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『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』への反応 その41

しつこく『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』だが、なにせこの電子書籍の宣伝のためにブログやってるものでねぇ。

先日、子供のように駄々をこねたところ、いくつかリプライをいただいた。

こちらこそありがたいことである。

yamdas.hatenablog.com

さて、今そのときのブログエントリを見直すと、解説を書いてくださった arton さんの反応を読んで、今更ながら受けてしまった。

解説執筆者がフルパッケージの本を読んで驚きを隠さない本なんてなかなかないわけで、そうした意味で『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』はかなりヘンな本と言えるわけだ。

また、以下のコメントもいただいた。

技術書典5などで販売された特別版を購入されて積読したままの方も結構おられると思うが、まだステイホーム期間は続くので、時間ができたら読んでやってください。そして、ツイッターでもブログでも感想をちょろっと書いていただけるとなお嬉しいです。

そういえば、以前に小関悠さんも書いていた追加コンテンツ執筆、昨年やりかけたが果たせなかったことを書いているが、宣伝を続けるならそれをやらないといけないのかもという気持ちはあるんだよな。高橋さんにまた労力を割かせるのは心苦しいが。

ここでも以前反応を紹介した方なので「某氏」と名前を隠す必要もないのだけど、これには本当に恐縮してしまった。このツイートにも書いているように、ボーナストラックのエッセイ「グッドバイ・ルック」は Kindle 版、特別版(紙版)では読むことができないので、そちらを読みたい方は、購入されたものの写真かキャプチャ画像をメールで送ってくれたらファイルを送付します(以前書いたが、これまで3名の方にお送りしている)。

(ソフトバンクの意外な復活と)WeWork創業者アダム・ニューマークの隆盛と没落を描く本とテレビドラマ

jp.techcrunch.com

kabumatome.doorblog.jp

旧聞に属するが、ソフトバンクの好調な決算報告とのことで、少し前までは WeWork を代表として投資案件が火を噴きまくり、しかもその投資ファンドサウジリスクを抱えてかなり危惧されていたと記憶する。それがドヤり気味に自画自賛できるところまで持ち直したのだから、孫正義という人の引きの強さには敬服せざるをえない。

さて、TechCrunch の記事で目を引いたのが、WeWork(というか、そのお騒がせ創業者であるアダム・ニューマーク)の隆盛と没落を描いた Billion Dollar Loser という本が昨年出ていたこと。しかし、「10億ドルの負け犬」ってアダム・ニューマークにピッタリのキャッチフレーズよね。

この本については、著者 Reeves Wiedeman の公式サイトに詳しい。

eiga.com

WeWork とアダム・ニューマークについては、アン・ハサウェイジャレッド・レト主演でドラマ化されるらしいが、驚くのは、このドラマは人気ポッドキャスト WeCrashed: The Rise and Fall of WeWork が原作であること。日本でドラマ原作になるようなポッドキャストはいつ出てくるのだろうか。

またこの記事によると、WeWork についてドラマ化は他にも進行中とのことだが、その原作にあたる The Cult of We は今年夏に刊行みたい。

果たしてこれらの邦訳が出るのと、ドラマ化が実現するのとどちらが早いでしょうか。その頃、孫正義の投資案件がまた火だるまなんてことになってないといいのだが。

Instagramで特定の絵文字を非表示にすることでセクハラコメントを見なくて済むという話

boingboing.net

このエントリを書いているトランスジェンダーの権利のアクティビストである Andrea James さん(Wikipedia)は Instagram を開設したが、Twitter のような有害なプラットフォームよりは、Instagram はちょっとはコントロールが利くと評している。

要はセクハラに代表される不快なコメントを見ずに済む方法があるということである。ワタシは恥ずかしながら知らなかったのだが、Instagram ってコメントを非表示にする単語を指定できるんだ。

Andrea James さんがどういう単語を指定しているかはリンク先を見ていただくとして、まぁ、おっぱい関係のワードが多いですね。

で、さらに驚いたのは、そこで emoji(絵文字)も指定できるということ。8つの emoji を指定するだけで見たくないコメントを9割方防げるとな。そういうセクハラコメントに使われがちな絵文字は確実にあるわけだが、これもリンク先を見ると、なるほどワタシがもらうコメントにはほぼ出てこない絵文字だったりする。

女性ネットワーカーに対するセクシャルハラスメントはずっとある問題で、少し前にもそういうニュースを見たが、こういうワタシが知らない(気にする必要がなく済んでいる)対応法があるんだなと思った次第である。

以前原書を紹介した本の邦訳を紹介(おバカな答えもAIしてる、感染の法則、マイケル・サンデル先生の新刊)

邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする(2020年版)で紹介したもので2冊、そしてそれ以外にも1冊、以前このブログで原書を紹介した本の邦訳情報を知ったので取り上げておきたい。

yamdas.hatenablog.com

ジャネル・シェインの少し変化球な AI 本『おバカな答えもAIしてる』だが、これの訳者である千葉敏生さん、以前紹介したスコット・バークン『デザインはどのように世界をつくるのか』(asin:4845920204)の訳者でもあり、4月にはヒュー・バーカー『億万長者だけが知っている教養としての数学世界』(asin:4478104557)も出る。3か月連続で訳書が出るなんてすごいな!

yamdas.hatenablog.com

これは時宜を得すぎていて出ないわけがないと確信していたアダム・クチャルスキーの邦訳『感染の法則―― ウイルス伝染から金融危機、ネットミームの拡散まで』が来月出る。これは宣伝次第では売れると思いますね。

yamdas.hatenablog.com

そして、最後はおなじみマイケル・サンデル先生の新刊『実力も運のうち: 能力主義は正義か?』が4月に早くも出る(さすが早川書房)。彼のネームバリューなら不思議ではないが、これもまた時宜を得た本なのは間違いない。

実力も運のうち 能力主義は正義か?

実力も運のうち 能力主義は正義か?

キャリアを棒に振ったアルバム10選(にルー・リードの作品が2枚も入ってる……)

www.popmatters.com

「もっとも有名な10のキャリアを棒に振ったアルバム」とのことだが、そういえばこのブログでは昔「天才が意図的に作ったクソアルバム5選(でも実はそれほどひどくない)」なんてエントリを書いたことがあって、一部重なっている。

今回のリストにしても9位のビースティ・ボーイズPaul's Boutique など、Pitchfork のアルバムレビューでの10点満点の評価を知る人ならなんじゃそりゃと思われるかもしれないが、確かにリリース当時はキャリアの自殺行為とすら思われていたということですね。

そうした意味で、4位の WeezerPinkerton も Pitchfork のアルバムレビューでの10点満点で、同じくリリース時はかなり否定的な声もあったが、後に高く評価されるようになった例と言える。そういえば、リヴァース・クオモはこのアルバムについて、「最高傑作になるはずだったのにダメになってしまった。僕らバンドにとってはほぼゲームオーバーのような感じだったよ」と最近振り返っている。

そうした意味で、この「キャリアを棒に振ったアルバム」リストには逆説的な存在も含まれているわけだが、その一方でクラッシュのラストアルバムやボブ・ディランの『自画像』などこうしたリストの定番アルバムも含まれており、何よりリストのケツとトップがいずれもワタシがこよなく愛するルー・リードのアルバムというのになんとも言えない気持ちになる。

堂々の1位に輝く Metal Machine Music はワタシもただのゴミとしか思わないので別にいいのだが、最後のスタジオアルバムになってしまったメタリカとの共演作 Lulu が10位に入っているのは、やはり悲しい。

このアルバムに対する辛辣で過酷な評価が、ルー・リードをひどく傷つけたことは知られている。ワタシ自身、このアルバムは一度しか通して聴いていないので偉そうなことは言えないのだけど、リリースから10年を経て再評価されないものかと思う。

Lulu

Lulu

ちょっと気持ちが下がってしまったが、奇しくもこのリストでもセルフタイトルのアルバムが6位に入っちゃっているリズ・フェアの新曲 "Hey Lou" のビデオで、ルー・リードがチャーミングなマペットになって登場しているのを紹介しておく。これはちょっとなごんだ。

『Wikipedia @ 20』の第21章「ウィキペディアにはバイアスの問題がある」も訳してみた

Technical Knockoutウィキペディアにはバイアスの問題があるを追加。Jackie Koerner の文章の日本語訳です。

yamdas.hatenablog.com

先月の第10章に続き、Wikipedia @ 20 の第21章を訳してみた。

翻訳の目的は、前回書いた通り、これを読んだ Wikipedia に精通した人が Wikipedia @ 20 の翻訳プロジェクトを立ち上げてくれないかという期待があってのことである。

前回の「ロールプレイングゲームとしてのウィキペディア、もしくは一部の大学人がウィキペディアを好きではない理由」「ウィキペディア20年イベントに参加してみました」によると、北村紗衣さんが取り上げてくださったみたい。ありがとうございます)のテーマである「アカデミズムでウィキペディアが軽んじられる問題」が、今回の文章にも含まれているのは興味深い。

さて、今回の文章の主張にワタシはすべて賛成というわけではないことは明記しておく(著者も「多くの点で読者の考えと異なるものだったかもしれない」と書いている通り)。が、ウィキペディアに限らずインターネットコミュニティ全般に関して重要なトピックを扱った文章なのは間違いないと思うのだ。

今回訳した文章の著者について書いておくと、Wikipedia @ 20 の共同編者なのだけど、彼女のサイトの Projects のページを見ても、その仕事を一言で表現するのは難しい。アナリスト?

「バイアスはウィキペディアの問題」のところなど、いわゆる三人称単数の they を使っていると解釈して訳したが、そのあたりを含め訳のおかしいところに気づいたらご指摘ください。

せっかくなので Wikipedia 関係のニュースをいくつか取り上げておく。

nlab.itmedia.co.jp

コミュニティの行動規範(Code of Conduct)を制定したのも、今回訳した文章で力説される問題と関係しているはずである。

wikimediafoundation.org

5年ほどウィキメディア財団の CEO を務め、Wikipedia @ 20 にも第22章(最終章)Capstone: Making History, Building the Future Together を寄稿している Katherine Maher が4月に退任する模様。お疲れ様です。

アメリカでもプログラミングスクールに通ったがうまくいかなかった話があった

少し前から Twitter のタイムラインで、プログラミングスクールに通ったがうまくいかなかった話題がたまさか流れてくる印象があった。

その代表例としてあきみちさんツイートをはらせてもらったが、この話題ってどのあたりから始まったのだろうか……と少し検索してみたら、以下にその起点となる話がだいたいまとまっていた。

javablack.hatenablog.com

なんだかなぁと思ってしまう話である。誰かにそういう相談されたら、ワタシもあきみちさんのように答えると思うが、面白いと思ったのは、これとまったく同じではないが、アメリカが舞台のやはりプログラミングスクールを巡る似た問題の話を読んだことである。

onezero.medium.com

向こうでは「プログラミングスクール」より「Coding Bootcamp」という呼び名が一般的なのかな。

さて、大学で工学の学位をとったにもかかわらずサービス業しか就職できなかったジェームズ君(仮名)が技術職の求人を探していると、「初心者ソフトウェアエンジニアをもっとも多く雇用する」と謳う Revature という会社の求人が目に留まった。

Revature の求人をよく見ると、それが一般的な社員募集でなく、大学卒業生で3か月間コースのトレーニングプログラムに参加する人を募っていたのだ。Revature は応募者に住居を提供し、時給8ドルを支給する(が、家賃は差し引かれる)。トレーニングプログラムを修了したら、Revature のクライアントにプログラマとしてフルタイムで雇用してもらえる、かもしれない。

ジェームズ君には、これが望みの綱に思えた。とにかくすぐに働けるところを探していたのだ。彼は応募し、簡単な面談を経て無事合格し、Revature と契約書と取り交わした。その契約によれば、ジェームズ君はトレーニング後2年間はクライアントのために働くことを約束し、そのクライアントや勤務地を選ぶのは Revature で、2年以内に辞めた場合、36,500ドルもの違約金が発生するかもしれない。

法律の専門家によれば、こういう契約は「年季奉公(indentured servitude の訳だが江戸時代みたいだな。奴隷労働のほうが近い?)」みたいなものだという。Revature は成長しているようで、ジョージ・メイソン大学やアリゾナ州立大学などと提携している。2020年1月時点で大学卒業生の4割が失業に直面していることを考えれば、「年季奉公」でも多くの卒業生は喜んで受け入れるかもしれないのだ。

つまり、この Revature という2016年に創業した会社、半分はトレーニングプログラムの会社であり、もう半分は人材派遣会社なのである。この記事を読む限りは、人材派遣会社としての仕組みがパソナあたりを連想させるが、アメリカにおいてもプログラミングの技能を持つ大卒者は少なく、Revature のようなプログラミングスクールと人材派遣業を組み合わせた企業がトレンドらしい。

問題は、Revature との契約内容に反して離職した場合の36,500ドルという高額の「約束手形」である。そして、それだけではなく Revature との契約には、契約者を実質的に支配できる搾取の条件が組み込まれている。この会社と提携している大学がいくつもあるというのに暗澹たる気持ちになるが、大学はその重要な機能を民間の営利企業にアウトソースして、学生たちは食い物にされていると言われても仕方ないんじゃないか。

Revature(並びにそれと提携している大学)側の主張もこの文章では紹介されているが、いやはや、アコギな商売ですな。

ネタ元は Digg(って、Digg をブログのネタ元として紹介するのはおよそ10年ぶりだ!)。

偏向した言論や陰謀論など現在の汚染されたインターネットのフィールドガイド『You Are Here』が面白そうだ

調べものをしていて、「偏向した言論、陰謀論、そして我々の汚染されたメディア景観のフィールドガイド」を謳う You Are Here という本が MIT Press から来月出るのを知った。

「我々の汚染されたメディア景観」とのことだが、やはりインターネットが調査の主戦場で、この本の著者二人の名前、どこかで見たことあるな……と記憶を辿ると、ネット上の荒らしを専門としていたり、インターネットミームについての本を出しているヘンな研究者同士の共著として『The Ambivalent Internet』を「邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする(2017年版)」で紹介していたんだった。

現在のメディアとしてのインターネット、そこでの言論の問題を論じるには、こういう人たちの本が良いのではないかと直感的に思ったりする。craigslist の創業者であり、今は慈善事業に軸足を移しつつあるクレイグ・ニューマークや、『つながりっぱなしの日常を生きる: ソーシャルメディアが若者にもたらしたもの』に続く新刊をそろそろ読みたいダナ・ボイドが推薦の言葉を寄せてますな。

調べてみるとこの本の公式サイトができており、前書きが公開されている。おっと、CC-BY 4.0 指定なので翻訳しようかな……と思いつつさすがに手がまわらない。

この本とか邦訳出るといいのだけど。

Five Booksで2020年最高の本をジャンル別に探す(今回もカタパルトスープレックス賛)

yamdas.hatenablog.com

もう今年も2月も半ばになって昨年2020年の話をするのもなんだが、2019年版に続いて2020年版もやっておきたい。

というか、少し前に2019年版で取り上げた(昨年末ビル・ゲイツもお勧めしてた)『RANGE』の邦訳の Kindle 版が安売りしてたので買って読み始めて、これはいい本だ……あ、一年以上前に Five Books 企画やったねぇ、と思い出したというのがホントのところだったりする。

そういえば『RANGE』を読んでいて、『Calling Bullshit』が講義名として出てきて、あっとなったな。

さて、今回も2020年版として Five Books の The Best Books of 2020 から適当にジャンルをみつくろって紹介したい。

fivebooks.com

やはりノンフィクション分野が気になるわけだが、5位に入っているダニエル・サスキンドの『仕事のない世界』は例によってカタパルトスープレックスで書評を読んでいた。

A World Without Work: Technology, Automation, and How We Should Respond

A World Without Work: Technology, Automation, and How We Should Respond

2位に入っているガイア・ヴィンスの本は『人類が変えた地球: 新時代アントロポセンに生きる』(asin:4759815988)に続いて邦訳が出るでしょうな。

Transcendence: How Humans Evolved through Fire, Language, Beauty, and Time

Transcendence: How Humans Evolved through Fire, Language, Beauty, and Time

  • 作者:Vince, Gaia
  • 発売日: 2020/11/05
  • メディア: ペーパーバック

fivebooks.com

続いて経済学の本だけど、3位に入っている『If Then』はカタパルトスープレックス翻訳書ときどき洋書で書評を読んでいる。「冷戦時代のケンブリッジ・アナリティカ」というべき企業がテーマで、これは邦訳期待やね。

If Then: How the Simulmatics Corporation Invented the Future

If Then: How the Simulmatics Corporation Invented the Future

  • 作者:Lepore, Jill
  • 発売日: 2020/09/15
  • メディア: ハードカバー

4位に入っている『Boom and Bust』、この書名自体は「景気循環」という一般的な表現だが、昨年ウォール・ストリート・ジャーナルで見た紹介を読むと、「バブル」を理解するのによい本みたい。

Boom and Bust: A Global History of Financial Bubbles

Boom and Bust: A Global History of Financial Bubbles

fivebooks.com

お次は科学本だけど、2位に入っている『The Great Pretender』って、『脳に棲む魔物』(asin:4047313971)のスザンナ・キャハランの新刊か……とさも知ったように書いてしまったが、未読です。すいません。

あと5位に入っている『The World According to Physics』は、トランネットにブックレビューが載ってたから邦訳出るね……と思ったら、飽くまでブックレビューであり、出版翻訳オーディションにかかったわけではないのか。ふーむ。

The World According to Physics

The World According to Physics

  • 作者:Al-Khalili, Jim
  • 発売日: 2020/03/10
  • メディア: ハードカバー

fivebooks.com

こちらはフィナンシャルタイムズとマッキンゼーが選ぶビジネス書だが、1位は『NO RULES(ノー・ルールズ) 世界一「自由」な会社、NETFLIX』という邦訳が既に出ている。

3位と4位は上で取り上げた本だし、5位に入っている Instagram業物語は例によってカタパルトスープレックスで書評を読んでいた。これは今年邦訳出るやろね。

あと上の経済学編でもここでも2位に入っている『Deaths of Despair and the Future of Capitalism』は、2015年にノーベル経済学賞を受賞したアンガス・ディートンとその妻の経済学者アン・ケイスの共著で、先月邦訳が出たばかり。

絶望死のアメリカ

絶望死のアメリカ

しかし、この邦題では資本主義の問題というテーマが伝わりにくい。6位に入っているレベッカヘンダーソンの『資本主義の再構築』もそうだけど、資本主義どうよ? がこの10年ばかりの今どきな重要テーマなのは間違いない。

今回もカタパルトスープレックスで書評読んで元本まで読んだ気になっているものが3冊あったわけだが、本当にお世話になっているブログである。改めて感謝させていただく。

すばらしき世界

以下、公開中の映画の内容に触れているため、ネタバレを気にする人は観てから読んでください。

西川美和の映画は、2006年に『ゆれる』を観て衝撃を受け、以後新作が出るたびに映画館に足を運んできた。前作『永い言い訳』から4年以上経って公開される新作は、彼女の映画で初めて小説原案(佐木隆三『身分帳』)とのことで、どんな内容か予想がつかなかったし、役所広司が主人公というのである程度安心感があったので、それ以外は事前に情報をできるだけ入れないようにして観た。

しかし、新作のタイトルが『すばらしき世界』と聞いて、一つ予想がつくことがあった。こんなタイトルが映画の最初にいきなり画面に映し出されるなんて想像できない。これは『ダークナイト』以降顕著に増えた(体感)映画の最後にどーんとタイトルバックを持ってくるパターンじゃないか、と思ったわけである。で、それで当たりだった。

上記のパターンの作品で、個人的に心を打たれた例に『アリスのままで』があるし、なるほどと思ったのは『メッセージ』(当然ながら原題がね)があるが、本作にはそうした予想の範疇に収まる弱さがある。例えば、誉める人が多い、梶芽衣子が歌う「見上げてごらん夜の星を」も、そうした意味で個人的にはさほど感心しなかった。

こうして最初にネガティブっぽい書いてしまったが、本作は素晴らしかった。何より役所広司演じる、直情的で不器用で、怒りっぽかったり調子が良かったり気分でころころと表情が変わる、つまり実に人間的な主人公がずば抜けて良かった。主人公と再会した仲野太賀がきっぱり「カメラはありません」と言い、その後西鉄バスが映った時点でワタシの涙腺は決壊し(そこで?)、後は大体泣きながら観ていた。

殺人の罪で服役した主人公娑婆に出たとき、彼の前に立ちはだかる壁の描写はしっかりリアルで、果たして主人公は更生できるのか、観ている側もハラハラしながら見守る形となる。彼はこの社会に順応できるのか、順応することが良いことなのか――本作が果たしてどういう結末になるかは映画館で観てくださいとしか書けないのだけど、登場人物がそれぞれ別の方向を向く中でカメラが空に切り替わり、タイトルが出るという最初に書いた話になるが、いや、これは傑作でしょう。

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』への反応 その40

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』だが、なんともいえないコンテンツの中で名前を見つけてしまったので紹介したい。

prisonerschronicle.net

Google 以外の検索サイトでエゴサーチしていて見つけたウェブページだが、見れば分かるようにここでは『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』の名前が出てくるだけで、別に書評をいただいたわけではない。それならなんでとりあげるのか。それは、このウェブページの出自が独特だからだ。

このページ、エントリのタイトルに「2018年4月15日」とあるのに、実際にウェブに公開されたのは2020年11月20日で、2年半以上の差異がある。それは以下の事情による。

このサイトはとある詐欺事件がきっかけでPFIの刑務所である播磨社会復帰促進センターに2018年1月から2020年8月まで服役していた男が、獄中で毎日欠かさず書いていた日記をブログ形式で公開するサイトです。

プロフィール │ Prisoner's Chronicle

つまり、「2018年4月15日」の記述は、このブログ主が服役していたときのものなのである。これにはかなり驚いた。

このブログ「刑務所で過ごした1000日の記録│Prisoner's Chronicle」の更新はまだ継続されているのだろうか。『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』がこの方の更生に何かしらお役に立てるかは分からないが、その一助になればと著者として望みます。

さて、それはそうと、旧版を購入済だが最新版を入手されていない方は、今からでも更新されることをお勧めします。

Guardianが選ぶ最高のネットラジオ局10選

www.theguardian.com

コロナ禍にリモートワークが増えた昨年、部屋で何を聴くかいろいろ試行錯誤があった。個人的には、アメリカのジャムバンドが3~4時間のライブ音源を YouTube に公開してくれたのがありがたく大分お世話になったが、最近は(有料課金している)Apple Music で好きなジャンルのプレイリストを適当に流すことも多くなっている。あと、柳樂光隆さん作成のプレイリストにもお世話になった。

そういう意味でネットラジオにも興味があるのだけど、ワタシはこのあたり知識がなくて――と思っていたところに Guardian が選ぶ最高のネットラジオ局10選記事を知る。

選んでいるのが Guardian の人なのでイギリスのネットラジオが多めだけど、元々海賊ラジオだった Rinse FM など、コミュニティベースでやってるものまでチョイスに入っているのが面白い。

恥ずかしながらワタシの場合、このリストに入っているものでは Worldwide FMKEXP しか知らなかった。少しこの記事で紹介されているネットラジオ局を試してみましょうかね。

KEXP は YouTube チャンネルで公開しているライブパフォーマンスを以前からたまさか見ていて、最近公開されたものでは、昨年の新譜も見事だったルーファス・ウェインライトのライブパフォーマンスが良かったですね。

Unfollow The Rules

Unfollow The Rules

F・スコット・フィッツジェラルド『グレート・ギャツビー』がパブリックドメイン入りし、さっそく二次創作がいくつも発売されていた

yamdas.hatenablog.com

F・スコット・フィッツジェラルドグレート・ギャツビー』のパブリックドメイン入りについては2020年秋、というか正確には「なぜギャツビーはパブリックドメインでないのか?」を訳した2013年の時点から話題にしてきたことだが、無事2021年の幕開けとともにパブリックドメイン入りした。

bnet.substack.com

で、それからまだひと月も経たないうちに、その二次創作とでもいうべき作品が発売されているというのだ。このエントリでも触れられているが、こういう事例で真っ先に思い出すのは、ジェーン・オースティン高慢と偏見』を下敷きにして書かれたセス・グレアム=スミス『高慢と偏見とゾンビ』(asin:4576100076)とその映画版(asin:B0781VSQSW)だが、『グレート・ギャツビー』の場合、どういう二次創作が書かれたのか。

グレート・ギャツビー・アンデッド

ネタバレしてしまうと、ギャツビーが吸血鬼という設定の二次創作ですな。やはりホラーにされるんだな。

The Great Gatsby Undead

The Great Gatsby Undead

ペーパーバック版はアダルト指定を受けているのに注意。

AIが書いた派生作品『よりグレートなギャツビー』

グレート・ギャツビー』をソースにして AI に生成させた小説という触れ込みが『The Greater Gatsby』だが、ホントかね?

同性愛版ギャツビー

二次創作となると、やはりこれが書かれるわけですな。『The Gay Gatsby』ってそのまんまやね。

なんというか予想の範疇というか、『高慢と偏見とゾンビ』のような映画化もされるパワーのある二次創作はまだなさげである。

ネタ元は Pluralistic

そうそう、二次創作ではないが、昨年秋にジョン・グリシャムの(そして村上春樹訳の)『「グレート・ギャツビー」を追え』という本が出てますね。

実は2020年は大久保ゆうさんの年だった

大久保ゆうさんというと、The Baker Street Bakery での翻訳公開、並びに青空文庫での活動がよく知られているが、実は昨年大久保さんの訳書が4冊(!)刊行されている。

ウェザリーの動物デッサン 立体と線でみるみる描ける!

ウェザリーの動物デッサン 立体と線でみるみる描ける!

世界の美しいベーカリー デザイン&インテリア

世界の美しいベーカリー デザイン&インテリア

  • 発売日: 2020/07/08
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

騎士の掟 (フェニックスシリーズ108)

騎士の掟 (フェニックスシリーズ108)

2020年、大久保ゆうさんは身辺整理されるとともに一気に翻訳仕事を増やされたのか、グラフィック寄りの本からワタシも大好きな役者であるイーサン・ホークの小説、そして「SF界の女王」(というか世界的な大作家だった)アーシュラ・K. ル=グウィンの短編集とジャンルも幅広く手がけている。2020年は大久保ゆうさんの年だった、と書くと大げさだろうか。

そして、2021年に入ってまもなくグラフィック寄りの訳本が早速刊行されている。2021年も複数の訳書が出るのではないか。

イマジンFXの描くための解剖学

イマジンFXの描くための解剖学

  • 発売日: 2021/01/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

これは個人的な話だが、香月啓佑さんからお誘いいただき、昨年、一昨年と大久保さんにお会いする機会を持てたのはありがたいことである。大久保さんにはますますのご活躍を期待したい。

最高のカルト映画50選

www.theringer.com

カルト映画というのもきっちりした定義があるわけではないのだけど、こういう記事は思わず観てしまうね。

まずはこのチョイスにおけるトップ10は以下の通り。

  1. コーエン兄弟ビッグ・リボウスキ』(asin:B006QJT56O
  2. ジム・シャーマン『ロッキー・ホラー・ショー』(asin:B079VRXB27
  3. リチャード・リンクレイター『バッド・チューニング』(asin:B01M6WRRGU
  4. ロブ・ライナースパイナル・タップ』(asin:B088KMXV3N
  5. リチャード・ケリードニー・ダーコ』(asin:B01KNOBJSE
  6. デヴィッド・ウェイン『ウェット・ホット・アメリカン・サマー』
  7. デヴィッド・リンチイレイザーヘッド』(asin:B072LTGLT6
  8. テリー・ギリアムテリー・ジョーンズモンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』(asin:B00UTGTR90
  9. マイケル・レーマンヘザース/ベロニカの熱い日』(asin:B07SDF7FB4
  10. マイク・ジャッジ『リストラ・マン』

そういえば10年以上前に「いまどきのカルト映画10選」という記事を書いているのだが、それとかぶっているのは『ドニー・ダーコ』と『リストラ・マン』だけか。

リンクをはってるもの以外でこの中でワタシが観たことがあるのは『ビッグ・リボウスキ』と『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』だけなんだよな。『イレイザーヘッド』は Netflix に入っているのに気づいてマイリストに入れているのだが、いつになったら観るのやら。リチャード・リンクレイターの映画がもっと Netflix に入ってくれんかな。

1位は『ビッグ・リボウスキ』か。そういえば、これに主演したジェフ・ブリッジズは、この映画で演じた Dude という主人公のキャラクターを踏まえた禅(!)の本を共著してたっけ。

The Dude and the Zen Master

The Dude and the Zen Master

さて、11位から50位までに入っている作品で観たことがあるのは以下の感じ。

こうして並べると結構観ているようだが、それでも全50本中21本と全然大したことない。元リストを見たら、なんでこれ観てないんだよ、と言われること間違いなしである。それに書きにくい話だが、上に挙げた映画でも、観るには観たが、正直あまり内容を覚えていないものもあったりする。

このリストの中で観てるのでは、サム・ライミテリー・ギリアムが3作でもっとも多い。続いてBABYMETALを気に入っているらしいジョン・カーペンターが2作か。

ネタ元は Boing Boing

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