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WirelessWire Newsブログ更新(日本でも重視されるべき「公益テクノロジー」とそのための人材)、そしてブルース・シュナイアーの新刊の話

WirelessWire Newsブログに「日本でも重視されるべき「公益テクノロジー」とそのための人材」を公開。

今回は話題的には地味だけど、こういうのもちゃんと書いておくべきだと思った次第である。

「公益テクノロジー」を主題とする世界で唯一の本らしい『Power to the Public: The Promise of Public Interest Technology』だが、やはり邦訳は難しいんだろうなぁ。

さて、今回ブルース・シュナイアー先生の講演動画を取り上げたが、その彼の新刊 A Hacker's Mind が来年2月に刊行予定である。シュナイアー先生のサイトにはまだ情報がないが、出版社のサイトにページができている。

新刊は、ハッカーの「ハッキング」という抜け穴を突く行為を放置したまま人工知能技術が広まると、金融市場は崩壊し、民主主義も弱体化するぞと訴えている。要はワタシが「ブルース・シュナイアーが予言する「AIがハッカーになり人間社会を攻撃する日」」で取り上げた長文の論考が下敷きとなっているとお見受けする。

しかしなぁ、シュナイアー先生の本というと、邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする(2018年版)で取り上げた Click Here to Kill Everybody の邦訳が未だ出てないんだよなぁ。

もう出ないのだろうか? 新刊が出るまでに前著の邦訳が出てほしいところだが。

IoTセキュリティの世界的な現状を掴める報告書が大西洋評議会から出ている

www.atlanticcouncil.org

シンクタンクのアトランティック・カウンシル(大西洋評議会)から、IoT セキュリティの世界的な現状を掴める報告書が出ている。「何十億もの機器におけるセキュリティ」というタイトルにはっとするが、もはや IoT 機器の普及はそこまで来ているわけで、そうなると当然出てくるのはセキュリティの問題である。

この話題については、ワタシも「他人事でないIoTのセキュリティ問題、そして追悼」という文章を書いているが、いよいよ他人事ではなくなっている。「モノのインターネット」からインターネットを守る必要があるところまで来ているし、「モノのインターネット」を「ゴミのインターネット」にしてはいけないのだ。

この報告書では、この分野にセキュリティの課題があり、認証や接続の囲い込みは個人の安全とプライバシー問題にとどまらないより広範な経済や国家安全保障リスクになることを指摘したうえで、米国、英国、オーストラリア、シンガポールの IoT セキュリティの現状と成熟度合いを分析しながら、公共共部門と民間部門の利益のバランスを取りつつ IoT エコシステムのセキュリティを強化する多国間戦略を提案している。

実現不可能な規制や規格の刷新ではなく、最低限許容できるセキュリティ基準を設定し、国際協調と漸進的な改善を呼びかけているところところが地に足がついている。

しかし、現状はいろいろごった煮状態であったり、国の政策が悪影響を及ぼしているところもあり、難しいところだ。

あと、アジアで選ばれているのが日本ではなくシンガポールなんだ、と寂しいところもあるが、シンガポールは2020年にインターネット接続機器の4段階のセキュリティレベルを示すラベリングプログラム Cybersecurity Labelling Schemet(CLS)を開始しており、そうしたところが特徴的で取り上げやすいのか。

何しろ PDF で全50ページ(!)という分量なので、ワタシも全体をしっかり読み通してはいないのだが、スマートホームもヘルスケアのウェアラブルもあれもこれも範疇に含まれる話なので、重要な話題に違いない。

ネタ元は Schneier on Security

キング・クリムゾンの2003年の来日全公演が奇妙な邦題とともにSHM-CD化される

amass.jp

ここでも以前取り上げたドキュメンタリー映画『In the Court of the Crimson King』が早くもディスク化とのこと。ワタシとしては映画館で観たいので日本での公開を期待しているのだが、豪華パッケージのようなので日本盤は出ないものかと Amazon を検索したら、なにか奇妙なタイトルが来月発売予定なのに気づいた。

なんじゃこりゃと思ったら、キング・クリムゾン2003年ジャパン・ツアーSHM-CD完全補完シリーズらしい。日本独自企画盤とのことだが、なんとも奇妙なタイトルが目を惹く。いくつか紹介しておきたい。

「松本ウォームアップとは無礼なり」ってなんだよ。来日公演初日が松本という普段海外バンドがライブをやらない土地なのと、昔よく言われた、ワールドツアーを日本からはじめるも、その来日ツアーは一種のリハーサル状態という海外バンドが結構いたという逸話をひっかけているのだろうな。

「通電テストの日」って電気工事じゃあないんですから……。

「真・電気の日」ってなんなんだよ、とツッコむのももはや空しい。

「私たちの失敗を認めます、謝罪とともに」とのことだが、東京公演最終日だったこの日はとにかくバンドとして演奏の調子が悪かったらしい。そういう日を外すことなくディスク化するところが図太い。

復活の日または怒涛のV字回復」となんだかよく分からないが、これはその前の不調から脱し、かなり出来がよかったライブなのを指している。ロバート・フリップも日記にこの日のライブについて、「今晩のショウは強力だった」と書いていたらしい。

で、実はこの2003年4月19日のメルパルクホールでの福岡公演、ワタシ観ているんですね。自分が観たライブが実はそんな怒涛のV字回復だったとは知らなかったが、二度目のアンコールで2曲やったのはこのときの来日公演でこの日だけだったらしく、またそのときステージ上で決まった感じだったので、メンバーの調子も気分も良かったライブなのがワタシにも察せられた。

あのときのライブを思い出す上でもこれだけは買っておこうと予約させてもらった次第である。

堀越英美さんの教育的な翻訳仕事は今年も健在にして快調であった

yamdas.hatenablog.com

およそ一年前に堀越英美さんの仕事を讃えているが、彼女が訳したアヌシェイ・フセイン『「女の痛み」はなぜ無視されるのか?』が出たばかりなのね。

晶文社の note で日本版まえがきが公開されているが、いきなり石川優実氏の名前が出てきて驚いた。キャロライン・クリアド=ペレス『存在しない女たち』とも共通するところがありそうだが、本書は医療分野という命にかかわるところでの「女の痛み」の軽視(プラス人種差別)が主眼なのが切実である。

そして、堀越英美さんは今年既にもう一冊アンナ・ラッセル『だから私はここにいる』も訳しているのに今さら気づいた。

こちらはマリー・キュリーヴァージニア・ウルフ、ルース・ベイダー・ギンズバーグアーシュラ・K・ル=グウィン、ミシェル・オバマなど新旧の世界的有名人を含む54人の女性たちのスピーチのアンソロジーである。

つまり、堀越さんは昨年に続いて今年も2冊訳書を出したことになる。しかも、昨年同様、訳した本はいずれも高度な教育性を持つ。

さらにいえば、翻訳だけでなく『エモい古語辞典』も今年出しており、そして毎月楽しく読ませてもらっている「ぼんやり者のケア・カルチャー入門」も連載中なのだから、何気に大変な仕事量である。

野中モモさんもそうだが、しっかりしたポリシーを感じる仕事をされている人には尊さを感じる。1973年組の鑑だね。

ゲノム編集技術でノーベル化学賞を受賞したジェニファー・ダウドナのウォルター・アイザックソンによる伝記『コード・ブレーカー 生命科学革命と人類の未来』が来月出るぞ

邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする(2021年版)で紹介した、2020年のノーベル化学賞受賞者ジェニファー・ダウドナの伝記本だが、『コード・ブレーカー 生命科学革命と人類の未来』()が来月出るのを知った。

ジェニファー・ダウドナはゲノム編集技術 CRISPR の開発で知られるわけだが、新型コロナウイルスの診断への応用も言われた時期に彼女の伝記を世に出したウォルター・アイザックソンの引きの強さに感嘆したものである。即座に邦訳が出ればよかったのだろうが、そんな都合よくはいかず、なんとか今年中に邦訳が出た形になる。

「「IT革命」を超える「生命科学革命」の全貌」という本書の宣伝文句も凄いが、これを読んで科学者を目指す女性もいるのではないか。

そうした意味で、ジェニファー・ダウドナがノーベル化学賞受賞後にナショナル ジオグラフィックのインタビューでの発言は示唆に富むものがある。

――早速質問を始めさせてください。ご自身をフェミニストだとお考えですか?

「良い質問ですね。いうなれば、私は駆け出しのフェミニストです。理由を説明しましょう。キャリアの最初のうち、私は『女性科学者』として振る舞うことをできる限り避けていました。性別に関係なく1人の科学者として、仕事熱心な研究者として認められたいと願っていましたし、性別に基づくいかなる利益も不利益も受けたくはなかったからです」

ノーベル化学賞のダウドナ氏 自身の強みは執着心|NIKKEI STYLE

「少なくとも40代を通して、私はそう考えていました。しかしここ10年ほど自分をよく観察し、これが一種の偏見であることに気がつきました。意図的ではなかったにせよ、私は女性に偏見を持っていたのです」

「以来、私は柔軟な心で女性を理解することの大切さを学んでいます。女性が直面する課題や、国内外のメディアにおける女性の取り上げられ方、文化による女性像の違い、その一例である職業的役割の違いなど、多くのことを知りました。こうした課題については、今後も議論を続けていく必要があります。母親になりたい女性も、働きたい女性も、それを両立させたい女性も、すべての女性が安心して社会貢献できる仕組みを作ることが重要でしょう」

ノーベル化学賞のダウドナ氏 自身の強みは執着心|NIKKEI STYLE

そういえば、この本が実写ドラマ化される話はその後どうなったのだろう。

中傷投稿を受けて株式会社はてなに発信者情報開示請求したがシカトされている話(追記あり、解決済)

https://anond.hatelabo.jp/20220731211220anond.hatelabo.jp

「ある「パソコンの大先生」の死」に寄せられたありがたいコメントの数々は一通り紹介させてもらったつもりだったが、元文章の公開から数日後にはてな匿名ダイアリーに書かれたこの文章のことは、つい最近まで気づかなかった。

反応のひとつとして取り上げなかったのは申し訳ないことであり、自分を戒めるためにウェブ魚拓をとらせてもらった。

強いて言えば「低学歴」で「犯罪者」という2点だけだろうか?
それ以外は特にダメ出しはないけど、その2つは一生治せないと思うと不憫ではある。

強いて言えば2点だけ

個人的に、自分が属する理工系に関しては(他の分野は知りません)、日本の大学であれ最低修士でないと学歴とか言えないよなと以前から思っており、そうした意味で、大学を学卒でそのまま就職した自分が「低学歴」呼ばわりされることには特に文句はない。

ただ、元文章「ある「パソコンの大先生」の死」に犯罪と認定される行為の記載はなく、またワタシには(少なくとも本文執筆時点まで)過去に懲役、禁錮交通違反以外の罰金の刑罰(または執行猶予)を受けた経歴、いわゆる「前科」もないので、「犯罪者」という記述は端的に中傷であり、名誉権を侵害するものと考える。

最初、これを書いた人はワタシを誰かと取り違えているのかとも思ったが、実際はそんな大層な話ではなく、ワタシに対して以前から憎悪を抱いている人が書き捨てたものなのだろう。

自分がいろんな人に嫌われていると再確認できるのは、図に乗るのを戒めるのにはよいのだけど、「人に悪意を持たれるということは、その理由のいかんにかかわらず、それだけで己には不快なのだから、しかたがない(芥川龍之介「戯作三昧」)」と嘆息するばかりである。

ワタシとしては謝罪広告など名誉回復措置の要請をお願いしたいし、改正プロバイダー責任制限法の施行を前にどの程度の記述なら開示が認められるか後学のために知りたいのもあり、9月25日に株式会社はてなのカスタマーサポートのメールアドレス(cs@hatena.ne.jp)に、発信者情報開示を請求するメールを送信した。

それから本文執筆時点まで一週間経つのだが、株式会社はてなから何の返信もない。これはまったく予想外の応対で、かなり驚いてしまった。請求を認めるかはともかく、普通「請求を受け付けました。これから処理を開始します」メール一本くらい返さないか?

このまま放置されたままとなり、たまたまくだんの匿名ダイアリーを見かけた人が、yomoyomo ってヤツは犯罪者らしいと鵜呑みにしてそれを他者に伝えたりして、いつの間にかそれが定評になるのも困るので、本件を公表させてもらった次第である。

[2022年10月03日追記]:本エントリ公開後、はてなサポート窓口法務関連対応チームよりメールがあり、当方からの請求メールが届いていないとのことである。当方のメーラーでは当該メールは送信済となっており、にわかには信じがたいが、それを株式会社はてなと争っても意味がないので、再度請求を行った。

[2022年10月06日追記]:本日、はてなサポート窓口法務関連対応チームより発信者情報が開示された。またそれに先立ち、はてな匿名ダイアリーの元投稿者より謝罪のメールをいただいている。その内容を鑑み、また問題の投稿が既に削除されているのを考慮して、謝罪を受け入れ、状況に変化がない限りにおいて賠償請求の手続きを行わない旨を元投稿者には回答した。

「マージ」を成功させたイーサリアムの創設者ヴィタリック・ブテリンが初の著書『Proof of Stake』を出していた

www.wired.com

Ethereum の「Proof-of-Work(PoW)」から「Proof-of-Stake(PoS)」ブロックチェーンへの移行、通称「Merge(マージ)」は先月無事完了した。

この影響でGPUを用いた仮想通貨マイニングが儲からなくなったという報道もあるが、批判が強かった消費電力の削減になれば素晴らしいに違いない。

マージの完了を受けてイーサリアムの創設者ヴィタリック・ブテリンが Wired のインタビューを受けているが、その中で彼が初めての著書 Proof of Stake を出していたのを知った。副題を見ても、彼のここまでの活動の集大成というか読み物としてのイーサリアム本の決定版になるのではないだろうか。

しかし、自主出版ならともかく、Proof of Stake をズバリ書名に冠した本を大手出版社から出したのはすごい度胸だ。当然、ヴィタリック・ブテリンはマージに自信があっただろうが、PoS への移行が大失敗に終わり、その直後の刊行になっていた可能性も一応はあったわけで。

著者のヴィタリック・ブテリンと名前を連ねる編者の Nathan Schneider の名前には見覚えがあったので自分のブログを検索したら、「【邦訳期待】(Wiredの)BackChannelチームが選出した2017年最高のテック系書籍11選」でこの人がやはり編者を務めた Ours to Hack and to Own を取り上げていた。うん、この人が編者なら、しっかりした内容の本になっているのが期待できる。

『Proof of Stake』の推薦者を見ると、「バーチャルリアリティの父」にして、アンチソーシャルメディア本も出しているジャロン・ラニアーが、この本並びにヴィタリック・ブテリンを讃えているのが目を惹いた。イーサリアムのことは好意的に見ているのか。

今頃すごい勢いでこの本の邦訳が進んでいるのではないかと推測する。

今も開発が継続しているオープンソースのWikiソフトウェアは何があるか

少し前に仕事場のローカルに立てている、今や主力でなくなったウェブサーバに久しぶりにアクセスしたら、WikiPukiWiki なのに懐かしくなってこれまた久しぶりに公式サイトを見てみた。すると、今年バージョン1.5.4がリリースされており、開発は継続しているのに少し感動した。

かつてはそれこそ雨後の筍のごとく開発されていた Wiki ソフトウェア(エンジン、クローン)だが、Wiki が広義の開発環境の一つに統合されているのもあり、単体のソフトウェアとして今も開発が続いているところはだいぶ少なくなった印象がある。

果たして今も開発が継続しているオープンソースWiki ソフトウェアに何があるか、ざっと調べてみた。

具体的には、WikipediaComparison of wiki software に名前があるもので(それくらいの知名度があり)、オープンソース、なおかつ安定最新版が2022年中にリリースされたものである。

これは少し厳しい基準かもしれないが、もう今年も10月だしねぇ(早い……)。Wikipedia の情報が古いところもあり、だいたい以下の感じになる。

ソフトウェア名 最新版リリース日 ライセンス 言語
BlueSpice MediaWiki 2022-01-20 GPLv3 PHP
BookStack 2022-09-20 MIT PHP
DokuWiki 2022-07-31 GPLv2 PHP
Foswiki 2022-03-28 GPLv2 Perl
MediaWiki 2022-06-30 GPLv2 PHP
PhpWiki 2022-01-24 GPL PHP
PmWiki 2022-09-25 GPL PHP
PukiWiki 2022-03-30 GPLv2 PHP
Tiki Wiki CMS Groupware 2022-03-02 LGPLv2.1 PHP
Wiki.js 2022-05-23 AGPLv3 JavaScript
XWiki 2022-08-29 LGPL Java

というわけで、PukiWiki を含めて10個程度になるが、これを少ないとみるか、結構残っているとみるか。

この中で世界的にもっとも利用者が多いのは、Wikipedia でも利用されている MediaWiki に違いないが、それを除けば日本ではやはり PukiWiki だろう。この中で新興勢力と言えるのは、ワタシも2年前にブログで取り上げた Wiki.js ですかね。

プログラミング言語では、ウェブアプリなので PHP が圧倒的に優勢なのは予想通りだが、Python で書かれたものが皆無なのは意外だった。

そういえば今から20年前(!)、『Wiki Way コラボレーションツールWiki』刊行を受けて、ワタシは日本発の wiki クローンリスト日本発の wiki クローンリスト2を書いているが、そこで取り上げた中で今も開発が継続しているのは、PukiWiki を除けば WiLiKiGitHub)だけのようだ。

NPRの名物企画「Tiny Desk Concerts」が1000回を迎えていた

旧聞に属するが、アメリカの公共放送(正確には公共放送用の番組制作を行う)NPR の名物企画といえるライブシリーズ Tiny Desk Concerts が1000回を迎えたことを祝う動画を公開している。

2008年に始まった、NPR のオフィスの一角を使ったライブシリーズだが、押しも押されぬメジャーどころから新人までとても幅広い多彩な顔ぶれのライブが見られる。

音楽好きな人それぞれに好きな回があると思うが、ワタシは変化球というか反則かもしれないが、パンデミックにより Tiny Desk (Home) Concert だった時期のデュア・リパを挙げたい。

なぜかというと、実はワタシ、これを観て一気に彼女のファンになったんだよね。

切り裂きジャックに殺された5人の女性の人生をたどる『切り裂きジャックに殺されたのは誰か』とその著者の次作『悪い女たち』

「邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする(2021年版)」で最後に紹介したのが、切り裂きジャックに殺された5人の女性の人生にスポットライトを当てた『The Five』だった。正直、邦訳は難しいかと思っていたが、『切り裂きジャックに殺されたのは誰か』の邦題で先月青土社から出ていたのを知る。

前にも書いたが、ワタシも切り裂きジャックの被害者は全員娼婦という話をずっと鵜呑みにしていたくらいで、130年以上ものあいだまったく顧みられなかった被害者の5人の女性たちの人生に光を当てる本であり、「鎮魂と告発のノンフィクション」という文句が熱い。

原著者のハリー・ルーベンホールドの次作は、彼女の公式サイトにはまだ情報はないが、彼女が手掛けたポッドキャストと同じ名前を冠した本になりそう。このパターン最近多いね。

Amazon のページには「Coming in summer 2022」とあるが、実際には来年春の刊行になりそう。『The Five』と同じくこれまで顧みられなかった女性の人生を取り上げる本になりそうで、『Bad Women』というズバリな書名に著者の強い意志を感じる。

WirelessWire Newsブログ更新(メディアとしてのメタバースのメッセージを(ニコラス・カーが底意地悪く)読み解く)

WirelessWire Newsブログに「メディアとしてのメタバースのメッセージを(ニコラス・カーが底意地悪く)読み解く」を公開。

前回ほどではないが、今回も随分と長くなってしまった。

メタバースといっても Meta だけがプレイヤーではないのは承知しているし、「メタバースの地政学」「メタバース時代の人間の価値」など掘ってみたい論点はいくつもあるが、とてもではないが網羅はできない。

メタバースについて書いてるのにこの話がないのはおかしい!」とお思いの方は、ぜひご自身で書いてください。

今回はニコラス・カーの文章を取り上げたが、彼の新刊の話を聞かない。『ネット・バカ』、『オートメーション・バカ』『ウェブに夢見るバカ』、に続いて『メタバース・バカ』、あるいは『AIバカ』といった本を期待してしまうが、もしかするともうリタイアモードなのかもしれない。

ランドール・マンローが『ホワット・イフ?』続編の新刊をギークらしい方法で宣伝する

news.slashdot.org

ランドール・マンロー、あるいは xkcd のほうが通りがよいかもしれないが、ともかく彼の『ホワット・イフ?』の続編 What if? 2 が今月刊行されている。

新刊が出ると、著者はその宣伝のためのツアーを行うものだが、ランドール・マンローはそれ以外にもポッドキャストに出たり、アニメ動画を作ったり、新刊にまつわるもろもろをネタにしたマンガを描いたり、新たに寄せられた科学に関する質問に答えたり……って、うーん、それくらい普通のプロモーション活動に思えるんだけどなぁ。

ともかくランドール・マンローの科学本なんだから面白いに違いないし、この新刊も前作同様早川書房から邦訳が素早く出るんだろうな。そうそう、彼の『ハウ・トゥー』も今年文庫化されていたんだった。

2022年は「イーロン・マスク本」の年だった

タイトルで勝手に2022年を総括してしまったが、実は今年はたくさんの「イーロン・マスク本」が出ているのだ。その中にイーロン・マスク自身が書いたものは一つもなく、他の人がイーロン・マスクにかこつけて書いた(あるいは編集した)本ばかりなのである。

電子書籍オンリーのものを除いても、2022年には以下の5冊の「イーロン・マスク本」が出た(出る)。

まずは IBC パブリッシングの英語学習上達用のラダーシリーズの一冊だが、つまりはもはや彼はこうしたシリーズに入る「現代の偉人」の一人ということなのだろう。

続いて『イーロン・マスクの面接試験』だが、これは別に Tesla の入社試験の話がメインではないのにちょっとひどいのではないだろうか。著者の旧作『ビル・ゲイツの面接試験』(asin:4791760468)にひっかけた邦題だが、『GAFAの面接試験』だとパンチが弱いものだから人名をあてたかったのだろう。そして、その人名が今はイーロン・マスクなんでしょう。

思えば、かつてはスティーブ・ジョブズの名前を書名に冠したビジネス本が多く出ていた。そのジョブズが亡くなって今年で10年になるわけで、『イーロン・マスクはスティーブ・ジョブズを超えたのか』という本が出るということは、そうしたビジネス書の王座(?)が、ジョブスからイーロン・マスクに受け継がれたということなのかもしれない。

今や世界でもっともリッチな人になったイーロン・マスクが、我々のような下々の人間とは別の経済、別のルールを生きていることは少し考えれば分かりそうなものだが、『イーロン・マスク流「鋼のメンタル」と「すぐやる力」が身につく仕事術』のような「イーロン・マスクの仕事術に学べ!」な本はビジネス書として需要があるんでしょうな。

これは来月刊行予定の本だが、おいおい、これの著者って、上であげた『イーロン・マスク流「鋼のメンタル」と「すぐやる力」が身につく仕事術』の著者と同じ人じゃない。二月連続で同じ人を題材とする本を刊行ってすげぇな!

これだけ見ると、かつての「ビル・ゲイツ」「スティーブ・ジョブズ」にあたる存在が2022年現在「イーロン・マスク」ということになるのだが、彼の快進撃は果たしていつまで続くのだろうか。

[2022年10月06日追記]:さすがに5冊で打ち止めと思って本エントリを書いたのだが、11月にもう一冊出るのを知った。

同じ出版社からスティーブ・ジョブズジェフ・ベゾスマーク・ザッカーバーグの本も出るようで、イーロン・マスクもこの並びに入る存在ということなのだろう。

[2022年11月02日追記]:大変申し訳ありません。2022年中にまだイーロン・マスク本が出るのに気づいてしまいましたので、再度追記させていただきます。これで全7冊になります。

ミシェル・ザウナー(ジャパニーズ・ブレックファスト)の『Hマートで泣きながら』が来月出る

yamdas.hatenablog.com

ジャパニーズ・ブレックファストのことは、昨年の『Jubilee』で初めてまともに認知し、一気に好きになった。その彼女が本を出していて、アメリカでベストセラーリストに載った話も紹介済だが、そこでワタシは以下のように書いている。

映画ができた頃には、日本での彼女のプレゼンスもずっと上がり、邦訳も期待できるんじゃないかな。

(ニューカマーのみから)2021年ベストアルバムを10枚選んでみた - YAMDAS現更新履歴

彼女の本に映画化の話があることに触れているが、逆に言うと、その映画版が公開されるくらいの話題にならないと邦訳は出ないんじゃないかと考えていたわけですね。

しかし、来月に集英社クリエイティブから『Hマートで泣きながら』が出るのを知る。

近年は海外ミュージシャンが書いた本もなかなか邦訳されないのを考えると貴重に思えるのだが、これが現在のジャパニーズ・ブレックファストの勢いなのだろう。素晴らしい。

せっかくなんで、最近の彼女の動画をいくつか紹介しておく。

ジミー・ファロンのレイトショーに出演しているが、彼女が5年前に "Jimmy Fallon Big!" という曲を出していることにまず触れるわな(笑)。その後、本の映画化の話もあるが、彼女が脚本書いてるみたいね。第一の目標はグラミー賞をとること、とキッパリ言ってるのは潔いよね。

Vorge でファッション紹介をやっていて、そんな需要もあるのかと少し驚く。

7月に開催された Pitchfork Music Festival 2022 におけるライブ映像だが、ウィルコのジェフ・トゥイーディーとデュエットしている。ジェフ・トゥイーディーが可愛く見える(笑)。

百花

以下、ストーリーの核心部分に触れますので、未見の方は気を付けてください。

川村元気プロデュースの映画はいくつも観ていて、その中には好きなものも確かにあるが、はなから観る気になれないものが大半である。その彼が初めて監督をすると聞いても食指は動かないのだけど、宇野維正のMOVIE DRIVERを聞いて、これは観ておこうと気が変わった。当然ながら、原作は未読である。

確かにこれはよくできている。最初から原田美枝子演じる主人公の母親、そして菅田将暉演じる主人公それぞれの登場に長回しが適度に使われており、画面に引き込まれる。

題材的にどうしても昨年の『ファーザー』を連想してしまうが、やはり認知症を扱うことで生じるホラー要素は、本作では映像の反復で表現されており、一方で『ファーザー』にはない謎解きの要素もある。

本作はなにより原田美枝子さんが素晴らしい。特に彼女の中年期の場面が良い……と思っていたら、完全に油断していて、ワタシも遭遇したあるイベントの場面には、かなりショックを受けてしまった。

本作は100分少しの上映時間で、間延びしたところがないのも好感が持てる。しかし、本作の謎解きの要素である「半分の花火」が明らかになるあたりがあまりに安易というかテキパキやりすぎていて、どうしようもなくダメだと思った。

母親に「半分の花火が見たい」と言われた帰りの車中で、主人公の妻があっさり「これだよ」と見つけるのもなんだが、その次の場面はいきなりその花火大会に、主人公と母親の二人が出かけている。主人公の母親はばっちり和服姿だが、認知症で施設にいる人を外に連れ出すのって、息子でもそれなりの手続きを要するのではないか? 夜中まで連れ出して、あの僻地にありそうな施設にはいつ戻れるのか? 老親の介護をしたことがある人間なら、いくつも疑問が浮かぶし、そういう面倒をクリアする描写は、謎解きの「溜め」としても必要なものでもないか。それがないので、「半分の花火」の真相が分かるラストにしても、ぼけっとしてたら見えました、という少し間抜けな感じになっており残念だった。

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