当ブログは YAMDAS Project の更新履歴ページです。2019年よりはてなブログに移転しました。

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アカデミー賞にひとつもノミネートされなかった名作映画の数々

toyokeizai.net

ご存知の通り、来月発表される第94回アカデミー賞において、濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が作品部門を含む4部門でノミネートされたことが話題となっている。

ワタシ自身は本文執筆時点で『ドライブ・マイ・カー』を観ていないのでコメントできないが、日本映画が作品賞と脚色賞にノミネートされるのは初めてだし、国際長編映画賞の受賞はかなり有力、脚色賞もそこそこ有力らしく、期待が高まるのも当然よねと思う。

今回のアカデミー賞に関する報道を見ていて、そういえばアカデミー賞にまったくノミネートされなかった名作を集めた記事とかあったなと思い出し、調べてみたら以下の3つが出てきた。

  1. 50 Great Movies That Were Not Nominated For Any Oscars | IndieWire
  2. 32 Great Movies That Received Zero Oscar Nominations (Photos)
  3. 47 brilliant movies that somehow never won a single Oscar nomination | The Independent

1は2015年の記事だが古い映画に偏りがちで21世紀に公開された映画では1本しか入っていないのがマイナス、2は2021年の記事でその点バランスが良い、そして3の記事は確か北村紗衣さんの Twitter 経由で知ったと記憶するが、記事公開は(記載と異なり)昨年だったような。

ともかく、この3つすべてに入る作品なら、「アカデミー賞にまったくノミネートされなかった名画」認定して差し支えなかろう。それは以下の13作品になる(公開年順)。

考えてみれば、非英語圏(特にアジア)の名作映画の多くが当たり前のように「アカデミー賞ノミネートなし」なわけで、そういう作品ばかりだったらどうかと思ったら、こうして条件に合うものを選んでみると、そんな感じではない。非英語圏の作品はゴダールの『勝手にしやがれ』だけで、これはワタシも熱烈に好きだが、20年以上観ていないので、今観るとどうだろう……。

(今となっては)有名監督の作品が並んでいるが、ハワード・ホークススタンリー・キューブリックの映画がそれぞれ複数入っていますね。こうしてリストにしてみると、観てない映画の存在が胸にチクチクくる。キューブリックの『突撃』とスコセッシの『ミーン・ストリート』は、いずれも敬愛する監督の作品なのに観てないし。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』なんて10年以上前に DVD 買ったのに未だ観てないんだよな。『ゾディアック』も Netflix のマイリストに入れてるのになかなか手が伸びず……。いかんなぁ。

ついでなので、3つのリストのうち2つに入っている作品も公開年順に並べてみる。

こちらにはニコラス・ローグの作品が2つ入っている。小津の『東京物語』も入っているが、敗戦から10年も経ってない頃に作られた日本の映画がアカデミー賞にノミネートなど現実的な話ではなかったと思うね。

ミラーズ・クロッシング』(実はコーエン兄弟の映画で一番好き)や『花様年華』などワタシも好きな作品もあるけど、疑問を感じるものもある。『アメリカン・サイコ』は今やカルト映画の定番扱いで、クリスチャン・ベールはノミネートされるべきだったかもしれないが(名刺自慢合戦やヒューイ・ルイスの素晴らしさを熱弁しながらの惨殺場面!)、あの映画エンディングとかまったく記憶に残ってないんだよな……。

リストを作っていて気になったのは、1990年代以降の近作のいくつかが、DVD で新品を入手できないこと(Amazon マーケットプレイスの価格がとんでもないことになってたりする)。クロエ・ジャオ『ザ・ライダー』はもはやディスクが発売されていないが、それを含めどのストリーミング配信サービスでも観れるわけではない。そんな中、長らく品切れ状態だった『天才マックスの世界』の DVD 廉価版が4月に出るのは朗報か。

あと一つのサイトでしかランク入りしてなかったけどワタシも同意する映画となると、IndieWire のリストでは『我輩はカモである』(1933年)、The Wrap のリストでは『ヘレディタリー/継承』(2018年)、Independent のリストでは『ミッドナイトクロス』(1981年)あたりでしょうか。特に『ヘレディタリー/継承』のトニ・コレットがノミネートされなかったのは、個人的に許しがたい。

アカデミー作品賞をとったのに今では相手にされることが少ない映画もいくつもあり、アカデミー賞のノミネートがなんぼのもんじゃいという意見もあろうし、過小評価された映画はいつの世にあると言ってしまえばそれまでだろうが、何か観たい映画を探している人にちょっとよい情報かと思いまとめてみた次第である。

10年生きのびたGumroadの創業者が起業本を書いて(起業塾を始めて)いた

少し前に、ネット上でデジタルコンテンツを販売できる決済サービス Gumroad のことを調べることがあった。

ascii.jp

サービスが正式にスタートしたのが2012年2月で、つまりはちょうど10年前だ! その翌月には日本でも話題となり創業者の Sahil Lavingia がインタビューを受けているが、この時彼はまだ19歳(!)だった。

で、それから10年の時を経て、今も Gumroad は生き残っているが、iTunes 越えはさすがに達成されていないし、当初話題となった日本語対応もとっくになくなっている(よね?)。

Gumroad のサバイバルはなかなかの苦難の道のりだったようだ。

gigazine.net

Pinterest の2番目の社員だった Sahil Lavingia が週末プロジェクトとしては始めた Gumroad はいきなり注目を集め、資金調達も当初は快調だったが、そのうち成長が止まり、社員を解雇せざるを得なくなり、やがてはサンフランシスコを離れ、個人企業の域に戻ってしまう。

しかし、10億ドル企業を作るという起業当初の成功基準は満たせなかったが、Gumroad を回し続け、彼なりのポジションをつかんだと言える。

gigazine.net

gigazine.net

Gumroad は個人企業であれば問題ない着実な成長を続けており、Sahil Lavingia も「元祖クリエイターエコノミー」、「オレ流ワークスタイル」をアピールできる余裕がでてきた感じである。

www.minimalistentrepreneur.com

昨年、彼は The Minimalist Entrepreneur といういかにも彼らしい名前のサイトで6週間のオンライン講座からなる起業塾を主催しており、同名の書籍を昨年秋に出していた。

「優れた創業者は、いかにして少ない人数で多くのことを成し遂げるか」という副題に、個人企業に戻りながらも Gumroad を10年持続させてきた Sahil Lavingia の矜持を感じさせる。

とにかく起業すればビッグになれる! な煽り本よりも、これくらいのスケール感の起業本が今の日本でもリアルなのかもしれませんな。日本のウェブメディアも今の彼を取材してみてはいかがでしょうか。

Facebookの「醜い真実」を描いたノンフィクションの邦訳『フェイスブックの失墜』が来月出る

yamdas.hatenablog.com

Facebook の(元)社員など数多くの関係者に取材して、その「醜い真実」を描いたノンフィクションについては昨年夏の原書刊行時に取り上げているが、調べものをしていて、その邦訳『フェイスブックの失墜』が来月発売になるのを知る。

原書から一年足らずでの邦訳刊行というのは素早い。版元は早川書房で、以前にも書いたが、本当に仕事が早いな!

しかし、こうして早川書房の迅速な仕事を知ると、原書がおよそ2年前に出てから今なお邦訳が出ないスティーブン・レヴィの『Facebook: The Inside Story』はどうなってるのか? と心配になってくる。話が進んでいればいいのだけど。

黒人や多様な歴史に光を当てるウィキメディア財団のコラボプロジェクトWiki Unseen

wikimediafoundation.org

ウィキメディア財団Wiki Unseen というプロジェクトを立ち上げている。

これは2月が黒人歴史月間なのを受けたもので、Wikipedia をはじめとする Wikimedia 財団が手がけるプロジェクトにおける BIPOC(黒人、先住民、有色人種)の(ヴィジュアル)コンテンツを拡大し、知識の公平性のギャップを埋めることを目的としている。

手始めに AfroCrowd.org とのコラボレーションで、アフリカ系の著名アーティストに依頼して、Wikimedia Commons にコンテンツがない偉人の肖像画を制作するという。

要は、黒人など BIPOC な人達の(ヴィジュアル)コンテンツが、白人と比べて少なく Unseen になっているという反省を踏まえ、「世界中の人たちがあらゆる人類の知識の総和を共有できるようにする」とウィキペディアのヴィジョンの実現を目指して、そちらの拡充を意識的に目指すものですね。

www.yamdas.org

これは昨年ワタシが訳した文章だが、これも知識の公平性の面で「ウィキペディアにはバイアスの問題がある」という問題意識に基づくという意味で、今回の取り組みにつながるものである。

この文章でも、「ウィキペディアは、圧倒的に西洋のシスジェンダーの男性の主張、意見、そしてバイアスを具現化した」過去があり、「出版された資料から得られる知識は偏っている。資料に出てくる人や知識も、主に白人の男性である」と主張されている。

ただ訳しておいてなんだが、Jackie Koerner の意見には正直賛同できないところがあり、上記のバイアスは確かにあるだろうが、百科事典が百科事典である根本を支える「信頼できる情報源の方針」を「出版された資料から得られる知識は偏っている。資料に出てくる人や知識も、主に白人の男性である」と斥けかねないところに危うさを感じた。

そうした意味で、今回の Wiki Unseen の取り組みは、明らかに現状足らないものを補うものであり、良い取り組みだと思う。

メイカー×音楽の祭典Maker Music Festivalが5月に開催される

www.makermusicfestival.com

Adafruit Industries のブログ経由で、Maker Music Festival というイベントを初めて知った。

これはまさに音楽分野のメイカーの祭典だけど、2018年に最初のフェスティバルが開かれていたようだ。で、昨年からコロナ禍を受けてバーチャルイベントになったようで、毎年開催としては今年が2回目らしく、今年は5月14日、15日に開催とな。

www.makermusicfestival.com

ざっとサイトを見たけど、昨年のフェスで日本からの参加者は、Tetsuji Katsuda さんの、楽器の演奏でロボットを動かしてレースをするゲーム Music Derby くらいだった。

公式 YouTube チャンネルの動画を探したら Tetsuji Katsuda さんの動画があったが、見てみるといきなり出てくるのが高須正和さん! なんだ、高須さんも参加してたのか。さすがやね。

思えば、Maker Faire Tokyo でも音楽の部はあったと思うが、オライリー・ジャパンから出ている Make 関連本で音楽をメインテーマにしたものって Make: Analog Synthesizers くらいじゃないかな。このメイカー×音楽分野で面白い本が今後他にも出るといいのだが。

ギャビン・ウッドの「ĐApps:Web 3.0はどんなものか」を訳した

Technical KnockoutĐApps:Web 3.0はどんなものかを追加。Gavin Wood の文章の日本語訳です。

注記している通り、これは2014年4月、つまりおよそ8年前の文章である。なんでそんな古い文章を訳したのか?

www.neweconomy.jp

少し前に Web3 Conference Tokyo なるものが開催されたらしく、もちろんワタシは参加していないのだが、Ethereum の共同創設者であるヴィタリク・ブテリンへのインタビューが記事になっており、その中で「Web3.0というワード自体、ギャビン・ウッドが2014か15年に提唱し始めたものです」と語っている。

そうそう、やはり Ethereum の共同創設者であるギャビン・ウッドがこのワードを提唱した文章について、星暁雄さんも触れていたなと思い当たり、既訳があるに違いないが、ざっと探した感じ見つけることができなかったので、訳してみようと思った次第である。

何しろ文章の翻訳というもの自体かなり久しぶりにやるので至らないところもあるだろう。誤記誤訳を見つけたらメールやコメントなりで教えてください。

2022年現在、この文章にどれくらい現代的価値が残っているかは分からないが、これは個人的な取り組みとしてやったものである。拙著『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』において、最終的に Decentralized Web というコンセプトに行きついたところがある。

しかし、これに収録した文章を連載していた当時、ギャビン・ウッドの文章は不勉強で読んでなかった。今一度このあたりに立ち返って辿ってみようと思ったわけである。今読み直すと、真っ先に言及されるのがエドワード・スノーデンだったり、昨今のバズワードとしての盛り上がりとは別のところへの関心が分かって興味深い。が、再度書くようにこの文章にどれくらい現代的価値が残っているかは分からない。

yamdas.hatenablog.com

Web 3.0(Web3)界隈について既に取り上げているが、相変わらず騒々しいというか、Web3、NFT、メタバースバズワード三題噺といった趣である。Coral Capital がまとめた三部作が参考になろう。

ただワタシ自身はだんだんとこの言葉に懐疑的になりつつあり、むしろ Web3 が分散どころか中央集権に加担しているじゃないかというスコット・ギャロウェイの視座を現状否定できないと思うし、界隈の一部の VC(というか、はっきり言えば a16z)の悪目立ちぶりに嫌悪感を禁じ得ない。

www.fastcompany.com

そうした意味でティム・オライリーの穏当な懐疑的な視座がしっくりくるというところが正直なところ。

ただ最初にリンクしたヴィタリク・ブテリンのインタビューを読んでも分かるが、スケーラビリティの向上などの課題は認識されており、「Proof of Stake」への移行などがどの程度うまくいくかなど情報は追っていくつもりである。

ピーター・ティール、イーロン・マスクをはじめとする「ペイパルマフィア」を通して今一度シリコンバレー精神を語る本が出る

wired.jp

「シリコンヴァレー随一のヴィラン(悪役)でカリスマ」とは、ピーター・ティールにまさにぴったりなキャッチフレーズである、と彼をはっきり嫌いなワタシも認めざるをえない。

この記事でも紹介されているように昨年ピーター・ティールについて The Contrarian という本が書かれており、Facebook に最初期から投資し、取締役を務めながらマーク・ザッカーバーグと緊張状態にあったりリバタリアンなのに監視技術を政府に売り込む(そのくせ監視 AI の危険性を訴えたりする)ような矛盾に満ちた興味深い人物像について分析がなされている。

nymag.com

これは『The Contrarian』からの抜粋だが、個人的に笑ったのは、ピーター・ティールとイーロン・マスクの両方と話をしたことのある人の簡潔な評言。

イーロン・マスクはピーター・ティールをソシオパスだと思っていて、ピーター・ティールはイーロン・マスクを詐欺師の大口叩きだと思っている」

ピーター・ティールとイーロン・マスクのつながりというと、「ペイパル・マフィア」という言葉がまず浮かぶ。その面子については Wikipedia の項目を見ていただきたいが(この有名な写真にマスクがいないのは、当時ティールからペイパルを放逐されてたから?)、ティールやマスクの他にも後に YouTube、LinkedIn、Yelp といった錚々たるサービスを創業した人達を含んでいる。

wired.jp

今や世界でもっともリッチな人になり、ブイブイ言わせているイーロン・マスクは、実際ピーター・ティールとはどういう仲なんだという下世話なところもあるし、シリコンバレーを支配するリバタリアン精神を知る上でも、「ペイパル・マフィア」を総括する本が必要なんじゃないかなと思っていたら、「Paypal の物語とシリコンバレーを形作った起業家たち」という副題の The Founders というその需要を満たしそうな本が今月出るのを知った。

ウォルター・アイザックソンも推薦の言葉を寄せてますな。この本の著者は『クロード・シャノン 情報時代を発明した男』(asin:4480837205)の邦訳があるジミー・ソニか。

『The Contrarian』か『The Founders』のどっちか邦訳出るかねぇ。

ウィキペディアの項目を時系列で並べるゲームが面白い(が難しい)

wikitrivia.tomjwatson.com

kottke.org で知った Wikitrivia というサイトだが、要は Wikipedia の項目を古い順に並べるゲームですね(人や団体の場合、それが生まれた年)。

英語版の項目名とその概要しか表示されないので、日本人には何気にハードルが高いのが難点か。世界史の知識があったほうがよいに違いなく、それがはっきり足りないワタシの場合、何も参照しないと10くらいがせいぜいである。

既に並べたカードをクリックすると正解の年と Wikipedia の項目へのリンクが表示される仕掛け。

Wordle に飽きた人はこちらを試してみてはいかがでしょう(笑)。

yamdas.hatenablog.com

Wikipedia を使ったゲームはウィキレーシングなど過去にもあったが、Wikipedia を素材に面白いゲームを作ろうという試みはもっとあってよい。

もっとも Wikipedia の編集に関わること自体をロールプレイングゲームとみる人もいる(笑)。

「修理する権利」の重要性を考える上で決定版な本が出る

Pluralistic 経由で、The Right to Repair という新刊を知る。ズバリ書名通り「修理する権利」をテーマとする本である。

これの著者の Aaron Perzanowski は、「邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする(2018年版)」で取り上げた The End of Ownership という刺激的な本の共著者だった。あれを書いた人の新刊なら期待できる。

近年、欧米では「修理する権利」を求める声が徐々に高まっており、それは昨年「修理する権利」を認める法律が可決されたことに結実する。

wired.jp

やはりこれもリナ・カーンとティム・ウーのバイデン政権入りが大きかったようだ。

しかし、この記事にもあるようにメーカー側の反発は大きい。デジタル家電の複雑化、サイバーセキュリティ、特許保護など「修理する権利」に反対する理屈はいくつもある。

eleminist.com

アメリカだけではなく EU でもそのあたりの規制案が採択されているが、日本では認知度もそのための動きも低調なようだ。

コリイ・ドクトロウによると、この本は知的財産法から貿易法、消費者保護、消費者安全、サイバーセキュリティ、不正競争といったいろんな観点に関して、消費者主義の名の下に企業の主張を粉砕しているとのことで、消費者にとっての「修理する権利」入門書として最適なものと思われる……が、邦訳は難しいかなぁ。

ドクトロウ以外にもブルース・シュナイアーとケイト・ダーリングなどが推薦の言葉を寄せている。

wired.jp

……と思ったら、Wired にまた「修理する権利」の記事が出た。この権利のために車の最新機能が使えない? という話だが、「修理する権利」があったとしてもハイテク化する製品に我々が対応できるのかという問題は確かにあるわな。

ルー・リードのあまりに辛辣なミュージシャン評と彼の大規模展覧会の話

boingboing.net

ルー・リードの他のミュージシャン、バンドについての評を集めたツイートが取り上げられている。1973年に出版された雑誌からの転載らしい。

まず、ボブ・ディラン

ディランにはイライラする。パーティでヤツと会ったら、黙れって言いたくなると思うよ。

続いて、キンクス

知識人みたく、俺は腰を下ろし、キンクスを聴いて、大いに楽しむんだけど、しばらくするとうんざりしてしまって、あまり長くは聴いてられないよ。

そして、フランク・ザッパ。後述するが、これは有名である。

あいつは俺の人生で聴いた中で一番才能のないヤツだ。安物で、もったいぶってて、空疎で、何もうまくやれない。あいつは負け犬だから、ロックンロールをプレイできない。だからあいつはおかしな恰好をするんだ。それは自分に満足できてないからで、正しいと思うよ。

アリス・クーパーに対しても容赦ない。

なってこった、ホントに「あいつら」についての意見を聞きたいのか? あいつらはロックミュージックにおける最悪で、もっともむかつく存在だよ。

「あいつら」と言ってるのは、「アリス・クーパー」が当初はアリス・クーパーがフロントマンのバンドだったのを指している(マリリン・マンソンあたりをイメージしてください)。

ボロクソだが、というかそういうものばかり引用したのだが(元のバンドメンバーなどには概して好意的なことを言ってます)、これってあまり本気にすべきでないところもある。このツイートではビートルズに対して「驚くべき才能の、信じられないソングライターたち」「ビートルズが解散したのがどれだけ悲しいことかみんな分かってない」とか言ってる発言が引用されているが、一方で80年代のインタビューでビートルズはゴミだとしか思ったことがないと語っているわけで、こういうのは気分次第というか、昔のミュージシャンなんてそんなものです。

しかし、フランク・ザッパに対する憎悪は本当だったろう。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのファーストアルバムは売れなかったのは、レコード会社がフランク・ザッパ率いるマザーズ・オブ・インヴェンションのほうに宣伝費を使ったからとルー・リードが考え、フランク・ザッパを深く恨んでいた話を読んだことがある。

Boing Boing のエントリにも記述があるが、なのでフランク・ザッパのロックの殿堂入りのとき、そのプレゼンターをルーが務めたのに当時かなり驚いたものだ。そこでルーは、ザッパのことをよく知っているわけではないと最初に明言しながらも、穏当に敬意を示している。

というか、いったい誰がルーにこの役目をオファーしたんだろう。

www.timeout.jp

さて、今年3月からルー・リードの大規模展覧会 Lou Reed: Caught Between the Twisted Stars が開催される。なんで今年3月からかというと、おそらく今年の3月2日が彼の生誕80年だからだろう。

ニューヨーク公共図書館で「ルー・リード・アーカイブ」が開設されたのは2019年で、それに協力したドン・フレミングは、今回の大規模展覧会でもキュレーションを担当している。これはかなり見どころの多い展覧会に違いない。

世界がこんな状況でなければ、是非ワタシも行きたいところだが、残念なり。

そうそう、今月はロバート・クワインが素晴らしいギターを聴かせるルー・リードの復活作『The Blue Mask』がリリースされて40年になるんだな。ロバート・クワインが語ったところのオリジナルミックスなどを含む、40周年記念盤とか出ないものか。

Blue Mask

Blue Mask

  • アーティスト:Reed, Lou
  • Sbme Special Mkts.
Amazon

[追記]柳下毅一郎さんに指摘いただいて気づいたが、公式サイトを見ると大規模展覧会は2022年6月9日から2023年3月4日の開催に(おそらく)変更されていた。これで観に行ける可能性が少しだけ広がったと言える。

2021年下半期にNetflixで観た映画の感想まとめ

yamdas.hatenablog.com

これをやったのだから、2021年下半期についてもやっておかないとな、と2022年1月も後半になって思い出した次第。

例によって、Netflix で観た新作もしくは近作の映画を(Netflix 制作に限定せず)まとめて書いておく。

ジェラルドのゲーム(Netflix

実はこれは2021年前半に観たのだが、なぜか前回のリストに入れるのを忘れていた。

『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』以来、マイク・フラナガンには高い信頼を置いているが、これも『ドクター・スリープ』と同じく(時系列的には本作が先だが)スティーヴン・キング作品の良質な映画化である。

空気階段のコントみたいなシチュエーションからどう脱するかというワンアイデアで引っ張る映画かと思いきや、夫と父親の両方からの束縛からの解放の映画で、幻覚の使い方も効果的だが、出てくる不気味な男の意味がちょっと分からなかったな。

マイク・フラナガンというと、昨年やはり Netflix で観たドラマ『真夜中のミサ』が衝撃的でですね――


フィアー・ストリート Part 1: 1994(Netflix

最初のほうにある主人公の性的嗜好に関する簡単な映像トリックにひっかかるくらい何の予備知識もなく観たのだけど、Netflix で三週連続新作配信というイベントに乗った形である。

1994年が舞台だが、だいたいその頃に制作された映画『スクリーム』を連想した。となると、マヤ・ホークは『スクリーム』におけるドリュー・バリモアにあたるわけで、彼女も出世したものだ。

ケイト役の Julia Rehwald という人が Mitski に少し似ててすごく好みだったのだが、しかし、この人 Wikipedia に項目は立ってないし、IMDb を見ても、このシリーズくらいしか出演作がない。なんなんだ、この人?


フィアー・ストリート Part 2: 1978(Netflix

前作のマヤ・ホークに続き、本作の主人公をセイディー・シンクが務めており、なんというか『ストレンジャー・シングス 未知の世界』のキャストに Netflix が役をあてがうためのシリーズに思えてくるよ。セイディー・シンクが好みではないので、本作もそれなりだった。

彼女の役名はジギーで、当然デヴィッド・ボウイの曲もかかるのだが、特にそれ以上の意味合いを感じさせず、なんなんだよという気になる。そのかわり、カンサスの曲がいくつか使われていて意外に合っていた。

フィアー・ストリート Part 3: 1666(Netflix

タイトルに掲げられた1666年の話は半分ほどで、以降はパート1の時制に戻り、パート2の登場人物とあわせて大団円となるが、さすがにここまでくると鈍いワタシも本シリーズの構造主義というか、シャディサイドとサニーヴェイルという二つの町の格差、特にサニーヴェイルの「呪い」こそが制度的な人種差別のメタファーなのは分かる。

最終的に本作で、同性愛差別と白人至上主義という二つの呪いに対して主人公たちが勝利するわけだが、甘っちょろいよね。まぁ、ワタシはやはりイベント的というか、ホラーアクション映画として楽しみました。

ブラッド・レッド・スカイ(Netflix

本作のことは米光一成さんの記事で存在を知ったが、「できれば何も知らずに観てほしい」と冒頭にあるので、そこで記事を読むのを止めて観てみた(これから観る人は、下にはった予告編動画も観ないのを勧めます)。

映画が飛行機(や空港)が映画の舞台となる場合、作品ジャンルはハイジャックが絡むサスペンス、パニックもの、アクションになるのが通例である。本作にはハイジャックもサスペンスもパニックもアクションもあるのだけど、作品ジャンルはまぎれもなく「ホラー」なのである。

それについて書き出すとやはりネタバレになっちゃうのでここまでとするが、確かにこんなハイジャック映画は観たことない。個人的にはハイジャック犯にいくらキレたヤツがいたにせよ、ためらいなくあれをやっちゃうのはありえんだろというのがひっかかったが、米光一成さんがおススメする、本作を手がけたペーター・トアヴァルト監督の他の作品も観てみるか。


THE ART OF SELF DEFENSE

今、調べたら Netflix で観れなくなっていた……。作品の存在を知ったのは KingInK だったはず。

大人の『コブラ会』というか、『ファイト・クラブ』的な不穏な物語の転がり方もある。独特の頑なさと神経質さを持つ主人公がジェシー・アイゼンバーグにピッタリだったね。


ハッピー・デス・デイ(Netflix

加野瀬未友さん(id:kanose)が推してたので作品名が記憶に残っており、Netflix に入っているのに気づいたので観てみた。日本公開が2019年の映画なので、この枠に入れさせてください。

ホラーコメディなループものだけど、実は青春恋愛映画だったりする。ループは今や一つのジャンルといえるほど映画、ドラマ問わず多いが、本作はかなり楽しめた。「主人公を殺すのは誰だ?」という謎解きとともに、最初かなーり好感度が低い主人公をだんだんと応援したくなる演出がうまい。

ハッピー・デス・デイ 2U(Netflix

前作が予想外に面白かったので続編も観てみた。本作もやはりループものだが、その原理の説明がいかにもB級SFでニヤリとなる。映画としての謎解きは本作のほうがしっかりしていてやはり楽しんだのだけど、恋愛映画としてとても良かった前作のほうがワタシは好みだった。

ドロステのはてで僕ら(Netflix公式ページ

この映画は、確かツイッターのタイムラインで公式アカウントのツイートをひとつ見ただけでピンときて観てみた。その時は本作のことを韓国映画と思い込んでいて、つまりは映画についての事前知識がほとんどない状態で観た。

観始めてから一分で、ワタシが本作について(邦画ということを除いて)二つのことを確信した。それは本作が舞台劇の映画化であること、そして本作の舞台が京都であること。両方とも正解だった。別に映画の中に自分の知った店が映りこんでいたのでもないのになぜだろう? またそれは本作にとって良いことなのだろうか。

長回しを特徴とする低予算映画というので、『カメラを止めるな!』を連想する人もいるだろうが、本作にはゾンビのかわりに SF スパイスがある。ランニングタイムも70分と短いので、気軽に楽しめる。


浅草キッドNetflix

ビートたけしの自伝小説の何度目かの映像化だが、本作は松村邦洋の所作指導を受けた柳楽優弥の単なる物まねでない憑依ぶりがすごくてひきつけられる。しかし、ワタシもこの歳になると、たけしの師匠の深見千三郎目線でしかこの話を観れなくなる(そういえば、演じている大泉洋が同年で、そういう歳になったんだね……)。

映画としては、ビートたけしの漫才の革新性というか、どうしてブレイクできたかの描写が物足りなくて高くは評価できないが、前述の深見千三郎が本作の実質的な主人公というのもあり、泣いてしまった。


ドント・ルック・アップ(Netflix

実は本作は今年の正月に観たのでこれに入れるべきではないのだが、やはりここまでが2021年ということにしたい。

本作はオスカー受賞経験者がキャストに確か4人おり、そうしたメジャースターが揃った上にロン・パールマンまでらしい役をやるオールスターキャスト映画で、それだけ Netflix が力を入れた作品なのだろう。が、コーエン兄弟アカデミー賞を獲得した後にオールスターキャストで作った『バーン・アフター・リーディング』を思い出すバカ映画だった。

本作については評価する人とボロカスに言う人が両方で、ワタシの見た感じ、その勢いでボロカスに言う人のほうが強い印象があり、やはり掛け値なしのバカ映画ぶりに怒っているようお見受けする。しかし、そのバカさ加減というか愚鈍さこそが本作のキモなのよね。

COVID-19 でひどいことになったアメリカ社会をがっつり風刺した(もともと監督の頭にあったのは気候変動問題のようだが)本作を、ワタシはコメディの傑作と評価する。登場人物はだいたいにして軽薄だが、まったく事態に向き合おうとしないアメリカ合衆国大統領演じるメリル・ストリープをはじめ、ティモシー・シャラメが Twitch のアカウント名を言い出してジェニファー・ローレンスに制されたり、本当のラストでのジョナ・ヒルの台詞といい細かいところまで笑わせる。

AppleGoogle のトップをかけあわせた感じのビッグテックのトップを演じるマーク・ライランスの描き方が、今のアメリカにおいて憎悪の対象であるビッグテックの立ち位置を反映しているようで興味深かった。

ドタバタの末に主人公たちが家に集まるラストにリチャード・マシスンの「終わりの日」、またそこでの「できることは全部やったじゃないか」な台詞にスティーヴン・キングの『デッド・ゾーン』を思い出し、不覚にもワタシは涙してしまった。この映画で泣いたのは世界中でワタシくらいかもしれんが。

AIがもたらす6つの最悪のシナリオ

spectrum.ieee.org

人工知能(AI)が人間のような知能を獲得し、やがて悪の支配者となり、人類を滅亡させんとするのが SF 映画でおなじみの筋立てだが、実は我々を殺すのに AI が知覚を獲得する必要なんてなくて、そんなものなしで人間を絶滅させるシナリオは他にもありますよというわけで、この IEEE Spectrum の記事は、AI の専門家へのインタビューを通じて、映画よりももっと現実的な AI がもたらす最悪のシナリオを6つ挙げている。

まず一つ目は「フィクションが現実を規定する場合」で、これは何が本当で何がフェイクか見分けられなくなった状況を指す。つまりは、画像、映像、音声、テキストのディープフェイクの台頭により、国家安全保障の意思決定が偽情報に基づいて行われてしまい、最悪戦争に至るというもの。ディープフェイクによる偽情報の物量作戦が可能になれば、情報というものへの我々の信頼自体が損なわれてしまう。ブルース・シュナイアー先生も似たことを危惧してましたな。

二つ目は「底辺への危険な競争」で、いち早く AI を軍事利用した国が戦略的に優位に立てるが、開発スピード重視のためシステムに残された欠陥をハッカーに悪用され、事態が制御不能になるのを指す。安全性やテストや人間による監視よりも開発スピードを優先することを「底辺への危険な競争」と言ってるわけですな。人間が動作原理を理解していない機械学習モデルに命令と制御を委ねてしまうのもこれにあたるとな。

三つ目は「プライバシーと自由意志の終焉」で、我々が日常的に生み出している膨大なデジタルデータに企業や政府が無制限にアクセスできるようになることでコントロールを――って『監視資本主義』な話だけど、そこに顔認証、ゲノムデータ、AI による予測分析が加わり、データによる監視や追跡は危険な未知の領域に突入するという見立てだ。かつての独裁者のように大勢の兵士に依存しなくても反政府活動を抑制できるし、AI の予測的な制御は人間から自由意志を奪いかねないと見ている。

四つ目は「人間のスキナー箱」で、この話はバラス・スキナーの『ウォールデン・ツー』が執拗に引き合いに出されるショシャナ・ズボフ『監視資本主義』を読んでないとピンとこないかも。

スマートフォンの画面にくぎ付けでソーシャルメディアを使っている人を実験室のネズミ、行動研究の実験装置であるスキナー箱の人間版にいると見立てているわけだが、プラットフォームはできるだけ利用者がそこに留まるよう最適化、つまりは広告利益を最大化することで、人間が前向きで生産的かつ充実した生活を追求する時間を奪ってしまうという視座である。

五つ目は「AI 設計の専制性」で、関係ないがこの tyranny という単語、マイケル・サンデルの新刊(の原題)にも出てくるね。

これは AI システム設計につきもののバイアスの問題である。実は AI 以前より、日常生活でよく使うもののデザインは(右利き平均的な体格の男性など)特定の種類の人間に合わせて作られてきたが、AI がカフカ的な門番となり、偏った規範によって一部の人がサービス、仕事、医療などから疎外されてしまうシナリオである。

そして最後の六つ目は、「AI の恐怖が人類から利益を奪う」で、今日の AI は高度な統計モデルや予測セットで動作する数学中心なシステムだが、人々が AI を恐れるあまり、政府が AI を規制し、結果その恩恵を人類から奪ってしまったらダメよね、と最後にここまでの流れをひっくり返して、AI は多くの分野で恩恵をもらたすのに、驚異的なテクノロジーに恐れをなし、最悪のシナリオを恐れて考えなしに AI を規制してしまうのも、それはそれで最悪のシナリオよね、と言ってるわけだ。

さてさて、皆さんは以上6つのシナリオのどれに現実味を感じますか?

ネタ元は Slashdot

オライリー本家からメインフレーム開発本が出る!

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まさかオライリーからメインフレーム開発の本が出るとは。しかも、モダンなメインフレーム開発とな。

目次を見ると、第1章「なぜメインフレーム開発者になるのか?」に「Software Is Eating The World」や「COVID-19」という節があり、今メインフレーム開発の本を世に問う必然性を感じる。もっとも第2章「メインフレームの世界」には「パンチカードとは何か?」という項があって苦笑いしてしまうが、歴史を語るならその話は避けられないわな。

yamdas.hatenablog.com

1年以上前のエントリだが、メインフレームと聞くと真っ先に連想するのは、やはり勘定系システムやそこで動く COBOL のコードの話で、この本でも COBOL 言語の話は複数の章を占めている。

しかし、第2部「Modern Topics」には「DevOps」や「Artificial Intelligence」や「RPA (Robotic Process Automation), Low-Code and No-Code」といった今どきなトピックが章タイトルになっており、モダンなメインフレーム開発という書名はウソじゃないということが分かる。

本書の著者の Tom Taulli は、『Artificial Intelligence Basics』(asin:1484250273)、『The Robotic Process Automation Handbook』(asin:1484257286)、『Implementing AI Systems』(asin:1484263847)といった本も書いており、それなら本書に AI や RPA の話があるのは不思議ではない。Forbes JAPAN でも彼の寄稿が読める。

上でリンクした Wikipedia の「勘定系システム」のページを見ても、当然ながら日本の銀行の勘定系システムの主なハードウェアは未だ大部分がメインフレームであり、本書の内容も十分日本でも通用するのではないか。6月に出るらしい洋書の値段がべらぼうでビビるが(恐るべし円安)、邦訳は出ますかねぇ。

以前原書を紹介した本の邦訳を紹介(『サイバー術』、『ジョン・レノン 最後の3日間』、『EXTRA LIFE』)

いやー、邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにするシリーズで取り上げた本が翻訳されることはいくらでもあるのだけど、その洋書紹介特集までいくことなく昨年紹介した3冊の洋書の邦訳が出(てい)るのを、たまたま立て続けに知ったので、まとめて紹介しておきたい。

yamdas.hatenablog.com

これは驚いた。半笑いで紹介していたサイバーセキュリティと言えばニンジャ、な本が『サイバー術 プロに学ぶサイバーセキュリティ』として邦訳が11月に出ていた。これは正直難しいと思い込んでいた。

yamdas.hatenablog.com

こちらはトランネットのオーディションにかかった本だから邦訳が出て当然なのだが、この本の邦訳が出るとすれば、ジョンの命日に近い12月になるのは当然ですよね。『ジョン・レノン 最後の3日間』のタイトルで出ている。

yamdas.hatenablog.com

これも驚いた。原書は昨年5月に出た本なので、邦訳は出るだろうが、2022年後半以降と踏んでいた。それが『EXTRA LIFE なぜ100年で寿命が54歳も延びたのか』として来月出る。早い!

「私たち人類は、100年で寿命を2倍に伸ばした」って、言われてみると確かにすごいよな。

クライ・マッチョ

こないだ「直近では『マッチョ』も『グッチ』も観に行けないかも」と書いたが、オンラインで近場のシネコンの予約状況を確認し、公開初日のレイトショーで観てきた。客はワタシを含め5人だった。

一言でいうとどうしようもない映画で、駄作と書いてもかまわない。

早撮りで有名なクリント・イーストウッドのペースを反映してか、物語はたいした葛藤もなくテキパキ進み、例によってライティングは排されているので、野外をのぞけばだいたいが薄暗い室内ばかり、イーストウッドが演じるのは例によって老いてもタフで女にモテるという……もはやこれはイーストウッドの接待映画ではないか。

基本的にロードムービー仕立てだが、主人公が誘拐する、いろいろと鬱屈があるはずの少年の人物造形が薄いので(えっ、お前、そこで後生大事にしてきたそれを他人にあげちゃうわけ?)、『グラン・トリノ』の感動は望むべくもない。同じ公開日の『ハウス・オブ・グッチ』を観ていたほうが、10倍くらいエキサイティングな映画体験ができていたはずだ。

しかし、今、ワタシはこうして極東の島国で公開初日にクリント・イーストウッドの新作を観ている、というのを上映中なんども噛みしめていた。彼の映画はまぎれもなくアメリカ映画だが、ワタシは彼の作品にハリウッドの不文律からはみ出る異物感を求める。確かにそれは、もはや良い映画といえない本作にすらあった。それを観に来たのだから、文句を言うつもりはない。

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