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『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』への反応 その19

この間(おそらく)最終版を公開した『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』だが、以前にも感想をいただいている Spiegel さんが、またブログエントリを書いてくださっている

なるほど、今からこの電子書籍を買われる方は、最新の文章である付録「インターネット、プラットフォーマー、政府、ネット原住民」を最初の読むのがよいのかもしれませんな。自分は書いた側なので読むのもすぐだけど、全50章を乗り越えないと新作が読めないと思うのは窮屈だ。

それにしても、この電子書籍自体、随分と「成長」したような気になってしまう。

国家や市場がインターネットに「情報(力)の搾取手段」あるいは「コンテンツ・デリバリ装置」としての価値しか認めず個人のプライバシーや自由になど鼻くそほどの価値も認めていないのであれば,私達はもはや中央集権システムとしてのインターネットから出ていくしかない。 あっ,これってヒッピーの発想か(笑)

『続・情報共有の未来』は付録から読むのがオススメ — しっぽのさきっちょ | text.Baldanders.info

これは、ちょうど八田真行が「インターネットからスプリンターネットへ」で書いていることに符合するように思う。

一方で私自身は、インターネットが一般大衆のものになった今、細かく管理され、人畜無害で漂白されたものになっていくのは残念だが仕方がないとも思っている。いずれにせよ今後インターネットは、可愛い猫の写真ばかりの安心・安全で無意味なものになっていくのだろう。だとすれば、我々は情報の自由を求めてまたフロンティアを開拓するしかない。

インターネットからスプリンターネットへ(八田真行) - 個人 - Yahoo!ニュース

インターネットから「脱出」する日がワタシにも来るのだろうか……。

スーザン・クロフォードの新刊とアメリカにおける光回線の問題(とGoogle Fiberの失敗)

先月の記事だが、日本でキャッシュレスが浸透しない理由をわざわざアメリカの読者向けに解説するなんて、誰が書いてるんだと思ったらスーザン・クロフォード先生で、そういえば彼女は新刊が出るんじゃなかったかと調べたら、今年はじめにもう出ていた。

Fiber: The Coming Tech Revolution―and Why America Might Miss It

Fiber: The Coming Tech Revolution―and Why America Might Miss It

タイトルになっている Fiber とはまさに光ファイバー回線のことである。副題が「来るべき技術革命――そしてアメリカがそれを逃しかねない理由」というのは、アメリカの大手通信会社に対する批判なんですね。

コリィ・ドクトロウやヨハイ・ベンクラーといったこのブログでもおなじみの人たちが推薦の言葉を寄せている。

彼女の第一作『Captive Audience』が、ネット中立性を擁護し、アメリカの大手通信会社の既得権を厳しく批判する内容であったことを考えると、新刊はその延長上にある本だと分かるのだが、「反応が良い都市と市民のテクノロジー」で取り上げた前作(共著)の『The Responsive City』のような Civic Tech やスマートシティ方面のほうが面白味がありそうなので、そうした意味で少し残念である。

……と最初思ったのだが、光回線の通信速度が OECD 加盟国中、2015年の7位から18年は23位に急転落した日本も、この本の内容は他人事ではないのではないかと思い当たった。

Fiber といえば、Google がそういうサービスやってなかったかと思ったが、もはや撤退戦モードみたい。そのあたりについては、「グーグル・ファイバーは「最高の失敗」である」という記事に詳しい。

ニルス・ロフグレンのソロ新作にルー・リードとの40年前の共作曲が5曲も収録される

ブルース・スプリングスティーンのバックバンドであるEストリートバンドのギタリストとして知られるニルス・ロフグレンだが、彼のソロ新作のタイトルは『Blue With Lou』で、この Lou とはルー・リードのこと。

この二人は1970年代末に共作しており、そのうち3曲はニルス・ロフグレンのアルバム『Nils』、別の3曲はルー・リードのアルバム『The Bells』に収録されている(いずれも1979年リリース)。

今回ニルス・ロフグレンが取り上げたのは、それらに収録されず、今まで未発表だった5曲になるそうな。基本的には、曲:ロフグレン、詞:リードらしい。

本来ならルー・リードの未発表曲が5曲もリリースされるとなれば、ワタシ的にもっと盛り上がってしかるべきだが、40年前ってルー・リードは低迷期にあったという認識があってですね。

しかし、これを機会に数年ぶりに Apple Music で『The Bells』を聴きなおしたところ、昔よりは好きに思えてきた。ただし、それはニルス・ロフグレンとの共作の力というよりは、このアルバムに全面的に参加し、やはり共作もしている、名トランぺッターのドン・チェリーの存在が大きいのだが……。

このアルバムタイトル曲は、ちょっと冗長かなとも思うが。

ともあれ、ニルス・ロフグレンのアルバムが Apple Music 入りしたら聴いてみないといけませんな。

Blue With Lou

Blue With Lou

『ビバリーヒルズ高校白書』と『ツイン・ピークス』と同時代人としてのワタシ

少し前に『ビバリーヒルズ高校白書ビバリーヒルズ青春白書)』のオリジナルキャストでの新番組がアナウンスされ、幸か不幸か、主要キャストを務める『リバーデイル』が成功しているルーク・ペリーは不参加かもと言われ、一方で今年公開されるクエンティン・タランティーノにも出演することでまた彼のキャリアに光が当たると思われたところでの早すぎる死をとても悲しく思う。

ビバリーヒルズ高校白書』については昔書いたことがあるが、アメリカのテレビドラマのシステムを知る意味でもワタシにとって実は大きな存在だった。リアルタイムで最初から見ていたわけではないし、最終シーズンはほぼ見ていないのだけど、よく再放送してくれた NHK には感謝しなきゃいかんのだろう。

昨年、『ツイン・ピークス』の新シリーズを DVD レンタルして観ていてふと思い当たったのだが、『ビバリーヒルズ高校白書』と『ツイン・ピークス』は同じ1990年開始なんだね。

この二つのドラマを並べて批評する人はいないだろう。ワタシにしても、それをするつもりはない。それでも、この二つが同時代の作品であることは動かしようがない事実なのである。さらに言えば、1990年に高校2年生だったワタシは、この二つのドラマの高校生の登場人物と設定上は同年代ということになる。この感覚は伝えるのが難しいのだが、それは忘れてはいけない感覚である。

ルーク・ペリーがそうであるように、実際に演じていた人たちはワタシよりも明らかに年長だったりするのだが、それでもドナ役のトリ・スペリングとデビッド役のブライアン・オースティン・グリーンは、ワタシと同年生まれだったりする。

ビバリーヒルズ高校白書』の登場人物たちは、高校生の分際で教師よりもいい車を乗り回すような金持ちだったりしてワタシなどまったく縁がない生活を送っているのだが、そこらへん不思議なのだが自分とはまったく別と割り切れるようで、ワタシはほとんど抵抗なく楽しんでいた。

ワタシとまったく別の世界を生きるというのでは、『ツイン・ピークス』も別の意味でそうなのだが、実はこちらのオリジナルのドラマを観たのは DVD の再リリース後の数年前だったりする。

高校時代テレビで放映したパイロット版を観てゾクゾクし、その後日本でもブームになったのもあり、大学に入ったらビデオをレンタルしようと思っていたのだが、ワタシにとって大学時代は文字通りの黒歴史というか、頭がおかしくてなぜか4年間どこのレンタル屋の会員にもならなかったのだ。

そうして数年前ようやく観た『ツイン・ピークス』は、よくこんな作品がアメリカで一時的とはいえ大受けし、カルトクラシックになったものだと呆れるほどヘンテコだし、そして面白かったが、やはりもっと早くに観るべきだったと苦くも思った。

そして、昨年観た新シリーズだが、当たり前だが旧作からの登場人物が25年老けていて、とんでもないスローペースなのにやはり呆れさせられた。

なにしろデヴィッド・リンチの作品だし、1話を観た時点でワタシなんぞがちゃんと理解しようとか考えても無駄というのが分かったので、そうした解釈は完全に放棄して、観るものを観るしかなかったので、賢しらな評価とか何も書けない。

個人的には旧シリーズでロクでなしの高校生だったボビー・ブリッグスがすっかり白髪頭になり、このシリーズを観ていてグッと涙がこみ上げるシーンの立役者だったのに、なんか救われるものがあった。これも説明が難しい感覚だが。

何しろ25年ぶりなので、丸太おばさんなど文字通り死の床で仕事を果たすキャストがいる中で、18話すべてを監督し、しかも役者として旧シリーズよりも遥かに出番の多いデヴィッド・リンチが一番元気なんじゃないかと、やはりアンタおかしいよと恐ろしくも思ったものである。

それはそうと、『ビバリーヒルズ青春白書』の新シリーズは……やはり見てしまうのだろうか。

ビバリーヒルズ高校白書 シーズン1<トク選BOX> [DVD]

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運び屋

クリント・イーストウッド『許されざる者』アカデミー賞をとったとき、もちろん作品として素晴らしかったのだけど、これまで映像作家としてちゃんと評価してこなかったイーストウッドの長年を功績を讃えての功労賞な空気があったように思う。

この時点でイーストウッドは還暦過ぎ、後は徐々にフェイドアウトでも不思議でなかったのが、彼の真の快進撃が始まるのはそこからだったというのが恐ろしい話である。還暦過ぎて撮る映画が純粋に良くなっていった人なんて他に知らない。早撮りの名手として言われ、映画からどんどんぜい肉はそぎ落とされ、リアリティ重視で撮影にしろライティングは排され、前作『15時17分、パリ行き』では、実際のテロ事件を題材にするにあたり、その当事者たちに本人役をやらせるというとんでもない領域まで到達してしまった。

イーストウッド『グラン・トリノ』で俳優としての引退を宣言したとき、誰もが永遠には生きられないという当たり前の事実を再確認した。その『グラン・トリノ』は、役者としての彼の落とし前をつける傑作で、ワタシは映画館で後半ずっと泣いていた。

俳優としての引退はその後覆されるのだが、まさかあの『グラン・トリノ』から10年(!)経って、また彼の監督・主演作を観れるとは、なんということだろう。それも90歳の老人が麻薬組織の運転手をやっていたという実際の事件を基にしているという。

一言で説明するなら、本作はイーストウッド『ブレイキング・バッド』と言えるかもしれない。しかし、主人公の愛されキャラが独特の弛緩をもたらす。イーストウッドは老いてからも、「ワシもすっかり歳なんじゃよ。でも、ヒーローやっちゃうし、女もコマすぞ」な映画をいくつも撮っているが、その最新版が見れようとは! これは確かに彼にしか作れない映画だ。

主人公を愛されキャラと書いたが、彼はそれこそ麻薬組織の強面な若造たちをも魅了する。当然女にもモテモテ(笑)だ。しかし、デイリリー(一日しか咲かない花!)の栽培と社交にかまけ、ずっと家族をないがしろにしてきた。当然離婚するし、娘の結婚式まですっぽかし、娘から10年以上口をきいてもらえない。

イーストウッドの映画はまぎれもなくアメリカの映画なのだが、ハリウッドの常識からはみ出る異物感がある。やはりというべきか、演出にははっきりおかしいところがある。例えば、主人公は麻薬組織の人間から携帯電話を渡され、電話が鳴ったらすぐに出ろとしつこく警告される。ならば劇中、一度くらい麻薬組織から電話が入る場面があってよさそうなものだが、電話が鳴ったと思ったらそれは家族からで、おい、そこで家族を組織の人間と間違うくらいの演出がなきゃダメだろ、とワタシなど思うのだが、『アメリカン・スナイパー』で赤ちゃん役に人形をあてがったイーストウッドにとって、そんなフックの必要性など眼中にないのか。

本作では、その『アメリカン・スナイパー』の主役だったブラッドリー・クーパーも、主人公と彼の人生の陰影を際立たせる絡みをやっていて、最後、車中にいるイーストウッドと車のドアを開けて立つクーパーとの会話の場面、逆光でイーストウッドの顔が真っ暗なカットがひたすら尊くて、もうどうにもたまらず泣いてしまった。

こんなことを書くと怒られるだろうが、本作は一種のジジイのファンタジーである。しかも、文句なしの強度と面白さとサスペンスのある映画であり、また書くがイーストウッドにしか作れない作品だ。『グラン・トリノ』が俳優としての彼の落とし前をつける映画だったが、一番大事なのは家族と主人公が悔恨とともに語り、その娘役に実の娘をあてがう本作は、イーストウッドなり一種の懺悔なのかもしれない。そして、それが普遍性のある物語になっている。

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』の(おそらく)最終版を公開

達人出版会において『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』のバージョン1.1.1が公開。サポートページにも反映。

電子書籍版のバージョンアップは久しぶりである。おそらくは、今回の更新が最後、つまりバージョン1.1.1が最終版になると思う。

このブログの読者であっても、この電子書籍がどんな性質のものか知らない人も実は多いのかもしれないので、この場を借りて説明しておく。

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』は、基本的には2013年7月から2016年11月まで WirelessWire News において連載したブログを電子書籍化したものである。それが本編となる第1章~第50章である。もちろん電子書籍化にあたって誤記の訂正や内容の追加修正を行っており、各章の最後には2017年時点でのフォローアップを付記している。これが結構な長さになった章もあるし、読む人が読むと驚く裏話を書いていたりもする。

そして今回のバージョンアップで追加されたのが、「付録A インターネット、プラットフォーマー、政府、ネット原住民」である。これは2018年10月8日に開催された「技術書典5」にて販売した特別版に収録された文章である。

これが本編の50章のどれよりも長かったりする。要は連載終了からおよそ2年ぶりにワタシが書いた、とても気合いが入った技術コラムであり、WirelessWire News 連載終了後の空白を埋めるものになっている。今回電子書籍に収録したのは、基本的にそのときの文章だが、邦訳書が出た本のリンクをそちらに差し替えたり、ほんの少しだけ記述を追加したりしている(達人出版会の高橋さん、無理を言って申し訳ありませんでした)。

そして、本編の EPUB、もしくは PDF ファイルとは別ファイル(縦書き EPUB)で提供されるのが、ボーナストラックの「ザ・グッドバイ・ルック」である。

これは400字詰め原稿用紙150枚を超える文章である。事情があって、電子書籍公開時にはワタシも神経質になっており、この文章の内容にはまったく触れなかったし、「ボーナストラックのエッセイ」とだけ書き、そのタイトルすら書かないようにしていた。

インターミッションを入れるなどして、この文章を「エッセイ」と言い張る素地を作ったのは意図的に行ったことだが、この文章に書いたことでひどい目にあっていることもあり、もう認めてもよいだろう。ワタシが自分自身について書く文章をある時期から公開の場に書かなくなったことを鑑みると非常に稀なものであり、一種の私小説なのを認めることにやぶさかではない。

それでは、電子書籍『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』をどうかよろしくお願いします。

はてなダイアリー終了を機に振り返る、ワタシが書いたはてなダイアリーレペゼンなエントリの数々

はてなダイアリーのサービス終了について近藤正高さん(id:d-sakamata)が書いているのだが、いきなりワタシの名前が出てきて、「私はともかく、まさに綺羅星のごとしである(ここにあがったうち、雨宮まみさんとHagexさんがリスト公開後に亡くなられたことが惜しまれる)」の箇所を読みながら涙が頬を伝った(ワタシの肩書が「ライター・翻訳家」になっていて、ワタシ自身はこう自分を称することはなく、「雑文書き・翻訳者」なのだが、それはまあよい)。

近藤正高さんはワタシが書いたエントリを二つも文中紹介くださっていて、思えばワタシはそのようなはてなダイアリーレペゼン(ほとんど誤用)なエントリをいくつも書いたんだったと思い出した。

せっかくなので、そうしたエントリを一挙に紹介しておく。

えーっと、他にもあったかな? それでもこれだけ書いてたんだ。

しかし、こういうエントリって書くの、ホント大変なんだよね!

こういうのを書くにあたり、何かデータを機械的に収集する仕組みを持たないので、ワタシ自身の観測範囲から得た情報と記憶を頼りにすべて手作業で行う。よって膨大な時間がかかるし、この手のリストを公開すると間違いなく「この人がいない!」という指摘を必ず受ける。それ自体はありがたいのだけど、それに言葉の棘があったりすると、元々疲れているのでどうしても凹みもする。

それならなんでこういうものを書いたのかというと……「はてなには書き手の後押しをするヴィジョンも見識もない」あたりを読んでいただければ分かるでしょうかね。そして、運営がアレでも近藤正高さんが「まさに綺羅星のごとし」と書くほどユーザに恵まれているというのを示したかったのだろう。そして、それらをまとめるエントリを今回書くことが、ワタシなりのはてなダイアリーに対するフェアウェルである。

そんな思い出もやがてはすべて消える。雨の中の涙のように……死ぬ時が来た。

一故人

一故人

初期のフェイスブックの投資家でもあったベンチャーキャピタリストが書く痛烈な反フェイスブック本『Zucked: Waking Up to the Facebook Catastrophe』

大原ケイさんから教えてもらったのだが、Facebook の初期に投資を行っていたベンチャーキャピタリストのロジャー・マクナミー(Roger McNamee)が書いた Facebook 批判本 Zucked が話題である。

Zucked: Waking Up to the Facebook Catastrophe

Zucked: Waking Up to the Facebook Catastrophe

Zucked: Waking Up to the Facebook Catastrophe (English Edition)

Zucked: Waking Up to the Facebook Catastrophe (English Edition)

ロジャー・マクナミーという人は、プロのミュージシャンでもある一風変わった人物だが、ベンチャーキャピタリストとしての実績に疑いはなく、著書の邦訳も一冊ある。

ニューノーマル―リスク社会の勝者の法則

ニューノーマル―リスク社会の勝者の法則

前述の通り、彼は初期 Facebook の投資家であり、内部から知る人物でもある。その彼が Facebook を強く批判するようになったわけだが、Wired の長編ルポ「INSIDE Facebook」シリーズ(連載)においても何度か名前が出てくる。

かなり長くなってしまうが、それを読めばその経緯と彼の重要性が分かるので、以下その部分を引用する。

フェイスブック関係者のうち、最初にプラットフォームの異変に気づいたのは、ロジャー・マクナミーだった。2016年2月のことで、フェイスブックはちょうどトレンディング・トピックス部門のスキャンダルで炎上していた。

マクナミーは初期のフェイスブックに投資を行っていたヴェンチャーキャピタリストで、マーク・ザッカーバーグにメンターとして2つの重要な助言をした。1つは06年、フェイスブックを10億ドル(約1,100億円)で買収したいというヤフーからの提案を断ること。2つめは08年、グーグル幹部だったシェリル・サンドバーグを引き抜いてビジネスモデルを構築することだった。

マクナミーはその後、ザッカーバーグとあまり連絡を取っていなかったが、フェイスブックへの投資は続けていた。そして16年2月、大統領選で民主党候補だったバーニー・サンダースのキャンペーンにまつわるニュースに疑念を抱き、注目し始めた。

「インターネットミーム[編註:インターネット上で拡散される物事]を観察していたら、Facebookのフィードに流れてくる投稿のうち、一見、サンダース陣営の関係者のグループによると思えるようなものがあった。しかし、実際にはおそらく違っていたんだ」

マクナミーはそう振り返る。

「そうした投稿は組織的に拡散されていて、金で雇われたサクラがいるとしか思えなかった。わたしはPCの前で考え込んでしまった。『どう考えてもおかしい。よい兆候じゃないぞ』とね」

第3章:不審な影──連載「INSIDE Facebook」|WIRED.jp

一方、ヴェンチャーキャピタリストのロジャー・マクナミーは、フェイスブックの反応に激怒していた。ザッカーバーグシェリル・サンドバーグ宛に警告の手紙を送ったあと、ザッカーバーグサンドバーグはすぐに返事をよこしたが、そこには表面的なコメントしか書かれていなかったのだ。

しかもそのあとマクナミーは、フェイスブックのパートナーシップ担当副社長のダン・ローズと、無益なメールのやり取りをすることになった。マクナミーによると、そのメッセージは一見、丁寧にみえたが、慇懃無礼なものだったという。

その内容は、こうだ。フェイスブックは、マクナミーが知らないところでよいことをたくさんやっている。そして何よりフェイスブックはプラットフォームを提供しているだけであり、メディア企業ではない──。

「そのメッセージを見て思ったんだ。『おまえら、そんなやり方が通ると思うなよ』とね」と、マクナミーは振り返る。「自分たちがプラットフォームだなんて言い続けていれば、そのうち痛い目に遭うだろう。ユーザーがそんなふうに思ってくれなくなったとき、そうも言っていられなくなるだろうな」

「可愛さ余って憎さ百倍」とはこのことだった。マクナミーの怒りに火がつき、ある「同盟」が結ばれることになった。マクナミーは2017年4月、ある人物とブルームバーグTVで共演して意気投合した。グーグルでデザイン倫理担当だったトリスタン・ハリスである。

第7章:反フェイスブック同盟──連載「INSIDE Facebook」|WIRED.jp

かくして Facebook の批判者の側にまわったマクナミーだが、「可愛さ余って憎さ百倍」レベルにおさまってはいない。新刊を受けての Guardian のインタビューを読んでも、「これは Facebook だけの問題ではなく、巨大テック企業の有害なビジネスモデルという業界全体の問題だ」という認識である。

そうした意味で、Zucked の推薦者にヴィント・サーフやビル・ジョイやマーク・ベニオフといった著名人に加え、『大企業の呪い』という新刊を出したティム・ウーなどが名前を連ねているのは象徴的で、いわゆる GAFA はもっと政府の規制を受けるべきというのが欧米の知識人のコンセンサスというのは知っておくべき空気感だろう。

マクナミーが、Facebook だけの問題ではなく巨大テック企業の有害なビジネスモデルの問題というのは、ショシャナ・ズボフ『監視資本主義』にもつながるだろう。

「弊社はあいさつがない」と嘆く増田におすすめの強力なあいさつの効用

少し前に話題になったはてな匿名ダイアリーだが、「あいさつをした方が良いロジカルな説明が出来ない」と嘆くこの人にお勧めする挨拶の効用を書いた文章を紹介させてもらおう。

その文章は、今は亡き青山正明の名著『危ない薬』にある……と書いてもその意味が分からない人が大半だろうから、『危ない薬』の素晴らしさについては、山形浩生の26年前の書評を勧めておこう。

それでは、その『危ない薬』の218ページから引用する。

 ドラッグやセックス並みに即効性があり、禁断症状やら妙な駆け引きに悩まされることもなく、さらに生涯実践し続けても絶対にやり尽くすことのない超ド級の快楽がある。その究極の快楽とは、良心の刺激である。

 朝、顔を合わせた隣人に「おはようございます」と声をかける。それだけで、ハッシシ1服分ぐらいの快感は容易に得られる。(後略)

どうだろうか。あらゆるドラッグを試した著者が書く「究極の快楽」がここにあるのだ。クソ理屈っぽい理系のエンジニアさんもこれで納得ですよ。

あいさつだけでハッシシ1服分ぐらいの快感は楽勝っすよ!

え、ダメ?

危ない薬

危ない薬

グリーン・ブック

グリーンブック [Blu-ray]

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しばらく仕事が忙しくて映画館に足を運ぶ余裕がなかったのだが、いい加減頭にきたので残業をぶっちぎって、先日アカデミー賞作品賞助演男優賞、そして脚本賞を受賞した本作を観ることにした。

実はそのほぼちょうど一年前、ワタシは前年にアカデミー賞作品賞を受賞した『シェイプ・オブ・ウォーター』を観ている。アカデミー賞発表時は、確かに『シェイプ・オブ・ウォーター』は良い映画だけど、やはり『スリー・ビルボード』がとるべきじゃない? という思いを禁じえなかった。

それに近い構図が本作にもあるように思う。それも昨年より強く。

言っておくが、本作も良くできた映画だ。何より主役の二人がワタシは大好きだし、本作での演技も素晴らしい。特にマハーシャラ・アリは、二度目の助演男優賞に値する。

しかし、対象的な運転手と主人の二人の関わり合いという点でどうしても『ドライビング Miss デイジー』あたりを連想させるし、そりゃスパイク・リーのトラウマを刺激するわなとも思う。

本作を観て連想したのは、ブレイディみかこさんが『ザ・レフト─UK左翼セレブ列伝』で書いていた「下層のアンガーはレイシズムで汚れていることがある」という言葉である。本作の主人公の黒人に対する差別意識に見る、労働者階級と人種意識の結びつき、そしてその意識の変化をぬるいと上から目線でけなすことはできない。

というか、ワタシにとってオールタイムベストのひとつである『メリーに首ったけ』のファレリー兄弟の片割れであるピーター・ファレリーがオスカーをとったこと自体素晴らしいじゃないかと思うよ。ジョナサン・リッチマンをあの傑作でフィーチャーしてくれた人の悪口は、ワタシには思いもつかないのだ。

今村勇輔さんのおかげではてなブログ移行時の欠損を取り戻しつつある

はてなダイアリーからはてなブログに移転した際に、いろいろ不満やら問題を書いた。これでそのすべてではないのだが、その後解決した問題もあり、解決していない問題もあり、新たに発覚した問題もある。

まず解決した問題。

詳細設定において、「記事URL」でダイアリー(はてなダイアリー風のフォーマット)を選択したため、ダイアリーからインポートした過去エントリに関しては、yamdas.hatenablog.com/entry/(日付)/(はてなダイアリーで指定したエントリ名) になっているのだが、新規エントリで「カスタムURL」を選ぶと上記 URL 形式における(日付)が入らない? ダイアリー時代は一日に更新するエントリ内でエントリ名(URL)をユニークにすればよかったのだが、はてなブログではすべてのエントリでユニークにしないといけないのか……ああ、書いてるうちにどんどん不満点が頭をもたげてきた。

遂にはてなダイアリーからはてなブログに移転した - YAMDAS現更新履歴

これについてはモーリさん(id:mohri)から教えていただいたのだが、エントリ名のURLに「/(スラッシュ)」を入れてよいことを利用し、エントリ名に日付(今日であれば「20190224/」)を入れて解決とさせてもらった。

新たに発覚した問題として、定義リスト記法の定義の中にリンクがあると表示がおかしくなる問題に気づいた。これについては、はてなに報告したのだが、その際の自動送信メール以外、結局返信はなかった。なんではてなダイアリーで問題なかったはてな記法が、はてなブログで表示がおかしいのか。記法もブログもお前らの会社が規定してるものだろう。役立たずが。

この問題については、今村勇輔さんから自分が気づいたもの以外にも該当するエントリがいくつもあるのを指摘いただいたのだが、そのツイートでワタシにとっての光明となるエントリを今村勇輔さんが書かれているのを知った。

このエントリにより、上記の問題に加えて、はてなダイアリーのエントリタイトル内にリンクを入れていた場合に、はてなブログに移行するとそのタイトル内リンクの情報が消えてしまう問題に対する対応を行う目途が立った。ありがたいことである。

実はこれについても気づいていて、ざっと30か所ほど手動で対応して済んだつもりになっていたのだが、今村さんのエントリにあった正規表現で検索をかけたら500件以上残っていて、打ちひしがれてしまった。2003年のはてなダイアリー利用開始時から2006年のはじめくらいまでこの書き方を多用していたのだ。

その中でそのまま残しても問題ないものを除外し、今村さんの置換表現を参考にしてこの週末ちょこちょこ修正をかけているのだが、まだゆうに400件以上残っていたりする……。しかも、なにせ10年以上前のリンク情報なので、リンク先が消えていることが多くて気持ちが沈むのだが、できるだけ機械的に処理するよう努めている……が、ただ最終的には手動になってしまうので、この作業を終えるまでにはまだかなり時間がかかりそう。

今村さんのエントリで指摘されている修正点に関して、ワタシに関係しているのは上記2点だけだと思う(多分)。あ、「日ごとのエントリの順番を入れ替える」問題については、もう諦めることに決めていた。

あと、個人的にははてなダイアリーからはてなブログに移ってからもっとも苦痛を感じている、一日に更新するエントリを一つのテキストファイルに記述し、それを一気に更新することができないという問題についても、「はてなブログライター」など解決策がありそうな気配である。が、これを試す余裕が今の自分にないのだけど。

それとは別に、本ブログの過去エントリを見ていて、表示などおかしな点に気づいたら、遠慮なく指摘していただけるとありがたい。ワタシ自身それに気づいていない可能性も高いので。ただ、それに対応できるかは保証できないのだが……。

さて、現在達人出版会のほうで『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』アップデートへの準備作業が行われているはずで、おそらく次回の本ブログ更新はその告知になるだろう。しばし、お待ちいただきたい。

スクラッチからビットコインをプログラムして理解する『Programming Bitcoin』がオライリーから出るぞ

ビットコインブロックチェーン本も既にたくさん出ているが、PythonBitcoin ライブラリのプログラミングを解説する Programming Bitcoin という本が出る。こういう本を出すのは、やはりオライリーだよな。

Programming Bitcoin: Learn How to Program Bitcoin from Scratch

Programming Bitcoin: Learn How to Program Bitcoin from Scratch

Programming Bitcoin: Learn How to Program Bitcoin from Scratch (English Edition)

Programming Bitcoin: Learn How to Program Bitcoin from Scratch (English Edition)

あれ、紙版は来月刊行だけど、Kindle 版はもう出ている?

以前 Go 言語でブロックチェーンを構築しながら学ぶブログを紹介したが、実地のプログラミングでビットコインを学ぶというのは受けると思うね。

ワタシはその界隈に詳しくないので、著者の Jimmy Song という人の評価を知らないのだが、実は既に GitHub にページができており、書籍刊行の暁にはクリエイティブ・コモンズ表示-非営利-改変禁止 4.0 国際ライセンスで書籍全体が公開されるとのこと。

7000円超の洋書を買えないという人は、そちらを見てはいかがか。

ブルース・シュナイアーが「ブロックチェーンと信頼」について語る

ブルース・シュナイアー先生の Blockchain and Trust をどうして WIRED.jp は翻訳しないのかと Spiegel さんが書かれているが、ワタシもそう思う。

一応非公式の翻訳「ブロックチェーンと信頼」があるので、日本語で読みたい方はどうぞ。

『信頼と裏切りの社会』という本を書いたシュナイアーがこの話題についてどう書くのか注目を集めたわけだが、「ブロックチェーンと信頼の両方を分析すると、価値以上のハイプ(誇大宣伝)があることがすぐに分かります」「公共のブロックチェーンは必要ですか? 答えはほぼ確実にノーです。ブロックチェーンはおそらくそれが解決すると思うセキュリティ問題を解決しないでしょう」と手厳しい。

その評価については異論が出るだろうが、プライベート・ブロックチェーンはまったく面白くない、ブロックチェーン技術は多くの場合集中管理されている、といった指摘はその通りだと思いますね。

それはそうと、『ウォートン・スクール ゲーミフィケーション集中講義』(asin:4484131242)の邦訳もあるケビン・ワーバックの新刊は気になる。邦訳出るといいな。

信頼と裏切りの社会

信頼と裏切りの社会

The Blockchain and the New Architecture of Trust (Information Policy)

The Blockchain and the New Architecture of Trust (Information Policy)

The Blockchain and the New Architecture of Trust (Information Policy) (English Edition)

The Blockchain and the New Architecture of Trust (Information Policy) (English Edition)

もっと早くに読んでおけばよかったプログラミング本

プログラミングの本はそれこそ山のように売ってあり、ソフトウェア技術者はそのときの必要性に応じてプログラミング本を買う。

「おすすめのプログラミング本」というのも定番ブログネタではあるが、このエントリで Marty Jacobs が取り上げるのは、日々のコーディングの助けというのではなく、「もっと早くに読んでおけばよかった」と思うプログラミング本のリストである。

言われてみると面白い。Marty Jacobs が挙げる本は以下の通り。

邦訳が出ているものは版が旧くてもそちらをリンクしたが、だいたい半分くらいですな。

恥ずかしながら、ワタシは上のリストのどれも読んだことなかったりする。どれも特定のプログラミング環境に依存しない本質的な内容を含む本みたいだが、値段もかなーりなものが多く、一万円を超える本もいくつも入っている。

あ、なぜか Kindle 版が本文執筆時点で0円の本が一冊あるので、洋書でよければどうぞ。

The Essence of Software Engineering (English Edition)

The Essence of Software Engineering (English Edition)

こういうのって、ドストエフスキーなどの長編小説と同じく、学生時代の若くて体力と時間の両方がないと読めないものなのかもしれない。

これらの本が選ばれた根拠については元エントリを読んでいただくとして、このような「もっと早くに読んでおけばよかったプログラミング本」リストを作ると、その人の価値観が分かって面白そうである。

ネタ元は Slashdot

今年は映画『ライフ・オブ・ブライアン』40周年だし、モンティ・パイソン結成50周年でもある

モンティ・パイソンの映画『ライフ・オブ・ブライアン』が公開40周年ということで、特設サイトが開設されている。

イギリス、アメリカ、オーストラリア、カナダ、ドイツ、スカンジナビアなど計400の映画館で上映される予定だが、今のところ日本は含まれていないようで、残念だけど仕方ないか。

さて、今年は『ライフ・オブ・ブライアン』40周年というだけではなく、モンティ・パイソンが結成し、テレビ番組『Monty Python's Flying Circus(空飛ぶモンティ・パイソン)』が放送を開始して50周年という記念の年でもある。

40周年の時の『モンティ・パイソン アンソロジー Monty Python "Almost The Truth"』が、記念番組が作られるのも最後なんだろうなと思っていたのだが、5年前にまさかの再結成が実現したおかげで(参考:英語が分からなくても(たぶん)楽しめるモンティ・パイソン入門)、50周年記念番組も今頃製作中だったりするのではないか?

そのように今年もモンティ・パイソンの話題はいろいろありそうで楽しみなのだが、実は昨年、モンティ・パイソンの笑いは結構厳しい扱いになっていること、そしてそれに対する懸念を非公開の場に書き殴ったことがある。

非公開の場に書いたのは、当時本ブログが休止状態だったからというのもあるが、それ自体がポリティカル・コレクトネス的に反発を買うことが容易に予想されるためである。

そういう文章を読みたいという需要はあるのだろうか。もしあれば、書き直して本ブログに公開しようかという気持ちはある。

モンティ・パイソン アンソロジー MONTY PYTHON“ ALMOST THE TRUTH” [DVD]

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