単なるドル/円換算額では済まないが)。

もちろん現状では気楽に手を出せるものではないが、オープンソース版の存在が市場への参入障壁を下げたり、ビッグプレイヤーにオープンソースの競争相手がいるという緊張感を与える可能性もある。ともあれこういうチャレンジは素直にすごいと思う。

ネタ元は Hacker News

「史上最高の本リスト」をいろんな切り口で知ることができるサイト

Boing Boing 経由で James Wallace Harris の「遂に『戦争と平和』を読み終えた――が、それをお勧めできるか?」を読んでいて、The Greatest Books というサイトを知った。

thegreatestbooks.org

このサイトは、本文執筆時点で129ものブックリストを集計したサイトで、要は「史上最高な本」リストのサイトということですね。そのリストは例えば、米アマゾン選定「一生のうちに読むべき100冊」リスト英アマゾン編集者選定「一生のうちに読むべき100冊」リストGuardian が選ぶ21世紀最高の本リストを含むわけだが、その129ものリストをすべて平等に扱っているわけではないようだ。ともかくこのサイトにおける集計によると、「史上最高の本(フィクション)」上位20作は以下のようになる。

  1. マルセル・プルースト失われた時を求めて』(asin:4087529258asin:B074CHX7X5
  2. ジェイムズ・ジョイスユリシーズ』(asin:4087529215
  3. ミゲル・デ・セルバンテスドン・キホーテ』(asin:4002010589
  4. ガブリエル・ガルシア=マルケス百年の孤独』(asin:4105090119
  5. F・スコット・フィッツジェラルドグレート・ギャツビー』(asin:4124035047asin:B00CM2DABA
  6. ハーマン・メルヴィル白鯨』(asin:4041031958asin:4041031966asin:B075TFDLX6
  7. レフ・トルストイ戦争と平和』(asin:4334754171asin:4334754252asin:4334754325asin:4334754384
  8. ウィリアム・シェイクスピアハムレット』(asin:4480033017asin:B00E5XAZWQ
  9. ホメーロスオデュッセイア』(asin:4003210247asin:4003210255asin:B075SMZJBN
  10. ギュスターヴ・フローベールボヴァリー夫人』(asin:4102085025asin:B017R193GG
  11. ダンテ・アリギエーリ『神曲』(asin:4087529193asin:B074CKFNRF
  12. ウラジーミル・ナボコフロリータ』(asin:4102105026
  13. フョードル・ドストエフスキーカラマーゾフの兄弟』(asin:B075GKZQMYasin:B075TRL2GZ
  14. フョードル・ドストエフスキー罪と罰』(asin:4334751687asin:4334751733asin:4334751849asin:B07W5K2LD8
  15. エミリー・ブロンテ嵐が丘』(asin:410209704Xasin:B00DOT4WFI
  16. J・D・サリンジャーライ麦畑でつかまえて』(asin:4560070512asin:4560090009
  17. ジェイン・オースティン高慢と偏見』(asin:4122065062asin:B079BF6KGF
  18. マーク・トウェインハックルベリー・フィンの冒険』(asin:4327492019asin:4042142060asin:B00KVDARDG
  19. レフ・トルストイアンナ・カレーニナ』(asin:4102060014asin:4102060030asin:B075T5BGK4
  20. ルイス・キャロル不思議の国のアリス』(asin:4042118038asin:B01914HLHK

かつてサマセット・モームが選んだ世界の十大小説では6作が(も?/しか?)リスト入りしてますな。

ジュブナイルとか映画やコミック版でなく、ご本尊をちゃんと読み通したことがあるとなると、ワタシの場合、恥ずかしながら『グレート・ギャツビー』、『カラマーゾフの兄弟』、『罪と罰』だけになっちゃう(Amazon を検索していて、『百年の孤独』を2007年に買ったまま積読なのが判明してしまった。早く手をつけないと死ぬまでに間に合わない)。

このサイトの面白いところは、フィクションとノンフィクション、年代、言語の条件フィルタをかけることができること。

例えば、2000年以降を選択すれば、だいたい21世紀文学最高の本が分かるわけだ。そのトップ10は以下の通り。

  1. イアン・マキューアン贖罪』(asin:4102157255
  2. ゼイディー・スミス『ホワイト・ティース』(asin:4105900234asin:4105900242
  3. ジョナサン・フランゼン『コレクションズ』(asin:4151200649asin:4151200657
  4. ジュノ・ディアズ『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』(asin:4105900897
  5. W・G・ゼーバルトアウステルリッツ』(asin:4560097488asin:B08J2SHRYR
  6. ロベルト・ボラーニョ『2666』(asin:4560092613
  7. コーマック・マッカーシーザ・ロード』(asin:4151200606
  8. マイケル・シェイボン『カヴァリエ&クレイの驚くべき冒険』(asin:4152083794
  9. ジェフリー・ユージェニデスミドルセックス』(asin:4152085541
  10. カズオ・イシグロわたしを離さないで』(asin:4151200517asin:B009DEMBO2

このリストでは『贖罪』と『わたしを離さないで』だけ読んでいることになる。

こういう評価も変わっていくのに注意が必要で、例えば、上記のリストで4位に入っている『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』は、「なぜカニエ・ウェストは人種差別的な小説に惹かれた? 現代アメリカ文学が描く“時代”を気鋭研究者が徹底分析!」で青木耕平氏も語っている理由で、遺憾ながら今後作られるこの手のリストに入らなくなるだろう。

さて、言語のフィルタは日本語も選択可能で、以下がこのサイト集計での日本文学トップ10ということになる。

  1. 紫式部源氏物語』(asin:4309875009asin:B07H7FH3R7asin:B07ZNT2Q1Fasin:B0897H1GJL
  2. 村上春樹ねじまき鳥クロニクル』(asin:4101001413asin:4101001421asin:410100143Xasin:B08N5YFJB1
  3. 三島由紀夫金閣寺』(asin:4101050457asin:B08RYB1MMD
  4. 谷崎潤一郎『蓼喰ふ虫』(asin:4101005079asin:B00DOT55Y0
  5. 谷崎潤一郎細雪』(asin:412200991Xasin:B0767979LM
  6. 夏目漱石『こころ』(asin:4101010137asin:B009IXKPVY
  7. 芥川龍之介『Rashomon and Seventeen Other Stories』(「羅生門」、「藪の中」、「鼻」、「蜘蛛の糸」、「地獄変」、「歯車」などを収録し、村上春樹がイントロダクションを書いている)
  8. 川端康成千羽鶴』(asin:4101001235asin:B00D3WJ4AY
  9. 村上春樹1Q84』(asin:B00871PYUKasin:B08N5W8BK1
  10. 村上春樹ノルウェイの森』(asin:B0047T7QXOasin:B07KVTV42B

うーん……村上春樹強し、というか現役の作家では長らく彼しかまともに日本文学で読まれなかったということだろうか。しかし、谷崎潤一郎では『蓼喰う虫』が一番上なんだ。

ここでは紹介しなかったノンフィクションなど、他の切り口でも楽しめるだろう。

ポリコレの揺り籠がアメリカの大学生を弱くした? 注目のベストセラーの邦訳が(たぶん今年後半に)出る

トランネットのオーディション課題概要を見て、翻訳課題になっている本、どこかで見たことあるような……と記憶を辿ったら、少し前にベンジャミン・クリッツァーの「アメリカの大学でなぜ「ポリコレ」が重視されるようになったか、その「世代」的な理由」で取り上げられ、これを書くために調べなおしたら、2年近く前には翻訳書ときどき洋書で倉田幸信さんも取り上げていた本である。

内容については上でリンクした記事を読んでいただくのがよいし、この本には公式サイトがあるので、パブリックな情報はそちらを見ていただくとして、2018年のベストセラーである。オーディション課題概要によると2021年6月下旬翻訳終了予定になっているが、まぁ、今年の後半以降に刊行されるといいですね。

共著者のジョナサン・ハイトは、『しあわせ仮説』(asin:4788512327)、『社会はなぜ左と右にわかれるのか』(asin:4314011173)の邦訳も出ている社会心理学者ですな。

アメリカにおけるポリティカル・コレクトネスの検証、ベンジャミン・クリッツァーの表現を借りれば、「ただ単に批判して否定するのではなく、社会が進歩した副作用と論じている」本なのは重要なポイントだろう。

新感染半島 ファイナル・ステージ

2021年、最初の劇場での映画鑑賞はこの作品から。果たして今年は何本映画館で観れるのやら……。

『新感染 ファイナル・エクスプレス』が2017年に観た映画の中でも際立って良かったので、続編の本作も楽しみだった。が、あまり評判が良くないようで、事前に期待値を下げて観たのだけど、それくらいでちょうど良い映画だった。

本作は『新感染 ファイナル・エクスプレス』の朝鮮半島に(走る)ゾンビ大量発生という設定を当然ながら継承しているが、前作を傑作たらしめた美点がほぼすべて失われてしまっている。前作のゾンビは明らかに北朝鮮の侵略のメタファーだったが、前作にあったセウォル号沈没事故など韓国社会のトラウマを盛り込んだ批評性も皆無である。

とはいえ、明らかに『マッドマックス』なポストアポカリプス世界となった朝鮮半島を舞台にして、「ゾンビよりも怖いのは人間」というゾンビものの基本を騒々しく描いており、カーチェイスやガンファイトを強調したアクション映画として観れば、その作りには明らかにお金がかかっており、まぁ、楽しめた。

でも、ラストはいくらなんでもご都合主義というか、あの状況から助かるわけないだろうがとしか思えなくて、家族の絆とやらの感動を押し売りされて鼻白むとはこのことである。

The Best Years of Our Lives

「"わたしがおまえたちを滅ぼすとして、それがおまえたちとなんの関係がある?"」
(劉慈欣『三体Ⅱ 黒暗森林』)

はじめに

この文章は、2020 Advent Calendar 2020 の第21日目の記事として書かれています。昨日は june29 さん、明日は pbn broadcast さんです。

2019年のこと

「ベスト・オブ・2020」について書く前に、前置きとしてその前年のことを少しだけ振り返っておきたい。

2019年は仕事を変えた関係で、やたらと東京出張が多かった。その副作用で業務後に人と会う機会を持て、サイゾーの「クロサカタツヤのネオ・ビジネス・マイニング」になぜか登場なんてこともあった。

当然のように、2020年もその延長線上で、海外含めいろいろ行き来するのだろうと思っていたが、まさかこんなことになろうとは。

昨年に会った中で特に印象的だったのが八田真行で、氏のことは以前より人間的な好き嫌いは別としてその仕事に敬意を払ってきたが、その日聞いた彼の発言をひとつとしてここに書けないという意味で、そのナチュラルボーン危険思想ぶりにこの人は本当に恐ろしいと畏敬の念を強くした。

インフルエンザ

2020年に入り、新年を迎えて少しは気を張っていたのが、早々にインフルエンザにかかり、出鼻をくじかれた形である。予防接種は前年秋に受けていたのだが、かかるときはかかるということか。

以前にもかかったことが絶対あるはずだが、医者にインフルエンザと診断されたのはこれが初めてだった。

初めてのものはなんであれ少しウキウキするもので――などと状況を楽しむ余裕はなく、特に熱が39度5分まであがると身動きが取れなくなる。

ただ心底辛かったのは一日程度で、その後は快方に向かった。ワタシが一月前半にインフルエンザにかかったおかげで、その報を機に職場で手指消毒用アルコールやマスクを購入することができた、と後に上司にヘンな感謝をされたりもした。

それから間もなく、アルコールもマスクも簡単に手に入らなくなる事態になろうとは思っていなかったわけで。

不眠症

大学時代まではいささか神経が過敏で(また精神の鋭敏さに対する憧れもあったろう)、寝つきが悪く不眠症に悩まされたものである。

それが就職してからは、酒をかっくらって高いびき、というだらしない有り様に無事落ち着いたのだが、それでも年に一二度は突発的にまったく眠れなくなる日がある。

コロナ禍で部屋にこもる時間が圧倒的に増えるとその不眠症が再発し、以前は年に一二度だったものが週に一二度くらいの頻度になって疲弊させられた。それにともなって酒量も増え、免疫力の低下の自覚もあった。

寝付けないままに悶々と考えることは、「これでは務める会社がどうなるか分かったものじゃない。というか、じきに自分も首切りにあって路頭に迷うのではないか。失業者だらけになれば、何の取り柄もなく若くない人間の再就職は難しかろう。故郷の実家に引きこもり、貯金を取り崩すとして何年持つか。それが尽きた後は――」という具合に陰鬱かつ凡庸なものだった。

ここまで読んで、その愚鈍さに既に引かれているだろうが、さらにもう一つ人間の小ささを白状しておくと、ワタシもいくらか株や投資信託に手を出しており、コロナ禍においてそれらの値が思い切り下がったのも精神的に結構ダメージがあった。

別に資産の大半を突っ込んでいたわけではないが、それでも三桁にはなるわけで、今年のはじめにプラス数十万だった評価損益が、あっさりマイナス数十万になっているのを見て平静でいるのは難しかった。

後になって、先崎学が『うつ病九段』(asin:4167915332)で書いていた「貧困妄想」に近いものを自分も抱えていたと思い当たるのだが、そういえばこの時期必死に将棋についての文章を書きあげている。

note.com

帯状疱疹

4月に入り、頭痛とともに熱が37度台に達したとき、とうとう来るものがきたとも思ったが、一方で少し前から頬の腫れもあった。果たしてどちらだろうと思っていたら、金曜朝に顔じゅうに症状が出ていたので答えが出た(今にして思えば、「両方」という可能性もあったわけだが、そのときは思い至らなかった)。

業務後に近所の皮膚科に出向き、一目で帯状疱疹の診断をいただいて薬を処方してもらったが、その日の夜からこれまでの人生で味わったことのない頭痛を体験することになる。

処方された頭痛薬を飲んでも改善せず、一晩中枕に顔を埋めて文字通り悲鳴をあげた。もうどうにもならないと朝方に生まれて初めて #7119 に電話をして事情を説明し、何か状況を改善する方法はないか教えを乞うた。

救急相談センターには、帯状疱疹は痛むところを温めるとよいので、水を絞ったおしぼりをレンジでチンして頭にあてろという方策を教えてもらった。これをやると確かに頭痛が大分マシになった。が、おしぼりが冷めた後のぶり返しの頭痛が凄まじく、再度おしぼりをレンチンする気力もなく、再び枕に顔を埋めて喉がおかしくなるくらいの絶叫となった。

しまいにはなぜかベッドを抜け出てソファーで気絶するように少しだけ寝て、目が覚めてから皮膚科を再訪し、頭痛薬を上限まで出してもらったが、部屋にあったあずきのチカラ首肩用をレンジでチンして、頭の痛む部位にあてるのが劇的に効果があった。

頭痛と比べると顔面の痛みは大したことがなかったが、それでも頬の腫れが引いてから痕が残った。若い頃であれば随分気に病んだに違いないが、そうでなくても顔にシミやシワが出る歳であり、割とどうでもよかった。

実はコロナ禍における情報共有と自由をテーマに長編技術コラムを書きたいという意欲が久方ぶりに高まり、それに向けて資料を地道に集めていた。文章を書きあげて、2018年秋の「インターネット、プラットフォーマー、政府、ネット原住民」以来の『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』の追加コンテンツにしようという思惑があったのだが、帯状疱疹のために時間をロスしてタイミングを逃したと感じると、やる気が失せてしまったのは残念なことである。

達人出版会高橋征義さんのおかげで、この電子書籍Kindle 版が今夏に出たのは著者としても驚きだった。

コロナ太り

酒量が増えると、それに伴って摂取するツマミの量も増え、それが蟄居生活による慢性的な運動不足と重なると必然的に太るわけだ。少しは室内で運動したり、夕食後に近所を歩く時間を増やしてみたが、コロナ禍前と比べて5キロは太ってしまった。

何しろコロナ禍前ですら、最低でもここから5キロは痩せないと話にならない(それを達成しても身長に対応する標準体重には遠い)と言っていたところに、痩せるどころかさらに5キロ増しである。もともと十分にデブだったのが、目もあてられないデブになり果ててしまった。

これに関しては自業自得としか言いようがない。案の定、過去の定期健診では悪玉コレステロールの値が高いのを除けばなんとか基準内に収まっていたものが、今年は決壊を思わせる数値がいくつも出ている。来年からは、酒量を抑えるのをはじめとして相応の努力が必要になろう。

ハッカー(笑)

2020年の個人的な成果を強いて挙げれば、CEH(Certified Ethical Hacker)の資格を取得したくらいで、最後になってなんとか間に合った形である。

IT 系の資格取得に意義はあるか? という話は未だに時折蒸し返されるが、突き詰めれば「取りたきゃ好きにしたら?」で終わる話で、つまりどちらか選ぶなら「ない」になる。そうでなくてもその方面の資格なら CISSP じゃね? と言われそうだが、この歳になってまさか自分が「ハッカー」、しかも『ハッカーズ大辞典』(asin:475614084X)で定義されるような正統的(?)なプログラマ像より、フードをかぶり暗い部屋でカタカタやってるようなイメージの「ハッカー」寄りの認定を受けたのが皮肉というか、そこはかとなく可笑しくていくらか慰めになった。

来年が今年よりひどくならないと誰が決めた?

2020年ももうすぐ終わりである。第三波による新規感染者数も重傷者数もクライマックスの様相を呈し、医療崩壊が現実のものとなったのもあり、故郷の実家で帰省するために購入していたフライトを先日泣く泣くキャンセルした。早割で買っていたため取消手数料がデカくてショックを受け、貧困妄想が一気にぶり返しそうだった。

それに限らず、とにかく堪えることの多い一年だったし、コロナ禍に対する日本政府の無策(むしろマイナス方向に足を引っ張っているようにすら見える)には苛立たされた人は多いだろう。

しかし、正直こう考えていたところはないだろうか?

「確かに日本の今の有り様はひどい。しかし、アメリカや欧州と比べれば、感染者も死者もはっきり少ない。あれと比べれば、我々はそれなりによくやっているではないか」

下を見て自尊心を保つのは卑しいと言われるかもしれない。でも、その心性がまったくないという人がどれだけいるだろう。正直に書こう。ワタシの場合、そうした欧米との比較で気持ちを保っていたところが確実にあった。

しかし、アメリカと英国で開発されたワクチンが実用化され、それもじきに覆される。

英国の医療調査会社エアフィニティーの予測によれば、ワクチン接種により日本が「社会が日常に戻る時期」は再来年4月で、これはアメリカよりも一年近く遅いばかりか、英国よりも欧州よりもオーストラリアよりも、さらにはラテンアメリカよりも遅い。早い話、先進国でもっとも遅い。

正直、アメリカが2021年4月に「社会が日常に戻る」なんて俄かには信じられないが、アメリカが遅れるかわりに日本が早くなる理屈はなく、大きなタイムラグがあることに変わりはなかろう。英国や欧州やカナダとの半年以上のタイムラグもまたしかり。

ゲームチェンジャーとはこのことである。日本はワクチン開発においても敗けたのだ。

日本よりひどい状況にあると思っていた国が、気がつけば当然のようにコロナ禍から立ち直り、大枠元に戻っているのに、我々は雪の中裸で外に放り出されて寒さに震え続けるような有様で耐え続け、医療崩壊におびえ続け、そこにだめ押しのように感染症対策が実質ノーガードで神風特攻的に東京オリンピックが強行され――という悪夢のような2021年のイメージが容易に想像できて暗い気持ちになる。

どうかこれが現実にならないでほしいと願うばかりである。まぁ、新型コロナウイルスの変異株のおかげでそんな見通しすべてがどっちらけというシナリオだってありうるけどね!

以上がワタシの「ベスト・オブ・2020」である。

最後に

はじめに書いた通り、この文章は 2020 Advent Calendar 2020 の第21日目の記事である。

ワタシはこれまで一度も Advent Calendar というヤツに参加したことがなく、というかこれまで誰からも誘われたことがなく、年末になると密かにいじけていた。なのに、昨年 taizooo さんに 2019 Advent Calendar 2019 にお誘いいただくと、今度は緊張で硬直してしまい、果たして自分に何が書けるだろうと自問しているうちにカレンダーがすべて埋まっていたという体たらく。

ワタシの人生、大方そんな感じだよな、とまたしてもいじけてしまったのだが、今年も懲りることなくロートルにお声をかけてくださった taizooo さんに感謝する。

雑文書き・翻訳者としての yomoyomo は2016年末をもって終わった存在であり、そうでなくても今年あったネット関係での不愉快な話は書きたくないので、本ブログにおいては例外的だが、端的にワタシ自身のことを書かせてもらった。

本日の更新が、本ブログの2020年最後の更新になる。

COBOLのコードは未だに我々の金を握っており、バリバリ現役である

www.wealthsimple.com

この文章は、1969年にトロントの高校を出たばかりの、特に人生の目標もなかったトーマスの話から始まる。彼の父親は大工だったが、あいにく彼は不器用ときた。そこで母親が彼に新奇なものを勧めた。「コンピュータプログラミング……とかどう?」

トーマスはカナダの大きな銀行に入行し、1978年にプログラマーとしてのキャリアをスタートした。彼は常にパズルを解いているようでプログラミングが好きだった。彼はコードを書いては「パンチカード・オペレータ」に渡した。日に二度カードを銀行の巨大な「メインフレーム」コンピュータに食わせるが、そのコードが正しく動いているか分かるには数時間かかった。ヘマをやらかしたら、トーマスはエラー文を凝視して、COBOL のコードを書き直してやりなおしだ。

数年のうちにトーマスは COBOL が得意になり、かけがえのない何千行ものコードを書いた。銀行が支払いを行うのは彼のコードだ。70年代、80年代、90年代とトーマスと同僚のコーダーは数千万行もの COBOL のコードを書いた。彼が特に誇りに思うのは、1日に300万~500万ものトランザクションを処理可能な非常に高速なプログラムである。彼がそのプログラムを最初に書いたのは1988年だった。そして、そのコードは今なお走り続けている。

トーマスは2007年に60歳で退職したが、銀行は彼が書いた、その時点で20年もののシステムに依存していた。実際、彼と同僚の書いたコードは、今なお銀行の業務になくてはならないものだと彼は信じている。というのも、リタイアしたトーマスのもとに銀行から彼のプログラムのことで電話があるのだ。銀行にはトーマスほど COBOL を理解している従業員がもはやいない。今なお銀行の重要なシステムを担うコードを書いた人たちは、トーマス同様皆引退している。一方で、ほこりくさい、50年もののコンピュータ言語を学びたいと思う若いコーダーはいない。

なのでこの大銀行は、今や73歳のトーマスのような人にいまだ頼り、新しい機能や改良を依頼すらしている。COBOL はあなたよりも長生きするだろうかと問われ、トーマスは答える。

「だろうね」

――ああ、こういう文章楽しいねぇ。これを書いているのは、少し前に『Coders(コーダーズ)凄腕ソフトウェア開発者が新しい世界をビルドする』が出たクライブ・トンプソン(Clive Thompson)である。

アメリカの金融機関で行われるトランザクションの80%超が COBOL で動いており、銀行のカードでお金を引き出すときにかかる時間の95%に COBOL が関わっているそうな。正確なところは誰にも分からないが、2400億行もの COBOL のコードが、我々の日々の生活のもっとも重要なところを静かに担っていると推定されるらしい。「アメリカで石油に続いて二番目に価値がある資源は、この2400億行もの COBOL のコードなんです」と語る人もいる。

COBOL が今なおバリバリ現役で、重要な役割を担っていることは分かった。新しいものが尊ばれるようにみえるテック業界の常識を超越した話だが、ここに COBOLパラドックスがある。COBOL があまりにも安定して動いているものだから、何か変えたいと思っても、それをやるのは危険すぎるのだ。しかし、金融機関の顧客が期待するものとの乖離も出てくるわけで――このあたりから COBOL についての文章らしく、ワタシには退屈になって読み通す意欲が急激に失われてしまうのだが(笑)、まぁ、お時間のある方は読んでみてくださいな。

COBOL が死にかけているという噂が業界全体でありました」と COBOL を開発したグレース・ホッパーは1981年に回想している。しかし、幸か不幸か言語の誕生から60年経った今現在も COBOL は世界を回している。

ネタ元は Boing Boing

標準COBOLプログラミング

標準COBOLプログラミング

もうすぐ20歳の誕生日を迎えるウィキペディアとそれを祝う(?)書籍の刊行

yamdas.hatenablog.com

この文章でワタシは、「ウィキペディアは来年の1月15日に20歳の誕生日を迎える」「Wikipedia は非営利では今や世界最大のウェブサイトであり、20年はキリが良いので、来年のはじめにはなんらかのイベントがあるんだろうな」と書いたが、その露払いになりそうな Wikipedia @ 20 という本が MIT Press から出ているのを知った。

Wikipedia @ 20: Stories of an Incomplete Revolution

Wikipedia @ 20: Stories of an Incomplete Revolution

  • 発売日: 2020/10/13
  • メディア: ペーパーバック

「未完の革命の物語」と題されたこの本は、20名あまりの寄稿者がそれぞれにとってのウィキペディアのストーリーを語るものだが、編者を務める(寄稿者でもある)ジョセフ・リーグルは Good Faith Collaboration: The Culture of Wikipedia日本語訳)の著者なので信頼できる。

wikipedia20.pubpub.org

というか書籍の公式サイトにおいて CC BY 4.0 のライセンスのもとで全文公開されているのか。

なお、ワタシは GFC 以降もジョセフ・リーグルの仕事を追ってきたのだが、彼も10年ぶりにウィキペディアに戻ってきた感じか。

wirelesswire.jp

yamdas.hatenablog.com

この本の制作はウィキメディア財団も後援したようで、ウィキペディアの共同創始者であるジミー・ウェールズも「ウィキペディアの20年を扱ったこの優れた洞察のコレクションには、ウィキペディアの貢献者が骨を折って手に入れた英知、学者の奇抜な省察、そしてこれからの20年を方向付けるのに必要なことを含んでいる」と推薦の言葉を寄せている。

さすがにこの本には「ネットにしか居場所がないということ(前編)(後編)」のような文章は含まれていないんだろうな……。

いよいよ現実的な話題となったGAFAの解体を考える上で重要なサリー・ハバード『Monopolies Suck』

jp.techcrunch.com

いわゆる GAFA に代表される、プラットフォームを握るテック大企業を独占禁止法違反に問えという声は年々大きくなる一方だったが、遂に Facebook に対して米連邦取引委員会が分割を要求するところまできた。

この問題についてはワタシも、ティム・ウーの『大企業の呪い:新たな金ぴか時代における独占禁止法』、並びに彼による Facebook が解体されるべき理由の解説を紹介してきたわけだが、結局『The Curse of Bigness』の邦訳出ないみたいやね……。本件については、「Facebook 提訴は競争回復に向けた第一歩」という電子フロンティア財団の見解に同意する。

この話題についての良い副読本としては、コリイ・ドクトロウが独占禁止とテックプラットフォームを専門にするサリー・ハバード(Sally Hubbard)のこの秋出た Monopolies Suck という中学生のような(笑)タイトルの本を紹介していたのを思い出した。

彼女は GoogleAmazon についてこれまでもその市場独占についてメディアからコメントを求められることが多いので、彼女の立ち位置は明らかである。

gigazine.net

www.bbc.com

『Monopolies Suck』に話を戻すと、「大企業があなたの人生を支配する七つのやり口とあなたの人生のコントロールを取り戻す方法」を説くものらしいが、推薦の言葉を寄せる中に前述のコリイ・ドクトロウなど予想のつく名前に交じって、ドン・ヘンリー、そう、あのイーグルスドン・ヘンリーが「創造的なコミュニティは独占化されたアメリカで法外な高値を支払い、何百万人ものアーティストがビックテックの利益を優先するルールの元で苦労して生計を立てている。サリー・ハバードは我々が反撃する方法――そしてそうしなければならない理由――を明確に述べている」と推薦の言葉を寄せているのにちょっと驚いた。

米国人は結局ビッグテックはそれほど悪くないと考えているという記事もあったが、Facebook はじめテック大企業も黙っておらず、目の敵にされまいといろいろゆさぶりをかけるなどして抵抗するのは間違いない。

フレッド・ウィルソンの「解体(Break Up)でなく開放(Open Up)しろ」という意見は確かに納得感があるが、Facebook は解体すべきだとワタシは思います。

「クイーンズ・ギャンビット」を観て将棋ファンとして思ったこと

今年世界的に大ヒットした Netflix「クイーンズ・ギャンビット」だが、少し前にワタシも遅ればせながら完走した。

観る前から評判を聞いていたので、ep1 がまったく面白く感じなくて不安になったが、アニャ・テイラー=ジョイが登場してからは素晴らしい。カラーコーディネートを含む衣装や画作りの意匠がとにかくよくできているのだけど、アニャ・テイラー=ジョイのユニークな顔の造形、たたずまいがそれと相まって魅力的だった。

このドラマにおけるチェスの描写は、将棋愛好家のワタシ的にいくつも面白いポイントがあったので、それを思いつくままに書いておく。なお、ワタシはチェスはルールもほとんど知らないレベル。

封じ手

これは将棋もあるのだけど、チェスはえらく一方的にやるんだなという感想。

昔、将棋雑誌で、チェスの封じ手で「2~9のどれにでも読める文字」を書いた選手がおり失格になったという話を読んだことがあり、逆にその「2~9のどれにでも読める文字」を見たいよと思った覚えがある。

封じ手を図面に矢印でも記す将棋ではそうした問題は起こらない。これは文盲の坂田三吉に恥をかかせてはいけないと考案されたらしいが、誤解の余地を減らす意味でこちらのほうが優れていると思う。

実は、将棋のタイトル戦でも危うい事例が過去あったらしいが、そういえばドラマ「古畑任三郎」の「汚れた王将」も将棋の封じ手が殺人の契機になっている。しかし、それは現実の対局には起こりようがない筋で、確か三谷幸喜もこの回のトリックの不備を認めていたはず。

頭の中のチェス盤

このドラマでは、主人公の主観で天井にチェス盤が映し出される趣向がとられており、それが最終回にぐいっと活きるのだけど、これは「頭の中のチェス盤」のユニークな表現方法である。

この「頭の中の盤」は将棋指しもプロアマ問わず持っているのだけど(天井に映るという人はさすがにいないと思うが)、藤井聡太二冠にはこの「頭の中の将棋盤」が無いらしいという話は、それだけで彼の天才性を確信させるに十分な驚きがある。

記録

チェスってプレイヤーが自らの指し手を自分で紙に記録するんだね。将棋の場合、プロの卵の奨励会員が記録係を務めるので新鮮に感じられた。

このドラマを見ていて、主人公の対戦相手が「負けたよ」とか言うのを見て、その後何か不正をやるんじゃないかと身構えたワタシからすると、これは将棋の世界のほうが性悪説に則っているんだなと思い当たった。

長考

テレビドラマなので仕方ないのだけど、早指し戦でなくてもテキパキ指し手が進み、長考の末に考え抜いた渾身の一手を指すという描写がほぼなかったのは少し物足りなかった。

ただ将棋の世界からすると、チェスは持ち時間がはっきり短いんですね。将棋の名人戦は持ち時間9時間の2日制だし、順位戦は持ち時間6時間である。

ただこれでも短くなったほうで、持ち時間短縮化の流れは将棋の世界でもあるのだけど、今よりも短くするのは将棋のコクが薄くなるようであまり賛成できないというのが個人的な意見である。

助言(共同研究)

注意:以下、最終回の内容について触れます。

ソ連での主人公とボルコフとの決戦のとき、彼女の仲間たちの研究が国際電話で伝えられるが、これはソ連のチェスプレイヤーが強いのはある種の団体戦をやってるからで、一方でアメリカのプレイヤーは個人主義で協力することなど考えないから彼らに勝てない、という物語上の文脈があるのだけど、上記の場面を将棋の世界にあてはめると微妙である。

つまりは、例の将棋ソフト不正使用疑惑騒動と呼ばれる、三浦弘行九段というトップ棋士棋士生命を殺しかけた極めて不愉快な冤罪事件があった後では、たとえ封じ手の後の夜中であっても、決戦の最中に電話で助言というのはかなりマズい。

ただ「クイーンズ・ギャンビット」の名誉のために書いておくと、そうした研究だけで勝てるという描写にはなってないので誤解なきよう。

さて、それはそうと、このドラマのおかげでチェスの人気が高まっているというのは面白い。ネット対戦もできるので、コロナ禍に適した趣味の一つと言える。将棋もあやかりたいところですね。

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