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ルース・エドガー

ルース・エドガー [Blu-ray]

ルース・エドガー [Blu-ray]

  • 発売日: 2020/12/02
  • メディア: Blu-ray

昔、ワタシは映画館を女性を誘って行く場所だとなんとなく思い込んでいて、なので映画館に行く機会は当然のように多くなかった。2008年くらいだったと思うが、そんなわけないじゃん、という当たり前のことに突然気づき、また当時仕事がひどく忙しくて頭にきて、意地で金曜夜に車を飛ばしてシネコンに一人でレイトショーを観に行くようになった。

それからの10年あまり、だいたい年20本台映画を映画館で観ている。平均すれば月1、2本くらいで大したレベルではないのだけど、それでもとにかくコンスタントに映画館に足を運んだわけだ。

しかし、ご存知の通りの事情で、長らく映画館に行けなかった。最後が2月末に観た『ミッドサマー』だから、もう3か月以上映画館に足を運ばなかったことになる。この10年あまり、体調を崩したり、仕事が忙しかったりで月単位で間が空くことはあったが、3か月以上というのは一度もなかった。

緊急事態宣言明けでワタシの住んでるところの近くにあるシネコンも営業を再開していたが、旧作ばかりの上映だったので行く気になれなかった。それがこの週末あたりから新作も入ってきたので、久方ぶりに映画館に出向いた。未だ映画館は金曜夜にレイトショーを観に行くというスタイルがワタシの基本なのだけど、さすがに今はそれは望めない。

元々はジム・ジャームッシュの『デッド・ドント・ダイ』を考えていたのだが、評判を小耳に挟んだ『ルース・エドガー』を(客としての)復帰第一作とさせてもらった。

2019年に本国アメリカで公開された本作が、ミネアポリスアフリカ系アメリカ人のジョージ・フロイドが警察官に首を膝で押さえつけられ死亡した事件を発端とした Black Lives Matter 抗議活動の盛り上がりとそれに伴う騒動が報じられるこの2020年6月の日本で公開されたのは偶然なのだが、期せずして時宜にかなった作品になっている。

ただ本作の主人公のルース・エドガーは、窃盗や薬物所持で逮捕歴があり、強盗容疑で起訴されたこともあったジョージ・フロイドとは真逆とも言える、弁舌に優れ、学業もスポーツもこなし、周りの信望も厚い出木杉君な優等生の高校生だ。

その彼に疑惑の影を、やはりアフリカ系アメリカ人である世界史の教師ハリエットが見出すところから本作は動き出すのだが、ケルヴィン・ハリソン・Jr のイヤミのない優等生である主人公の演技が醸し出す不穏さが巧みで、観客も彼は本当はどうなんだという緊張が途切れない。本作はとにかくスリラーとして優れている。

彼の周りで、主人公への疑いをぬぐえない世界史の教師と問題を抱えるその従姉妹、アフリカの紛争地帯から幼い主人公を養子に迎えこれまで愛情を注いできた夫婦のそれぞれの問題も描かれていて、彼らが人間として抱える後ろ暗さが、単なる優等生でもない、だからといって仮面で周りをだます悪人でもない主人公の造形とともに物語に厚みを加えている。

なんといってもナオミ・ワッツ演じる母親と対する場面で主人公が訴える、期待の重圧に窒息しそうなこと(そういえば、エリック・ガーナーもジョージ・フロイドも、「息ができない」と訴えて死んでいった)、自分は聖人でなければ怪物扱いなのかというフラストレーション、そして最後に対峙するオクタヴィア・スペンサーが演じるハリエットと主人公の議論、特に自分もお前も同じ箱に入れられており、その箱に光が差し込むことはまれで、光がまったく届かない人だっているというハリエットの言葉は(劇中黒人らしくない名前と言われる主人公のルースという名前は「光」という意味の皮肉)、まさに今問題となっている軋みと黒人が日常的に抱える圧力を理解する助けになるだろう。

さて、アメリカでの抗議デモにおいて、3人の黒人男性のやりとりが話題になったが、この3人の男性の年齢は45歳、31歳、16歳で、年長者はジョージ・フロイドと同年代、そして若年者は本作の主人公と同年代にあたる。というか、ジョージ・フロイドはワタシと同い年で、上で彼の前科について触れたが、これは彼を貶めたいのではなく、例えばワタシにしても生まれる環境が違えば、今の年齢になるまでにそれがつく可能性があるということだ。そして、本作の主人公くらいの歳の子供がワタシにいてもおかしくないのである。

本作のエンディングの主人公の表情を見る限り、彼を窒息させる重圧が続くことが分かり、そのモヤモヤを観客も共有することになるのだけど、とにかくスリリングな秀作であった。

2020年においてもオープンソースの持続可能性、そしてビジネスモデルは一筋縄にはいかない

www.techrepublic.com

Slashdot で知った記事だが、タイトルの通り、オープンソースの持続可能性、そしてはそれは単純ではないという話である。

この記事の執筆者は Matt Asay で、彼はおよそ10年前に Canonical の COO を退任しているが、現在は AmazonAWS 部門で働いているのね。

その彼は最近、オープンソースプロジェクトのメンテナに何人もインタビューしたそうだが、そのインタビューイの大半はプロジェクトのサポートでお金を得ていないという。企業から開発に専念できるよう資金援助の申し出がある人もいるがそれは例外的な存在である。

オープンソースの開発やメンテナンスを無償でやってるのは悪い話か? というと話はそう単純ではない。

Linux Foundation の要職にある Chris Aniszczyk は、寄付でオープンソースプロジェクトを維持するモデルを「オープンソースのギグエコノミー、チップ入れ」と呼び、それはスケールしないと否定的な立場をとる。仲間と会社を立ち上げてそれをビジネスにするべきというのが彼の考えである。

しかし、オープンソースとのかかわりを9時5時の会社仕事にしたくないと考える開発者が多いことも予想できるわけで、そういうわけで「オープンソースの持続可能性」に唯一の正答は存在せず、一筋縄にはいかない。

Matt Asay がインタビューしたオープンソースプロジェクトのメンテナたちの大半は、空き時間を費やす「楽しみ」としてオープンソースに関わりだしており(Just for Fun ですね)、その対価を受けることは期待してなかった。

Chris Aniszczyk の考えは、ここでオープンソース開発者の現実とぶつかる。(会社を作って)給料をもらうことこそもっとも持続可能性のある収入源であるという彼の考えは合理的ではあるが、そもそも開発者の多くはそれを必ずしも望んではいない。

ならば企業はどうすればよいのか? オープンソースプロジェクトを支援したい企業は今では多いが、その支援方法は必ずしも明白ではない。この文章では musl libc(Linux 向け標準 C ライブラリ)の Rich Felker などの事例、PowerDNS や(Wireshark の作者 Gerald Combs を抱える)Riverbed の事例が企業がオープンソースプロジェクトを独占せずに折り合いをつけている事例が紹介されているが、やはりオープンソースの持続可能性の答えは一つではなく、プロジェクトごと、コミュニティごとに考える必要があるというところに立ち戻ることになる。

www.oreilly.com

続いては、Chef の共同創始者にして CTO だった Adam Jacob やマイク・ルキダスなどが著者に名前を連ねる「オープンソースのビジネス」についての文章である。

基本的には Adam Jacob による Chef のライセンスの「オープンコア」モデルから「Red Hat」モデルへの変更についてのコメントとそれに対する Nat Torkington の反応が中心なのだが、その前提として(これは上でリンクしたマイク・ルキダスの文章でも問題になっている)Amazon などの主要なクラウド企業が、オープンソースを都合よく利用しながら(そのオープンソースソフトウェアのライセンスはそれを妨げることができない)、オープンソース企業への不安と恐怖を煽っている問題である。

Stephen O'Grady はこれを「クラウドとオープンソースの火薬庫」という言葉で表現しているが、クラウド企業の動きに対して、オープンソース企業の多くはライセンスと配布モデルを変えて対抗している。その変更とはすなわち、ソフトウェアが少しオープンではなくなるということだ。

フリーソフトウェアの ElasticSearch に独占的なコンポーネントを付けて配布する Elastic がその一例だが、Chef はそれとは違う方向性を模索している。Chef は2019年4月にオープンソース宣言を行っているが、それは一つ落とし穴(という表現は悪いが)がある。Chef は商標登録されており、そのソフトウェアを再配布するのは可能だが、その際それを Chef と呼んではならない。このやり方は Red Hat のモデルに倣ったものである。

で、持続可能性のあるオープンソースコミュニティについて The Sustainable Free and Open Source Communities Book という本を執筆している Adam Jacob は、この決定時点で彼は Chef を離れていたにも関わらず、彼はその決定を支持しているんですね。

つまり、彼はその決定がオープンソースソフトウェアで健全なビジネスをやるのに重要だとみているわけなのだが、その根拠については(特に Nat Torkington とのやりとり)原文を読んでくだされ。

それを受けてこの文章の著者(多分、マイク・ルキダス)は以下のように書いている。

数年前、オライリーOSCon のテーマは「オープンソースは勝利した」だった。確かに、新しいプログラミング言語にしろ、新しいウェブのフレームワークにしろ、新しいデプロイメントツールにしろ、機械学習の新しいライブラリなどにしろ、それがオープンソースでなくて成功すると考えるのは難しい。我々の考え方は変わったのだ。しかし、いつにしろ早まった勝利宣言は危険だし、この30年オープンソースは異端の運動から主流に変わってきたとはいえ、オープンソースのビジネスモデルは未だ課題だらけである。Chef から Elastic まで多様な企業が新しいモデルを試みている。Chef のモデルはオープンで、明快で、なおかつ強力なコミュニティを作ることを目指している。

というわけで、オープンソースの持続可能性にしろビジネスモデルにしろ、全方位的に歯切れのよい話はそうそうないわけである。両者についての話は今になって持ち上がったものではなく、それこそこの20年、何度も議論されてきたことである。後者について最初に本格的に論じられたのはエリック・レイモンドの「魔法のおなべ」だと思うが、それ以降これを刷新する決定版となるオープンソースのビジネスモデルについての論考はあるのだろうか。

伽藍とバザール

伽藍とバザール

  • 作者:E.S.Raymond
  • 発売日: 2010/07/31
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

バーチャルリアリティー環境のパソコンでDOSを動かす……ってなんじゃそりゃ!

少し前になるが、Four short linksVirtual Reality DOS というプロジェクトを知る。「バーチャルリアリティーDOS」ってなんだ?

sonictruth.github.io

……と思ったら、これが実際に稼働しているサイトを見て驚いた。これは本当に「バーチャルリアリティーDOS」である。つまり、バーチャルリアリティー環境で、DOS が動作するパソコンのエミュレータなのだ。

これにどんな現代的な意義があるのかワタシには正直分からんのだが、世の中面白いことを考える人もいるもんだ、と昨今のコロナ禍ですさんだ世相に欠けたバカバカしい楽しさ(失礼)があるように思ったので取り上げさせてもらった。

一応、テトリスもできるぞ!

ところでこのプロジェクトのソースコードのライセンスは何なんだろう?

ロサンゼルスで日本の家庭料理を広めるために活動する酒井園子さんの講演動画

Talks at Google に久方ぶりに日本人と思しき方の講演があがっているのを知った。

完全に英語で講演をされているこの方はどなたと調べたら、酒井園子(Sonoko Sakai)という、日本の家庭料理を広める活動をされてる方なのね。

ニューヨークで生まれ、東京、サンフランシスコ、メキシコで育った方で、映画プロデューサーをしていたが、リーマンショック時の挫折を経て、料理講師/フードライター/日本食プロデューサーに転じたとのこと。すごい転身やね。

アフターコロナ時代となったとき、国際的な日本料理の受容に変化はあるのかなと思ったりする。

Japanese Home Cooking: Simple Meals, Authentic Flavors

Japanese Home Cooking: Simple Meals, Authentic Flavors

  • 作者:Sakai, Sonoko
  • 発売日: 2019/11/19
  • メディア: ハードカバー

史上最高のスポーツドキュメンタリー50選

kottke.org 経由で知った Axios のページだが、史上最高のスポーツドキュメンタリーを50本選んでいる。

もちろんアメリカ視点であり、スポーツドキュメンタリーとなると日本ではなじみのない作品も多いが、トップ10ともなるとさすがに知った作品が多い。

  1. ティーブ・ジェームズ『フープ・ドリームス』(asin:B000K7VIOU
  2. エズラ・エデルマン『O.J.: Made in America』
  3. ジェイソン・ヘーヒル『マイケル・ジョーダン: ラストダンス』
  4. レオン・ギャスト『モハメド・アリ かけがえのない日々』(asin:B000A16QIE
  5. ブライアン・フォーゲル『イカロス』
  6. アシフ・カパディア『アイルトン・セナ 音速の彼方へ』(asin:B006QJT578
  7. ケン・バーンズ『シリーズ:野球』
  8. ダニエル・ゴードン『ヒルズボロの悲劇
  9. ブルース・ブラウン『エンドレス・サマー』(asin:B00J7XXXIC
  10. エリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィ『フリーソロ』(asin:B07YXZXF4Y

ここでも Netflix 配信作品が2本入っている。ワタシはいずれも観れてないんだよなー。2位の O.J. のは WIRED.jp の記事を読んで観たくなったが、日本で放映されたっけ?(というか、これスポーツドキュメンタリーなのか?) この中でちゃんと観たことがあるのは、ワタシの場合『モハメド・アリ かけがえのない日々』だけである。

そうそう、今月15日に BS プレミアムで『フリーソロ』が放送されるので、録画して観よう。

日本に関する作品となると、20位に市川崑東京オリンピック』が入っている。4K リマスター版 Blu-ray が来月発売になりますね。

樋口恭介『すべて名もなき未来』(晶文社)をご恵贈いただいた

樋口恭介さんの新刊『すべて名もなき未来』について、目次を読んだだけで盛り上がってしまい、以下のツイートをした。

するとこのツイートを目に留めてくださった晶文社の安藤さんから『すべて名もなき未来』をご恵贈いただいた。

今更であるが、樋口恭介さんは『構造素子』(asin:4150314373)でデビューした SF 作家であり、当然、それに続く新刊も SF 小説(集)なんだろうと思っていた。しかし、目次に並ぶ、マーク・フィッシャー『資本主義リアリズム』、木澤佐登志『ダークウェブ・アンダーグラウンド』、ケヴィン・ケリー『テクニウム』『〈インターネット〉の次に来るもの』鈴木健なめらかな社会とその敵』、テッド・チャン『息吹』、イアン・マキューアン『贖罪』……と挙げていくとキリがないのでここで止めるが、これだけ「イン」な本が並ぶってどういうことだよ! と興奮したわけである。

二冊目がなんで小説でなく評論集なのかという疑問について、晶文社の note において公開されている「まえがき」の以下の箇所が対応していると思う。

本書はフィクションではない。しかしながらそれは、本書がフィクションでないことを意味しない。全ての人間はフィクションを生きている。人間はフィクションを通して現実に触れている。フィクションが認識を規定し、フィクションが人間を規定している。世界とはフィクションを通して触れられた現実の名であり、時代とは、変わり続ける世界≒フィクションの、ある特定の瞬間に与えられた名のことである。

樋口恭介『すべて名もなき未来』まえがきを公開します|晶文社

この「まえがき」でフィリップ・K・ディックの名前が出てきたところで、ちょうど『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を少し前に読んだばかりのワタシは、偶然のめぐりあわせに唸った。

――とここまで読んだ人は笑い出すかもしれない。お前、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』も読んでなかったの? と。

ワタシだって『暗闇のスキャナー』や『ユービック』をはじめ、ディックの本は何冊か読んでいるが、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』は未読だった。それを今年の春に読むことになったのは、今年はじめ早川書房海外SF作品必読フェアにより『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』をはじめ、とっくに読んでおくべきだった本をいくつも買うきっかけができたおかげであり、さらには先月からの緊急事態宣言のもとで精神的に動揺して不眠症となり、それを読む時間ができてしまったおかげ、つまりは偶然のめぐりあわせの積み重ねである。

これでお分かりの通り、ワタシは大した読書家ではない。『すべて名もなき未来』で取り上げられている本の中にも、読みたい/読んでおくべきと思いながらその機会を逸していた本がいくつもある。

樋口恭介さんは、以前「SNSについて最近自分が思っていたことは、5年前には既に語り尽くされていたらしい」において、ワタシの『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』に言及くださっており感謝したのだが、こうやって『すべて名もなき未来』について書くのは、その恩義というか借りの意識からだけではない。

ワタシは樋口恭介さんとは一回り以上歳が違うのだけど、こうしてその新刊の目次を見て、そしてその「まえがき」を読んで自分が盛り上がるのに感じ入るものがあったからだ。

「まえがき」のあと、ワタシは迷わず、近年読んだ中でもっとも好きな小説のひとつであるイアン・マキューアン『贖罪』(asin:4102157255)について書かれたB2「物語の愛、物語の贖罪」に飛びついたが(上のようなことを書いておいてなんだが、この本だけはそれについて論じた文章を読む前に、必ず本を読んでおきましょう)、そこである意味マキューアンのプロセスをなぞるようにして(正確にはマキューアンの作品を鏡にして)「愛と死」について書く著者に、ワタシもまた自分のことを重ねて読んでしまった。

これは良い本でしょう。それをこの本の残りを読んで確かめていくのが楽しみである。

ニューヨーク公共図書館125周年を祝い著名人たちがこの一冊をお勧めしている #nypl125

ニューヨーク公共図書館が 125 Years of The New York Public Library という特設ページで創設125周年を祝っており……ということは、創設は1895年、19世紀かよ!

というわけで、「読書は我々をつなげてくれる(Reading Brings Us Together)」のキャッチフレーズの元で、各界の著名人がその人にとってのこの一冊を紹介している。

ワタシでも知ってるレベルの著名人だと以下のあたりか。

イーサン・ホーク → ランダル・ジャレル『陸にあがった人魚のはなし』


アラン・カミング → ジャニス・ギャロウェイ『The Trick Is to Keep Breathing』


フランシス・フォード・コッポラ → イーディス・ウォートン『Glimpses of the Moon』


フレデリック・ワイズマン → ヘレン・ヴェンドラー『Dickinson: Selected Poems and Commentaries』


チェルシークリントン → マデレイン・レングル『五次元世界のぼうけん』


ジェナ・アウシュコウィッツ → ポール・カラニシ『いま、希望を語ろう 末期がんの若き医師が家族と見つけた「生きる意味」』


パトリック・ウィルソン → ダグマーラ・ドミンスク『The Lullaby of Polish Girls』

というわけで、この中でワタシが読んだことがあるのは、恥ずかしながら『カラマーゾフの兄弟』と『ユービック』だけである。

ニューヨーク公共図書館については、以前にも最高の「穴場」オンラインサービス10選エントリで当ブログでの紹介記事をまとめているが、本当にすごい存在だよなぁ。

上記特設サイトで他にもいろんな125周年を祝う企画が立ち上がっているので、チェックしてみるとよいでしょう。

デジタル時代におけるニール・ヤングの闘いについての本『音楽を感じろ』が7月刊行

昨年8月に書いたエントリでも紹介したニール・ヤングの共著の邦訳『音楽を感じろ』河出書房新社から7月に刊行される。

「デジタル時代に殺されていく音楽を救う二ール・ヤングの闘い。」という副題が熱いが、この本を手がけたストランド・ブックスのツイッターを見ると、同種の熱さを感じる。

長い出版社勤務の後、『ニール・ヤング 回想』を出したくて(法人しか版権買えないので)作るしかなかった会社。次のニール本第2彈『音楽を感じろ~』(発売・河出書房新社)は7月18日予定なのですが、設立時に何も考えてなかったので、とにかく会社存続のため他の編集仕事も日々真面目にやっております。

ストランド・ブックス/Strand Books Co., Ltd. (@Strand_Books) | Twitter

元々『ニール・ヤング 回想』を作りたくてできた会社なんですね。出版に携わる方でこのような情熱を持っている方は応援したくなるよね。

ニール・ヤング 回想

ニール・ヤング 回想

ヒロ・マスダさんの期待の新刊『日本の映画産業を殺すクールジャパンマネー』

ヒロ・マスダさんの Twitter はフォローしていないが、よくタイムラインに ReTweet が流れてきて、とてもためになるものが多いので、論者として信頼している方である。

そのヒロ・マスダさんが、日ごろ批判対象としている日本のダメな「クールジャパン」政策についての本『日本の映画産業を殺すクールジャパンマネー』を出している。またそれに合わせてであろうが note を開設している。

そういえば少し前も「迷走「クールジャパン」 相次ぐプロジェクト失敗でムダ金に」と情けなくなるような記事を目にしたばかりだが、批判すべきはちゃんと批判されるべきでしょう。

32年間、自分が食べたすべての食事を画に描き続ける日本人男性

For 32 Years, This Japanese Chef Has Been Making a Painting of Every Single Meal He Eats. See His Mouth-Watering Work Here

これは驚いた。32年間、自分が食べたすべての食事を画に描き続ける日本人男性の話だが、その絵も飛び出す絵本みたいで、なんとも言えない味わいがある。

恥ずかしながらこの小林一緒という方のことを存じ上げなかったのだが、18歳頃から書き溜めたメモ書きを頼りに、当時の記憶を呼び起こしノートに自らが食べた料理のイラストと感想を描き続けているというのがすごい。

調べたら、クシノテラスの櫛野展正氏が「小林一緒 -あの味を忘れない-」という文章を書かれていて、これを読むと小林一緒さんの来歴が分かる。

本当にこれは一種のアウトサイダー・アートだよな……。

ネタ元は kottke.org

アウトサイド・ジャパン 日本のアウトサイダー・アート

アウトサイド・ジャパン 日本のアウトサイダー・アート

  • 作者:櫛野展正
  • 発売日: 2018/09/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする(2020年版)

私的ゴールデンウィーク恒例企画である「邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする」だが、2011年に始まったこの企画も遂に10回目を迎えてしまった(過去回は「洋書紹介特集」というタグから辿れます)。

昨年、「おそらくは来年10回目はなく、今回で最後になるのではないか」と書いたが、結局それからの一年も本ブログにおいて結構な数の洋書を紹介したので、またできてしまうこととなった。

しかし、『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』のプロモーションも実質終わっているので、つまりは本ブログの更新もめったにはなくなり、よってこの企画も今回で終わりである。ちょうど10回、キリが良い。

今回は34冊というかなりのボリュームになった。洋書を紹介しても誰も買わないので、アフィリエイト収入にはまったくつながらないのだが、誰かの何かしらの参考になればと思う。

実は既に邦訳が出ている本を紹介していたり、邦訳の来るべき刊行情報をご存知の方はコメントなりで教えてください。

ステファニー・ケルトン『The Deficit Myth: Modern Monetary Theory and the Birth of the People's Economy』

MMT の主唱者であるステファニー・ケルトンの名前は日本のメディアでも一時期多く目にしたが、今年6月に満を持して刊行されるこの本が、彼女にとって初めての著書ということになるのかな。ご本尊の本なのだから、間違いなく邦訳が出るだろう。

パティ・スミス『Year of the Monkey』

恥ずかしながら見落としていたのだが、『ジャスト・キッズ』のあと『M Train』(asin:1408867702)という続編が出ており、本作は三作目にある。

タイトルの意味はズバリ「申年」のことで、『ジャスト・キッズ』のような昔の回想録ではなく、申年だった2016年の思考をまとめたものらしい。

Casey Rae『The Priest They Called Him: William S. Burroughs & The Cult of Rock 'n' Roll』

こういう本って、ウィリアム・バロウズサブカルチャーとしてのブランド価値が高かった頃なら間違いなく山形浩生に話が行き、邦訳出ていたと思うのだけど、今は難しいのだろうな。

アラン・クルーガー『Rockonomics: A Backstage Tour of What the Music Industry Can Teach Us About Economics and Life』

著者はアメリカを代表する経済学者だったが、著書の邦訳は『テロの経済学』(asin:4492313915)くらいしか出ていない。遺作となった、しかも内容も堅苦しくなく、かつて『デジタル音楽の行方』を翻訳したことのあるワタシ的にも縁の深い「音楽の経済」というテーマを扱った本なので、邦訳を期待したい。

スーザン・ファウラー(Susan Fowler)とマイク・アイザックによる Uber 暴露本

Uber については「『羅生門』としてのUber、そしてシェアエコノミー、ギグエコノミー、オンデマンドエコノミー、1099エコノミー(どれやねん)」で辛辣に書いているが、それを『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』に収録するにあたり、その後のニュースを追記していったところ、いつまで経っても不祥事のニュースが終わらないのに呆れたものである。

スーザン・ファウラーの本は Uber の話だけでない拡がりのある本らしいが、マイク・アイザックのほうは Uber 側もかなり神経をとがらせた様子がうかがえる。自業自得だけど。

ただ日本では幸か不幸か配車サービスとしての Uber は参入できていないので、これらの本のインパクトが実感をともなわないのかもしれない。

ブレット・イーストン・エリス『White』

本当にブレット・イーストン・エリスがこんな面白いことになっているとは知らなかったし、青木耕平というとても面白い書き手に出会えたこともありがたく思う。しかし、あんまり邦訳が出なくなりつつある作家なので邦訳は難しいかなぁ。

Gretchen McCulloch『Because Internet: Understanding the New Rules of Language』

インターネット言語学というか、「インターネットと言葉の関係」というのはありそうでなかった本なのは間違いない。ニコラス・カー式のネガティブな視座ではなく、それをポジティブにとらえているのも貴重なので邦訳を期待してしまうが、こういう本ってネットスラングめいた表現も頻出するので、翻訳は厳しいのかも。

Lorraine Plourde『Tokyo Listening: Sound and Sense in a Contemporary City』

著者は日本における音研究の他にもベビーメタルについての論文も書いたりしている。こういう本は邦訳が出なきゃいかんでしょ! と思うのだが、難しいのだろうか。

Brian Raftery『Best. Movie. Year. Ever.: How 1999 Blew Up the Big Screen』

確かに1999年に作られた映画には、すごい作品が多い。だいたい20年前、スマートフォンは存在せず、インターネットもまだ誰もが使うところまではいってなかったのもポイントかもしれない。そういえば、アレクサンダー・ペイン『ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ!』は未だ観れてないんだよな。

2020年、世界は新型コロナウイルスに蹂躙されて映画館は軒並み閉館し、映画の撮影さえできない有様である。そうした意味で、今や世界的な有名人である俳優や監督が若かりし日に傑作を撮った「映画史上最高の年」が違った意味で輝きを持ってしまった現在なのかもしれない。

トマ・ピケティCapital and Ideology

これも放っておいても邦訳が出る本なのは間違いない。今年後半に山形浩生が訳してくれるでしょう。映画『21世紀の資本』はトマ・ピケティ本人が出演する気合いの入った映画みたいだが、やはりコロナ禍にやられたのは気の毒である。というか、ワタシも観れなかったし。

ルー・リード『I'll Be Your Mirror: The Collected Lyrics』

何度も書いているが『ニューヨーク・ストーリー: ルー・リード詩集』(asin:4309206395)があるので本書の邦訳は期待薄であるが、上で紹介したウィリアム・バロウズとロックアイコンたちの関わりの本とか、こういうのが出ないのって長年の洋楽ファンとしては悲しい限りである。

Jenny Odell『How to Do Nothing: Resisting the Attention Economy

アテンション・エコノミーへの反逆自体は目新しいものではないが、この本の場合、ミレニアム世代による SNS 時代のスローダウン、無為の喜びを説いていて、そうした意味で図らずもコロナ時代により必要なものになっていると思うのである。

Andrew Marantz『Antisocial: Online Extremists, Techno-Utopians, and the Hijacking of the American Conversation』

テクノユートピアニズムを信奉する巨大テック企業らによるソーシャルメディアが民主主義を破壊したと糾弾する本の決定版と言えるものだが、既に翻訳の版権がとられているならいいのだが、そうでないなら八田真行あたりに翻訳を依頼する出版社はないものか。

そうそう、彼の TED2019 講演「荒らしや虚偽宣伝活動家が潜むインターネットの奇妙な世界」は日本語字幕が完成しているのでどうぞ。

デイヴィッド・ケイ『Speech Police: The Global Struggle to Govern the Internet』

著者の日本語版のウィキペディアページは英語版よりも遥かに詳しくて、なんでかと思ったら、国連特別報告者として2016年に行った日本に対する提言、並びにそれに対する反応が注目されたためだった。それはともかくとして、少し前に中国が(IETF でなく)ITU に現在より統制しやすいインターネット規格をしかけてきたが、コロナ時代に言論への統制の欲望が噴出する兆しは多くあり、そうした意味で今どきな本なのかもと思う。

Kate Crawford『The Atlas of AI』

当初のリリース予定なら既に発売されているはずなのだが、今見ると今年の9月末に刊行が伸びている。それは残念だが、彼女の本は求められているものだと思うし、邦訳についても同様である。

アンドリュー・キーン(Andrew Keen)『Tomorrows Versus Yesterdays: Conversations in Defense of the Future』

本当にこの人もコンスタントに新作を出しており、しぶといよなぁ。新刊は元々3月刊行の予定だったが、8月に変更になっている……と思ったら、Kindle 版は既に発売を開始してる? キーンのウェブサイトにおける本書のサポートページも現状中身は空に近い。どうなっているのだろう?

マーカス・デュ・ソートイ『The Creativity Code: How Ai is Learning to Write, Paint and Think』

AI はアートを創作をできるのか? つまり、創造性を持てるのか? 将棋の世界で将棋ソフトが新手をいくつも生み出しているのを知る人間としては、それはできるでしょうと素直に思ってしまうのだけど、本当に AI はオリジナルの音楽や絵画を創造できるのか、というのは多くの人が知りたい話だろう。

著者の本では『素数の音楽』(asin:410218421X)、『シンメトリーの地図帳』(asin:4102184228)、『数字の国のミステリー』(asin:4102184236)といった邦訳があり、本書についてもじきに出るんじゃないのかな。

Christopher Wylie『Mindf*ck: Cambridge Analytica and the Plot to Break America』

ブリタニー・カイザーの本も邦訳が出たんだから、こちらも出てほしいところ。今回の洋書紹介でも、テクノロジー大企業による民主主義の侵害を取り上げた本がいくつもあるのだけど、本書の場合はその極めつけの実例についての本と言える。

著者のクリストファー・ワイリーの提言は(シリコンバレー人種の反発を買うのが容易に想像できるだけに)重い。

  1. ソフトウェアエンジニアとデータサイエンティストへの倫理綱領が必要。エンジニアはプロダクトを作ることと、作ったプロダクトが世の中でどんな使われ方をするかに大きな乖離があり、プロダクトが出たあとではエンジニアに個人的な関与がないことが問題だ。医者や弁護士、建築家のような専門職のように決定機関により裏付けされた倫理綱領を作り、それを破ったものには社会的な結果が伴うものとなる必要がある
  2. インターネットユーティリティの規制は別のものとして考えるべきだ。デファクトスタンダード(事実上の標準)になった圧倒的独占地位を持つインターネット企業は「インターネットユーティリティカンパニー」という位置付けで、より高い水準の説明責任と決定機関により管理される義務づけ、罰金などが課せられるべき
  3. 「デジタル規制当局」の設立。インターネットユーティリティカンパニーが消費者に及ぼす精神的、社会的影響などを検討し、積極的に技術的な監査を行う捜査当局が必要
誰が「個人情報の警察」になるのか。アメリカで進むプライバシー規制と提言 | Business Insider Japan

ティーブン・レヴィ(Steven Levy)『Facebook: The Inside Story』

レヴィの本なら、来年には邦訳が出るだろうし、それが新たな Facebook についての定番本になるのだと思う。しかし、彼も来年は70歳なんだな……って関係ないけど、日本では渋谷陽一が彼と同い年だね。

Richard F. Thomas『Why Bob Dylan Matters』

トランネットの翻訳者オーディションにかかった本なので、今年中に邦訳が出るのは間違いない。本来であれば、今年の春はライブハウスで行う来日公演という珍しい企画が実現し、そしてディランは日本の桜を花見して楽しめたはずが(ワタシの勝手な想像)、こんなことになってしまったわけである。果たしてディランがまた日本の地を踏む日は来るのだろうか……。

アダム・クチャルスキー『The Rules of Contagion: Why Things Spread--And Why They Stop』

著者の本では『ギャンブルで勝ち続ける科学者たち: 完全無欠の賭け』(asin:4794224273)という面白そうな本の邦訳が既に出ているが、本作は感染症の専門家としての本領を発揮した本、しかもタイミング的にこれ以上ないほど当たりまくった本なので、既に翻訳作業が進んでいるのではないか。

Kevin Roose『Futureproof: 9 Rules for Humans in the Age of Automation』

ありゃ、著者によるサポートページを見ると、当初今月発売予定だったのが、2021年1月に延期になっているね。

実際、今回紹介した本についても、本を出したはいいが、宣伝のために著者が全米各地で行うブックツアーが軒並み中止に追い込まれていて、映画よりは影響を受けにくいと思われる本についても、刊行延期は珍しくない。

もしかすると本書の場合、今回の新型コロナウイルスの影響を本に盛り込むための延期かもしれないね。

さて、ここまでがワタシのブログで紹介済みの本である。以下は、今後刊行される本の中から注目なものを取り上げておく。

スコット・バークン(Scott Berkun)『How Design Makes The World』

この10年では『パブリックスピーカーの告白』(asin:487311473X)や『マイクロソフトを辞めて、オフィスのない会社で働いてみた』(asin:4105068318)の邦訳がある著者だが、新作はデザインの重要性についての本である。本についての情報は、著者によるサポートページをあたってくだされ。

そういえば、少し前にマーク・アンドリーセンが IT'S TIME TO BUILD という決起の呼びかけというか半ば檄文を公開して話題になったが、それを受けてスコット・バークンは It’s Time To Learn と書いていて、この落ち着きと引き具合が彼らしいと思ったりした。

ドン・タプスコット(Don Tapscott)編『Supply Chain Revolution: How Blockchain Technology Is Transforming the Global Flow of Assets』

『ウィキノミクス』『マクロウィキノミクス』は今や昔、前作は『ブロックチェーン・レボリューション』とぶちあげていたが、新作は今度は「サプライチェーン革命」をぶちあげている。ただ副題を見れば、今も彼にとっての最重要トピックはブロックチェーンらしい。

ドン・タプスコットのブログにおける本書の紹介エントリを見て、あれっ? となった。Amazon の書影では、"Edited with a preface by Don Tapscott" となっているのが、こちらでは "Edited with a preface by Alex Tapscott" となっていて、前作の共著者である息子さんの名前に置き換わっている。

おそらくはこちらの情報が正しいのだろう。そうなると、本書をドン・タプスコットの新刊とは言えないのかもしれない。

ジョージ・ダイソンGeorge Dyson)『Analogia: The Entangled Destinies of Nature, Human Beings and Machines』

ジョージ・ダイソンというと『チューリングの大聖堂』の邦訳があるが、正直なところ現時点ではタイトルしか情報がない新作も、人間と機械(コンピュータ)の関係を突き詰める本質的な本なのではないか。

そういえば、彼の父親にして高名な物理学者だったフリーマン・ダイソンが今年亡くなっており、新作は父親に捧げられるのだろうか。

Ethan Zuckerman『Mistrust: Why Losing Faith in Institutions Provides the Tools to Transform Them』

イーサン・ザッカーマンの本は2013年に「「閉じこもるインターネット」に対するセレンディピティの有効性」という文章で取り上げているが、それ以来久しぶりの新刊となる。

ザッカーマンの名前は昨年、ジェフリー・エプスタイン問題に関して、MIT メディアラボにおいて真っ先に伊藤穣一に問題を直言し、辞職した人物として報道で名前が挙がった。「不信:制度への信念を失うとそれを変える道具が与えられる理由」という書名をみると、これは伊藤穣一に対する当てつけじゃないかと一瞬思ってしまうが、さすがにそれはなくて、民主主義全般のことを言ってるのだと思います。

なお、先日、彼がマサチューセッツ大学アマースト校へのジョインが発表されている。

ロバート・スコーブル(Robert Scoble)、Irene Cronin『The Infinite Retina: Spatial Computing, Augmented Reality, and how a collision of new technologies are bringing about the next tech revolution』

ロバート・スコーブルの新作だが、『ブログスフィア』『コンテキストの時代』などで組んできたシェル・イスラエルでなく、今回共著者は別の人ですね。そして、邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする(2017年版)で紹介した前作と同じく電子書籍オンリーの刊行である。

副題を見る限り、スコーブルの関心は AR にあるようだ。その前に掲げられている Spatial Computing については、「ARの真の価値は『空間に力を与えること』 |Spatial Computingが変える人とデジタルの関係性」が参考になる。

スコーブルと言えば、数年前にセクシャルハラスメントを告発され謝罪している。新作が新規まき直しになるだろうか。

ティーヴン・ジョンソン(Steven Johnson)『Enemy of All Mankind: A True Story of Piracy, Power, and History's First Global Manhunt

ポピュラーサイエンスの書き手として著名なスティーヴン・ジョンソン(スティーブン・ジョンソンとなってる書籍も多く、Amazon で検索時面倒……)だが、新作は海賊とその追跡をテーマとする、ちょっとケッタイな本である。でも、彼の本だから面白いんだろうな。詳しくは著者による告知エントリを読んでくだされ。

彼の本では昨年『世界が動いた決断の物語』(asin:4023317691)が出ているが、本書にしても来年後半か再来年あたり邦訳出るのだろう。

今年は大変なゴールデンウィークになってしまったが、お互い生き残りましょう。それでは、さようなら。

[追記]

以下、ここで取り上げた本の邦訳が出たのを紹介するエントリをはりつけておく。

yamdas.hatenablog.com

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はてなブログでasin記法が正しく機能していないところがある(解決済み)

少し前もはてなブログからのはてなダイアリーへのリンクの飛び先がおかしい現象を指摘して修正してもらったが、またおかしな挙動を見つけてしまった。

なお、以下説明する現象については、4月16日21:55:22の時点で問い合わせ済なので、本エントリが公開時点で既に直っている可能性があることにご注意いただきたい。

昨年8月に書いたこのエントリを例にさせてもらうが、このエントリには多くの asin 記法が使われており、リンクになっているが、その飛び先が想定される Amazon.co.jp のページでなく、はてなブログのトップページ( https://hatenablog.com/ )になっている。

具体的には、上記エントリにおいて、「asin:B00005HXXS」という記述があり、このリンク先は HTML ソース上は、

http://d.hatena.ne.jp/asin/B00005HXXS/yamdasproject-22

になっている。以前ははてなダイアリーにこれに対応するページがあったが、少し前までこの場合、

https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00005HXXS/yamdasproject-22/

がリダイレクト先になっていたはずである。しかし、いつからか上記の通りはてなブログのトップページにリダイレクトされるように変わっている。

注意:このエントリにおける「asin:B00005HXXS」のリンク先は正しい。どうもある時点以前の古いエントリでこの現象が出ているようだ。上記エントリの asin 記法で書かれたエントリをクリックしてみてほしい。

せこい話に思われるかもしれないが、asin 記法が正しく機能しないと、はてなブログの有料ユーザの権利であるアフィリエイト収入を著しく毀損する。貧乏人のワタシには看過できない話である。

というか、アメリカだったらこれ集団訴訟にならないか?

さて、以上とは関係ないが、はてなの創業者のことをボロクソに書いた文章を含む電子書籍『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』も絶賛発売中ですのでよろしくお願いします。

[2020年04月21日追記]はてなサポート窓口品質向上チームより連絡があり、本件が修正されたことを教えられた。

ダグラス・ラシュコフ『ネット社会を生きる10ヵ条』が来月電子書籍として発売される

いや、驚いた。ダグラス・ラシュコフというと、90年代に『サイベリア』(asin:4756104983)、『ブレイク・ウイルスが来た!!』(asin:4883094480)の邦訳が出ており、サイバーパンク関係者というかインターネットが一般化する前のサイバースペースに詳しい書き手というイメージがあり、著作が邦訳されなくなっても Wired 方面や Boing Boing などワタシが読むブログで名前は定期的に見ていたが、彼の久しぶりの邦訳が出るとな。

元々は2010年、つまりは十年間に出た本の邦訳ということで、正直内容が古かったらどうしようという心配もあったが、ネットで無料公開されている冒頭部分を読む限り、その心配はなかった。それだけ本の内容が本質的で、そう簡単に古くならないということだろう。

しかも翻訳が堺屋七左衛門さん。これは安心である。堺屋さん、またいつの日か、できればできるだけ早く、神戸で飲みましょう!

例の事情で今出版業界が大変なときだが、本書の場合、電子書籍だけなので、少なくとも入手の問題はない。

ケヴィン・ルース(ケヴィン・ローズじゃないよ)の意図せず時宜を得てしまった(?)新刊『Futureproof』

ケヴィン・ルース(Kevin Roose)の仕事は、5年前に「「ロボット」という言葉はもはや無意味なのか?」を書いたときに取り上げているが、さすがに Digg 創業者のケヴィン・ローズ(Kevin Rose)と間違われなくなっている。

彼は現在 New York Times のテクノロジー分野のコラムニストだが、「邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする(2016年版)」でも紹介した第一作に続く新作 Futureproof: 9 Rules for Humans in the Age of Automation が来月出る。

Futureproof: 9 Rules for Humans in the Age of Automation

Futureproof: 9 Rules for Humans in the Age of Automation

  • 作者:Roose, Kevin
  • 発売日: 2021/01/12
  • メディア: ハードカバー

人工知能が遍在し、仕事は自動化され、アルゴリズムが人間の人生を動かす。今こそあなた自身を futureproof させるときだ――という宣伝文句だが、futureproof(future-proof)とは「時代遅れにならないようにする」という意味で……と知ったように書いたが、恥ずかしながら知らなかった。

なんというか『ワーク・シフト』『ライフ・シフト』みたいな本じゃないかとそれらを読んでもないのに思ったりするが、今回の新型コロナウイルスがもたらす災厄で、こうした本の主張は前提からして崩れちゃったんじゃないかと思ったりしている。

そのあたり、この本が「コロナ後」でもどれくらい通用するかでこれが邦訳されるか変わるでしょうな。

ただ、ケヴィン・ルースが書く「自動化の時代」というのは、パンデミックはロボットによる自動化を加速するという話もあり、未だ時宜を得たテーマであることは変わらない。

個人的には、この本に推薦の言葉を寄せている人に、今年のアメリカ大統領選挙民主党候補者を選ぶ予備選において、唯一のアジア系、しかもテクノロジーをもっとも理解しているという評判だったアンドリュー・ヤンが入っているのがワタシの興味を惹いた。

思えば、彼が提唱した政策にユニバーサルベーシックインカムがある。ワタシは以前からずっと「ベーシックインカム」には感覚的な反対派だったのだが、だんだんとありかなぁと考えを変えつつあったところで、今回のコロナ禍があり、長らく机上の空論扱いされてきたこれが実現する可能性が出てきたというのも難儀な話である。

ともかくアンドリュー・ヤンは、渡辺由佳里さんの文章を読んで以来好感を持っているし、その彼が薦める本なら良いものかもね。

ゼイナップ・トゥフェックチーがAtlanticに寄稿する新型コロナウイルス関係の文章

例によって非公式日本語訳もあるでよ。

文章リンクをはりまくって自身の文章のエビデンスとしているところがネット時代の書き手らしいが、「WHOは大国のおもちゃであってはならない」と、資金停止策で脅すアメリカのトランプ大統領の批判だけでなく、中国の初期対応の犯罪的なまずさ、そして WHO の失態とその原因についてきちんと書いている。最後については遠藤誉氏が書く問題点を補助線とするのもよいだろう。

余談ながら、ワタシが子供の頃から当たり前のように持っていた WHO という組織に対する信頼感は完全に失われた。テドロス・アダノムは即刻辞任すべきだし、WHO は台湾の正式加入を認めるべきだ。

ゼイナップ・トゥフェックチーというとなんといっても『ツイッターと催涙ガス ネット時代の政治運動における強さと脆さ』なのだけど、今年2月から Atlantic に新型コロナウイルス関連の文章をいくつも寄稿しており、どれも一面的でなく複層的なところが彼女らしい。

そうそう、最近の Atlantic については市川裕康氏の「コロナ禍をきっかけに生まれる新しいニュース消費習慣〜米老舗メディア『アトランティック』」が参考になるだろう。その方針とゼイナップ・トゥフェックチーの問題意識がマッチしたということなのかな。

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