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『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』の(今度こそおそらく)最終版を公開

達人出版会において『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』のバージョン1.1.3が公開。サポートページにも反映。

少し前にKindle版公開と特別版(紙版)セールを告知したが、今回ははっきりいってほとんどの読者には影響しないものである。具体的には、本編に変更点はない(だから Kindle 版の更新はない)。

実は、ボーナストラック「グッドバイ・ルック」が以前の更新時にダウングレードしていて、公開後に反映した誤記の修正がロールバックしてしまっていた。とはいえ、それは数か所なので気づいた方はいないと思う。

それならば今回の更新が無意味かというとそうではなかったりする。今回「グッドバイ・ルック」が epub ファイルだけでなく PDF ファイルとしても提供されるようになった。

その背景には、マイクロソフトの Edge ブラウザが epub ファイルの読み込み対応を終了してから、epub ファイルを閲覧するメジャーな手段である calibre では(おそらく縦書きなのが災いして)「グッドバイ・ルック」が正しく閲覧できない問題があった。

実はその問題は calibre 5.0 で解決したようなのだが、達人出版会のほうで PDF 版も一緒に配布することにしたという次第である。

この PDF 版が二段組で、なんだか自分が大層なものを書いたようでちょっとたじろいだのだが――

お分かりだろうか。二段組 PDF ファイルで50ページなのである。こんな分量の原稿を内容の予告なしに高橋征義さんにいきなり送りつけたワタシはおかしいし、(最初ドン引きしただろうに)粛々と対応してくださった高橋さんには感謝しかない。

解説を書いてくださった arton さんに「そのくらいあの特典(ボーナストラック)はすごかった」、堺屋七左衛門さんに「これだけでお金を払っても良いくらいだ」id:pho さんに「こんなの途中で読むのやめられないしずるい。本編はこっちだったのか」と書かしめ、そしてブレイディみかこさんを泣かせた「グッドバイ・ルック」だが、読んだ人からどうしてこれ単体で note なりで課金しないのかと言われたことがある。いくつか理由があるのだけど、それをするつもりは未だない。これは電子書籍『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』の読者にとってのボーナストラックなのである。

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』も紙媒体、電子書籍などで複数のバージョンが存在するので、収録章数、ボーナストラック「グッドバイ・ルック」、2018年秋に執筆した付録「インターネット、プラットフォーマー、政府、ネット原住民」の収録について表にまとめておく。

バージョン 媒体 収録章数 ボーナストラック 付録 価格(税込)
達人出版会本家版 電書 50 770円
Kindle 電書 50 × 770円
技術書典5特別版 42 × 1000円

それではどうか『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』をよろしくお願いします。読んだ方は感想をウェブに書いていただけるとありがたいです。

AIとのペアプログラミングは可能だろうか?

www.oreilly.com

ここでも何度も取り上げている(その1その2その3)O'Reilly Mediaのコンテンツ戦略担当副社長マイク・ルキダスが、また AI とプログラミングについて興味深い文章を書いている。

AI による開発支援というと「AI 支援付き開発」を謳うマイクロソフトVisual Studio IntelliCode が浮かぶが、それよりさらに進んで AI とのペアプログラミングは可能かという話である。

ルキダスがまず指摘するのは、多くの AI システムについて、我々が AI を「神託(oracle)」みたいに見ていること。つまり、人間が入力を入れたら、AI が答えを出力してくれる、みたいな。しかし、そうした片方向の情報モデルには問題が多く、例えば医療分野で AI の導入が進まないのも、医師はメンツを AI に潰されることを恐れるからという側面がある。

我々に必要なのは機械と対話する機能なのだけど、そのユーザインタフェースがまだないとルキダスは書く。別に完璧なインタフェースが必要なのではない。すべての情報を把握しているわけではない環境下において、インテリジェントな(人工知能の)パートナーとその解決策を探求する機能があればよいのだ。何か試してみて、それでダメなら第二、第三のソリューションを試してみるような。

エクストリーム・プログラミングやその他のアジャイルな方法論で最も重要なのは片方向でないことだった。これらの方法論は、何か作ったら顧客からのフィードバックを取り込んで改良するイテレーションを重視した。

ルキダスは、ソフトウェア開発者と顧客の共同作業に、上に書いた「神託としての AI」の先にあるものを見ている。つまり、我々に必要なのは AI にコーディングの指図をされることじゃなくて、AI の提案を人間のプログラマが磨きをかけ、両者が解決策に向けて協力するような双方向の情報モデルである。

そのソリューションはおそらく IDE に組み込まれるだろう。プログラマがやりたいことを、不正確で曖昧な英語でざっと記述することで始める。AI はその解決策がどんなものになるか、おそらくは疑似コードみたいなスケッチでそれに応える。それを受けてプログラマは、豊富なコード補完機能(つまりそう、GitHub とかそうしたものにあるすべてのコードを学習したモデルに基づく)を使って実際のコードを埋めて書き継ぐわけだ。

こうして訳してみると、Visual Studio IntelliCode が GitHub にあるコードを機械学習している話も連想するわけだが、重要なのは人間のプログラマと AI の双方向的な共同作業、つまりはペアプログラミングの可能性である。AI はまだバグを検知して修正するのはあまり得意ではないが、何かおかしいときにプログラマに注意を促すのはとても得意とルキダスは見ている。

これは機械とのペアプログラミングだろうか? たぶんそうだろう。代理人よりも共同作業者に近い形で機械と協力している。プログラマにとってかわることじゃなくて、プログラマをより良いものにし、より迅速で効果的なやり方で仕事をするのが目的になる。

これはうまくいくだろうか? 私には分からないが、我々はこういうものをまだ作っていない。今こそそれにトライするときだ。

これは少なくともコーディングの自動化より面白そうな試みに思えるが、果たしてプログラマと AI のペアプログラミングは実現するのだろうか?

オープンソースのパラドックス、そしてHeisenbugについて

antirez.com

インメモリデータベース Redis の開発者として知られる antirez さんの文章だが、「オープンソースパラドックス」とは何か?

誰かも言うように、最高のコードは本来他のことをやるべきときに書かれる。それは例えば、作家は一銭の金にもならない小説に取り組むことで最高傑作を書くようなものである。プログラマというものは、業務時間に愚劣で退屈で無意味と感じるプロジェクトよりも、オープンソースのサイドプロジェクトのほうによりエネルギーを注ぎ込みがちである。

オープンソースは、半年だかでキャンセルされる可能性のある大企業の仕事とは違い、本当にその人がやりたいこと、ソフトウェアがどういうものであるべきか、とにかく楽しみのすべてであったり、場合によってはコーディングで怒りを覚えることの反映なのだ。

だからそのソフトウェアのユーザが声をかけてくるのは、そのコードのある部分がダメだからで、それについて何かしたいと協力したいと思っているわけだ。これはとても手のかかることだが、ユーザが作者にお金を払わないからといって侮辱しているとは考えてはいけない。お金の問題ではないのだ。そうしたいと思えば作者はバグや寄せられる文句をシカトしてかまわない。別に契約を結んでいるわけじゃないからだけど、文句を言うユーザは作者を助けようとしているのであって、作者と同じものに関心があるのだ。それはソフトウェアの品質であり、完成度である。

ソフトウェアのデザインはその作者のみが決めるべき事項であって、それに合わないと判断すれば pull request や提案を却下する資格がある。とはいえ、オープンソースを書いていて、ユーザの要求に気分を害するなら、その時点であなたの仕事は何かしらオフィスワークに近づいていると考えたほうがよいかもね、という話である。

このあたり、今夏に開発の一線から離れることを表明したこの著者の心境が反映されているように思うのだが、ワタシがこの文章で気になったのは、本筋から離れるが以下のくだり。

And you want it to rock, to be perfect, and you can’t sleep at night if there is a fucking heisenbug.

The open source paradox - <antirez>

heisenbug ってなんだ? と調べたら、Wikipedia 英語版に Heisenbug というページができている(日本語版では「特異なバグ」)。

要はヴェルナー・ハイゼンベルク不確定性原理にひっかけた、デバッガで追おうとしても再現しないような「不確定性バグ」のことを指す。

『ブレイキング・バッド』のファンとしては、もしかしてこの単語もこのドラマの影響で生まれたものじゃないかと思ったが、本棚の『ハッカーズ大辞典』を調べたらちゃんと項目がありました(参考:heisenbug)。ワタシが知らなかっただけで昔からある言葉なんですな。

ネタ元は Hacker News

データ第一な世界を疑う技術を説く『Calling Bullshit』がタイムリーで面白そうだ

www.forbes.com

Forbes で知った Calling Bullshit という本が面白そうだ(公式サイト)。

著者は生物学的、社会的ネットワークによる情報の流れを研究する進化生物学者Carl T. Bergstrom と、Datalab の共同創始者であるデータサイエンティストの Jevin D. West で、この二人がこの本で、誤情報やフェイクニュースが蔓延するメディア環境において、今では威嚇的にエビデンスとして使われるデータの「でたらめ」を見分け、正しく疑う姿勢と技術を身につけようと説く本である。

書名に Bullshit という単語があることで、どうしてもデヴィッド・グレーバー『ブルシット・ジョブ』を連想してしまうが、あれとは違った主題とはいえ、かなり威勢が良さそうで面白そうだ。ただ Forbes の書評ではソースの提示が十分ではないことが批判されているのに注意ね。

この本の推薦者を見ると、ソール・パールマッタージョージ・アカロフポール・ローマーといったノーベル賞受賞者が名前を連ねていてのけぞった。このブログでおなじみの人では『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』のキャシー・オニールの名前もあるよ。

いずれにしてもとても今どきな本であり、これは邦訳出てほしいね。

2021年にF・スコット・フィッツジェラルド『グレート・ギャツビー』がパブリックドメイン入りするのか!

www.longislandpress.com

F・スコット・フィッツジェラルドの代表作『グレート・ギャツビー』が2021年にパブリックドメイン入りするという記事である。

まだパブリックドメインになってなかったの? と驚く人もいれば、そんなのとっくに知ってましたけど? という人もいるだろう。

ワタシ的には、バズ・ラーマン監督、レオナルド・ディカプリオ主演の映画『華麗なるギャツビー』公開当時、「なぜギャツビーはパブリックドメインでないのか?」という文章を翻訳しており、感慨深いものがある。

要するに、『華麗なるギャツビー』は2021年1月1日までアメリカ国民には本当の意味で自由にならない――それも著作権保護期間がまた延長されなければの話だが。

なぜギャツビーはパブリックドメインでないのか?(Why Isn't Gatsby in the Public Domain? 日本語訳)

このときはじめてワタシも『グレート・ギャツビー』が2021年にパブリックドメイン入りするのを知ったわけだが、これを訳した2013年には、2021年なんてえらく遠い先のことに思えたものだった。全然先じゃん、と。

しかし、時蠅は矢を好むように時間は過ぎるもので、気が付いたらその「えらく遠い先」はすぐ先にきていた。

そして、その作者F・スコット・フィッツジェラルドが亡くなって、もうすぐ80年になるのである。彼の後半生はお世辞にも恵まれたものとはいえなかったが、素晴らしいことに『グレート・ギャツビー』など彼の作品は名声を保っている。

そのパブリックドメイン入りにより、また『グレート・ギャツビー』が新たな作品としての命を花開かせればいいなと思う。

グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)

グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)

華麗なるギャツビー [Blu-ray]

華麗なるギャツビー [Blu-ray]

  • 発売日: 2014/05/02
  • メディア: Blu-ray

TENET テネット

『ルース・エドガー』を観たとき、また映画館通い再開かと思っていたのだが、その後新型コロナウィルスの第二波とやらのせいで劇場からまた足が遠のいてしまい、再び3か月以上間が開いてしまった。

本作はそうした意味で、また映画館で映画が観れるぞというハリウッドの希望の象徴となった。ワタシも、劇場公開にこだわるクリストファー・ノーランの執念に応えるつもりで IMAX シアターで鑑賞してきた。のだが、公開初日の金曜日は仕事の都合で行けず、翌日、奇しくも映画館が全席販売を再開する日の鑑賞となってしまった。案の定前後左右座席の予約は埋まっており、出向いたシネコンの人の多さにしばらく入るを躊躇してしまったくらい。コロナ怖い……。

さて、本編上映が終わって劇場を後にしていると、前を歩く二人組のおっさん同士で「あれ分かった? オレ全然意味分からんかったわ。時間返してほしいわ」とボヤいていて微笑んでしまった。安心しろ、ワタシも大して分かんなかったから!

いやー、それにしても早川書房から出ているようなハード SF をガチでハリウッド大作にしたクリストファー・ノーランは頭おかしいね。しかも、小説なら描写で済ませられる時間の順行と逆行が交差する場面を映像で表現する必要があるわけで、今そんなことやろうとするの彼だけじゃないか。

ノーランは、前作『ダンケルク』でも同時期の三つの異なる時間軸を一本の映画にまとめあげていたが、時間の逆行を描く点で出世作メメント』を連想させるし、最後、タイムアタック! なクライマックスは、やはり『インセプション』に近い感触があった。ただ、ガチな SF という意味で『インターステラー』のように観るべき映画ではなく、むしろノーランの『007』シリーズ、すなわちスパイアクションへの偏愛という視点で観るべきだし(マイケル・ケインの登場場面が『キングスマン』になりかけるのに笑った)、騙し合いという意味で意外にも『プレステージ』を思い出したりした。

というわけで、一度観ただけではとてもじゃないがワタシには本作を十分には理解できなかった。時間の逆行という無茶なものをガチで表現しているのだから、それを恥ずかしいとは思わないが、ロバート・パティンソンのリュックのポケットから出ている赤いケーブルの意味とか、本作のポイントについて、あれはどういう意味ですか? ここの場面を説明してください、とか『テネット』クイズを出されたら、かなりの低得点をたたき出してしまいそう(前述のケーブルについては、昨日友人から SMS で教えてもらった。そういえばロバート・パティンソンをあまり評価してなかったのだけど、本作での彼は良かったね)。

さて、本作のラストで、とある名作映画の、やはり映画史上に残る名ゼリフがもじって引用される。わけ分かんねーな、と主人公たちのやりとりを観ていたワタシはそこでホロリとなってしまった。そして自分は「映画に甘い」と思った。

「映画に甘い」とは、映画自体が好きというのもあるし、そうした過去の名作の引用にグッときてしまうところも含まれる。そして何より映画には映画にしかできない表現があり、映画にはテレビドラマとは違った何かがあると当然のように思い込むロマン主義(?)でもある。「ピークTV」という言葉ももはや過去のものとも言われるが、それでもこうした考え方は明らかに時流に合ってないし、有害とすら言えるかもしれない。

ともあれ、そういうロマンには大前提としてデカいスクリーンが必要である。ワタシの部屋の貧相な40インチ液晶テレビではダメなのだ。だからノーランが劇場公開にこだわったのは理解できるし、そのロマンを引き受け、しかも「大枠の理屈は分かるが、これおかしいだろ」としか言いようのない題材を、ジャンボ機を丸ごと建物に突っ込ませるなどまでして押し切ったという点で、ワタシは『テネット』を、そしてノーランを肯定したい。

観ている間はひたすらエキサイトするけど、終わってみると何も残らないところまで含めてノーランの映画らしいし、何度も書くけどいろいろ分かんなかったけど。

ジャロン・ラニアーの本業(?)のバーチャルリアリティ本の邦訳が出ていたのか

www.netflix.com

先日も「ケンブリッジ・アナリティカ告発本の真打クリストファー・ワイリー『マインドハッキング』と「監視資本主義」の行方」で紹介した Netflix ドキュメンタリー『監視資本主義: デジタル社会がもたらす光と影』公式サイト)を遅ればせながら観た。

まぁ、予想通り/期待通りの内容だった。GoogleFacebookTwitter などのテック大企業で実際にサービス開発を担った人たちが何人も登場して語る一方で、彼らの発言を理論的に整理する役割として、『Zucked』のロジャー・マクナミー『監視資本主義の時代』のショシャナ・ズボフ『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』のキャシー・オニールと並んでフィーチャーされていたのが「バーチャルリアリティの父」ジャロン・ラニアーである。

『監視資本主義』を観た後、気になって調べたら、ワタシが4年以上前に紹介した本の邦訳『万物創生をはじめよう』がこの夏刊行されていたのを今更知った。

この本は、ラニアーの「VRの父」としての本業(?)寄りの仕事になる。(『監視資本主義』でも紹介されてた)アンチソーシャルメディア本しか翻訳されないのはあんまりだろと思っていた人間としては嬉しいのだけど、Amazon を見ても刊行から3か月経って1つもユーザレビューがついてない。ちゃんと届くべき読者層に宣伝が届いていないのではないだろうか? 他人事ながらいささか心配になる。

これは宣伝だけど、ワタシの『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』も連載第1回目はジャロン・ラニアーの本を取り上げた「インターネットによる中流階級の破壊をマイクロペイメントが救うか」だったという縁もあり、彼のことは気になるのですよ。

スティーブ・ジョブズの愛読書30冊

mostrecommendedbooks.com

少し前から話題になっているサイトで、各界の著名人が薦める本を集積している。最近イーロン・マスクが勧める「読んでおくべき11冊の本」とかネットニュースでも取り上げられている。

news.slashdot.org

この Slashdot のストーリーで、ビル・ゲイツスティーブ・ジョブズの推薦本の比較が行われている。

読書家として知られ、そのインプットについてちゃんとこまめに文章を書いているビル・ゲイツは必然的に数が多すぎるので、ここでは30冊と紹介するのにちょうどよいサイズ感のスティーブ・ジョブズのほうを取り上げたい。

mostrecommendedbooks.com

いろんな分野の本を網羅するビル・ゲイツと比べると、スティーブ・ジョブズのほうは嗜好性がはっきり出ていて、らしい気がする。

それにしても、禅やら瞑想やら神秘主義やらスピリチュアル系な本がリストの相当割合を占めるところがこの人ならでは。

それにしてもシリコンバレー人種って本当にアイン・ランド好きよねぇ。

同じバーで収録された二本のミュージックビデオ

大したネタではないのだけど、最近公開されたばかりの二つのミュージックビデオが同じバーで収録されているという話。

前者は長崎をベースに活動するミクスチャーバンド UPPER YARD の新曲(SpotifyApple Music)、後者は長崎発のアイドルユニット MilkShake の新曲である(SpotifyApple Music)。いずれの曲も好きです、ハイ。

というわけで、共通するのは長崎ということなのだけど、これに気づいたのは MilkShake のプロデューサーである唐川真さんからのインプットがあったから。

この二つの PV の収録現場となったバーの店名はここではあえて書かないが、ワタシも一度くらい行ったことがあるはずなのだけど、確かな記憶がないのだからどうしようもない。

ジョン・クリーズが創造性、モンティ・パイソン、ポリコレについて語るインタビュー

『モンティ・パイソンができるまで』に続くジョン・クリーズの新刊は、ズバリ Creativity と題した創造性をテーマとする本で、その刊行を受けていくつかインタビューを受けている。

www.newyorker.com

新刊のテーマである創造性について、クリエイティブであるためには、クリエイティブな思考でないといけない。クリエイティブなムードに身を置く必要がある。それをどうやって実現するか? クリエイティブなムードとは、本質的に遊び心に満ちている。なんで子供はごく自然に遊べるのか? 子供は誰が夕食を作るか心配する必要がない。つまりは、日々の責任だね、とのこと。

創造性を尊敬するコメディアンの先達から学んだのかと問われ、例としてデヴィッド・フロストの名前をインタビュアーが挙げると、すかさずクリーズ先生はピーター・クックの名前を挙げて訂正している。本当にクックを尊敬しているんだなぁ。

面白いのは、インタビュアーが数年前にエリック・アイドルに聞いた、彼がジョージ・ハリスンと友達になって、モンティ・パイソンにおける自分が、ビートルズにおけるジョージ・ハリスンと同じ「free-floating radical(気ままな過激派?)」な役割を果たしていたと気づいた話を受けた、クリーズ先生の言。

私はポール・マッカートニーに共感するよ。だってジョン・レノンはちょっともてはやされ過ぎに思うし、マッカートニーに八つ当たりする人もいた。グループではエリックが一番一緒に仕事がしやすかった。彼は物事を諦めることができたから。一方でとても仕事が難しかったのはテリー・ジョーンズだった。彼はあらゆることに強い信念があって、彼の物の見方を変えることなどできなかったから。で、グレアム・チャップマンはどのみち人の話なんて聞いてなかったし。テリー・ギリアムにいたってはその場にいなかった。で、マイケル・ペイリンは、衝突するのが嫌いなものだから、誰にでも同意するばかりでね。

少しマイケルに辛辣だが、この後、「マイケルと私は自然な友達だし、どのみちずっと友達でいるだろう」とも言っている。ギリアムがその場にいなかったというのは、彼がグループの中で単独でアニメーション作りを行っていたから。

今年1月に亡くなったテリー・ジョーンズとジョンの対立はよく知られているが、このインタビューでも創作過程において二人の対立は生産的だったか、有害だったかと聞かれ、はっきり有害だったと答えている。が、『ライフ・オブ・ブライアン』の監督としての仕事を phenomenal と讃えている。『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』においても、テリーJの監督も最高だった、テリーGは画作りには長けていたが、コメディーの撮影という点でテリーJのほうが優れていた、とのこと。

インタビューでは、クリーズ先生の代表作『フォルティ・タワーズ』の(一時的な)配信取り下げについても突っ込んで聞いている。これは登場人物のゴーウェン少佐がNワードを口走る場面があるからだったんですね。

当然ながらというべきか、クリーズ先生はポリティカルコレクトネスについて良い感情を持ってないようだ。

ポリティカルコレクトネスに関係するあらゆることが、コメディというものの誤解だと私は感じる。コメディは完璧な人間とは無縁のものだ。コメディとは人間の弱点、弱さに関するものなんだ。

この件については、昨年の「ロンドンはもはや英国ではない」発言も引き合いにしながらいろいろ聞かれており、クリーズ先生も応戦しているが、近年の筒井康隆に重なる感があって苦しいというのが正直なところ。

それはともかく、クリーズ先生の新刊も邦訳が出るといいなぁ。

Creativity: A Short and Cheerful Guide

Creativity: A Short and Cheerful Guide

  • 作者:Cleese, John
  • 発売日: 2020/09/03
  • メディア: ハードカバー

出版社のnote活用事例まとめ完全版(2020年9月時点)

yamdas.hatenablog.com

今年のはじめに公開したエントリだが、公開後に早速ここもあそこもあるじゃないと気づいていくつか追加したのだけど、その後になって気づいたところがいくつもあり、またこのエントリは検索サイト経由で訪問する人が多く、こんな不完全なリストを参照させて申し訳ない、と密かに心苦しく思っていた。

その後も note に参入した出版社もあり、2020年9月の現時点での完全版を作っておいたほうがよいのではないかと思った次第である。

今回ももっとも古いエントリの公開日を「開始日」として、それが古い順番に並べてみた。一方で「フォロワー数」はあまり意味がない(数を競うべきものじゃない)数字だと思い直して今回は外した。

これを出版社に入れていいのかと疑問に思うものも入れたが、出版エージェンシーや書店、あと勤務先を明かしていても飽くまで出版社の社員(社長)個人の note は外した。

出版社 note 開始日 関連サイト
ナナロク社 ナナロク社 2014/04/11 ナナロク社
詩想舎 詩想舎 2014/04/28 アイカードブック(iCardbook)詩想舎
文藝春秋 文春note部 2015/12/17 文藝春秋BOOKS
きこ書房 きこ書房 2016/04/11 きこ書房
リトルモア リトルモア 2017/01/16 リトルモア
アタシ社 三崎の夫婦出版社『アタシ社』 2017/02/02 三崎の夫婦出版社アタシ社
堀之内出版 堀之内出版ブログ(公式) 2017/03/05 horinouchi-shuppan
河出書房新社 河出書房新社 2017/04/21 河出書房新社
ライツ社 ライツ社 2017/09/11 @writes_p
DNAパブリッシング 電子書籍専業の出版社:DNAパブリッシング 2017/09/19 DNAパブリッシング株式会社
運動と医学の出版社 運動と医学の出版社 2017/10/31 運動と医学の出版社
学芸出版社 学芸出版社 2017/11/15 学芸出版社
新建築社 新建築社 2018/02/16 新建築.online
英治出版 英治出版オンライン 2018/04/09 英治出版
堀之内出版 雑誌nyx&nyx叢書 2018/05/04 horinouchi-shuppan
カバルファス・ブックス KABαS BOOKS 2018/06/06 高宮聡の雑貨店
早川書房 Hayakawa Books & Magazines(β) 2018/07/05 ハヤカワ・オンライン
髪書房 美容業界誌・髪書房 2018/07/13 株式会社髪書房
ポプラ社 ポプラ社一般書通信 2018/07/17 WEB asta
クラシップ KuLaScip 2018/07/25 KuLaScip|クラシップ
幻冬舎 幻冬舎plus+ 2018/08/02 幻冬舎plus
幻戯書房 幻戯書房編集部 2018/09/10 幻戯書房
PLANETS PLANETS CLUB 2018/09/28 PLANETS
遊泳舎 遊泳舎 2018/12/17 遊泳舎
NTT出版 NTT出版 2019/01/11 NTT出版
左右社 左右社 2018/10/16 左右社
小学館 和樂web編集部 2019/01/25 和樂web
サンクチュアリ出版 サンクチュアリ出版 公式note 2019/02/04 サンクチュアリ出版
黒鳥社 黒鳥社|blkswn publishers Inc. 2019/02/12 blkswn publishers Inc.|黒鳥社
大月書店 大月書店 2019/02/21 株式会社 大月書店
書肆侃侃房 書肆侃侃房 web侃づめ 2019/03/12 書肆侃侃房
建築ジャーナル 月刊誌建築ジャーナル 2019/03/15 建築ジャーナル
博報堂 雑誌『広告』 2019/03/15 雑誌『広告』
志学 志学社 2019/04/24 志学社
KKベストセラーズ KKベストセラーズ 2019/04/28 BEST TiMES(ベストタイムズ)
オルカパブリッシング オルカパブリッシング 2019/05/04 オルカパブリッシング / Twitter
etc.books etc.books 2019/05/15 エトセトラブックス
DU BOOKS DU BOOKS 2019/05/21 DU BOOKS
ディスカヴァー・トゥエンティワン ディスカヴァー・トゥエンティワン 2019/07/02 ディスカヴァー・トゥエンティワン
実業之日本社 実業之日本社_新企画編集部 2019/07/08 実業之日本社
タバブックス タバブックス 2019/08/01 タバブックス
森北出版 森北出版 2019/09/02 森北出版株式会社
ナンバーナイン ナンバーナイン公式 2019/09/09 No.9
サウダージ・ブックス サウダージ・ブックス 2019/09/22 サウダージ・ブックス Saudade Books
集英社 集英社文庫編集部 2019/10/10 web 集英社文庫
太田出版 雑誌『ケトル』編集部 2019/10/29 太田出版ケトルニュース
柏書房 かしわもち 柏書房のwebマガジン 2019/10/30 柏書房
PLANETS PLANETS 2019/10/30 PLANETS
集英社 集英社文芸・公式 2019/10/31 集英社 WEB文芸 RENZABURO
文藝春秋 文藝春秋digital 2019/11/07 文藝春秋ホームページ
共和国 Digging Deep|共和国のウェブマガジン 2019/11/12 共和国 editorial republica
金子書房 「こころ」のための専門メディア 金子書房 2019/11/17 株式会社 金子書房
ダイヤモンド社 ダイヤモンド社書籍編集局 2019/11/26 ダイヤモンド・オンライン
光文社 光文社新書 2019/12/17 光文社
新潮社 考える人|新潮社 2019/12/26 考える人
かんき出版 かんき出版 2019/12/26 かんき出版
ワン・パブリッシング ムーPLUS 2020/01/08 株式会社ワン・パブリッシング
NHK出版 本がひらく 2020/01/15 NHK出版
翔泳社 翔泳社の福祉の本 2020/01/17 翔泳社の本
致知出版社 致知出版社note編集部 2020/01/21 致知出版社
世界文化社 世界文化社 公式note 2020/02/03 世界文化社
幻冬舎 幻冬舎 電子書籍 2020/02/08 株式会社 幻冬舎
マガジンハウス マガジンハウス書籍部 2020/02/19 マガジンワールド
竹書房 Takeshobo Books 2020/02/19 竹書房 -TAKESHOBO-
インプレス impress QuickBooks編集部 2020/02/20 impress QuickBooks(クイックブックス)
晶文社 晶文社 2020/02/21 晶文社
アルテスパブリッシング 小学館文化事業室 2020/02/21 アルテスパブリッシング – ページをめくれば、音楽。
国書刊行会 国書刊行会 2020/03/19 国書刊行会
スタンド・ブックス スタンド・ブックス 2020/03/19 STAND! BOOKS
未知谷 未知谷 a letter from unknown valley 2020/03/24 Publisher Michitani 未知谷のホームページ
文響社 文響社 2020/04/01 文響社
里山 里山社 2020/04/08 里山社
有斐閣 有斐閣書籍編集第2部 2020/04/14 有斐閣
KADOKAWA KADOKAWA デジタルマーケティング室 2020/04/16 KADOKAWAオフィシャルサイト
明日香出版社 明日香出版社(公式) 2020/04/23 明日香出版社
白揚社 白揚社 2019/04/24 白揚社 -Hakuyosha-
東京ニュース通信社 TV Bros. ( テレビブロス ) 2020/05/03 東京ニュース通信社
港の人 港の人 2020/05/07 出版社 港の人・MinatoNoHito
文藝春秋 本の話 2020/05/14 文藝春秋BOOKS
KADOKAWA KADOKAWAブックラブ 2020/06/01 KADOKAWAオフィシャルサイト
小学館 「100年ドラえもん」公式 2020/06/10 100年ドラえもん 小学館
工作舎 工作舎 2020/07/06 工作舎の本
ポプラ社 ポプラ社図書館部 学びの編集室 2020/07/16 WEB asta
ポプラ社 ポプラ社 こどもの本編集部(準備中) 2020/07/16 WEB asta
べレ出版 べレ出版語学編集部 2020/08/07 ベレ出版
小学館 アルテスパブリッシング 2020/09/07 小学館
スモール出版 スモール出版 2020/09/29 スモール出版

総数80を超えてしまった……ワタシも何か独自の情報源があるわけでもないので、抜けに気づいた方は(ブックマーク)コメントなりで指摘していただければ、今月中であれば追加します。

ケンブリッジ・アナリティカ告発本の真打クリストファー・ワイリー『マインドハッキング』と「監視資本主義」の行方

「邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする(2020年版)」で紹介した本で最初に邦訳が出るのはステファニー・ケルトン『財政赤字の神話』である……と思ったら、10月刊行に延期されていた。それより先に今週クリストファー・ワイリー『マインドハッキング―あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア―』が出るのを知り、これが最初なのかと驚いた。

ケンブリッジ・アナリティカ告発本となると、既にブリタニー・カイザーの『告発』が昨年出ていたので、クリストファー・ワイリーの邦訳は正直難しいかと思っていた。邦題は少しだけマイルドになっているが、これは仕方ないですな(笑)。

ケンブリッジ・アナリティカ告発本が批判しているのは、まさに監視資本主義なのだけど、ショシャナ・ズボフの本の邦訳が一向に出ない間に Netflix ではズバリ『監視資本主義: デジタル社会がもたらす光と影』というドキュメンタリーまで今月公開されちゃった。

原題はちょっと違うのだけど、予告編にもある通りショシャナ・ズボフも登場するわけで、この邦題は正解だろう。

いや、でもさ、ショシャナ・ズボフ『監視資本主義の時代』邦訳、いったいいつになったら出るの?

シヴァ・ヴァイディアナサンの反Facebook本『アンチソーシャルメディア』も出る

いや、「邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする(2018年版)」で紹介した本の邦訳が今年出るとはね。

『グーグル化の見えざる代償 ウェブ・書籍・知識・記憶の変容』の邦訳もあるシヴァ・ヴァイディアナサンの反ソーシャルメディア(アンチFacebook)本の邦訳である。

前著がアンチ Google で、今度がアンチ Facebook という分かりやすい流れだが、かくしてクリストファー・ワイリー『マインドハッキング』に続いて、Facebook に対する告発の本の刊行が続くことになるわけですね。

Google社内で行われた講演会の動画でもっとも視聴されたトップ20に近藤麻理恵さんが入っていた

旧聞に属するが、ここでもたまさか取り上げる、Google が社内で行われた講演会の動画を公開する Talks at Google において、もっとも視聴数の多いトップ20をまとめた動画が公開されていた。

そのトップ20については上の動画にリストがあるが、タイトルにも出てくるレディ・ガガライアン・レイノルズといった音楽や映画、テレビ関係のセレブの動画は半分以上を占めている。

そういうのを改めてここで紹介しても仕方ないのでそれ以外に目を向けると、ユヴァル・ノア・ハラリケリー・マクゴニガルのように著書の邦訳のある日本でも知られた人もいる一方で、恥ずかしながらワタシも名前すら知らなかった人の講演もあって、自分のアンテナの低さを感じたりした。

ここでやはり目をひくのは、こんまりこと近藤麻理恵さんの動画がリスト入りしていること。

彼女も「KonMari ~人生がときめく片づけの魔法~」というテレビ番組を持つ人になったわけだが、この講演は2015年、くだんの番組制作の前。講演を英語でやりきるのはさすがに辛そうだ……と思ったあたりで日本語に切り替わるのだけど、英語への通訳は飯田まりえさんではない。

Netflix 番組の2ndシーズンの収録はもう済んでいるはずだが、余剰というか生活物資のバッファの重要性が見直されたコロナ禍を受け、彼女の受容が変わるかは気になるところである。

人生がときめく片づけの魔法 改訂版

人生がときめく片づけの魔法 改訂版

今週共著の新刊が出るが、家の片づけに留まらず、働き方に話を広げていて、そのあたりを踏まえた方向転換なのかもしれない。

黒人音楽の歴史について文献をまとめたBlack Music History Libraryがすごい

ワタシは kottke.org で知ったのだが、18世紀から現在にいたる黒人音楽の歴史についての文献をまとめた Black Music History Library というデジタル図書館サイトがすごい。

blackmusiclibrary.com

これを見ていただければ分かるが、多様なジャンルごとに分類されていて、それぞれについて関係する書籍、記事、ドキュメンタリー、ポッドキャストの情報源がまとめられている。

ざざっと見ただけだが、このブログでも紹介したナイル・ロジャースの回顧録クエストラブによる『ソウル・トレイン』ヒストリー本なども入っている。

これのキュレーションを行ったのは音楽評論家の Jenzia Burgos という人なのだけど、これは立派な仕事だ。

こういった黒人音楽についての本の書き手となると、まず浮かぶのはネルソン・ジョージで、当然ながら彼の本はこのサイトのリストにすべて入っているが、邦訳で新品が手に入るのは今では『ヒップホップ・アメリカ』くらいなんだね。

ヒップホップ・アメリカ

ヒップホップ・アメリカ

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