当ブログは YAMDAS Project の更新履歴ページです。2019年よりはてなブログに移転しました。

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『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』への反応 その21

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』だが、ありがたいことにゴールデンウィークを前に買ったという声をいくつか聞けた。

あと達人出版会から出してよかったと思うのは、読む環境の選択肢があることについての言及があったときですね。

ゴールデンウィーク中に読んだ人の感想がそろそろ読めるかと期待したら、小関悠さんから感想をいただけた!

そうそう、今年3月の更新で電子書籍版にも収録された書き下ろし技術コラム「インターネット、プラットフォーマー、政府、 ネット原住民」が新たに追加されており、これがかなり力の入った長文なので、以前にも書いているが、既に買った方でも最新版に更新してない人は達人出版会のマイページからアップデートをお願いします。

小関悠さんが「自分の発言が出てきてびっくりした」と書くのはまさにこの「インターネット、プラットフォーマー、政府、 ネット原住民」のことだが、この追加コンテンツへの感想を読んだのは初めてかもしれない。「すごいまとめになってるので、定期的に書いて欲しいなあ」と書いていただけたのはありがたいことである。

あと小関さんが「八田先生ディス集」と書いているヤツだが、どう読んでも八田真行氏への賛辞じゃないですか!

そういうわけで、感想をいただけるとこのブログはしつこく更新されるので、ワタシのブログを読みたい人は、『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』の感想をブログやツイッターに書くとよいでしょう(笑)。

スティーブ・ジョブズやラリー・ペイジなどIT業界の錚々たる著名人たちのコーチングを行った伝説のコーチの教えを伝える本をエリック・シュミットらが書いていた

なんということだ。こんな面白い本が出ていたのに知らなんだ。知っていたら、邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする(2019年版)に入れていたはずである。

Trillion Dollar Coach: The Leadership Playbook of Silicon Valley's Bill Campbell

Trillion Dollar Coach: The Leadership Playbook of Silicon Valley's Bill Campbell

Trillion Dollar Coach: The Leadership Playbook of Silicon Valley's Bill Campbell (English Edition)

Trillion Dollar Coach: The Leadership Playbook of Silicon Valley's Bill Campbell (English Edition)

書名になっている「1兆ドルのコーチ」ことビル・キャンベルのことは、スティーブン・レヴィ『グーグル ネット覇者の真実 追われる立場から追う立場へ』で知ったが、彼がコーチングを行ったメンツがすごい。Appleスティーブ・ジョブズをはじめ、Google では創業者のラリー・ペイジセルゲイ・ブリンをはじめ、長らく CEO を務めたエリック・シュミットや後に Yahoo! の CEO になるマリッサ・メイヤー、後に Facebook の COO になるシェリル・サンドバーグといった錚々たる面々のメンターだったわけである。

今回『Trillion Dollar Coach』(書籍の公式サイト)を書いたのは、エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグルという『How Google Works 私たちの働き方とマネジメント』(asin:4532198348)の著者陣ですね。

山崎富美さんが内容をまとめているポッドキャストも、その著者陣に加え、マリッサ・メイヤーが司会役を務めるという超豪華さだが、Google 初期の若く傲慢な俊英たちをどのようにビル・キャンベルがコーチングしたか、その当事者たちが語るのだからとても面白い。

それにしても、エリック・シュミットから報酬はなんでもいいからと懇願されても頑として取締役の申し出を断ったというのはすごい話だ。

Computer History Museum の YouTube 公式チャンネルに、エリック・シュミットら著者陣がこの本について語る動画が公開されている。ここでの司会役は YouTube の CEO であるスーザン・ウォシッキーで、やはり豪華やね。

次世代のプログラミングツール、未来のプログラミング言語の方向性について

Quara における「コンピュータプログラミングにおける最後のブレイクスルーってなんでしょう?」という質問に対するアラン・ケイの回答に触発された文章である(アラン・ケイって Quara で精力的に回答してんだね)。

アラン・ケイは上記の質問に対して、プログラミングツールの現状について嘆いている。他分野の工学分野、例えばコンピュータを使ったデザインやシミュレーションやテストであったり製造業であれば、それ用のモダンなツールがあるのに、プログラミングは1970年代から大きく進化していない。我々プログラマは他人のために素晴らしいツールを作ってきたが、自分たちのためのツールはそうでない。靴屋の子供の靴に穴が空いてるようなものだ、というわけだ。

この文章の著者であるマイク・ルキダス(O'Reilly Mediaのコンテンツ戦略担当副社長)は、ケイの回答に完全に同意はしてないようだが、我々は未だ「パンチカード」を使ってるようなものではないかと書く。確かにモニタは高解像になったが、未だ英数字の文字セットを使って一行一行書いてる時点で実質パンチカードじゃないかというわけ。使っているプログラミング言語も大方 C や LISP 由来で、プログラミングのコミュニティで一番議論になるのは、それらの古来からあるパラダイムのどれがより優れてるかということに終始しているし。

確かに IDE はこの「パンチカード」の作成をいくらか簡単にはしれくれるが、根本的な変化をもたらすものではない。ユニットテストにしても、バージョン管理にしても、継続的インテグレーションや継続的デプロイやコンテナオーケストレーションのツールにしても、どれも「パンチカード」を増やすことでプログラミングされるものに変わりはない。

SQL のような手続き型でない言語で視覚的なプログラミングを実現しているデータベース分野が参考になりそうである。つまり、真の次世代のプログラミング言語は、LISP や C や Smalltalk の構文の焼き直しじゃなくて、もはや文字自体使わないような視覚的なものになるとマイク・ルキダスは考えている。タイピングではなくて、欲しいものを描くわけだ。

マイク・ルキダスの見立てでは、それを実現している言語はまだなく、Alice や Scratch は面白い試みだけど、既にあるプログラミング言語パラダイムに視覚的メタファーを適用しているだけで、真の次世代からはまだずっと遠い。

そこでマイク・ルキダスは、プログラミングの未来を考える助けとなる二つのトレンドを挙げる。

まず一つ目として、プログラマには二種類のタイプがあるという話から始める。具体的には、いくつかのものを組み合わせてものを作る「ブルーカラー」タイプと、他の人が組み合わせに使うものそのものを作る「アカデミック」タイプの二種類というわけだが、どっちのほうが価値があるとか重要というのを言いたいわけではなくて、両方のタイプの存在とも必要なのだが、数でいえば前者のほうが、後者よりも多いはずだ。つまり、ウェブアプリケーションを作るプログラマのほうが、ウェブフレームワークを作ったり、新しいアルゴリズムを考案したり、基礎研究をやるプログラマより数が多いということ。

そこでマイク・ルキダスは、コンピュータ分野の配管工はアルゴリズムのデザイナーと同じツールを使うべきだろうか? と問う。そうじゃないと彼は考えており、この既存のものを組み合わせて目的を達する、コンピュータ分野の配管工向けのプログラミング言語は視覚的にできるのではないかというのが彼の主張である。

次にマイク・ルキダスは、人工知能におけるもっとも面白い研究分野の一つにコード作成機能があることを指摘する。将来、AI がコードを書けるようになれば、人間はどんな種類のコードで書いてほしいだろうか。それはループや条件節とか関数とかを手順を一行ずつ書くものじゃないだろう。

既存のプログラミング言語を使わず機械学習のアプリケーションを作るシステムとして、Jeremy Howard が platform.ai でやってるプロジェクトなどがあるし、マイクロソフトが既存のプログラミングを行わずに訓練データをドラッグ&ドロップで組み立てて機械学習のモデルを作るグラフィカルツールを提供しているのも参考になる。

つまりは、昔堅気のプログラマなら、そんなの「本物のプログラミング」じゃない、と言いたくなるような方向性だろうが、ここでマイク・ルキダスは「アカデミック」タイプを対象としていないし、ビルドツール、(Chef や Puppet から CFengine にいたる)設定の自動化、Nagios 以降のネットワーク監視、継続的インテグレーション、そしてコンテナオーケストレーションにおける Kubernetes にいたる歴史がある。

上でも指摘されている通り、残念なことにこれらのツールは実質的に未だ XMLJSON といったテキストの「パンチカード」で設定するわけだが、それは乗り越えなくてはならない問題だし、プログラミング用の視覚的な言語を作るよりは、こうしたツール向けの視覚的な言語を作るほうがずっと容易なはずだとマイク・ルキダスは主張する。

プログラマはひどいツールに慣れており、それを使うのが通過儀礼というか「俺たちはこのクソに耐えたんだから、本物のプログラマになりたいならお前もそうしろ」的な一種のしごきなのかもしれない。この状態に甘んじてはいけないという点でアラン・ケイは正しいとマイク・ルキダスは書くが、彼が示唆する視覚的な方向性にケイが同意するかは分かりませんね。

個人的には、「ブルーカラー」タイプのプログラマ向けの視覚的な言語が人間向けの大きな需要があると思うが、本格的に AI がコードを生産するようになれば、そんなの凌駕されてしまうのではないかという気もする。

プログラミング言語図鑑

プログラミング言語図鑑

ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの新ドキュメンタリー映画をトッド・ヘインズが手がけたとな

ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのドキュメンタリーというと、ボックスセットと同名の Peel Slowly and See というのがあったが、やはり監督がトッド・ヘインズというのに前のめりになるね。

というのも、トッド・ヘインズという人は、『ベルベット・ゴールドマイン』や『アイム・ノット・ゼア』といった一癖あるミュージシャンの伝記的な映画をいくつもてがけているから。

しかし、80年代にニコ、90年代にはスターリング・モリソン、そして2013年にはルー・リードが亡くなっており、存命メンバーとなるとジョン・ケイルの他はダグ・ユールとモーリン・タッカーか。もうアンディ・ウォーホルの「スーパースター」も、生き残りはジョー・ダレッサンドロなど少なくなってるだろうし。

ニコの晩年を描く映画『Nico, 1988』もそうだけど、これも日本でも公開されるといいのだが。

ベルベット・ゴールドマイン [Blu-ray]

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アイム・ノット・ゼア [DVD]

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バイス

バイス [Blu-ray]

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一度映画館で観ることを諦めかけた映画だが、近場のシネコンで一度外れたレイトショー枠に戻ったおかげで観れた。

例によってクリスチャン・ベールの肉体改造を経た役作りはすごかった。『マシニスト』とは逆だけど、本当にこれは心臓に悪い感がひしひしと伝わってきた。クリスチャン・ベールは、もうこの手の役作りは金輪際止めてほしい。見ているほうの心臓に悪い。

主演のベールと監督のアダム・マッケイのコンビの前作『マネー・ショート』は、邦題が気に入らないのもあって未見だった。でも、このコンビなら面白いコメディだろうなと思っていたが、確かによくできてましたね。役者陣もディック・チェイニー役のベール、ドナルド・ラムズフェルド役のスティーヴ・カレルジョージ・W・ブッシュ役のサム・ロックウェルの主要三人が実に達者だった。

必然的にブラックな政治風刺劇としてよくできているのだけど、それにムラがあって、いったん途中で映画が終わりかけるところとか、ナレーター役のカートはいったい何者かというところなど(途中でだいたい読めるけど)よかったが、一方でチェイニー夫妻の間でどういう会話があったか分からないのでシェイクスピア劇にしちゃいましょう、のところは、『マクベス』への目配りは分かるけれども、アメリカ人のお芸術コンプレックスが垣間見られてクソ詰まんなかった。

あと本作において、ディック・チェイニーの成り上がる背景に、妻であるリン・チェイニーがいたという筋立てで、彼女の優秀さと上昇志向にスポットを当てているのも納得感があった。

本作は主役のディック・チェイニーをはじめとして主要登場人物がほぼ全員存命なわけで、それでこれだけの風刺劇にしてしまうところがなかなかエグいのだけど、それを許容する社会の度量というものを感じる。一方で、チェイニーがアメリカの行政の長である大統領の権限を無条件のものとし(大統領執行特権理論)、副大統領である自身がそれを傀儡としてホワイトハウスを乗っ取り、どれだけ好き放題やったかということを描いているわけで、観ていてとても怖くなるし、チェイニーが行った情報の隠匿や歪曲が、今現在のアメリカ政治に与えた後遺症をどうして考えてしまう。

そうした意味で、本作は60年代末以降のアメリカ現代政治史とメディア(要は Fox News の勃興)を考える上で面白い作品だと思うし、ここでチェイニーがやったことを日本の今の政治状況に重ねて考えてもいささか暗澹たる気持ちにもなった。日本では本作のような政治を題材として優れたコメディ作品は求められていないのかな。

邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする(2019年版)

私的ゴールデンウィーク恒例企画である「邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする」なので説明は省略……しようと思ったが、考えてみればワタシのブログを昔から読んでいる人ばかりではないのだから、この毎年一度やってるこの企画を辿りやすいように、「洋書紹介特集」というカテゴリーを新たに作っておいた。

2011年から毎年やっているので、今回で9回目になる。『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』のプロモーションもそろそろ終わりなので、つまりは本ブログは再び無期限休止状態に戻る。おそらくは来年10回目はなく、今回で最後になるのではないか。

だからというわけではないが、今回は35冊をこえるかなりのボリュームになった。洋書を紹介しても誰も買わないので、アフィリエイト収入にはまったくつながらないのだが、誰かの何かしらの参考になればと思う。

実は既に邦訳が出ている本を紹介していたり、邦訳の来るべき刊行情報をご存知の方はコメントなりで教えてください。

Virginia Eubanks『Automating Inequality: How High-tech Tools Profile, Police, and Punish the Poor』

アルゴリズム(昨今の一般的な用法に則れば AI と置き換えてよいだろう)が不平等を自動化し、格差社会を助長する問題をいちはやく訴えた本である。キャシー・オニールの本の邦訳は出たけど、こっちも邦訳が出てほしかったんだがな。

デヴィッド・グレーバー(David Graeber)『Bullshit Jobs: A Theory

本田圭佑のお気に入りの本らしい『負債論 貨幣と暴力の5000年』(asin:475310334X)も話題だからこれの邦訳も今年あたり出るに違いないが、それにしても「Bullshit Jobs」というタイトルが何よりインパクトがあって秀逸だし、クソどうでもいい仕事に忙殺される一方で、介護職など本当に意味ある仕事の賃金が低いことの矛盾を突いているように思うのよ。

[2019年5月6日追記]:本書の邦訳が岩波書店から年末刊行予定との情報を Ryutaro Nakagawa さんよりいただきました。

Shoshana Zuboff『The Age of Surveillance Capitalism: The Fight for a Human Future at the New Frontier of Power』

これも「監視資本主義」というフレーズがあまりに秀逸で、これは邦訳が出るに違いない。主に GoogleFacebook によって完成されたものが民主主義を脅かしているという問題意識が、一連の書籍に共通しているわけである。

Primavera De Filippi、Aaron Wright『Blockchain and the Law: The Rule of Code』

ブロックチェーン絡みの書籍もかなーり出ているが、法律との関係という切り口は面白いので、まだ邦訳を出す余地があると思うのである。

[2019年5月6日追記]Satoshi Narihara さんによると、本書の邦訳が刊行予定とのことです。

ティム・ウー(Tim Wu)『The Curse of Bigness: Antitrust in the New Gilded Age』

2018年は、GAFA に代表されるプラットフォーム企業について、もういい加減野放しにはできないよねという合意が広がってきた年だと思うが、そこで独占禁止法に基づく分割まで踏み込んだのがティム・ウーである。今頃になって目指せ GAFA 的な周回遅れの議論をやってる日本にも、この本の邦訳は価値があると思うんだがどうだろう。

John CarreyrouBad Blood: Secrets and Lies in a Silicon Valley Startup

エリザベス・ホームズについては、ドキュメンタリー映画 The Inventor: Out for Blood in Silicon Valley が公開され、Hulu でドラマ化が決まり、何よりこの本を原作とし、アダム・マッケイが監督し、ジェニファー・ローレンスがエリザベス・ホームズを演じる映画化の話が出ているというのに、なんでこの本の邦訳が出ないわけ? おかしいでしょ! よほど権利料が高いとか事情でもあるのかしら。

スタンリー・キューブリック『Stanley Kubrick Photographs: Through a Different Lens』

昨年は生誕90周年記念、『2001年宇宙の旅』公開50周年記念ということで、ワタシも『2001年宇宙の旅』の IMAX 版を観たし、今年に入って『2001年宇宙の旅』本の決定版『2001:キューブリック、クラーク』が発売されたりもしたが、有名になる前に写真家だった時代のキューブリックの写真を集めたこの本も面白いと思うのよね。

Noam Cohen『The Know-It-Alls: The Rise of Silicon Valley as a Political Powerhouse and Social Wrecking Ball』

本ブログでこの本を最初に取り上げたのは2018年のはじめであり、今さらではあるのだけど、ペーパーバック版の Oculus を装着したマーク・ザッカーバーグの上に「知ったかぶり」という書名が掲げられる表紙が強烈で、シリコンバレーの政治との関わりについての本の邦訳もやはり必要だよなと思う次第である。

本書の著者は、最近では「「WikiLeaks」を生み出した男、ジュリアン・アサンジの逮捕から見えてきたこと」という記事を書いている。

Kai-Fu Lee『AI Superpowers: China, Silicon Valley, and the New World Order

データこそデジタル情報社会における石油という話はよく言われ、これからの AI 時代、データをやりたいように集めて実装できる中国こそ AI 超大国になるという見立ては自然な流れである。AppleマイクロソフトGoogleアメリカを代表するテック企業で要職を務めた経験がある中国人の有識者である著者の考えは、AI 超大国としての中国を考える上で必読であり、邦訳が出ないといかんでしょう。

Michael DiamondAdam HorovitzBeastie Boys Book』

書籍の公式サイトビースティ・ボーイズくらいのビッグネームになれば、既にどこかの版元が権利を購入済で、回顧録の邦訳もいずれ出るとは思うが、よろしくお願いしますよ。

Anita SarkeesianHistory vs Women: The Defiant Lives That They Don't Want You To Know

『世界を変えた50人の女性科学者たち』(asin:442240038X)や『世界と科学を変えた52人の女性たち』(asin:4791771095)といった趣旨が近い本が昨年2冊出ているので難しいかもしれないが、昨年こうした本の邦訳が何冊も出たということ自体が重要だろう(そして、いずれも邦訳であり、日本独自の企画ではないという点も)。

Ian Haydn Smith『Selling the Movie: The Art of the Film Poster』

トランネットのオーディション課題になった本なのだから、じきに邦訳は出るに違いないが、いずれにしても「ポスターのデザイナー、スタイルの変遷、政治とイデオロギーの影響、商業がポスターの発展に果たした役割など、ポスターを通して様々な面から映画産業の歴史をひも解く」って面白そうじゃないの。

そういえば、この本の著者が編集に名を連ねる 1001 Movies You Must See Before You Die シリーズの新版(asin:1438050755)が今秋出るね。

ヨハイ・ベンクラー(Yochai Benkler)、Robert Farris、Hal Roberts『Network Propaganda: Manipulation, Disinformation, and Radicalization in American Politics』

ヨハイ・ベンクラーの新刊のテーマが、「アメリカ政治における情報操作、デマ、尖鋭化」という非常にトピカルなものなのが逆に意外というか新鮮だった。

共著者一同が講演し、パネルディスカッションを行う動画が公開されているので参考まで。

Mariya Yao、Adelyn Zhou、Marlene Jia『Applied Artificial Intelligence: A Handbook For Business Leaders』

書籍の公式サイト。もっとも重要な AI 研究論文トップ10を要約して紹介という試みもそうだが、書籍のほうもビジネスリーダー向けの AI 指南書というのもうまいビジネスなんでしょうな。

マーティン・フォード(Martin Ford)『Architects of Intelligence: The truth about AI from the people building it』

書籍の公式サイト。『テクノロジーが雇用の75%を奪う』(asin:4023313661)や『ロボットの脅威 人の仕事がなくなる日』(asin:4532198615)といった AI やロボットに関する著書のある著者だから、AI 分野の重要人物へのインタビューをまとめた本も成り立つのだろうし、これは日経あたりから今年中に邦訳が出るのを期待してしまいますな。

ダン・ライオンズ(Daniel Lyons)『Lab Rats: Why Modern Work Makes People Miserable』

著者の公式サイト。この人の前作は原書が出たときにブログで紹介しているが、思わぬ大ヒットとなり、邦訳『スタートアップ・バブル 愚かな投資家と幼稚な起業家』(asin:4062205882)も出た。

その勢いを受けて、現在のテック系スタートアップの価値観をぶった切る新刊ということで、カタパルトスープレックスの評を見る限り結構まともそうだが、著者はブライトバート・ニュースへの関与が報道されたりしていて、ちょっと大丈夫かねと思うところもある。

ロジャー・マクナミー(Roger McNamee)『Zucked: Waking Up to the Facebook Catastrophe』

Facebook 批判本の一つの決定版と言えるし、著者がその初期の投資家であるというのも示唆的である。そして、この著者は、マーク・ザッカーバーグ個人の資質を批判するのでなく、テック系大企業のビジネスモデルそのものが問題の根源であると喝破しており、これはそのビジネスモデルがアメリカのデモクラシーを蝕んでいるという認識にまでつながっている。

Susan Crawford『Fiber: The Coming Tech Revolution―and Why America Might Miss It』

スーザン・クロフォード先生の本が未だ邦訳が出ないというのも不思議な気がするが、今回もちょっと日本の読者にはピンとこない主題かもしれないのがつらいところ。でも、無縁な話じゃ実はないんだけどね。

Joseph M. Reagle Jr.『Hacking Life: Systematized Living and Its Discontents』

彼の本はいつもワタシのインスピレーションになってきたし、今回もメタライフハック本とは面白いと思うのだが、邦訳が出るかというと難しいだろうねぇ。

asin:B07Q287GBY:detail

Mike Monteiro『Ruined by Design: How Designers Destroyed the World, and What We Can Do to Fix It』

書籍の公式サイト。「デザイン」を主題とする、とても挑発的で面白い内容を含む本になっている。こういう本の邦訳が出ると面白いと思うわけである。

Robert HilburnPaul Simon: The Life』

著者は音楽評論家にしてミュージシャンの伝記本を多く手掛けており、ジョニー・キャッシュの伝記本は、辛口批評で知られるかのミチコ・カクタニがその年のトップ10に入れたほどである。ポール・サイモンの決定的な伝記本と言える本書については、スティーヴン・キングが「優れた才能のあるアーティストの創造性の成長に微妙な光を投じるめったにない本」と称賛している。

すごいのは、この著者が実はポール・サイモンよりも年上なこと。80歳近くでそれだけの本を書けるなんて脱帽である。とにかく、ポール・サイモンの決定的な伝記本なんだから、邦訳が出なきゃいかんでしょう。

Eric A. Posner、E. Glen Weyl『Radical Markets: Uprooting Capitalism and Democracy for a Just Society』

本書の共著者のグレン・ワイルの名前を知ったのは、「平等を実現するラディカルな方法:WIRED ICONが選ぶ「次」の先駆者たち(9)」という記事で、「権力の集中を打ち壊し、みんなに平等なリソースと影響力を与えることについて書いてある」という本書に興味を持ったのだが、もう一人の共著者がエリック・ポズナーというのにおっとなった。

彼の苗字にピンときた人もいるだろうが、著名な法学者であるリチャード・アレン・ポズナーの息子さんですね。

意外なことに、エリック・ポズナーの本はこれまで『法と社会規範―制度と文化の経済分析』(asin:4833223317)くらいしか邦訳がないようで、彼らが書いた「資産の独占化」の打破を訴えるラディカルな本となれば、先物買い的に邦訳が出ると面白いと思うがいかがだろう。

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Meredith Broussard『Artificial Unintelligence: How Computers Misunderstand the World』

著者の公式サイト。著者はデータジャーナリズムを専門とするニューヨーク大学の教授である。そうしたジャーナリズム分野における人工知能の役割について研究する著者による「いかにコンピュータは世界を誤解するか」という本は、ある種の解毒薬として求められるものだろうし、『Artificial Unintelligence』という書名自体キャッチ―だよね。

asin:B07CMSQLLH:detail

ハンナ・フライ(Hannah Fry)『Hello World: How to be Human in the Age of the Machine』

著者の公式サイト。著者はイギリス人の数学者だが、のちに『恋愛を数学する』(asin:4255009856)として書籍化される TED 講演で知る人が多いだろう。

新刊はやはりデータとアルゴリズムをテーマにしているが、「機械の時代に人間である方法」という副題は、AI 時代に合ったものではないだろうか。

Anand Giridharadas『The Elite Charade of Changing the World』

著者はインド系移民の2世で、ニューヨーク・タイムズのコラムニストを務めながら書籍を執筆しているが、前著刊行後に行った TED 講演が NHK の「スーパープレゼンテーション」で放送されたことで記憶している人もいるかもしれない。

新刊のテーマ的には、2016年に行った TED 講演の内容が近い。


これはこの変革の時代の勝者から敗者、あるいは敗者と感じている者へ向けた手紙です。そこでは痛みが怒りに変わるまで無視してきたことが告白されています。そして無関心なエリートが実体のない世界を救うために描く理想郷や未来志向をたしなめています。それは地球にいる人々を救おうとせず、火星に人々を移住させることに気を病むといったことです。

アナンド・ギリダラダス: この時代に行き場を無くした者たちへの手紙 | TED Talk

書名にある「勝者総取り:世界を変えるエリートの言い訳」といったフレーズからも著者の立場は明らかである。

この本は、米国のいわゆる「エリート階級」が、いかに権力と富を維持強化するために制度を利用していながら、慈善活動によって「世界を変える」と人助けをしているとうそぶいてきたかを検証しています。

アナンド・ギリダラダス:大学贈収賄スキャンダルが浮き彫りにした富と権力がものを言うアメリカ | Democracy Now Japan

本書もベストセラーとなっているが、ジョセフ・E・スティグリッツビル・ゲイツが推薦の言葉を寄せている。

さて、ここからはまだ刊行されていない本を取り上げさせてもらう。

スコット・ギャロウェイ(Scott Galloway)『The Algebra of Happiness: Notes on the Pursuit of Success, Love, and Meaning』

『The Four GAFA 四騎士が創り変えた世界』(asin:4492503021)が日本でも大ヒットし、今では GAFA なる呼称をニュースサイトで見かけない日がないくらいだが、そのスコット・ギャロウェイの新刊がもうすぐ出る。

のだが、これが前作の延長線上にあるビジネス書なら間違いなく邦訳も出るはずだが、「幸福の代数学」という書名からもうかがえるし、Derek Sivers あたりが推薦の言葉を寄せていることからも分かる通り、自己啓発本の路線らしいのが難しいところ。

詳しくは書籍の公式サイトをどうぞ。

ジョン・ブロックマンJohn Brockman)『The Last Unknowns: Deep, Elegant, Profound Unanswered Questions About the Universe, the Mind, the Future of Civilization, and the Meaning of Life』

著者は出版エージェントが本職であるが、プレWWW時代の梁山泊エッジ財団(Edge.org)の創始者にして多数の著作を持つ人である。彼の経歴については、21世紀ラジオ (Radio@21) の「奇跡のインタビュアー ジョン・ブロックマン」あたりを読むのがいいと思う。

『33人のサイバーエリート』(asin:4756117929)、『2000年間で最大の発明は何か』(asin:4794209363)、『キュリアス・マインド』(asin:4344014596)など邦訳されている著書も多いし、彼の最近のキュレーターとしての仕事では『知のトップランナー149人の美しいセオリー』(asin:4791768329)あたりが知られているかな。

その彼の『最後の未知:宇宙、精神、文明の未来、人生の意味についての深遠かつエレガントな未だ答えられていない問い』という書名の本を出すんだから面白そうじゃないの。ダニエル・カーネマンが序文を書いてるみたいね。

ランドール・マンロー(Randall Munroe)『How To: Absurd Scientific Advice for Common Real-World Problems』

xkcd でおなじみ……というか、日本では『ホワット・イフ?:野球のボールを光速で投げたらどうなるか』(asin:4152095458)や『ホワット・イズ・ディス?:むずかしいことをシンプルに言ってみた』(asin:4152096543)の著者として知られているかもしれないランドール・マンローの新刊は、「現実世界のありふれた問題に対する不条理な科学的アドバイス」をテーマにしているようで、これも面白そうなので来年あたり邦訳出るでしょうね。

ニール・ヤング、Phil Baker『To Feel the Music: A Songwriter's Mission to Save High-Quality Audio』

ニール・ヤングが mp3 などのデジタル時代の音源の音質について強い不満を持ち、Neil Young Archives においてそのキャリアを総括しながら、高音質のサウンドを提供するために Pono というデジタル音楽サービスまで立ち上げたことは知られるが、そのあたりについてのニール・ヤングの考えが綴られたものみたい。

個人的にニール・ヤングの衰えない創作欲にも高音質へのこだわりにも敬意を払っているが、一方でニール・ヤングの客層ってそれほど音質にこだわっているかなというのが少し疑問だったので、本書の邦訳が出て、そのあたりの認識を改められればと思う。

ベン・ホロウィッツ(Ben Horowitz)『What You Do Is Who You Are: How to Create Your Business Culture』

Andreessen Horowitz の共同創業者にして、日本でも『HARD THINGS 答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか』(asin:4822250857)が大絶賛されたベン・ホロウィッツの新刊は企業文化をいかに創り、維持するかをテーマにしているようで、これも邦訳出るでしょうな。

Rana Foroohar『Don't Be Evil: How Big Tech Betrayed Its Founding Principles--and All of US』

著者の公式サイト。著者は CNN の世界経済アナリストにして Financial Times のコラムニストで、彼女のコラムは日本経済新聞のサイトで読める。

その著者の新刊だが、表紙を見ただけでニヤリしてしまうだろう。もちろん書名は Google のかつての非公式社是であり、表紙の色遣いも Google を意識しているのは言うまでもない。

それで「いかにテック大企業は、その創業理念――と我々皆――を裏切ったか」という副題はいかにも皮肉だが、GAFA に代表されるプラットフォーム企業を批判する本は、今回のリストでもいくつもあるが、その創業理念から読み解くというのは面白い試みかもしれない。

マイケル・ペイリン『North Korea Journal』

久方ぶりに『スターリンの葬送狂騒曲』でコメディ俳優としての仕事をしてくれたモンティ・パイソンマイケル・ペイリンだが、この30年は旅行番組のプレゼンター、並びにそれを基にした本の執筆が本業になっている。

昨年の南北首脳会談にあわせた北朝鮮旅行をテレビ番組「発見!北朝鮮の歩き方」にすると同時にいつものように本にもしているのだが、これが発売になる今年の秋ごろ、北朝鮮はいったいどうなってるでしょうな。

いずれにしても、マイケルが旅行番組を作ると、そこを旅行する人が多くなるという "Palin Effect" は、北朝鮮には起こらない気がするが。

North Korea Journal

North Korea Journal

Amazon

さて、ゴールデンウィークも終わりである。ワタシ自身は、連休が始まる前にこれはやろう、当然できるだろと思っていたことが何一つできていないのに情けない気持ちになるが、皆さんはいかがだろうか。

それでは皆さん、ごきげんよう。さようなら。

[追記]

以下、ここで取り上げた本の邦訳が出たのを紹介するエントリをはりつけておく。

yamdas.hatenablog.com

yamdas.hatenablog.com

yamdas.hatenablog.com

yamdas.hatenablog.com

yamdas.hatenablog.com

Spotifyのプレイリストをいくつか作ってみた

これは面白い企画じゃないか! と乗ることに決めた。

Spotify のプレイリストって基本的には曲数が多くて適当に聴き流せるものがいいのだろうが、そういう取り止めがないものを作ろうとするとそれこそ取り止めがなくなってしまうので、勝手に以下の方針を立てることにした。

  • それ自体を1枚のアルバムとして聴くことができる起伏を作る
  • あえて全10曲とし、46分テープにおさまるイメージ
  • 同じバンドの曲は1曲のみ
  • 〇曲目は、その曲が最初にリリースされたアルバムの〇曲目と同じとする

とにかくアナログ盤時代の時間サイズの1枚のアルバムを作りたいと思ったのだ。一番最後の方針がキモで、正直、この縛りを思いついたので俄然やる気になった。のだが、これがかなり難しく、大げさに言えばパズルの領域になる。それまでの流れの中で「この曲がいい」と思っても、それがこの条件に合致することはほぼないわけで。

すべては「アナログ時代のアルバム」という単位にこだわったためなのだが(誰に頼まれたわけでもないのに……)、そうなると、収録曲はアルバムという単位が意味があった前世紀までの曲にほぼ自然と落ち着いた。

うんうん唸って、以下の10曲をリストアップした。

  1. The Cure, "Plainsong"
  2. Sting, "All This Time"
  3. Louis Philippe, "She's Great"
  4. Matthew Sweet, "Looking at the Sun"
  5. Patti Smith, "Summer Cannibals"
  6. Massive Attack, "Unfinished Sympathy"
  7. Steely Dan, "Pixeleen"
  8. Brian Eno & John Cale, "Been There, Done That"
  9. Talking Heads, "City of Dreams"
  10. Roxy Music, "Tara"

よしこれでよかろうと思ったら、Spotify には Louis Philippe がなかった……ガーン! Louis Philippe は iTunes Music にもないのだが、Google Play Music にはあるらしい。なんで?

仕方ない。3曲目を何かに変えるか……と考えるうち、一応これでも5曲(A面)、5曲(B面)で46分テープにおさまるランニングタイムなのだけど、A面とB面でちょっと時間に差ができてしまっている。これも是正したいなと思い、後半もいじろうかとか思ったらドツボで、またうんうん唸って、なんとかまたリストアップした。

  1. The Cure, "Plainsong"
  2. Sting, "All This Time"
  3. Matthew Sweet, "Girlfriend"
  4. Björk, "It's Oh So Quiet"
  5. Patti Smith, "Summer Cannibals"
  6. Massive Attack, "Unfinished Sympathy"
  7. David Byrne & Brian Eno, "Strange Overtones"
  8. Brian Eno & John Cale, "Been There, Done That"
  9. Steely Dan, "Everything Must Go"
  10. Roxy Music, "Tara"

イーノの名前が2回出てくるが、それはもういーの、ということでプレイリストを作ろうと思ったら、そのイーノとケイルの『Wrong Way Up』がSpotifyでは配信されていないorz

なんでこういうことになるかというと、実は上記のプレイリストは、事情によりネット接続環境のないところで考えたためである。つまり、すべてワタシの頭の中で音を鳴らして、この組み合わせならよかろうと曲順をすべて決め(だから、上に書く「うんうん唸って」というのは比喩でなく、本当のこと)、後で実際に Spotify を検索して確認したら、該当曲を配信していないのに気づいたという具合である。

問題のブライアン・イーノジョン・ケールの曲だが、ワタシにとって「完璧なポップソング」の一つの典型であり、今回プレイリストを作る上でプレイリストの核というかエッセンシャルなものだったため、これを外すことは考えられず、正直ここで作成を諦めかけた。

のだが、翌日もうヤケクソになって、こういうプレイリストに絶対入れたくない大ヒット曲、しかも今年とある事情で20年ぶりに流れまくったあの曲があてはまることに気づいて、自己破壊的にプレイリストが完成してしまった。

こうしてみると誰でも知っているヒット曲が多いように見えてアレなのだけど、tag さんの企画に乗れたのでヨシとする。

結局えらく時間をかけたことになり、それを考えると自己嫌悪を禁じえない。高校生時代に好きな人にプレゼントするためにマイテープ選曲してた頃から大して進歩してないように思えてくる。

これだけで終わってはなんなので、4年前にワタシが選んだ100曲選(これも結構な縛りを課したものですね)のプレイリストを作ってみた。

こっちは文句なしに有名曲ばかりで気楽に聴き流せるので、ゴールデンウィークの BGM にいかがでしょう。

デジタル音楽の行方

デジタル音楽の行方

スティーヴン・キングがお薦めする必読の50冊

よく覚えていないが、確か Facebook 経由で知ったページ。スティーヴン・キングというと彼自身が多作というだけでなく、優れた本や映画を惜しみなくレコメンドすることでも知られている。このページは、その中でも特に強く彼がレコメンドする本を集めたもので、『書くことについて』(asin:4094087648)での紹介が多いのだけど、それ以降に書かれた本も多く入っている。

……のだが、近作は邦訳が出てないものが多い。以下、邦訳が出ているもののリストを挙げておくが、テス・ジェリッツェンやローラ・リップマンなど Wikipedia 日本語版のページがあるクラスの作家の作品でもそうなのだから、かつて翻訳大国と言われた日本の出版業界の現状をこういうとこにも見て少し悲しくなる(邦訳リストに抜けがあるのに気づいたらお知らせください)。

英語圏におけるこうした「必読リスト」に必ず入る定番作品は『百年の孤独』や『真夜中の子供たち』など少なく、エンターテイメント作品寄りなのがキングらしいと言えるか。具体的に彼がどのように賞賛しているかは原文を当たってくだされ。出版社の方は、それを読んで邦訳を出す参考にしていただければありがたい。個人的には、ポール・サイモンの伝記本の邦訳が読みたいところ。

Kindle 版が出ているものもそれなりにあるので、ゴールデンウィークに読む本選びの参考になるかな?

日本人作家の作品では、唯一『バトル・ロワイアル』が入っているが、高見広春って今何してるんだろう?

スティーヴン・キングの作品では、ユアン・マクレガー主演で今年映画化される『ドクター・スリープ』の公開時にまた話題になるのかな。『シャイニング』の原作に思い入れがあるワタシ的にも気になるところである。

ROMA/ローマ

ちょっとブログで書き忘れていたが、3月半ばに近場のイオンシネマまで出向いて観ていた。

もちろん Netflix で配信開始時に観ていたが、明らかに体調が適してないときに観た感じがあり、映画をちゃんとつかんでないのが自分で分かり切っていたので、せっかく映画館で上映してくれるなら、これを逃す手はないと思った次第である。

結論から書くと、映画館で観てよかったねぇ、としみじみ思った。

ずっとカシャカシャカシャと掃除の音だけがして、やがてまったく動かないカメラに映る床にシャーっと水が流れ、そこに映る空、そしてそこに――というオープニング、もうこの時点で映画的興奮がみなぎっているのだが、テレビでの鑑賞時は、ふーんという感じだったのだから、頭を抱えたくなる。

というか、最初観たときかなり退屈に思えた前半部はぜんぜん退屈じゃないじゃないか! それでも寝不足だったため、後半ちょっと眠くなったところがあるが、もちろんクライマックスはすごい内的な盛り上がりがくる。

これは前述のセットとセッティングの問題や、ワタシの自宅のテレビがしょぼいという問題もあるだろうが、端的にいえば、ワタシが鈍いんですね。

映画でも音楽でも、後から再度体験して、これは! となることがよくあるんですよ(だから、一回体験しただけでパシっとつかむ必要がある、評論家とか絶対なれない)。

Netflix 配信作品は果たして「映画」なのか、アカデミー賞を受賞する資格はあるのか、といった議論が本作がオスカーの有力候補となったため本格的に問題となった。個人的にはこれを排除するのは時代錯誤じゃないかと思うのだが、一方で、可能なら映画はやはり大きなスクリーンで観るべきじゃないか、という保守的な感想をもってしまったのは難しいところである。

それだけ『ROMA』が出来が良く、『トゥモロー・ワールド』『ゼロ・グラビティ』と少し違った、でもやはり映画館の大画面で観るべき高度な映像力を持つ作品だからということだが、同時に結構ヘンな映画でもあるよなぁ。

あと、Netflix で観たときもびっくりしたぼかしなしのチンポ、映画館でもまったくぼかしなしで、あ、これいいんだと思ったりした(笑)。

僕たちのラストステージ

アベンジャーズ/エンドゲーム』の公開日、あえてこっちを観に行った。レイトショーの観客はワタシを含め三人で、これはワタシの映画館鑑賞史(?)の中でも最少人数タイの記録だった。

サイレント映画時代からハリウッドのスターだったローレル&ハーディの晩年のストーリーなのだが、よくできている。

よくはできているが、それなりにまとまったハートウォーミングコメディの枠に収まるし、ニール・サイモンの『サンシャイン・ボーイズ』など、類似作はいくつか挙がる。

それでもワタシは本作を観てよかったと思うのは、ワタシ自身が何よりスティーヴ・クーガンが好きだから。ワタシ自身自分をローレルに重ねるところがあるが、現実には体形ははっきり(ジョン・C・ライリーが特殊メーキャップで演じる)ハーディ寄りになってしまっており、厚かましいですね。

最初は「こんなんどこが面白いの?」といささかナメて見ていた二人のコメディを、最後にはハラハラしながら見てしまう。そしてそこに映し出される、二人の家族のちょっとした所作にグッとくる。

キャストでは、バーナード・デルフォント役のルーファス・ジョーンズがジョン・カビラに妙に似ていて、ワタシはジョン・カビラが嫌いでもなんでもないにも関わらず、こいつが出てくるたびにイライラしてしまった(理不尽系感想)。

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』への反応 その20

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』だが、そろそろ反応も出尽くしたかなという感がある。

こうしたツイート一つで元気百倍になってしまうのだが、それでもそろそろこの本の宣伝目的で更新を続けてきたこのブログもまた元に戻るときが近づいてきた。

思うところはこのツイートに始まるスレッドに書いた通りである。

既に購入済の人でも最新版であるバージョン1.1.1に更新していない人は、是非アップデートしていただきたい。誤記訂正だけなら大したものではないが、何しろかなり長い新作文書が最新版には含まれるので。

今年ローレンス・レッシグの本が2冊も出る

この記事を読んでおっと思ったのは、ローレンス・レッシグの近況が知れたこと。大統領選挙に出馬しかけたこともあるレッシグ先生だが、「現在のアメリカの政治家を選出するシステムが完全に崩壊していることやすべての国民の票が平等ではないこと、国民の意見が無視され、民主主義が崩壊していることを憂い、それを変えていくために」Equal Citizens という非営利団体を創設しているとな。

さすがやねと思ったが、そうなると当分(つまり大統領選挙の間)は本とかも出ないのだろうなと念のため調べてみたら、なんと今年彼の本が二冊出る予定になっていて驚いた。昨年秋に久方ぶりの新刊『America, Compromised』が出て間もないのに。

Fidelity & Constraint: How the Supreme Court Has Read the American Constitution

Fidelity & Constraint: How the Supreme Court Has Read the American Constitution

来月出るこちらは憲法学者の本領を発揮した本みたいで、581ページのハードカバーなんだから相当な分量だ。キャス・サンスティーンも推薦の言葉を寄せている。

They Don't Represent Us: Reclaiming Our Democracy

They Don't Represent Us: Reclaiming Our Democracy

They Don't Represent Us: Reclaiming Our Democracy (English Edition)

They Don't Represent Us: Reclaiming Our Democracy (English Edition)

こちらのほうが Equal Citizens の活動に近そうな内容である。レッシグ先生は、今のアメリカ政府は国民を代表しておらず、またその再建が民主主義のために必要不可欠であり、それは可能だと考えているわけだ。

表紙で「THEY」と「US」が分断/対比されているが、これはいわゆる庶民と特権階級の分断を指す「us-and-them」という表現を意識したものだろう。この週末に起きた交通事故とその容疑者の処遇を巡り、「上級国民/下級国民」といった言葉がネットをかけめぐった日本も無縁な話じゃないと思うのよね。

ただ、「政治の腐敗」を研究テーマにするようになってからレッシグ先生の本は邦訳がまったく出ておらず残念なことである。山形浩生「山形の著書訳書など」のページに『腐敗』と題された訳書が予告されているが、これがレッシグ先生の本だったりしないのだろうか。

それはそうと、このエントリの冒頭でリンクした渡辺由佳里さんの記事にあるアンドリュー・ヤングとレッシグ先生の対論の模様は YouTube で見れる。

「バーチャルリアリティの父」ジャロン・ラニアーのアンチソーシャルメディア本の邦訳が今週刊行される

昨年5月に「バーチャルリアリティの父」ジャロン・ラニアーが「今すぐソーシャルメディアのアカウントを削除しよう」と呼びかける新刊を出していることを取り上げたのだが、その邦訳が今週刊行されるのを知った。

今すぐソーシャルメディアのアカウントを削除すべき10の理由

今すぐソーシャルメディアのアカウントを削除すべき10の理由

ほぼ原題の直訳である邦題を見れば本書の主張は一目瞭然だが、直球のソーシャルメディア批判本である。

しかしなぁ、『人間はガジェットではない』(asin:4153200166)に続く彼の本の邦訳が、ワタシの WirelessWire 連載の記念すべき第1回で取り上げた『Who Owns the Future?』(asin:0241957214)でもなければ、「バーチャルリアリティの父」としての本領を発揮した『Dawn of the New Everything: Encounters with Reality and Virtual Reality』(asin:1250097401)でもなく、アンチソーシャルメディア本という事実には、なんだかなぁという気持ちになるところもある。

そういえば、ジャロン・ラニアーは、ピーター・ルービン『フューチャー・プレゼンス 仮想現実の未来がとり戻す「つながり」と「親密さ」』についてのブックレビューの中でも名前が出ていた。

VRの父(本書では「ゴッドファーザー」)と言われるジャロン・ラニアーは、著書『Dawn of the New Everything』で、VRは「AIと正反対のもの」だと定義している。『WIRED』US版でのルービンによるインタヴューに答えて、ラニアーはこう言っている。「AIは偽り(フェイク)なものです。人々から大量のデータをとって、のちにさまざまに改変された形態で再生します。一方、VRには『人々』が存在します」

VRはリアルだ。それはAI以上にぼくらの世界を激変させる:ピーター・ルービン『フューチャー・プレゼンス』(ブックレヴュー)|WIRED.jp

案の定というべきか、ラニアーは最近の AI をめぐる狂騒にも批判的なんですね。今からでも『Dawn of the New Everything』の邦訳出ないものだろうか。

フューチャー・プレゼンス 仮想現実の未来がとり戻す「つながり」と「親密さ」 (ハーパーコリンズ・ノンフィクション)

フューチャー・プレゼンス 仮想現実の未来がとり戻す「つながり」と「親密さ」 (ハーパーコリンズ・ノンフィクション)

『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』が今週出てしまう

山下泰平さん、という呼び名はどうしても未だにしっくりこなくて、id:kotorikotoriko と呼びかけたくなるのだが、ともかく彼の初の単著が今週出る。

それにしてもこれを出す柏書房はえらいよな。

文学史&エンタメ史の未確認混沌時代(ミッシング・ピース)!

東海道中膝栗毛」の弥次喜多が宇宙を旅行する、「舞姫」の主人公がボコボコにされる、身長・肩幅・奥行きが同じ「豆腐豪傑」が秀吉を怒らせる――明治・大正時代、夏目漱石森鷗外を人気で圧倒し、大衆に熱烈に支持された小説世界が存在した。
本書では、現代では忘れられた〈明治娯楽物語〉の規格外の魅力と、現代エンタメに与えた影響、そして、ウソを嫌い、リアルを愛する明治人が、一度は捨てたフィクションをフィクションとして楽しむ術(すべ)をどのようにして取り戻したのか、その一部始終を明らかにする。
朝日新聞スタジオジブリも注目する、インターネット出身の在野研究者が贈る、ネオ・文学案内。

「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本(一般書/単行本/日本文学、評論、随筆、その他/サブカルチャー/ネット発/) 柏書房株式会社 ノンフィクション・歴史・古文書の出版社

コトリコさんには11年前(もう、そんななるのか……)一度お会いしたことがあるが、「アナタはどうしてあんなキチガイみたいに面白い文章が書けるんですか!」と訳の分からないことを口走って本当に申し訳なかった。

コトリコさんはそれから変化を遂げながら、しかし変節することはなく、誰もマネできない地点まで来たわけである。素晴らしいことじゃないか。

ところで筒井康隆の最高傑作って何なのだろう?

個人的な話になるが、この何年も自分の両親と同年代の人たちの動向がどうしても気になってしまう。その中でもワタシの中でそれを代表する存在が、今上天皇と皇后様、そして筒井康隆だったりする。

トークイベント「日本SFの幼年期を語ろう」で初めてご尊顔を拝したのが4年以上前で、あれからいろいろ変わったよね(遠い目)。

筒井康隆も近年はネット炎上などあって苦しいところが、個人的にはイギリスにおけるジョン・クリーズ並びにモンティ・パイソンの現在に重なってしまうのだが、間違いなくワタシは筒井康隆のファンだし、エッセイ集や評論など含めると20冊くらい彼の本を読んでいるはずである。が、彼の膨大な作品群からすれば「たった20冊」だし、実際彼の代表的な長編で読んでないものも多い自覚がある。

そこでふと思ったのだが、一般に筒井康隆の最高傑作とされるものって何なのだろう? という疑問である。代表作となれば、文学賞をとった作品を挙げればだいたい押さえられるだろうが、例えば小松左京にとっての『日本沈没』みたいな金看板というか最高傑作と認められる作品って何なのだろうと思い、なにげにツイートしてみた。

他のクローズドな場所でも同じ質問をしてみて、寄せられた作品を以下挙げさせてもらう。

ワタシのツイートの「世間的に」という前置きがよくなかったかもしれない。世間的な認知度だけでいえば、映像化回数がダントツの『時をかける少女』になるわけで(次点は『七瀬ふたたび』かな?)、それでもこれだけいろんな作品が挙げられ、残念ながらワタシが読んでない作品もいくつか含まれるのに頭を抱えてしまう。

実験作としての到達点という意味では『残像に口紅を』になるだろうし、パソコン通信時代の新聞連載小説である『朝のガスパール』の再評価はまだかとか、思えば筒井康隆は短編がいいんだよなとか(思えば、ワタシも昔私家版日本短編小説十選に「都市盗掘団」を選んでいる)いろいろ思うところはあるが、むくむくと彼の本を読みたい欲が湧いてきた。今回調べて、彼の本がほとんど Kindle 化されているのを知ったしね。

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