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NOPE/ノープ

本作は何をどう書いてもネタバレの要素があるので、未見の人はご注意ください。警告しましたよ。

『ゲット・アウト』『アス』を楽しんだ人間として、ジョーダン・ピール監督の新作とあれば、これは観に行くしかないのだけど、今回は IMAX カメラも撮影に使われたという話を小耳に挟んだので、公開初日に IMAX で観てきた。

例によって事前情報はあまり入れずに観たのだが、やはり小耳に挟んだ話で「も、もしかして……シャマラン?」とも思ったりして(いや、シャマランはシャマランで好きですよ!)、正直『サイン』みたいな映画なんかなと思ってたら、さすがにそれとは違うのだけど、ある程度は当たっていた。

しかし……これは意図的にかなりバカだよな(笑)。シャマランかと思ったらエヴァだったという。予想外のところから矢玉が飛んでくる感じ。

そんなバカ映画だが、映像スペクタクルだけでなく凝った音声演出を施しているので、できれば IMAX で観ていただきたい。

本作において主人公の妹が強調する「世界最初の映画(動画)」の話を引き合いに出すまでもなく、本作はエンターテイメント業界におけるアフリカ系の置かれた状況を反映したものになっている。

また本作はスティーヴン・ユァンが重要な役柄で出てくるが、彼演じる「ジュープ」が、子役時代に出演したシットコムの撮影現場での凄惨極まりない事件で彼一人が危害を加えられなかったのは、その「犯人」が彼と最後にやろうとしたポーズから想像できるが、やはり彼がマイノリティだからであり、本作はエンターテイメント業界におけるアジア系の状況も反映されている……けど、主人公たちとの連帯は感じられないんだよね。あと、あそこで靴が「立っている」意味が分からなかった。

前作に続き、本作も旧約聖書が最初に引用されるが、手元の新共同訳の聖書から該当部分(「ナホム書」第3章6節)を引用しておく。

わたしは、お前に憎むべきものを投げつけお前を辱め、見せ物にする。

これでワタシが連想したのは、安部公房の「見ることには愛があるが、見られることには憎悪がある」である。上記の撮影現場の場面もそうだが、本作の怪物も「見られる」ことに牙をむくわけですね。こっちからすれば、かなり理不尽に。

それにしても、本作における「怪物」のたたずまいからして荒唐無稽なのだけど、主人公たちが求める「オプラ映像」という言葉、TMZ 記者の登場に象徴されるなんともいえない浅さ、しかし、「オプラ映像」を求める以外、何ら有機的な選択肢を考えもつかない感じがむしろリアルだったりする。

しかし、正直本作の映画についての言及性はあまり有効に機能していないし、主人公が(やはりダニエル・カルーヤ演じる『ゲット・アウト』同様に)基本的に受け身というのはいいのだけど、彼について何ら深堀りできていないので、最後で馬に乗って登場する姿に気持ちが昂るものが正直なかった。

DEF CONから永久的に締め出されたソーシャルエンジニアリングのスター

www.theverge.com

セキュリティ業界に関わる人で知らない人はいない世界的に有名なハッカーの祭典 DEF CON だが、ソーシャルエンジニアリングの分野でもっとも有名な Chris Hadnagy が、行動規範に違反したとして出禁になったそうな。

それ自体は今年2月の話だが、今月になって彼がそれに対する訴訟を起こしたことでニュースになっている。

yamdas.hatenablog.com

今から10年近く前になるが、彼の本が邦訳されたのをワタシも書いていた。やはりブログは書いておくものだ。

原書の第2版が出るときもブログで取り上げているが、さすがに邦訳はそれにまでは追随しなかった。

しかし、ハッカーカンファレンスでやることって時に法のグレーゾーンに触れるので、こういうのは難しいものがあるよな。

このケースの場合、Chris Hadnagy が「ハラスメント禁止」にフォーカスした DEF CON の行動規範に具体的にどのように違反したのか不透明である点で訴訟の余地があるのだろう。そして、彼は単なる DEF CON のいち発表者ではなく、そのインサイダーと見られていたので、コミュニティにショックを与えたようだ。

ネタ元は Slashdot

ベストセラー教科書の無料化・オープンソース化のニュースに「オープン教育リソース」の歴史を思う

forbesjapan.com

このニュースは日本ではそんなに話題になっていないようだが、記事にもあるようにこれは「大事件」と言ってよいだろう。

なぜならオープン教育リソース(OER)は無料だからだ。しかも無料なだけでなくオープンソースであるため、ライセンスや許可なしに定期的に更新や改訂することができる。OER書籍やその他の教材は新しいものではない。教育資源を無償化するという考えは以前から存在している。実際、OpenStax自身には、すでに57冊の無料の教科書があり、年間600万人以上の学生に利用されている。

ベストセラー教科書の無料化・オープンソース化が教育出版を変える | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)

OER という言葉は以前からあり、ワタシも今から10年以上前に「オープンエデュケーションとその持続可能性」という文章を書き、オープンコースウェアなどの OER や、DRM フリーで無料のデジタル教科書の提供を謳うスタートアップを紹介している。

しかし、そのスタートアップの試みは挫折している

そうした意味で、アメリカにおいて高騰化がいわれる教科書を無料でオープンなライセンス(調べてみたら CC BY-NC-SA みたい)で提供するというチャレンジを引き継いだ OpenStax という企業には、すごいねぇと思ってしまう。

「オープンエデュケーションとその持続可能性」でも書いたように、こうした試みを一種の「狂気」抜きに持続していくのは大変なことであり、日本でも少し前に京都大学OCW閉鎖、運営組織廃止のニュースを見ても明らかなわけで。

コリイ・ドクトロウの新刊はビッグテックや巨大メディアの権力へのクリエイターの対抗を呼びかける「チョークポイント資本主義」

Pluralistic で、このブログでもおなじみコリイ・ドクトロウが新刊のオーディオブックのためのクラウドファンディングを立ち上げている。

オーディオブックって、単に Amazon で売ればいいだけじゃない? と思われるかもしれないが、ドクトロウは Amazon のオーディオブックプラットフォームに以前から反旗を翻しているんですね。

その彼の新刊(Rebecca Giblin との共著)は Chokepoint Capitalism なのだけど、基本的に SF 作家として知られる彼が「資本主義」を題名に冠する本を書くことになったのは、やはり昨今のビッグテックや巨大メディアの独占の弊害、このままではクリエイターは彼らに支配されてしまう、力を取り戻さないと、という危機感があったからだろう。

この話題で連想するのはやはり「監視資本主義」だが、実は彼はこれにかなり批判的で、「チョークポイント資本主義」が彼なりの回答なのかと想像する。

これはやはり、新自由主義によりネオ封建主義時代に入ってしまったという危機感もあるのだろうな。

推薦者を見ると、ジミー・ウェールズローレンス・レッシグクレイグ・ニューマークアニール・ダッシュイーライ・パリサーダグラス・ラシュコフといったあたりは想定範囲内だが、マーケティング分野のベストセラー作家セス・ゴーディンや『侍女の物語』のマーガレット・アトウッドが名前を連ねているのは予想外だった。

クエンティン・タランティーノがおすすめする映画40選(最新版)

www.indiewire.com

この IndieWire の記事は元々は2019年が初出みたいだが、その後の情報も踏まえたアップデート版ということで、クエンティン・タランティーノが観るのを勧める映画を40本まとめている。

せっかくなので、だいたい公開年順に並べてみた。

  1. ハワード・ホークスヒズ・ガール・フライデー』(1940年)(asin:B004OUEAV2
  2. プレストン・スタージェス『殺人幻想曲』(1948年)(asin:B0B1CPWC87
  3. チャールズ・バートン『凸凹フランケンシュタインの巻』(1948年)
  4. ハワード・ホークスリオ・ブラボー』(1959年)(asin:B005EMZA18
  5. ジョン・スタージェス大脱走』(1963年)(asin:B00BHALMEU
  6. マリオ・バーヴァ『ブラック・サバス 恐怖!三つの顔』(1963年)(asin:B09X1MLSWQ
  7. セルジオ・レオーネ『続・夕陽のガンマン』(1966年)(asin:B074PWB5X5
  8. デニス・ホッパーイージー・ライダー』(1969年)(asin:B018S2FX1M
  9. スティーヴン・スピルバーグジョーズ』(1975年)(asin:B00C9XM6IU
  10. ダリオ・アルジェント『サスペリアPART2』(1975年)(asin:B00A74H03O
  11. マーティン・スコセッシタクシードライバー』(1976年)(asin:B009D9UJN2
  12. マイケル・リッチー『がんばれ!ベアーズ』(1976年)(asin:B000P5FFFK
  13. ブライアン・デ・パルマ『キャリー』(1976年)(asin:B09FXX27V1
  14. ウィリアム・フリードキン『恐怖の報酬』(1977年)(asin:B093HN2J4Z
  15. フランシス・フォード・コッポラ地獄の黙示録』(1979年)(asin:B07NRLKDFT
  16. ブライアン・デ・パルマ『ミッドナイトクロス』(1981年)(asin:B07DPSP1Q7
  17. スタンリー・トン『ポリス・ストーリー3』(1992年)(asin:B00TCDETQ2
  18. リチャード・リンクレイター『バッド・チューニング』(1993年)(asin:B01M6WRRGU
  19. ヤン・デ・ボン『スピード』(1994年)(asin:B008CDAZ1G
  20. ポール・トーマス・アンダーソン『ブギーナイツ』(1997年)(asin:B004PLO5OW
  21. デヴィッド・フィンチャーファイト・クラブ』(1999年)(asin:B00HD05KAA
  22. ウォシャウスキー姉妹『マトリックス』(1999年)(asin:B003GQSXWC
  23. 三池崇史『オーディション』(1999年)(asin:B074WCMKN4
  24. M・ナイト・シャマランアンブレイカブル』(2000年)(asin:B00472MEO2
  25. 深作欣二バトル・ロワイアル』(2000年)(asin:B005FCX820
  26. ポン・ジュノ殺人の追憶』(2003年)(asin:B00JL26L7O
  27. エドガー・ライト『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)(asin:B07NRFD3XP
  28. ラース・フォン・トリアードッグヴィル』(2004年)(asin:B0002B5A5M
  29. トレイ・パーカー『チーム★アメリカ/ワールドポリス』(2004年)(asin:B00C97XYOQ
  30. ポン・ジュノグエムル-漢江の怪物-』(2006年)(asin:B08628FJDP
  31. ポール・トーマス・アンダーソン『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007年)(asin:B08Z7VRSB4
  32. デヴィッド・フィンチャー『ソーシャル・ネットワーク』(2010年)(asin:B018S2FDKI
  33. リー・アンクリッチ『トイ・ストーリー3』(2010年)(asin:B08H5K1NS2
  34. ギャスパー・ノエエンター・ザ・ボイド』(2010年)(asin:B0048LPRD2
  35. ペドロ・アルモドバル『私が、生きる肌』(2011年)(asin:B00J9SJ9C4
  36. ノア・バームバック『フランシス・ハ』(2013年)(asin:B00SFJ2KFG
  37. ジョージ・ミラー『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年)(asin:B01BMFKU60
  38. クリストファー・ノーラン『ダンケルク』(2017年)(asin:B07BFF24YN
  39. スティーヴン・スピルバーグ『ウエスト・サイド・ストーリー』(2021年)(asin:B09VL8N3CQ
  40. ジョセフ・コシンスキートップガン マーヴェリック』(2022年)

うーん、ワタシが観たことあるのは、40本中半分くらいやね。結局、『トップガン マーヴェリック』観に行けなかったなぁ。

こうして並べてみると、1980年代の作品がほぼないですな。また10月に出る彼の本で論じられている1970年代の作品は、むしろこのリストにはあまり入っていないのかもしれない。

具体的に彼がどのように上記の映画を讃えているかは、原文をあたってくだされ。

ネタ元は Boing Boing

WirelessWire Newsブログ更新(ソーシャルネットワークの黄昏、Web 2.0のふりかえり、そして壊れたテック/コンテンツ文化のサイクル)

WirelessWire Newsブログに「ソーシャルネットワークの黄昏、Web 2.0のふりかえり、そして壊れたテック/コンテンツ文化のサイクル」を公開。

今回はタイトルも長いが、文章自体もとんでもなく長くなってしまった。

今回の文章は、某所における高橋征義さんの「そういう「Web 2.0のふりかえり」、あるいは「Web 2.0大反省会」から始めた方が地に足のついた議論になりそうだとは思います」という書き込みを見たところから始まったものである。

しかし、これだけ長文を書いても「Web 2.0のふりかえり」としては全然足らず、入れたかった話はいくらでもあるのだから難儀な話である。例えば、ジョナサン・ハイトの「Meta がどう言い張ろうとも」という副題が添えられた「そう、ソーシャルメディアは民主主義を弱体化している」とか。

あと、この夏季休暇中に、刊行とほぼ同時に購入したがちゃんと読んでなかった梅田望夫ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる』を初めてちゃんと読んだのだが、この文章にはさすがに(間接的にしか)入れ込むことができなかった。

車から収集したデータはどこに送られているのか?

themarkup.org

これは労作というかインターネット時代の調査報道である。

もはや車もネットにつながるのは当たり前になりつつあるが、そういうコネクテッドカーから収集されたデータは誰の手に渡っているのか、The Markup はその37の企業を特定している。その公開先が GitHub なのが今どきというか、ニュースサイトも当たり前のように GitHub にアカウント持ってないといかんのだろうな。

問題は、車から収集したデータの販売や使用に関する規制がほぼない中で、そのデータがどんな形での収益化に使われるか、またその際、車の利用者のプライバシーはちゃんと守られるのか、だろう。

問題の37社だが、TomTom のような位置情報技術に基づくナビゲーションを提供するところ、AT&TT-Mobile など通信事業者、あと保険会社や自動車メーカーなどはそうだよななという感じだった。この記事では車両データハブや車載テレマティクスといった分類もある。個人的には Sirius XM のような衛星ラジオサービスもこの分野のプレイヤーなのにちょっと意外さを感じた。

こういう記事を見てどうしても思ってしまうのだけど、この37社のうち、日本車にサービスを提供しているところはあるのだろうか? ワタシが知らないだけで、GM による OnStar みたいな日本車メーカーによるサービスが既に稼働しているのだろうか?

ネタ元は Schneier on Security

インターネット・アーカイブのLive Music Archiveが開始20周年とな

blog.archive.org

インターネット・アーカイブLive Music Archive が20周年を迎えたことを祝している。その URL から推察される通り、etree.org コミュニティに端を発し、2002年7月に Jonathan Aizenブルースター・ケールにライブの録音音源のアーカイブをもちかけた。ケールも乗り気だったので、彼は etree.org コミュニティに「永久無料の無制限のストレージ、無制限の帯域幅」の提供をもちかけたところ、「とても信じられないが、本当にそれが可能なら、それは我々の夢そのものだ」が返事だったそうな。そうして始まった、と。

このライブ音楽コレクションについては、10年前に「Internet Archiveで音楽を楽しむ初歩のガイド」というエントリを書いたときも紹介しているが、やはりもっとも充実しているのはグレートフル・デッドで、Dead & CompanyPhil Lesh and Friends など派生バンドのライブ音源も大変な数になる。

そしてデッド関係以外でも、String Cheese IncidentTedeschi Trucks Band などアメリカのジャム系バンドが優勢だが、それ以外でも Mogwai など強いし、メジャーどころでもこの人たちの音源もこんなにあるのかと調べると驚くと思います。

yamdas.hatenablog.com

そういえば一年前にはこういうエントリを書いているが、インターネット・アーカイブはFMラジオ番組アーカイブも相当なもので、音源だけでも本当にすごいよねぇ。しかも、権利関係大丈夫かよと言いたくなるところも(笑)。

そうそう、元エントリではこのアーカイブに特に貢献の大きかった人たちの名前が挙げられているのだが、その中に(現在は Chia の CEO である)Bram Cohen の名前があるのが目を惹いた。おそらくはこのためにコードを書いたとかではなく、BitTorrent の存在自体が貢献だったということなのかな。

アンドルー・ペティグリーらの図書館の歴史を語り尽くす本が面白そうだ

blog.archive.org

そうそう、インターネット・アーカイブといえばもうひとつあった。インターネット・アーカイブは、本に関するオンライン講演を最近毎月行っており、そこで知った本をブログで紹介しようと思いながら機会を逃していた。

それが The Library: A Fragile History なのだが、古代から現在のデジタル時代までの図書館の歴史をたどる本好きにはたまらない本とのこと。

このインターネット・アーカイブでの講演だが、最初のほうでブルースター・ケールが登場してこの本の魅力を勢いよく語っていて、世界的に有名な図書館は当然として、そうでないものを含め、図書館の多様な歴史について語る本ということのようだ。

この本の副題に Fragile という単語が使われているが、一日で破壊されてしまった図書館もこの本では紹介されているとのことだが、図書館の蔵書は往々にして時とともに失われてしまうが、図書館というコンセプトは驚くほど強靭であることを訴える本みたいですね。著者の一人アンドルー・ペティグリーには『印刷という革命』の邦訳もあり、図書館の歴史本を書くのも納得である。今回の本も邦訳出ないかねぇ。

あとこの本では貴重な写本をめぐって行われた犯罪も扱っているって、これは映画『アメリカン・アニマルズ』で描かれた事件も入るんだろうな。あれは犯罪の当事者本人が出演していて驚いたものだ。

アンソニー・ボーディンが説く初めて行く都市でレストランを探す方法「ネットでオタクを怒らせる」

www.esquire.com

この2013年公開の記事は Boing Boing 経由で知ったが、この記事で世界的なセレブ料理人、フードジャーナリストだったアンソニー・ボーディンが説く、初めて行く都市で食べる店を探す方法が面白い。

アンソニー・ボーディン自身は、初めてある都市に行く場合、早朝にその街の中央市場に出向き、そこの人が買い、食べるものを観察し、その街では何がおいしいか見極めるようにしているそうだが、続けて違うやり方も紹介している。

初めて行く都市で行く店を見極めるもう一つのやり方に、ネットでオタクを怒らせるというのがある。掲示板のあるグルメの集まるウェブサイトにアクセスする。例えば、クアラルンプールに行くとしよう――マレーシアの掲示板に、最近マレーシアに行って世界最高のルンダンを食べたと言って、ある店の名前を出せば、うっとおしいグルメたちが大挙して怒りのリプライをよこし、その店はクソで、行くべきお店を教えてくれるというわけだ。

つまり、「クアラルンプールでおいしいルンダンを食べたいんですが、どこがおすすめですか?」みたいな普通の質問は興味をひかないが、間違った意見を使ってより良いお店の情報が釣れるということですね。

Boing Boing のマーク・フラウエンフェルダーは、この手法が「インターネットで正しい答えを得る最良の方法は、質問をすることではない。そうでなく間違った答えを投稿することだ」という「カニンガムの法則」に近いと書いている。

ただし、Wiki の父であるウォード・カニンガム自身は、「私は間違った答えを投稿して答えを得ることなんて勧めてないからな!」と「カニンガムの法則」を否定しているのでご注意あれ。

アンソニー・ボーディンが悲劇的な死を遂げたのが2018年で、昨年彼の生涯を追ったドキュメンタリー映画 Roadrunner: A Film About Anthony Bourdain が作られ、コロナ禍で大ヒットとなったという話は聞いたが、日本公開はかなわなかったのか。

恥さらし文章「ある「パソコンの大先生」の死」に寄せられたありがたいコメントの数々

wirelesswire.jp

先月末にこれの原稿を送付したところ、WirelessWire News 編集長から、文章の最後で「読者からのダメ出し」を募集しては、と提案をいただいた。

正直、そのときは重大問題が解決しておらず(実は今もそうなんだけど……)肉体的にも精神的にもかなり疲弊していたのだが、ここぞとばかりにワタシの攻撃的マゾヒズムが発動して、辛辣なコメントでもどうぞどうぞというマインドセットになり、その提案に乗ることにした。かくして「あなたからのダメ出し」が募集された。

8月6日に編集長より読者からのコメントを送っていただいたのだが、読んでみるとほぼすべて温かいコメントばかりでこちらが恐縮してしまった。コメントくださった皆様、ありがとうございます。

それをここで紹介しようと思ったが、考えてみればその了承を得ていないわけで、ここでの引用は止めておき、以下は公開の場での反応のみ紹介させてもらう。

text.baldanders.info

ブログでワタシの文章を取り上げたものとなると、Spiegel さんのくらいしか見つけられなかったところにもブログの退潮を実感して悲しく思う。

hayabusa9.5ch.net

エゴサーチして5ちゃんねるのスレッドでも取り上げられているのに気付いたが、ワタシの文章を実際に読んだとおぼしきコメントが見当たらないので、参考にならない。

はてなブックマークでいただいた反応では以下のありがたいコメントが代表的なところか。

あと、Twitter でいただいた反応の主なところもリンクしておく。

最後にこれだけツイートを埋め込みさせてもらったのは、いただいた反応の中で、このツイートに対してだけは唯一「GAFAMが嫌いとは一言も書いてません。あとローカルアカウントでのセットアップ方法はリンクしてますよ」とリプライさせてもらったのだが、無反応でなんだかなーと思ったから。

「自業自得」「同情の余地は全くない」という評価には、何の文句もございません。

オープンソースのセキュリティ:デジタルインフラは砂上の楼閣に築かれている?

www.lawfareblog.com

ブルース・シュナイアー先生のブログ経由で知った記事だが、これが掲載されている Lawfare の名前は以前取り上げていた

この記事が論じるのはオープンソースが抱えるセキュリティの問題であり、ワタシもこれについては「Apache Log4jの脆弱性とともに浮かび上がったオープンソースのメンテナの責任範囲の問題」などで取り上げている。この記事の著者の Chinmayi Sharma は、オープンソースの主な受益者であるソフトウェアベンダーの多くが、自分たちが利用する OSS プロジェクトに貢献するインセンティブがないフリーライダーであることをまず挙げる。このインセンティブの問題に対する制度的な対応が必要というわけですね。

ここで引き合いに出されるのはやはり、Apache Log4j脆弱性「Log4Shell」だが、脆弱性の発見から半年以上を経ても、Log4Shell の影響を受ける約30億台のデバイスのうち60%がパッチ未適用のままらしい。他にも Apache Struts の脆弱性に起因する Equifax の情報流出Atlassian Confluence のゼロデイ脆弱性といった例を引きながら、オープンソースは遍在し、もはや公共政策上でも欠かせないデジタルインフラだが、それに脆弱性があれば(プロプライエタリソフトウェアのようにその顧客だけにとどまらず)広範囲に影響を及ぼしてしまうことを指摘する。

その上で著者は、問題はコードの品質ではなく(それについてはプロプライエタリなコードと同等以上の品質は高く、米国が技術革新において優位に立つことができたのはオープンソースのコードのおかげとまで著者は認めている)、コードを保護する機関がないことだと書く。

やはりここで問題になるのは、上でも挙げたフリーライダー問題。著者は道路や橋といった公共財が使いすぎに弱いことをオープンソースに当てはめてて、ちょっとうーんと思ってしまうが、OSS プロジェクトの人気が高まるほどそのサポートは強化されなければならないのに実際はそうでないというのはそうなのだろう。

オープンソースプロジェクトの30%はメンテナが一人しかいないが、それを利用する企業にはオープンソースを改善するインセンティブがないという「傍観者効果」が起きている。オープンソースプロジェクトは、上流への貢献と持続的なメンテナンスのためのリソースを希求しているが、道路や橋に税金が投入されているようにオープンソースも支援されるに値すると著者は主張している。

ソフトウェアのサプライチェーンで最も弱いところは無責任なソフトウェアベンダーになるが、なんでベンダーはオープンソースのセキュリティ対策を本腰を入れないのか? その理由というか構図についてもこの記事ではいろいろ書かれているが、上で書いたインセンティブの問題があるのは間違いない。

これに対し、最近では連邦取引委員会が Log4Shell の対応パッチの適用が遅い企業を強制措置をかますなど、政府がオープンソースのセキュリティ問題に介入する姿勢を見せつつある。著者はその一環としての SBOM(Software Bill Of Materials:ソフトウェア部品表)を評価するが、それだけでは不十分と断じる。SBOM 自体は脆弱性情報と直接的にリンクするものではないので、その運用にはそれを読み解く能力が必要になるが、標準フォーマットも決まってないじゃないかというわけ。

オープンソースコミュニティも当然セキュリティの問題は把握しており、Open Source Security Foundation(OpenSSF)は、既に米国政府とミーティングの機会を持つなど連携しながらオープンソースのエコシステムの保護に注力しているし、オープンソースプロジェクトに無料のセキュリティ監査サービスを提供する Open Source Technology Improvement Fund(OSTIF) も成長を続けている。

しかし、オープンソースコミュニティ自体、必要なリソースと最低限のセキュリティ対策を要求する影響力を持っていない。最近、PyPI が重要なプロジェクトに対し、二要素認証を義務化をアナウンスしたが大きな反発をくらった。つまり、善意であれオープンソースコミュニティ単独でセキュリティ基準の引き上げを達成するのは難しい。

著者は、もはや公共財の性質を持つオープンソースを維持する制度的構造を構築する必要があると訴える。そして、それ自体は目新しい主張ではない。それには効率的な資源配分を確保し、最低基準を課すことが必要になるが、果たしてそれをオープンソースプロジェクトに適用するのはうまくいくかねというのがワタシの感想になる。

あとオープンソースソフトウェアと一言で言っても、開発や利用のされ方はそれぞれなのに、この文章はあまりにひとまとめにしすぎではないかいう不満もある。が、OpenSSF や OSTIF の話はこの文章を読んで初めて知ったので、そうした意味では有益だった。

あと、今年春に「デジタル世界における信頼構築のために今考えるべき「新たなサイバー社会契約」」というエントリをワタシも書いているが、サイバーセキュリティのため官民はもっと密接に連携にしなければならないというクリス・イングリス国家サイバー局長の主張の射程にもこの話は含まれるよな、と思った次第。

サイバー軍拡のいきつく先を描く『サイバー戦争 終末のシナリオ』が刊行されていた

www.hayakawabooks.com

これは面白そうだと読むうちに、これって今年はじめに書いた「もはや世界を終わらせかねないサイバー軍拡競争の最前線」で紹介した This Is How They Tell Me the World Ends の邦訳じゃん! と思いあたった。

原書は今年2月にハードカバーが出ており、それから半年足らずでの邦訳刊行なのだから、スピード出版と言えるだろう。上下巻で5000円を超えるなかなかのボリュームに少したじろぐが、それだけの価値があるとハヤカワは踏んだわけで、こないだ紹介したジェームズ ネスター『BREATH──呼吸の科学』もそうだが、こういったノンフィクションも早川書房が持っていってしまうんだなぁ、という感慨がある。

『サイバー戦争 終末のシナリオ』は、このような筆者の問題意識に見事に応えてくれた。著者のパーロースがエピローグで述べているように、本書の焦点はまさに「人」に当てられているからであり、他の「サイバー戦争本」と一線を画しているのはまさにこの点である。

【8/3(水)発売】見えない「サイバー戦争」はどこで行われているのか? 小泉悠氏による新刊解説を特別公開|Hayakawa Books & Magazines(β)

技術ドリブンのサイバー戦争本よりは開口が広い本ということか。

しかし、「邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする(2022年版)」で取り上げた洋書で、最初に邦訳が出たのがこれになるとはまったく予想してなかったな。

シド・バレットの描いた絵をはじめて見た……

boingboing.net

初期ピンク・フロイドの中心人物だったが、薬物や精神的な問題のため離脱を余儀なくされた「クレイジーダイヤモンド」シド・バレットが絵を描いていた話は何かで読んだ覚えはあるが、彼のその分野の作品を見たことはなかった。

なので、1960年代初頭から、その最晩年(!)にいたるまでの彼の作品を一望する動画には驚いた。

多彩な絵を描いていたんだな! しかし、1971年の絵の後、21世紀初頭まで制作年がほぼ10年置きくらいになってしまうのは悲しい。21世紀、つまり彼の晩年になると点数が増えるのだが、これはどういう精神面の変化だったんだろうな。

改めて Wikipedia 日本語版のシド・バレットのページを読むと、デヴィッド・ボウイが「膨大な数のバレットの絵画作品をコレクションしている」こと、その死後に実妹がインタビューで、シド・バレットが「美術史に関する研究書の執筆に傾注していた」ことを語ったらしいが、本当かしら。

そういえば、昨年には彼の全詩集が出ている。これの邦訳はさすがに期待できないかな。

Amazon のページのレビューで、「Opelがエンジニアの書き間違いで、本当はOpalというタイトルだったという事実」にはワタシもビックリ! 車の名前ではなく、オパールだったわけだが、ひどい間違いをやらかしたものだ。

近年「元奨励会三段」による評価の高い将棋本が多い

奨励会三段(指導棋士四段)の石川泰さんの『将棋 とっておきの速度計算―逆転負けを減らす5つのパターン―』が第34回将棋ペンクラブ大賞において技術部門の大賞を受賞したということで、おめでとうございます。

将棋の技術書というと、昔はプロ棋士が書くのが当たり前で、稀に特異な(あるいは革新的な)戦法を得意とするアマ強豪が書く例も少数ながらあったが、近年は元奨励会会員の方が書き、高く評価される技術書がいくつもあるように思う。

これはかつてより奨励会のレベルが上がったこともあるだろうし、プロ棋士になれなくても YouTube などでユニークな将棋についての見方を示すのが可能になったことはワタシ程度でも思いつくが、このあたり事情を知るインサイダーに解説してほしいところ。

奨励会は壮絶に厳しいところで、そこに飛び込んだ人たちの多くは、プロになれずに退会を余儀なくされる。そのあたりの悲哀については、大崎善生『将棋の子』(asin:B00LP6RWUY)というもはや古典に近い作品もあるくらいだが、退会後も将棋と関わりながら収入を得る道筋ができたのはとても良いことに違いない。

さて、石川泰さん以外にも元奨励会三段の書いた棋書というと、あらきっぺさん『現代将棋を読み解く7つの理論』『終盤戦のストラテジー』もロジカルと評判が高い。

そして、元奨励会三段というともう一方、KAI将棋教室甲斐日向さん『「駒得する」「駒損しない」 中終盤を有利に進めるための必須スキルを伝授』が先月出ている。

こうしてみると、マイナビ出版には感謝しないといけないな。

ワタシが知るのは以上のお三名だが、元奨励会三段で技術書を出されている方は他にもいるかもしれない。

ワタシも一応段位だけは将棋アマ三段だが、瞬間風速で資格を得ただけの話で、厳密にはアマ二段と名乗るのも心もとないくらい。はっきりいって、平成どころか昭和の将棋しか指せないロートルである。ワタシもこうした棋書を読んで将棋の感覚を令和にアップデートすべきなのだろう。

[追記]Kozo Kamada さんにご指摘いただいて気づいたのだが、鈴木肇さんも条件に合致する。ワタシ自身、エルモ囲いをたまさか利用するのに申し訳ありませんでした。

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