この曲には何重にも皮肉がある。この曲はマーク・ノップラーとスティングの共作だが、スティングが歌う "I want my MTV" というフレーズは MTV 開局時のキャッチフレーズで、この曲自体 MTV 批判だったりする。しかし、その曲が MTV アウォードで「ビデオ・オブ・ジ・イヤー」賞をとってしまったという第一の皮肉。そして、いまこのビデオを見ると、当時斬新と言われたコンピュータアニメーションが全然すごく見えないという第二の皮肉。
上でこの曲は MTV 批判と書いたが、曲の歌詞は家電を配達する労働者の視点から書かれている。そして、その中で faggot という単語が複数回出てくる。この単語があるため、現代イギリスでもっとも人気のあるクリスマスソングである "Fairlytale of New York" のオンエアが近年問題となる話は、北村紗衣さんの文章に詳しい。
"Fairlytale of New York" に登場する faggot は、北村さんが解説するように、この曲が書かれた当時のイギリスでは同性愛者に対する差別的な表現では必ずしもなかったのが議論をややこしくしているのだが、それより前に発表された "Money for Nothing" における faggot は、はっきり同性愛者差別的な用法だとワタシは考える。
宇野さんが言及する、プレスリーを糾弾したパブリック・エナミーの "Fight the Power" のリリックについては、ワタシ自身は当時もそれはあまり真に受けてなかった。ただエルヴィスが歌った曲の原作者がしかるべき報酬を得なかったというのはずっと引っかかっていたし、個人的にはオーティス・ブラックウェルの『These Are My Songs!』(asin:B001LIM9EA)を初めて聴いた時のショックは忘れられない(このタイトルが何を意味しているかは言うまでもないですよね?)。
これをお勧めしている Scott Nesbitt は、近頃なんでもスマート化と言われ、それが都市にも及んでいるが、スマートシティは市民によりよいサービスを提供するのが目的なはずなのに、市民が都市の統治に積極的に参加するのを推奨するのでなしに、「テクノクラート的管理主義と公共サービスを融合し、市民を「消費者」や「ユーザ」として再プログラムするのを目的としている」と書いている。
三部作ということで、こってり彼のキャリアを追ったものかと思いきや、第一部はラッパーとしてレコード契約を果たすまで、第二部はデビューして『The College Dropout』が成功を収め、グラミー賞受賞まで、そして第三部はそれ以降、という単純にキャリアを三分割したものではまったくない。でも、それがいい。